守田です(20210519 15:00)

前回、ICRPと密接な関係にある放射線影響研究所が、被爆二世のゲノム解析をしたいと言い出したこと、その真意がどこにあるのかを分析しました。
この点について、この間、さまざまに考察と行動を共にしている被爆二世の森川聖詩さんが、いちはやくFacebookにコメントをあげられています。
国の被爆二世への対応の歴史的経緯も踏まえてのものであり、資料価値も高いので引用・転載させていただきます。以下、森川さんの文に小見出しを入れて整理しました。

● 遺伝的影響をことごとく否定してきた日本政府(森川さんの投稿より)

「放射線の遺伝的影響についてのABCC(原爆傷害調査委員会)→放影研、そしてその見解をことごとく踏襲する厚生省→厚労省の主張や論法は、常に一貫しています。
戦後、ABCCが行なった調査のあり方は、対象とされた被爆者人口や調査項目、比較のし方などにおいて、統計的に有意な結果が見いだされるかどうかおおいに疑問視されるものでした。
しかしながら、ABCCは、この結果をもって「遺伝的影響はなかった」と大々的に宣伝しています。

この時から今に至るまで、ABCC~放影研と厚生省~厚労省は、「遺伝的影響は認められない」として被爆二世の医療保障の要求を退けながらも、放影研「被爆二世健康影響調査」を行う一方、1980年から実施されている国による「原爆被爆

者二世の健康に関する調査・研究」→「被爆二世健診(健康調査)」によりデータを集積し続けてきています。
2018年6月の日本被団協中央行動において厚労省は、国の健診結果について「がん、その他諸疾病に罹患しているなどの症状の発現が見受けられる」と口を滑らし、実情を吐露する答弁を行なっています。
ただ、直後の私たちの追及に対して、これは「健診を受診する人は健康に問題や不安がある人が多くいことに起因する当然の結果であり、それが被爆二世総体における傾向とは考えられない」とも述べています。

昨今の福島原発放射能汚染水海洋放出問題にも象徴されるように、国にとって放射線の被ばく影響を過小評価することは戦後常に至上命題でした。
なかでも遺伝的影響については、これを認めれば、国がほしょうすべき対象人数は二世・三世…と飛躍的に増えることにつながる…しかもそれは原爆被爆者の子孫に留まらず、福島をはじめ原発等被ばく者・核被害者の子孫へのほしょう問題にも波及していく…と同時に核開発を進める上での国民からの大きな反発要因にもなるのは必至です。それをいちばん国は恐れているはずです。それなのになぜあえてゲノム解析までしょうとするのでしょうか?」


放影研によるゲノム解析の準備の進行を報じる共同通信 2020年10月19日

● ゲノム解析の狙いはデータ蓄積と影響の再否定だ(森川さんの投稿より2)

「それが核開発を推進するに資するためのものであることは自明です。
核を兵器として使って得られる攻撃対象国(人びと)への影響・加害効果、あるいは兵器としての使用の如何にかかわらず、ウラン採掘に始まり、原発・原子炉の稼働、あるいは核兵器の製造や廃棄に至るまでのあらゆる過程でさけることのできない多くの人びとの被ばく労働や福島被災のような原発事故による被ばく影響、とりわけ遺伝的影響がどのようなものであるかを知ることは、国がこれを開発する上で極めて貴重であるわけです。

放影研も国も遺伝的影響についてすでにある程度のデータなり分析はできていると考えられます。しかし、よりもっと緻密なデータがほしい…まさにその切り札が「ゲノム解析」と言えるでしょう。
しかし、この「調査」のなかでどのような「結果」が見いだされようとも、上述のような詭弁を弄して「やはり放射線に遺伝的影響は認めらない」→「ない」→「放射線は恐れるに足りない」と結び、原爆被爆者(一世)で保障の幕引きを図り、被爆者をはじめ原発等核被害者の次世代以降世代、未来世代へのほしょうを封印して切り捨てることと表裏一体に、核開発に奔走する「悪魔のシナリオ」にほかなりません。」


かつての被爆二世健康調査に反対してハンストをした森川さんと発信された冊子と著書

● ほしょうは「科学的証明」ではなく被爆者の奮闘でつかみとられてきた(森川聖詩さんの投稿より3)

「私たち被爆二世がまず踏まえておきたいのは、医療保障をはじめとする人権ほしょうは、決して遺伝的影響が科学的に証明されることで得られる(そうでなければほしょうは得られない)というような本質のものではないことです。
そのことを何よりも先達被爆者の崇高な被爆者運動の歴史から学ばなければなりません。
1957年制定の原爆医療法~1994年制定の被爆者援護法は、必ずしも原爆と被爆者の病気の因果関係が科学的に証明されたことによって実施されている施策ではありません。

さらに申し上げるなら、東京都や神奈川県においては被爆者援護法健康管理手当対象疾病(11障害)について被爆二世医療費補助が1970年代から実施されていますが、申し上げるまでもなく、これは科学的証明によるものでなく、先達被爆者の運動の力あってのものです。
さらに、1989年と1992年の2回、被爆二世・三世への適用を含めた「被爆者等援護法案」が参議院で可決されてもいます(残念ながら衆議院で否決され成立させることはできませんでした)。
 
こうした事実が教えてくれているのは、世の中を動かすのは運動の力と、それを支える政党や市民の支援の力、世論の理解や後押しであるということではないでしょうか?
では私たちは何をなすべきか?それは、放影研に自らの身体を差し出す(差し出して国の核政策に利すること)のではなく、被爆二世の健康と生活の実態を自ら具体的に開示し、それを政党・平和団体等市民団体、ジャーナリスト世論…の支持を広く得られるように「見える化」していくことだと思います。そういうことこそが、真の意味での被爆者運動、被団協運動の継承と言えるのではないでしょうか?

このことに果敢に取り組んでいる例の一つが、京都被爆二世・三世の会の「健康調査アンケート」であると思います。
現にこのアンケートを通じて、被爆二世・三世の深刻な健康生活実態が浮き彫りにされてきているようです。
現在、健康である被爆二世・三世も含めて安心して生きられる未来を築くため、福島の原発被災者・避難者の皆さまと連帯しながら、国に医療費保障、人権保障をしっかり掲げ、求めていきましょう!」


神奈川県が発行している「被爆者のこども健康診断受診証」 神奈川県と東京都、および吹田市と摂津市だけが被爆二世医療費補助を実現している

続く

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