守田です。(20120807 09:30)

前回に続いて、6月に行った放影研訪問記録をご紹介します。今回は僕が文字起こしした部分です。会談はドイツのお二人が参加していることもあって英語を基本に行われました。そのためすぐに文字おこしできなかったのですが、会談の後半部分で、ぜひこうした会合をまた開いていただきたいと私たちが要請したさいに、インゲさんが、「次は日本人同士、日本語で話されるといいのではないですか」とおっしゃってくださいました。

すると英語のやりとりでムズムズしていた沢田昭二さんが、それではという感じで日本語にシフトし、今回の会談の後半部分も日本語でのやりとりになりました。沢田さんの姿を横で見ていると、放影研が溜め込んでいるデータへの思い、そこに被曝の実態をより明快に解き明かすにたるものがあるはずだ、それを活用したいというなんとも切々たる気持ちが伝わってくるようでした。

この熱意におされたのか、放影研の小笹氏が、こうしたデータがあることをポロっと話されました。正確には「もう一度入力するというかそういう作業をしないと」という発言で、データに整理される前の調査カードの原本などがあると受け止められるものでした。

このことが聞き出せたことは、今回の会談のハイライトともいえるようなことでした。昨日放映されたNHKの番組では、放影研が「黒い雨」にあたり、内部被曝をしたことで生じた健康被害が後半に出ていたデータを今日まで隠し持っていたことに焦点が当てられたわけですが、放影研はそれ以外にも、たくさんのデータを持っていることが分かったのです。放影研はそれを一般に公開し、広く内外の方たちの自由な研究の道を開くべきです。この報告の「下の1」ではこのやりとりを紹介しますので、ぜひリアリティをつかんで欲しいと思います。

なおこの間、放影研はこれまでの態度を変えたのか否かという論議があります。僕は少なくとも今回の私たちとの会見において、放影研の変化を感じることはできなかったのですが、そうであろうとなかろうと、科学者としての自らの良心を前面に出し、誠実に、熱意を持って、ひたすら放影研の方たちの科学的良心によびかける沢田昭二さんの姿に深い感銘を受けました。そこには被爆者として、心から核の廃絶を願う沢田さんの姿が垣間見えており、その姿勢こそが大事な証言を引き出すことになったのだと思います。説得の王道だと感じました。

もちろん、アメリカ軍の機関として出発し、今も、アメリカ核戦略の体系の中に位置している放影研を簡単に「信じる」わけにはいきません。あとにも述べますが、放影研とその関係者は、昨年の福島原発事故以降も、明確に「放射能は怖くないキャンペーン」に加担してきています。というか、そもそもこのキャンペーンの基礎になるデータを与え続けてきたのが放影研であり、態度変更には真摯な反省が伴う必要があります。こうしたことを念頭におきつつ、沢田さんのように迫っていくことが肝心ではないかと思えました。

なお前回、昨日の番組は本年1月20日放送の「黒い雨 明らかになった新事実」という番組が元になっていることを紹介しました。これを見ると、冒頭にこの黒い雨をめぐる放影研の記者会見の様子が出てくるのですが、この会見で、放影研の大久保理事長の左右に座っていて発言しているのが、私たちの訪問の際、応対に出てこられた寺本隆信/業務執行理事、小笹晃太郎/疫学部長の両氏です。(大久保氏から見て左が小笹氏、右が寺本氏)この映像から、この方たちがこの記者会見の内容なども最もよく知りうる放影研の中心メンバーであることがよく分かりました。
番組は以下から見ることができます。冒頭だけでもご覧になり、放影研のお二人の姿も確認されてから、以下の記録をお読みになってください。
http://cgi4.nhk.or.jp/eco-channel/jp/movie/play.cgi?movie=j_face_20120120_1742

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放影研でのやりとりから 20120626 記録 守田敏也

沢田 ここからは日本語でやりましょう。放影研による記者への発表で残留放射線の影響については、なかなか数値化するのが難しいと言われていましたよね。でも僕は数値化したのです。ABCCのデータに基づいて、数値化するのに成功したわけです。それは放影研のStramさんや水野さんの研究にも基いているし、ABCCが調べたデータにも基づいているわけです。

それから下痢については、広島の医師の於保源作さんという方、ご存知ですね。彼が調べたデータ、それを用いたのですが、本当は放影研のデータを使いたかったのです。それを使うにはどういうふうにしたらいいのですか。何か方法がありますでしょうか。

放影研自身が1950年代に調べたデータの中で、脱毛だけはかなり詳しく調べられていて、他のことは詳しく調べられてないのではないかという気がしています。発症率が距離と共にどのように変わっているかなどです。そういうまとめ方はされていないのですか?そのところがすごく気になるのですけれども。

小笹 基本的にはT65D、DS86の初期放射線線量ですね。あれを調べているところで使っていると思います。ただそこで、何が最も線量と関係があるのかというあたりで、落ちているものとか、残っているものとかあるかもしれませんが、ちょっと私もそこまで記憶はないですね。

