守田です。(20110328 18:30)
3月26日に、原子力資料情報室が記者会見を行いました。
元技術者として福島第一原発4号炉の原子炉の設計に関わったサイエンスライターの田中三彦さんがお話をされました。
これもノートテークしたので、みなさんにお届けします。
この際も、厳密な校正ができていませんので、伝達の際には、あくまでも守田が聞き取ってまとめた内容であるとただし書きをつけてください。
内容が難しいので、あらかじめ簡単な要約を行います。
冷却材喪失事故=大事故に発展の可能性が隠された?
数日前に、首相官邸のホームページで、ようやく福島第一原発の事故後のデータが公表されました。この中の1号炉のデータを田中さんが解析していて重大な事実(正確にはその可能性)に気づきました。事故直後に、冷却材喪失事故が起こっていたのではないかということです。
冷却材喪失事故とは、配管の破断等々により、冷却水が一気に抜け出してしまって、水位が急激に下がり、炉心がむき出しになる事故です。そうなると、一気にメルトダウンが起きる可能性があるため、考えられる事故の中で、最も恐れられてきたものでした。
これに対して、最後の砦とされてきたのが、緊急炉心冷却装置(ECCS)で、たとえ、冷却水が一気に抜けることがあっても、これが作動するので、メルトダウンが起きることはあり得ないというのが、原子力を推進してきた人々の共通見解でした。ところが今回は、電源が奪われたためにこれも作動しませんでした。
田中さんは、この点の重大さを、技術的な意味と、社会的な意味に分けて解説しています。技術的には、この時点で1号炉は、どのような重大事故に発展するか分からない状態におかれたということです。
当時のニュースを振り返ってみると、冷却ができなくなったことは報道されていましたが、格段に重い冷却材喪失は明らかにされていませんでした。冷却ができないことは、水の循環がとまってしまったと考えられ、事実ポンプが動かずに止まっているのですが、冷却材喪失は、さらに加えて、どこかで配管が破断したことを意味しており、その後に冷やすために投入された水は、どんどん漏れてしまう構造におかれたと考えられます。単に冷やせなくなっているよりも、水をためることすらできない、格段に危険な状態におかれていた可能性が高いのです。
そして社会的な意味は、それならば、このことはただちに公にされ、緊急避難措置が取られる必要があったということです。ところがこれがなされなかった。これは非常に重大な背信行為です。
この段階でこの事実がどこまで認識されていたのかは、明らかではありません。知っていたのは東電までなのか、保安院までなのか、政府までなのか。誰がどこで情報を止めてしまったのか。それは先々明らかになるでしょうし、法的な裁きも加えられるでしょう。
ともあれ、明らかになったのは、原発が爆発などの破局にいたる可能性が極めて高い段階に、緊急避難勧告が出されなかったという事実です。東電・政府は、周辺の人々、いや社会全体との信頼関係に著しく背いたのです。この事実は、大変、重いです。
また田中さんは、その後の水素爆発も、起きることが予測可能だったはずだと推論しています。その場合、設計者は原子炉を外からの水素爆発に耐えられるようになど設計していない。1号機でも3号機でも水素爆発で原子炉が崩壊しなかったのはまったくの偶然でしかありませんでした。
つまりこの場合も、起こりうる水素爆発で、原子炉が崩壊する可能性があることを、事前に明らかにすべきだったのです。しかしその責任が放棄されました。こうした事故隠し、また重大な危機の隠ぺいがすでに事故初期に行われていたこと、これを田中さんはデータ的に明らかにしたのです。
さらにここから技術的に推論されるのは、少なくとも1号機については、この間考えられてるよりもさらに修復が難しということです。これまでは冷却水の循環をつかさどるポンプが動かないことが課題と語られてきたわけですが、配管が著しく破損していれば、ポンプが作動しても、水はただ漏れてしまうだけだからです。しかも配管の破損個所によっては、修復が非常に難しい可能性も考えられます。
以下、詳しくは田中さんのお話をノートテークした部分でお読みください。(なお以上のことは、あくまでも可能性として語られていることにも留意して下さい。データが非常に限られているので、科学的には、どこまでも可能性としか言いえない状態にあるのだと思います。ただ非常に高い可能性といってよいと思います。この点付記しておきます)
記者会見における田中三彦さんのお話
当該情報は、原子力資料情報室より、次のように発表されました。
