守田です。(20140921 23:00)

何とも重いニュースが飛び込んできました。産科医が全国的に不足を強めており、福島など9県で危機的状況だというのです。
これを報じた読売新聞の記事のタイトルをそのままブログのタイトルに拝借しました。以下、まずは記事をお読み下さい。

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産科医不足、福島など9県で「危機的状況」
読売新聞 9月20日(土)19時41分配信
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140920-OYT1T50035.html

当直回数が多く、成り手が不足している産科医について、都道府県間で最大2倍程度、産科医数に格差が生じていることが日本産科婦人科学会などの初の大規模調査で分かった。
福島、千葉など9県では、35歳未満の若手医師の割合も低く、将来的な見通しも立たない危機的状況にあると報告されている。

全国9702人の産科医の年齢(今年3月末時点)や、昨年の出産件数などを調べた。人口10万人当たりの産科医数は、茨城が4・8人で最も少なく、最も多い東京と沖縄の11・1人と倍以上の開きがあった。
また調査では、35歳未満の割合、産科医1人当たりの出産件数など6項目で全体的な状況を見た。福島、千葉、岐阜、和歌山、広島、山口、香川、熊本、大分の9県は6項目全てが全国平均よりも悪く、「今後も早急な改善が難しいと推測される」とされた。
中でも福島は、産科医が人口10万人当たり5人(全国平均7・6人)と2番目に少なく、平均年齢は51・5歳(同46歳)と最も高齢で深刻さが際だった。東日本大震災や原発事故も影響しており、同学会は昨年5月から全国の産科医を同県内の病院に派遣している。
調査をまとめた日本医大多摩永山病院の中井章人副院長は「国や各自治体に今回のデータを示し、各地域の対策を話し合いたい」と話している。

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産科医が不足していて危機的状況になる・・・このことはすでにかなり前から予測されてきたことです。僕もこのことを「明日に向けて」に連載したことがあります。
2012年12月4日から13日にかけて5回にわたってアップしましたが、実はこれらの記事のベースにしたのは、僕が同志社大学社会的共通資本研究センターで「社会的共通資本としての医療」の研究をしていた2008年ごろにまとめた論考でした。
そのためデータがやや古いのですが、産科医療、いや医療全般に対する社会的資本の振り向けがその後も充実せず、また医療をとりまくさまざまな問題も解決されずにきたので、あの頃分析した問題がそのまま拡大してきてしまった観があります。

その上に2011年に東日本大震災と福島原発事故が襲ってきたのです。東北・関東の医療、および福祉体制が大変なダメージを被ったのは間違いありません。このダメージは徐々に全国の医療体制に波及しつつあり、医療崩壊を進めつつあると思えます。
なかでも福島の子どもたちの甲状腺がんの多発に明らかなような放射線被曝の影響が現れていながら、国が一切、原発事故の影響を無視しているがゆえに、現場の医師や看護師、コメディカルスタッフに、さまざまな矛盾が押し寄せているのは間違いありません。
そればかりではありません。最近、よく耳にするのが東北・関東の医療者の西日本への避難です。僕の周りでも「患者さんに出す薬の種類をみていて事故後の変化に気がつき、恐ろしくなって西日本に避難した」と語る薬剤師さんや、同じようなことを感じて避難されてきた臨床検査技師さんがおられます。

読売新聞の記事の中にも「東日本大震災や原発事故も影響しており」とあります。それ以上具体的な内容が書かれておらず、また日本産科婦人科学会の調査の原本をまだ入手できていないので詳しいことがよく分からないのですが、ともあれ福島県の産科医不足のことが大きく取り上げられているのが印象的です。
僕自身はそれまでの産科医療の悪化の上に、放射線被曝が重なってしまっているのだと推測しています。というのは福島県では2004年に県立大野病院産婦人科でおきた医療事故に対し、2006年に医師が逮捕され、2008年に禁固1年の論告求刑を受けるという衝撃的な事態があったからです。
この際には弁護団の懸命な弁護活動や、日本産科婦人科学会をはじめ、関係諸機関が一斉に医師救済のための声明を出すなどする中で、無罪判決が勝ち取られたのですが、これを前後して、とくに大野病院に近いいわき市などで産科が激減してしまう事態が引き起こされてしまいました。

というのは、それまでも疲弊を重ねていた産科で起こった医療事故に対し、司法権力が無慈悲な介入をしたため、過酷な医療現場をものすごい努力で下支えしてきた医師たちの多くが燃え尽きてしまい、現場から去ってしまったのですが、今、これと同じこと、もっと深刻なことが起こっているのではないかと思われます。
とくに被曝の影響を一切政府が認めないでいること。またいつまでたっても復興が進まない東北・関東沿岸部の諸都市の実情を顧みることなく東京オリンピックが誘致され、復興の面でも被災地が見捨てられていく中で、どんどん医療界の疲弊が深まっているのだと思われます。非常に憂うべきことです。
どうしたら良いのか。まずはぜひとも今の医療を取り巻く過酷な現状について1人でも多くの方に知っていただき、それぞれが自分のできる医療者へのサポートを初めることだと思います。もちろん医療予算の拡大を訴えることを前提にした上でです。

何よりも実情を知ること、知らしめることが大事です。その上でそれぞれの地域で医師、看護師、コメディカルスタッフを守っていく必要があります。
僕自身はそのためにも、患者となる私たちの側が医療に対してもっと能動性を持ち、自らが自らを治していく観点や知識をつかみとっていくこと、またその延長としてそもそも病にかからない知恵をもっと身に付けていくことが必要だと思っています。
その学びのためにも、まずはどんどん疲弊を深める医療界の現状を、多くの方に自らの問題としてつかんで欲しいのです。

こうした観点のもとに2012年12月に連載した「放射能時代の産婦人科医療」をご紹介しておきます。5回もので長いですが、ぜひ読んでいただきたいです。
また産科の医療者の方に、いや産科にとどまらずあなたの周りにいる医師、看護師、コメディカルスタッフと接する時に、自分が医療界を支える問題意識を持っていることを伝えていただきたいです。それだけでも間違いなく一歩前進になるからです。
社会的共通資本としての医療を、みんなの力で守っていきましょう!これもまた急務です!!

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明日に向けて(591)放射能時代の産婦人科医療(1)・・・あゆみ助産院でお話します(12月6日)
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明日に向けて(592)放射能時代の産婦人科医療(2)
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