守田です。(20140824 23:30)

8月16日のびわこ123キャンプへの参加に続き、8月20日には京都で行われているゴーゴーわくわくキャンプでもお話してきました。
さらに昨日23日は岡山県赤磐市の「あかいわエコメッセ」でもお話してきました。今日24日には福島県川内村から岡山県に避難移住した大塚しょうかんさんのお話も聞いてきました。
その間に中村哲さん講演会に向けた会議に出たり、パワーポイントのカスタマイズをしたりとやることが多く、「明日に向けて」の更新が滞ってしましました。申し訳ないです。

そうこうしている間にも広島でとても深刻な土砂災害が発生してしまいました。昨年、伊豆大島で惨劇があったばかりなのに、今回はより甚大な被害が発生しています。
今、このときも大阪府周辺、また北海道などで集中豪雨が発生しており、いつどこで新たな被害が出るかも分からない状況です。早急に分析し、論じなければならないことです。
一方でイスラエルは再びガザへの攻撃を始めています。これへの抗議も続けていかなくてはなりません。

やらねばならいことが山積していますが、しかし一方でその中で民衆の側の力を強めるために、研鑽を積んで見識を高めていかなくてはならない。今日はそのために自分の発表内容の修正を行なわせていただきます。
というのは8月15日、当日締め切りの川内原発再稼働に対するパブリックコメントを作成し、送付するとともに「明日に向けて」に発表しました。
以下の内容です。

明日に向けて(916)原子力規制委員会の新基準には安全思想が欠落している。川内原発再稼働など論外だ!
http://toshikyoto.com/press/1478

これに対して、すぐさま、京都精華大学教授で原子力市民委員会に参加している細川弘明さんより、技術的なでの間違いのご指摘を頂きました。
「基本的な考えは全く同感」と書いてくださっているので、基本線での間違いではなく、ほっともしましたが、細かい点で誤まった記述をしてしまったことをお詫びしたいと思います。
細川さんに深く感謝しつつ、訂正のための作業を行いますが、長いので2回にわけたいと思います。

まずは細川さんのコメントをご紹介します。(ご本人から承諾を受けました!)

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守田さん、拝復、細川です。
トルコでのご活躍、すばらしいです。

ご紹介いただいたパブコメで、技術面でちょっと気になる点がありましたので、メモします。基本的な考え方は全く同感。

◇「脆弱破壊とは、疲労した金属が急激に冷やされることなどにより、ガラスが砕けるように崩壊してしまうことですが、この脆弱破壊が、」

●「脆弱破壊」 → 脆性破壊

「脆弱破壊とは、疲労した金属が急激に冷やされることなどにより」
── 脆性破壊は、疲労の有無にかかわらず起きます。原子炉では金属が中性子照射を受けて劣化しますが、中性子劣化するほど脆性破壊がおきやすくなる(具体的には高い温度でも割れやすくなる)ということが問題です。
脆性破壊がおきる温度を脆性遷移温度といいますが、この温度が高くなると、ECCS作動による破壊の可能性が高まりますし、さらにはECCSが作動しなくても脆性破壊がおこる恐れが出てきます。
(脆性遷移温度が基準以上に高くなると、運転できなくなり、それがすなわち原子炉の寿命となります。)
◇「炉心の溶融のもとでのECSS=緊急炉心冷却系装置の発動により、冷たい水が一気に炉内に入ることを引き金に起こってしまう可能性が沸騰水型より高い。」

●「ECSS」 → ECCS

「炉心の溶融のもとでのECSS…の発動」
── ECCSは炉心溶融がおきないように発動するものですから、「溶融のもとで」発動するのではなく、溶融にいたる状況(すなわち冷却材喪失 LOCA)が発生した時点で作動します。
◇「また加圧水型には、蒸気発生器という圧力容器より大きな大型の容器の中に、数千本の細い配管があり、これもよく詰まってしまっています。
つまっても少しなら構わないということで、止栓をしていますが、プラントが古くなるにつれて多くの配管が機能しなくなっており危険が増しています。」

── 細管は詰まるのではなく、穴があく(高温高圧と振動と中性子による脆化の複合作用)のです。そのままだと放射能がタービン系にまわって汚染してしまうし、放置すると破断するので、止栓せざるをえないのです。
止栓してしまった細管は熱交換機能を失うため、止栓が多くなるほど蒸気発生器の機能は落ち、すなわち炉心を冷却する性能が落ちます。

***

細川さんのご指摘を受けて、自分自身、「脆性破壊」のことがきちんと把握できていなかったことが分かりました。そのため「脆弱破壊」と誤字を書いてしまってもいます。
脆性破壊・・・金属が脆くなると起こりやすくなるものではありますが、細川さんが指摘されているように「疲労の有無にかかわらず起き」るものです。僕は金属疲労が重なって起こるかのように把握していました。
そこでまずは言葉を正確に定義しておこうと思います。これはそもそも金属やガラスなどの物質の破断のあり方の違いです。物質に力が加わり破壊に至るときに、塑性変形を伴ず、いきなり割れてしまう破壊です。
塑性変形とは、力が加わって物質が変形し、その力が取り除かれても元には戻らないような変形のことで、ガラスが割れるときを考えてみると、ほとんど後にまで残る変形を経ずに割れることがイメージされます。(後に残らず歪んだりするのは弾性変形)
これに対して金属だと多くの場合、まずはグニャリと形が変形していきますが、その段階で力が去ると変形がそのまま残ります。このように「塑性変形」を受けたのちに破壊に至ることを延性破壊といい、そうでないいきなりの破壊を脆性破壊と言うのです。

