守田です(20170204 22:00)

崩れゆく東芝についての考察の第5回目、連載最終回をお届けします。
今回はこれまでの東芝の崩壊過程の細かな分析に踏まえて、より大きな観点から問題を再度、捉え返しておこうと思います。

表題にも掲げたように、東芝問題を分析する中から私たちがはっきりとつかみとっておくべきことは原子力事業が世界的に展望を失っていることです。同時に原子力産業は完全にモラルも失っています。
そもそもの東芝のつまづきは2006年にウェスチング・ハウス(WH)社を市場価格の2倍とも言われた6400億円で買収してしまったことに始まりました。そしてその後一貫して立ち直れなかったのでした。
それがなぜかをこれまで明らかにしてきましたが、強調したかったのは、東芝がここまで追い込まれてきてしまった主因が、福島原発事故を反省できなかったことにあることでした。

東芝は、採算の問題よりも、あれほどの被害を出した原子力事業を続けて良いのかという点をこそ問うべきだったのです。
原子力産業は何より危険すぎるからこそ展望がないのです。しかし東芝はそこから目を背けるばかりでした。

いや原子力産業の行く手が大きく曇ったのは、スリーマイル島、チェルノブイリ両原発の事故でした。アメリカはこれで一つの原発も作れなくなってしまい、だからこそWH社が売り出されました。
同時に核燃料サイクルの中心を担うはずだった高速増殖炉の開発にも、世界中のどの国も成功せず、この点でも原子力事業の展望は消えていきました。
ところがあくまでもこの事実を無視したのが東芝だったわけですが、この点では日本政府や経産省、同業他社もまた同じ過ちを犯し続けています。

そもそも日本政府は2005年、小泉政権の時に「原子力政策大綱」を打ち出し、原発輸出に乗り出してしまいました。
その意味で東芝崩壊の責任は、日本政府や産業界全体も背負っており、問われているのはこのことを反省して国家的に原子力政策を逆転させることです。
そうしなければ日立も三菱重工も確実に行き詰ります。その上、救済などと称して巨額な国費が消耗されてしまう可能性も大きいです。

両者の行き詰まりはすでに表面化もしています。三菱重工はアメリカのサンオノフレ原発に輸出した蒸気発生器が事故を起こし、同原発が廃炉になってしまったために9300億円の損害賠償を請求されています。
三菱の提携相手のフランス・アレバ社もまた、原発建設費の高騰で事実上倒産してしまい、三菱はフランス政府から救済のための投資を求められてこの点でも困窮しています。
日立もまたつい数日前に、アメリカの沸騰水型メーカーのゼネラル・モーターズ(GE)社と合弁で進めていたウラン濃縮会社が破綻し、700億円の損失が出てしまったことを発表したばかりです。

しかも福島原発事故そのものがまだ収束しておらず、事故原因の解明すら途上なのです。
倫理的にも技術的にも、それでどうして新しい原発を安全に作ることができるでしょうか。しかも資金も足らず、協力会社にも逃げられていますから、安全マージンがより削れられるのも確実です。

問われているのは福島原発事故を真摯に反省し、もはや展望のないことを認めることです。東芝が真っ当な企業として再生しようとするのならそれこそが必要です。
もちろん日本全体がはっきりと原発建設から撤退し、原子力産業の方向性を原発廃炉と使用済み核燃料のより妥当な処理の仕方の開発へと向けるべきです。

そのためにはもはや企業に任せず、原子力産業を公社化すべきです。メーカーや電力各社の技術者を集めて廃炉公社を作り、膨大な放射能の安全な管理の道を探るのです。
この事業は未来世代に対する責任のかかったものです。核のゴミを大量に作りだす過ちを犯してしまった私たちの世代に出来るのは、放射能を少しでも安全に管理しつつ減らす努力をし、やれるだけのことをやって後を未来に託すことです。

