守田です。(20120806 23:00)
みなさま。今日は広島に原爆が投下された日です。この原爆によって犠牲になられた全ての方々に哀悼の祈りを捧げたいと思います。
この「広島原爆の日」にNHKが再び興味深いドキュメントを放映しました。「黒い雨、生かされなかった被爆者調査」という番組で、この間、ここで紹介してきたABCC=原爆傷害調査委員会が、かつて放射性物質を含んだ雨である「黒い雨」による被害調査を行っていながら、それを生かしてこなかったことを告発したものでした。
ある方から実はこの番組には、元番組があることを教えていただきました。本年1月20日に放映された「黒い雨・・・明らかになった新事実」という番組です。これは以下からみることができます。
http://cgi4.nhk.or.jp/eco-channel/jp/movie/play.cgi?movie=j_face_20120120_1742
今日の番組の重要なので、今後、文字起こしなどしますが、いずれにせよこれらの中で、放影研の持つ重要性がどんどん明らかになりつつあると言えます。
すでにお知らせしてきたように、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は、この6月26日に、訪日していたECRR会長、インゲ・シュミッツ‐ホイエルハーケさんと、ドイツ放射線防護協会会長セバスチャン・プフルークバイルさんと一緒にこの放影研を訪問し、実に重要な会話を交わしてきました。
僕もそれに同行し、案内の記事の上を書いて、すぐに続編を書く旨、お知らせしたのですが、諸般の事情でなかなか進めることができませんでした。そうこうしているうちに、NHKで内容の深い番組が連続的に流され、なおかつ広島・長崎の日が近づいてくる中で、記録の整理を急ピッチで進め、報告の形にまとめたものを、同会の国際・広報委員長の吉木健さんとともに、作成することができました。
写真も含めた全文を、同会のHPに載せましたので、ご覧ください。ただし長文になりますので、ここの場で、いくつかにわけて報告させていただきたいと思います。全文のURLは以下の通りです。
http://www.acsir.org/news/news.php?RERF-Prof.Dr.-Schmitz-Feuerhake-Dr.-Pflugbeil-ACSIR-22
今回はこの中から、吉木さんが作成してくださった会見全体のアウトラインについてご紹介します。以下、文章を貼り付けます。なおRERFとは放影研の、ACSIRとは私たちの会の頭文字をとった略称です。
*****
放影研RERFとProf.Dr. Schmitz-Feuerhake、Dr. Pflugbeil及びACSIRとの会談
-第一報 概要*-
*専門的内容については的確にフォローできないため、沢田理事長が別途第
二報を提出予定
(文責 吉木 健)
日時:2012年6月26日 10:00~12:00
出席者
RERF-寺本隆信/業務執行理事、小笹晃太郎/疫学部長*
* 寿命調査集団、胎内被爆者集団、被爆二世(F1)集団の長期追跡調査で、放射線被曝の健康への影響の疫学調査を実施。
ACSIR-Prof.Dr.Inge Schmitz-Feuerhake、Dr. Sebastian Pflugbeil、沢田昭二理事長、高橋博子副理事長、守田敏也広報委員長、吉木健国際委員長、Dr. Ulrike Wohr (広島市立大教授/通訳)、三崎和志(岐阜大地域科学部准教授/通訳)
[発言:寺島-小笹-インゲ-セバスチアン-沢田-高橋-守田-吉木-]
発言は内容の要旨で、聞き取りが困難な発言や特に記録の必要がない発言は除外した。特に断らない限り英語。(日)は日本語で発言。
会談に先立ち、ヴィデオの撮影を要望したが断られた。代わりに音声録音の許可を申し出て同意を得た。この会談内容はサウンドレコーダーの記録に基づいている(守田及び吉木)。
*:参考に入れた注。
会談は会話体ですべての発言を記録することが理想的であるが、小型のレコーダーの性能の限界があり、また会場の設置場所の適否、さらには専門的な発言内容の問題もあるので中心的テーマごとの要点を記すこととした。
会談はRERFの寺本氏の司会で始められ、ASCIRの希望により基本は英語とし、必要に応じて日本語等も使用。ドイツ語も通訳を通して使用された。
自己紹介
寺本氏の発案で参加者全員の自己紹介が行われた。通訳を除く発言順。
要旨を記す。
寺本理事/科学以外の業務執行理事で広報、倫理調査等担当。7年間在籍。広島生まれ。
小笹博士/疫学部に4年前に就任。
Prof.Dr.インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケ(以下インゲ)/物理学者で1974年に ヒロシマの研究所(当時ABCC=Atomic Bomb Casualty Commission=原爆傷害調査委員会)を訪問。長年にわたり研究している。
Dr.セバスチアン・プフルークバイル(以下セバスチアン)/(ドイツ)放射線防護協会の会員(会長)。数年前からRERFの研究もしている。
吉木/今回の会談をさせていただいたことに感謝し、ACSIRの会員に会談内容を伝えたい。
高橋/広島市立大 広島平和研究所の講師。アメリカの歴史を専攻。特に原爆関係の公文書を研究。特にABCCとRERFに関心が深い。
守田/フリー・ジャーナリストでACSIRの常任理事。
沢田/広島生まれ。中学生時に広島原爆で被爆。母は崩壊家屋に挟まれ動けず、生き残るためここを離れよと命じられた経験をした。後に素粒子物理学を専攻し原爆の放射性降下物の影響を明らかにした。
注 なお放影研の小笹博士は、同研究所による「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14報 1950?2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要」の筆頭執筆者でもある。
原爆による被曝を巡って
寺本氏が小笹博士に最近の研究の紹介を要請したが、時間への配慮から質問などに答えることとなった。