「福島第1原発の1~3号機では、原子炉の危機的な状況が継続しています。東京電力公表の事故の初期データの解析から、第一原発1号機で大口径配管の破断事故発生の可能性のあることが明らかになりました。東京電力は非常に不十分なデータしか公表しておりませんが、分析結果を公表いたします。」
以下のustreamのサイトで観られます。
その1
http://www.ustream.tv/recorded/13572861その2
http://www.ustream.tv/recorded/13573218その3
http://www.ustream.tv/recorded/13574257
田中三彦さんの解説
冷却材喪失事故が起こった。最も恐れられてきた事故だ。それが起こった可能性を説明したい。
私が今から申し上げることは、もしかすると、原子力保安院も、東電も日本の原子力安全委員会も、その事実を隠していた可能性があるということだ。
私の知る限り、世界中で、冷却材を喪失して、格納容器の圧力が上がると言う事故を知らない。
私たちは直接データにアクセスすることができないので、昨日、首相官邸のウェブサイトからダウンロードした資料ではそれが読み取れるということで説明したい。
事故は原子炉格納容器の圧力があがったというところから始まっている。運転時は、圧力がかかってない。だからこれに圧力がかかっただけで大きな異常だ。
地震で圧力容器を冷やすことができなかった。そうするとどんどん熱くなる。
運転時の圧力は70気圧ある。温度は270度ぐらいある。地震が来るとタービンを回るのを止めて、バイパスさせる。そして復水器で冷まされて原子炉に戻る。下から制御棒が刺されて運転が止まる。これが自動停止と呼ばれるもの。
ところが地震によって、電源が全部喪失した。非常用の電源も津波で壊れてしまった。したがって、原子炉を冷やさなければいけないが、冷やすことができなかった。
原子炉圧力容器の中には、いろいろな放射性物質がある。それらが熱を出すので、どんどん熱くなる。自動停止したあと、熱を除去しなければいけないのだが、炉心を冷却できなくなった。
そうすると、炉心の圧力と温度が上がっていく。そうすると配管が壊れる可能性がある。そういうことが起こらないように、逃し安全弁というものがある。多分、80から90気圧の設定。
そうすると圧力があがると、自動的に開いて、圧力抑制室に送られる。そうすると分かりにくいことが起こる。
通常運転中の冷却材のレベルは上から3分の2ぐらいにある。しかし蒸気抜けて行くので、水位が下がる。そのままどんどん水位が下がって、燃料棒が顔を出してくる。そうすると、いきなり冷却されなくなると、ジルコニウムの被覆管が溶ける。それが水の酸素を奪い、水素が発生する。すると水蒸気と一緒に、圧力抑制室に来る。
水蒸気や放射性物質は、水の中に落ちる。そうすると水素は、水に溶けないので、上にあがっていく。フランジというものがあって、水素が逃げ出す可能性がある。そうなって外に出て爆発した。
2号機は圧力抑制室で爆発が起こった。チッソが封入されているのでここでは水素爆発は起こらない。実際には起こったということは、水素が原子力格納容器を上がらずに、その辺で外に出た。
圧力抑制室は20から25メートルの地下にある。
2号機では圧力抑制室の近くで水素が漏れた。
圧力抑制室が格納容器についているところの溶接に弱いところがある。水素爆発があったのは、その漏れは、地震によったものと推定される。
1号機のパラメータの推移のデータが入った。公開されているデータは、なぜか3月11日のものがなくて、12日から始まっている。
原子炉の圧力は運転中は70気圧ある。12日2時45分には0.8メガパスカル、運転時は7メガパスカルだった。一気に落ちている。
2号機か3号機は5メガパスカルあたりを保っている。それに対して1号機は非常に落ちている。落ちた分は外に出てしまったと思われる。そのために急激に圧力が落ちている。
蒸気は原子炉から漏れて、原子炉格納容器に入るので、そこの圧力が急にあがった。7気圧になった。格納容器の圧力は運転中は1気圧だ。普通技術者は、1気圧はひく。これをゲージ圧という。発表されたものは絶対圧力だが、私が1気圧をひいて、ゲージ圧にしている。
つまりゲージ圧では、格納容器は0気圧である。その0が、7まで上がった。8気圧になったこともあった。
繰り返すと、原子炉の圧力70気圧で運転してきたものが、8気圧までおちた。そのかわり格納容器の圧力が8気圧まであがった。
ウォーターラインもみていきたい。これも急激に落ちている。原子力圧力容器の急激な低下、格納容器の圧力の急激な上昇、水位の急激な低下。これはほぼ間違いなく冷却喪失事故が1号機で落ちたことを物語っている。
