守田です(20220307 23:30)

ロシアの軍事侵攻によるウクライナの危機が続いています。
この問題、やはり軍事侵攻を始めたロシアが悪い。しかしウクライナ軍に武器を送り続け、「もっと戦え!」とウクライナの人々を焚きつけている西側諸国の姿勢にも僕は大反対です。

そもそも僕はウクライナが内戦を抱えるようにいたった大きな背景として、チェルノブイリ原発事故による深刻な被曝被害があったと思っています。
実際にウクライナ政府は2011年春に、『ウクライナ政府報告書』を発表。本当に深刻な被害実態レポートを世界に問いましたが、これを真っ向から否定したのが西側諸国でした。

誰もウクライナを助けようとなどしなかった!まったくです。むしろよってたかってウクライナの医師たちを批判にさらしました。
そして2014年の政変が起こり、画期的だった報告書はうやむやにされてしまい、必要な医療援助などがウクライナに届けられませんでした。

被曝被害はいまも確実に進行しているはずです。にもかかわらず西側は一度も助けようとしなかったし、その点ではロシアも同じでした。いや今回むしろ同じ被曝の痛みを被ったウクライナに攻め込んで、苦しみを拡大しています。
ウクライナにずっと必要だったのは、医療援助など、被曝の痛みを癒すための手助けです。この先もそれは同じです。もちろん今後はできるだけはやく戦争を止めて、戦火を癒すための手助けも必要になります。

そのためにも今回、2014年末にポーランドの国際会議から帰った直後に、この被曝被害への手助けを世に問うた原稿を再掲します。

チェルノブイリ原発事故 1986年 ネットより


明日に向けて(977)ウクライナの悲劇=被曝の現実を読み解く(ポーランドを訪れて-5)その1

守田です。(20141122 23:30)

● ウクライナの危機の背景としてのチェルノブイリ原発事故

ポーランドから帰ってからかの国のこと、ベラルーシやウクライナのことを調べ続けています。今回の国際会議で、初めてウクライナから来ている方たちと知り合ったことも、大きなインパクトになりました。
歴史についてもかなり学び、記事にしてきましたが、今回はそこから少し飛んで、チェルノブイリ原発後の今のウクライナの現状について述べたいと思います。

ウクライナはかつてナチスドイツに激しく攻め込まれ、占領されて膨大な死者と損害を出しました。そこから長い年月をかけて復興を遂げてきた1986年に、チェルノブイリ原発事故が起こり、大変な被曝を受けました。
1991年に被災者を救済する法律ができましたが、その年の暮れに旧ソ連邦が崩壊。独立国となったものの、ソ連邦崩壊による混乱と、原発事故のもたらしたさまざまな被害への対処に追われ、経済的な苦境が続いてきました。

チェルノブイリ原発事故 1986年 ネットより

それから20数年経って、ウクライナは今、分裂的な危機の中にあります。親EU派の現政権側と、親ロシア派の東部の人たちの間で軍事衝突が繰り返されており、この先どうなるのか見通しが立っていません。
今回、見えてきたのは、今の政治的混乱と軍事対立そのものが、チェルノブイリ原発事故による社会的人的ダメージを背景に起こってきていることです。考えてみれば当たり前とも言えます。
膨大な被災者がいて、病がどんどん深刻化する上に、治療などで経費がかかり、その上原発事故の後処理にも膨大な予算が消費され、社会の体力が繰り返し奪われ疲弊を深めてきたからです。

2014年2月政変の時のキエフ ムスティスラフ・チェルノフ撮影 WIKIMEDIA COMMONS より

● ウクライナの人々を苦しめてきた原子力マフィア

ポーランドの国際会議などを通じて知ったのは、ドイツのIBBをはじめ、多くの民間団体が、苦境の中にあるウクライナやベラルーシに手を差し伸べようと努力を重ねてきたことでした。
しかし他方でウクライナの前にはさまざまな国際機関が立ちはだかり、原発事故による病の多発を認めず、医師たちの告発を握りつぶしてきたのでした。
このためウクライナは、病への対処に当然あるべき国際機関の援助をほとんど得られずにきました。

ウクライナの前に立ちはだかってきたのはIAEA(国際原子力機関) 、WHO(世界保健機関)、UNSCER(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)などです。
これらの団体(原子力マフィア)がそろって低線量被曝の影響を認めず、ウクライナの人々への救済の道をふさぎ続けてきたのです。大変、悲しく、憤りを感じるばかりの事態ですが、これはけして遠い国のできことなのではありません。
同じ組織が私たちの前にも立ちはだかっているのです。