インゲ博士が口火を切って原爆の被爆について見解を述べ、沢田理事長が(長崎を含む)自らの研究成果(脱毛と下痢等)を述べた。
以下は会談の主要の一部で、詳細は別途報告される沢田理事長の第二報参照。
寺本-会談に移りましょう。小笹博士に最新の研究を紹介してください。
小笹-時間をかけて説明するより質問などをお聞きした方が良いでしょう。
インゲ-放射線防護協会の被験者について職業上の被曝の問題に直面してい
る。あなた方のLSS(寿命調査)http://www.rerf.or.jp/glossary/lss.htmについてコホート*が世界的に参照とされています。(*特定の地域や集団に
属する人々を対象に、長期間にわたってその人々の健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因との関係の調査)
残念ながらもし何らかのことが見出されているのでなければ、被験者ははっきりしない疾病のことを話しています。これについては議論するつもりはありませんが、職業上の分野ではnon cancer(非ガン)影響が多く観察されています。ICRPの最近の勧告では0.5Sv以下ではnon cancerは観察されないとしています。私が尋ねたいのは、これはこれまでに確認されたのかどうかです。私の見るかぎり直線閾値なし線量モデル*と矛盾しているのではないか。ICRPはかようなことについての懸念はないとしています。
*(linear non-threshold model /LNT-放射線のリスクが線量に比例するというモデルで線量が小さいとリスクは比例して小さくなる。
小笹-LNTについてはガンだけにかかわることです。non cancer(非ガン)については大変複雑でかなり弱い*。さらに詳細な分析が必要です。*LNTか
高橋 1952年・53年に、ABCCがME-81という残留放射線に関する調査に取組んでいたことは、私の著書(『新訂増補版 封印されたヒロシマ・ナガサキ』凱風社、2012年)にも掲載したウッドベリー博士の文書からも明らかである。残留放射線、入市被爆者たちの調査をしようとしていたのに、何故打ち切ったのかも明らかにしてほしい。
RERFのデータの開示について
沢田 被爆者の生存期間はこれからそう長くはない。RERFのデータは人類にとって重要だ。どうか低線量の影響の研究をして出版して戴きたい。
高橋 RERFとABCCで集積されたデータは広島と長崎の被爆者と人類に属するものだ。それらはRERFに占有さるものでなく、広い範囲の科学者と共有することをお願いしたい。
これらのリクエストに対してRERFはRERFが全てをカバーしているわけではないがHPに開示してきたと回答。
HP:http://www.rerf.or.jp/programs/index.html
最新の学術論文:http://www.rerf.or.jp/library/archives/index.html 。
高橋 学術論文などの成果だけではなく、RERFの所有する生のデータの開示が必要だ。最近「黒い雨」に関する事実が明らかにされているが、これも長らく開示してこなかったではないか。
インゲ さらなるデータの開示を求める。「当初から開示しておれば、研究の内容もゆたかになり、被曝による被害を少なくできたかもしれない。」
沢田 私の研究もRERFのデータに依存している。
吉木 データの開示については専門家が不十分だといっている。RERFはデータはRERFの所有と考えているかもしれないが、これは被爆者のものであり、ひいては人類のものではないか。どう考えているのか。
小笹 きちんと残っていないデータもある。カードとしてのデータはある。
沢田 生のデータを開示していただきたい。国の裁判では出せているが。
REDF 同意があれば出せる。だが一般的には出せぬ。個人の個別のデータは出せない。
吉木 個別であっても匿名であれば出せるはず⇒ノーコメント
沢田 インゲ 研究者には個別のデータをよろしくお願いしたい。
低線量被曝、内部被曝について
守田 戴いた放影研のパンフレット「分かりやすい放射線と健康の科学」のp3にγ線、α線やβ線の性質の説明があるが、内部被曝についてはパンフ全体にも触れていない。γ線だけ怖いと思われているが、内部被曝ではα線やβ線が重要なので配慮されたい。
(注)戴いた放影研の要覧には「有意な放射縁量」とはとの質問に対する答えでは次のように記されている(p47)(吉木)。
『ガンのリスクの考察では5mGy(グレイ)以上の被曝者に焦点を置いている。これ以下の低線量被爆者のガンやその他の疾患の過剰リスクは認められていない。この値は一般人が受ける年間の放射線量(0.1mSv~1mSV)より高い。』
要覧には放射線の早期影響や後影響、遺伝的影響、放射線量、また寿命調査(LSS)などの調査集団の研究などが紹介されているが、低線量の被曝、また内部被曝は研究対象に入っていない。
沢田 放影研は寿命調査集団(LSS)の0?0.005Svの初期放射線被ばく線量区分のがんなどの晩発性障害の死亡率、あるいは発症率を実質上被ばくしていない比較対照群(コントロール)として放射線によるリスクの研究をしている。初期放射線被ばく0.005Sv以下は広島では爆心地から2,700メートル以遠の遠距離で、ガンマ線しか到達していないので0.005Sv=5m Gyとしてよい。5mGy以上との説明は実質的に比較対照群にしていることの表明であるが、初期放射線のみで放射性降下物の影響を無視した研究であるので低線量被曝者とは言えない。
今後のRERF
今回がRERFとの会談の最初だが、今後継続して戴きたいとの要望(吉木)に対して受け入れるとのことであった(寺本理事)。
また小笹博士からは低線量の曝露のついては困難を伴うがreformが必要との発言があった。REDFが自ら変わっていくのは困難だろうが、われわれとしては、こうした発言も念頭にいつつ、RERFの今後を見ていく必要がある。
会談は約一時間半に及びその後放影研内寺本理事に案内していただき、全員で放影研の前で記念撮影した。