沢田 一番、僕が欲しいものについてですが、T65DやDS86で行った区分ごとのデータにLSSはなっていますよね。今、DS02が基準で、区分されているわけですけれども、本当はその区分する前の距離ごとのデータ、まあ変換すれば、初期放射線の線量は分かるから、変換すれば距離は分かりますよね。

小笹 それは遮蔽の影響がかなり強いですから、距離とはかなり変わってきます。

沢田 それから遠距離の方は、0.005以下と0の場合が全部まとめられているから、いろいろな距離の人が全部、まとまっているのですよね。

小笹 それはそうです。はい。3キロから10キロまでの場合がありますから。

沢田 ですよね。広島は約6キロまでですか?10キロまでありますか?

小笹 定義としては10キロまでです。

沢田 はい。だけど当時の広島市の地域が10キロまでなくて、6キロぐらいで切れていますから、僕は6キロにしているのですけれども。だからそういうデータが調べられてまとまっていると使えるわけです。インゲさんも、発表されたデータに基づいて日本人平均と較べるということで、コホート、すごく被曝しているということを見出されているわけですよね。

だからデータがそういう被曝距離という形で発表されていれば、降下物の影響の研究に役立ちます。僕が知っているのは渡辺智之さんらの論文で、ご存知ですか?彼は名古屋にいらっしゃるから、いろいろと議論ができるのですけれども、放影研のLSSのがん死亡率を岡山県民、広島県民と比較され、最近では日本人平均と、年齢ごとで区分した研究をやられていますよね。そういうふうに活用できるわけですけど、急性症状の下痢については、どこにも発表されてないですよね。

小笹 まあ、そういう形で出ているかどうかは分かりません。

沢田 だからそういうのを利用するにはどうしたらいいか。何か方法はありますか?

小笹 公刊されているTR(研究報告)については、請求していただければ出すことはできます。

沢田 公刊されているものはね。でも公刊されていない、だからここで調べられてないものをどう利用するかというと、だからそれは難しいのですね?

小笹 それはですねえ。今、おっしゃったデータについてはきちんと残ってないのです。

沢田 残ってない?

高橋 1950年代の初期の資料とかが残ってないということですか?

沢田 でも調査カードがありますよね。これはちゃんと残ってますよね。それを見れば分かるわけですね・・・。

小笹 もしそれをやるとなるともう一度入力するというかそういう作業をしないと。

沢田 そういう作業を誰かやらないといけないのですね。元のデータはある
わけですよね。

小笹 はい。

沢田 だけれどもデータ化された形で残っていない、と、おっしゃっている。

吉木 だから生データをもらったらいいですね。

小笹 ABCCの調査のデータは残っていますけれども、それが今、おっしゃったような用途に適切かどうかということが分からない。

守田 その生データを出していただくことはできないのですか?

小笹 それはできません。

守田 それはなぜなのですか。

沢田 国が原爆症認定裁判などで必要なときに、ABCCが調べたということでぱっと出てきますね。それは裁判のときは出てくるのですね。

寺本 個人のですか?個人のご本人の同意がある場合は・・・

沢田 裁判だからでるのですね。

寺本 はい。あくまで個人情報ですから、一般的に外に対して提供するような性格のものではないですね。

沢田 だからそれを調べようとすると、ここの研究員にならないとできないのですね。

寺本 ここの研究員であっても、個別のデータを解析の場合にそういう方法をとればやりますけれども、個人と特定できるような形では見てないです。

守田 放射線の影響というのは、個人のデータとは言えない側面があるのではないでしょうか。

寺本 だから研究する場合に、研究者が、だれだれさんのとか、そういう形では見ないように、しかし研究のために、個別の人ごとのデータが必要なときに
は名前を出すとかしています。

高橋 そういう方法があるわけですから

吉木 よろしくお願いします。

寺本 さきほども説明したとおり、オープンにしています。

吉木 ですから1年間に1回でも良いですから、定期的にこういうチャンスを設けていただきたいというのが私の要望です。たぶんインゲさんもセバスチャン
さんもそれに同意すると思います。

寺本 ドイツから来られるのですか?

吉木 来る可能性もあります。

沢田 僕の説明を、ちょっとこの図を使いますが、インゲさんがやったように、遠距離の被爆者を、今ここでは、初期放射線による被曝線量区分を使ってやってらっしゃるわけですね。それでここのデータを使えないものですから、広島大学の原医研のデータで調査されていますね。それは広島県民に限っているわけです。その中の被爆者だけを非被爆者と比較して調べているわけです。そのデータを使って、かつてABCCで調べた遠距離の被爆者がどれだけ降下物の影響を受けているのかということをやって、10ページのところに図があるのですけれども、(ここから英語のため省略)

・・・続く