UNSCER(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は福島でも被曝影響を矮小化 2014年9月 FNN

● 『低線量汚染地域からの報告ーチェルノブイリ26年後の健康被害』を読んでください

ウクライナやベラルーシの人々との連帯のためにも、私たち自身の未来のためにも、チェルノブイリ原発事故以降にウクライナが辿ってきた経過に学ぶ意義がここにあるのですが、その入り口としての恰好な書物に出あいました。
『低線量汚染地域からの報告-チェルノブイリ26年後の健康被害』です。馬場朝子・山内太郎著、NHK出版から2012年9月に出ています。

NHK・ETV特集 シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第1回 ベラルーシの苦悩」と「第2回ウクライナは訴える」(放送は同年9月16日と23日)のうち、第2回をまとめたものです。
著者たちはいずれも現場に取材に入ったディレクターたちですが、2011年4月に公表された『ウクライナ政府報告書』での、病の実態の告発を読んだことをきっかけに、この番組の制作を決めたとのことです。

『低線量汚染地域からの報告』NHK出版

● 『ウクライナ政府報告書』のインパクト

本書の初めの方にこの『ウクライナ政府報告書』が出てきます。チェルノブイリ原発事故後に作られた「国立記録センター」にまとめられた2012年の時点での、236万4538人の被災者のデータをもとに作成されたものです。
被災者のうちわけは、原発事故の作業員31万7157人、原発周辺の立ち入り禁止区域からの避難民8万1442人、低線量汚染地域の住民153万1545人、これらから生まれた第2世代31万9323人、すでに死亡した11万5072人です。

この報告書の第3章「チェルノブイリ惨事の放射線学的・医学的結果」に掲げられた疾病は次の通りです。
「甲状腺疾患、白内障、免疫疾患、神経精神疾患、循環器系疾患(心臓・血管など)、気管支系疾患(肺・呼吸など))、消化器系疾患(胃や腸など)」(『同書』p34)
注目すべきことはこれらの疾患が時間と共に増えていることです。「原発周辺の高汚染地域からの避難民のうち、慢性疾患を持った人は1988年には31.5パーセントだったのが2008年には78.5パーセントに増加したという」。(『同書』p35)

国連科学委員会との比較 NHKスペシャルよ

● 疫学的根拠がないと告発を否定した国際機関

これらの内容を先に挙げた国際機関が認めないのですが、その理由はウクライナの報告が、疫学的に証明されていないというもの。
ある集団の被曝線量と健康被害との間に、統計的に有意な相関があって初めて病が証明されたと言えるが、ウクライナにはそのようなデータがないと言うのです。

チェルノブイリ原発事故では、ソ連当局によって厳重に秘密にされたので詳細なデータが残っていません。事故対処の混乱の中で測られなかったし意図的に測られなかったものもあります。
もちろん個々人の被曝の測定もきちんとされていないし、データも存在しているかどうかも分かりません。そのためこの国際機関の論法では、その後にどんな被害が出ようが、被曝との因果関係は証明できないものとされてしまいます。

実は福島原発事故でも同じことが言えます。政府は意図的にも放射線ヨウ素などの被曝実態の測定をしませんでした。
福島県によって、事故直後に弘前大学のチームによる測定が止められたこともありました。さらに東京まで放射性ヨウ素はたくさん届いていたのに、何の被曝測定もされなかったのです。

ウクライナと同じ被害隠しが、まさに『ウクライナ政府報告書』が出されたその時に、進められていたのです。

なお同書は日本でも心あるみなさんによろ精力的に翻訳が進められました。ご紹介しておきます。
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/csijnewsletter_014_ukraine_01_index.pdf
http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/2013/04/34-1.html

ウクライナ政府報告書 日本語訳もあります

続く

原発のこと、ウクライナのことなど連続でお話します。

3月8日午後8時から 
ウクライナに平和を。千田悦子さん(元UNHCR職員ウクライナにも駐在経験あり)のお話を聞く会 コメンテーターとして参加
https://www.facebook.com/events/316519420460533?ref=newsfeed

3月11日午後2時から
福島、ウクライナ、若狭原発と京都 守田が講演します。
https://www.facebook.com/events/306743531359272?ref=newsfeed

3月11日午後7時から かじかわさんを囲んで話します。かじかわさん退出後、守田がウクライナについて少しお話します。
かじかわ憲とともに原発をなくすためのタウンミーティング
https://www.facebook.com/events/997590997852039?ref=newsfeed

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