この点で強調しておきたいのは、アメリカで原子力事業から早々と逃げ出したNRGエナジーや、ショウグループ、CB&I社などが「賢明だった」とは僕は少しも思ってないことです。
今回、分析を重ねる度に痛感したのは、アメリカの原子力産業をめぐる、一方での合従と他方での売却、そして訴訟合戦があまりに激しく行われていることでした。
「アメリカの会社は利口だが東芝は愚鈍だった」という論調もありますが、儲かるのなら関連会社を買収し、赤字が出そうなら売却して逃げるだけのあり方だって無責任だと僕は思います。

そんなゴリゴリの拝金主義者に原子力など触って欲しくない。そんなつもりなら「最初から手を出すな」と言いたい。
そもそも電力は社会的インフラを担う公共性のあるものです。社会的共通資本なのです。その発電に原子力を使うことが危険だと分かったのだから全力で正すことこそが必要なのです。
原発建設に手を出したNRGエナジーやショウグループ、CB&Iはこの点をどう捉えているのでしょうか。本来、原発建設に手を染めたのですから、福島原発事故への反省を自らに問い、その後の責任を負うべきではないでしょうか。

いやさらに根本的な問題は、ショウグループに属したまま同グループごとCB&Iに買収され、さらにWH社に転売されて7000億円もの負債を東芝に追わせた原発建設会社スターンアンドウェブスター(S&W)の出自です。
なんとマンハッタン計画の中にあって広島・長崎原爆の製造に関わった当事者なのです。もちろん同社は大虐殺に関与したことを反省していません。原子力産業はもともとここにこそ問題があります。

WH社もそうです。この会社が加圧水型原発を開発したのは原子力潜水艦を作るためでした。原子炉圧力容器内に液面がある沸騰水型の炉では原潜に載せられなかったからです。同社はその後に米原子力空母のエンジンのほとんども製造しています。
人類はもうそろそろ、このように、核兵器から始まった核の時代と訣別すべきなのです。福島原発事故の最も大切な教訓として学びとられ実践されなくてはいけないのはこの点であることを何度も強調したいです。

最後に今回の東芝の崩壊の分析を行う際に常に頭の中にあったことを記しておきたいと思います。福島原発事故後にお会いした元東芝の格納容器設計者の後藤政志さんや、その先輩にあたる小倉志郎さんなど、技術者として活躍されてきた方たちの志です。
この方たちは事故後に誰よりも鮮明かつ誠実に原発の危険性を説き続けて下さいました。とくに彗星のように登場された後藤政志さんは、福島原発の中で起こっていることを実に的確に解説してくださいました。
あの時期、後藤さんの説明は大きな光明でした。僕も夢中でノートテークして拡散すると同時に「日本の技術者の力はこんなに凄いのか、もっとこういう方たちの力が政策に反映されるようにしなければ」と強く思いました。

その後、後藤さんたちはサイエンスライターとして以前から活躍されていた元日立の圧力容器設計者の田中三彦さんらと連携されながら、国会事故調にも参加してくださいました。
また筒井哲郎さんをはじめ、たくさんの第一線で活躍されてきた技術者の方たちが参加する「APAST」を立ち上げ、さまざまな提言を続けられています。
この他にかつて日立におられ福島原発4号機の配線を担当された五十嵐高さんにもお会いすることができました。五十嵐さんは事故後に責任感から鬱状態に陥ったそうですが、近隣の方を放射能から守ろうと群馬県桐生市で学習会を立ち上げ継続されています。

みなさん、もう現役をリタイアされてはいますが、それぞれに強い責任感から人々を守ろうと懸命に奮闘しておられます。深く共感しました。何よりこの志が、東芝やアメリカの原発建設会社と格段に違っているのです。
僕はぜひともこうした方たちの力をお借りして廃炉公社を立ち上げる必要があると思っています。もはやモラルのない市場原理などに任せていてはならない。社会的共通資本の観点に立った事業でなければダメです。
そのためにもさらに原発の再稼働と輸出を許さず、原子力事業の完全転換を実現しましょう。東芝崩壊の分析の結論として、このことを世に問うていきましょう。

連載終わり