これは社会的な意味と、技術的な意味とふたつ大きな意味を持っている。
こういう事故が起きた場合に、電源があれば、ECCS系というものを出して、終息させることを考える。それができなくなっていた。
1号機は地震直後のデータがないが、地震直後に破断があったので、その後にECCSが働いた可能性が強い。
実際に作動させたが不能だったことが、11日16時36分に書いてある。
作動させようとした時間は、地震がおきた2時間後だった。こうしたデータから言えることは1号機では、ほとんど間違いなく世界で最初の冷却材喪失事故が起こっていた、非常に深刻な事故が始まっていたことを意味する。
社会的な問題というのは、こういう事態がおきて、ECCS系が作動しないのは緊急事態の中の緊急事態だったということ。
ECCSが作動しなくて、止めようがないのだから、どうなるかわかない状態で住民をできるだけ早く、遠くに避難させる判断が行われなければならなかった。
ところがそうした深刻な状況が、誰に、どこまで伝わっていたのか。原子力安全委員会は知っていたのか。保安院や東京電力は知っていたのか。それは分からないが、住民には一切、こうした事態が起こっていることが伝えられなかった。
そうした問題があるのに放置した。そのため水素爆発が起こった。冷却材がなくなり、燃料棒が露出し、ジルコニウムが溶けて、そこから水素が発生し、1号機の建屋にたまって、爆発が起こった。出口はおそらく格納容器のトップヘッドのフランジから出てきたと推測される。
冷却材喪失事故が起こると、水素が出て、漏れ出して、爆発事故が起こることは専門家ならだれもがまっすぐに推論できることだった。それが大したことにはならないとかけた。あるいは格納容器の中にとどまると考えかもしれない。しかし8気圧にもなったので、フランジのふたがおしあげられて水素が出て行った。
格納容器は水素爆発に耐えられるような設計にはなっていない。設計者は誰もそんなことを考えて作っていない。
この爆発は地震が起きてからほぼ1日して起こった。
こういうことがわずか1日で起きてしまったメカニズムは、水素が圧力抑制室に回ってから原子炉格納容器に入ったのではなく、原子炉からすぐに上にあがって、出て行ったに違いない。
学者はこの爆発を見て、日本の原子炉設計技術は高いなどといったが、それは偶然だった。この段階で原子炉が崩壊する可能性があった。にも関わらず、水素爆発まで何の判断も下さずにただなすに任せていたことは非常に罪が大きい。
もうひとつ付け加えておけば、これまで楽観的な話ばかりをしている学者たちは、冷却材喪失事故が起こっていることを知っていた可能性があり、にもかかわらず、それに一切触れずに、楽観的な解説ばかりをし続けた。これも非常に問題がある。
おおげさに物事を言うという批判の仕方がある。原発に反対しているものはこういう批判を受けることがよくある。しかし楽観的な話ばかりするのも、ある種のおおげさな言い方であると言える。
もう一つの社会的問題は、作業者の被ばくの問題だ。3号機のタービン建屋で被ばくが起こった。それと関連して、国ははじめて原子炉に損傷があったことを認めた。その原子炉の損傷があったというのは、3号機でも同じようなことが起こった可能性が示唆している。
3号でも冷却材喪失事故が起きた可能性があって、今、データを解析しているところだ。
新聞によると、1号機もタービン建屋に大量の放射性物質を含む水が溜まっていることが明らかになっている。
東京電力は、今日(26日)、3号機で放射線量が高いことを知りながら作業をさせてことを明らかにして詫びている。
線量が高いことをあらかじめ知っているということは、ここで何かが起こったことを知っていることを意味しないかと思う。
もうひとつ技術的な問題がある。
もし冷却材喪失事故が起きていたら、水をいれてもどんどん漏れてしまう。実際に入れている水は入っていってない。そういうことになると、これをどうやって冷却していくのか、問題になる。
配管が壊れていると、もはや中に入っていって直すことができないので、漏れっぱなしになる。そういう本質的な難問があるはずだ。
以上が私が思っていることだ。
当然、データの読み違えがないとはいえないが、とくに1号については急速に圧力が落ちて、格納容器の圧力があがり、水位がさがったので、原発事故の中で一番恐れられてきた冷却材喪失事故が起きた、しかもECCS系が作動しないというおまけまでついた。
以上
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