金属の場合、多くは「粘り気」を持っていて延性破壊を引き起こします。これに対して低温状態などでは、いきなりに割れてしまう脆性破壊が起こることがあります。金属がガラスが割れるように一気に裂けてしまうのです。
原発の場合、原子炉圧力容器が繰り返し中性子線を浴びることで劣化して、脆性破壊が起きやすくなっていきます。金属疲労は繰り返し力が加わることで金属が脆くなることですが、原子炉の場合は、力ではなく中性子線の影響で、脆性破壊の可能性が高まることが問題なのです。
実はこの点は玄海原発1号炉の危険性としてクローズアップされてきた事柄でもあります。もちろん玄海原発だけではなくて老朽原発のどれにも該当します。
この点で、2012年3月にNHKニュースウォッチ9がとても分かりやすい報道をしてくれていたのを見つけたのでご紹介します。理解を深めるために文字起こしも付け加えます。

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原子炉の脆性破壊:玄海原発1号炉劣化問題
NHKニュースウォッチ9 2012年3月29日
https://www.youtube.com/watch?v=ADZnRr98rQI

NHK大越健介アナ
ストレステストは原発の運転再開の前提とされてきました。しかし原発の安全性を見極める指標はそれだけではありません。老朽化もその指標の一つです。

NHK井上あさひアナ
政府は原発の運転を原則40年に制限するとし、安全性を確保できれば例外的に20年の延長を認めるとしていますが、では原発の寿命をどうやって見極めるのか。キーワードとなるのが脆性破壊という言葉です。
放射線の影響で原子炉が脆くなることで起こる現象です。この問題で今日、九州電力の玄海原発1号機について専門家の会議が開かれましたが、議論はまとまりませんでした。

ナレーション
熱湯で温めたガラスのコップ。冷たい水を入れると・・・表面に急速にヒビが。脆い物質が壊れる脆性破壊と呼ばれる現象です。
運転開始から36年が経った九州電力玄海原子力発電所1号機。予測より早く老朽化していることを示唆するデータが明らかになり、脆性破壊の危険性について専門家が議論を続けてきました。
問題となったのは核燃料が入った圧力容器。運転中の圧力容器の温度はおそよ300℃。脆性破壊のきっかけとなるのは緊急時に非常用の冷却装置を作動させたときなどです。
熱い圧力容器に冷たい水が大量に注入されると、内側は急激に冷やされます。このとき傷があるなどの条件が加わると、最悪の場合、傷が広がり、容器が破損する可能性が指摘されたのです。

報告 福本秀敬 NHK大阪
なぜそうした懸念が出てきたのか。これは圧力容器の材料に似た鋼鉄です。実験用の装置においてハンマーで強く叩きます。変形するものの、完全にはちぎれません。鋼鉄には粘り気があるからです。
しかし液体チッソにいれてマイナス190℃以下に冷やすと、今度は真っ二つに割れてしまいました。鋼鉄は冷やすと粘り気が失われ、ガラスのような脆性破壊が起きるのです。
この脆性破壊は、温度の変化だけでなく、放射線を浴びても起きやすくなります。運転中の核燃料からはさまざまな放射線が出ています。このうちとくに問題となるのは中性子線です。
中性子線を浴びると鋼鉄の性質が変わり、粘り気を失って脆くなります。その結果、高い温度でも脆性破壊が起きやすくなるのです。

義家敏正教授(京都大学原子炉実験所)
普通だったら室温あるいは0℃以下でも強い衝撃を与えても壊れないのですけれども、原発の場合は中性子が多量に材料にあたるということで、そういうことが顕著に出ます。

福本
脆性破壊は運転時間が長くなり、中性子線を浴びれば浴びるほど、より高い温度で起こりやすくなります。
このため電力会社では運転開始の前に圧力容器の中に容器と同じ材質の試験片を入れておき、定期的に取り出して調べています。これが原発の寿命を推し量る上で重要な指標となっています。
玄海原発1号機では、運転開始当時、脆性破壊が起きやすくなるとされた温度はマイナス16℃。それが運転1年後では35℃でも起きやすくなり、運転18年後では56℃になっていました。これらのデータをもとに計算したところ、34年で78度になるはずでした。
ところがこの年に実際に試験片を取りだしたところ、これより20℃高い98℃。原子炉の老朽化が予測したよりも進んでいることを示すデータでした。
98℃で安全性に問題はないのか。専門家は4か月にわたり議論しました。そして今日、原子力保安院は、試験片を原子顕微鏡で調べた結果などから、原子炉の健全性は保たれているとする報告書を取りまとめる予定でした。

原子力安全・保安院の担当者
評価した結果は、健全であるということを確認したと。

福本
その上で予測より20℃もずれていた原因として、計算方法の精度が十分ではなかった可能性を指摘しました。
ところが専門員の一人から、「予測が正確でない以上、健全かどうかの判断は慎重にすべきだ」という意見が出され、審議は継続されることになりました。

井野博満東京大学名誉教授
原子炉圧力容器の安全性を担保するのが予測式なのですね。それが合わないということになりますと、非常に危ない。事故を絶対に防ぐことが前提にならないと原発の運転はできないと思いますね。
そういう芽は極力摘むことにしなければいけない。

福本
原発の運転を続ける限り避けられない劣化。将来の安全性をどうすれば確認できるのか。まだ課題は残されたままです。

井上あさひアナ
現在、日本にある原発は54基。そのうち19基は運転開始から30年を越える古い原発です。老朽化が安全性に影響をおよぼしているかどうかを厳しく検証することは避けて通れない作業だと言えます。

***

続く