守田です(20240318 23:30)
『福島第一原発事故の「真実」』(講談社文庫)の読み解きの続きです。
3月10日にJR奈良駅前でお話したスピーチ動画の8分30秒~16分50秒ぐらいにこの点が収録されています。
前回の記事で、注水に失敗し「冷却できない、地獄になる」と現場が恐怖におののいた2号機が、なんと注水できなかったからこそ破局を免れていたことを書きました。
今回は反対に注水に成功し「危機を免れた」たと思っていた3号機で、恐ろしい事態が起きていたこと、それが偶然におさまったことを見ていきたいと思います。
● 3号機は注水前にメルトダウンしていた
3月11日の大地震とその後の津波の襲来の中、3号機もディーゼルエンジンを失ったものの、1,2号機と違ってバッテリーが健在でした。
それで最初はRCIC(Reactor Core Isolation Cooling system)=原子炉隔離時冷却系が動かされましたが、電源があるためHPCI(High Pressure Cooling Injection system)=高圧注水系に切り替えられていました。70気圧で注水できるシステムです。
ところが13日午前2時過ぎにHPCIのタービンの回転数が落ちてきた。バッテリーが枯渇しだしたためと思われました。このため運転員は2時42分にHPCIを停止させ、軽油で動く消火用ポンプによる注水や消防車注水に切り替えようとしました。
しかし高圧注水が可能なHPCIに対し、消火用ポンプは5気圧でしか注水できない。そのため原子炉を減圧せねばならず、前回も登場した主蒸気逃がし安全弁(SR弁)の開作動が行われました。しかし開かない。弁は8つあるのですがどれも開きませんでした。
原因は同じくバッテリーの枯渇と考えられ、現場はバッテリー調達に奔走しだしました。120ボルトが必要だったため、乗用車の12ボルトバッテリーをかき集め、直列につないで弁を開けようとしました。ところがこれを使う直前に電源復活。弁が開きました。
時刻は13日午前9時8分。その後、9時25分に注水も開始。ほぼ同時刻にベントにも成功。格納容器の圧力も下げることができて3号機は大きな危機を乗り越えたと思われました。
ところがそうではなかった!実はHPCIは手動停止のおよそ6時間前ぐらいには注水できなくなり、水位が下がっていった。これと共に炉内の温度もじわじわ上がり、水が水蒸気に変わりだして圧力も上がっていったのです。
こうして炉内の蒸気量が濃密になるばかりで、やがて水-ジルコニウム反応が始まり、どんどん加速。SR弁開放の1時間ぐらい前にはメルトダウンが始まってしまいました。その後に注水してももはや冷却できず、反応を進めることにしかなりませんでした。
結局、3号機の炉心は激しく溶け続け、午後9時58分に圧力容器から格納容器内へ漏れ出すメルトスルーに至ったと解析されています。そして下部のコンクリートと接して底部に広がるとともに、水素をさらに発生させ14日11時2分の水蒸気爆発へと至りました。
● 偶然にも冷却がなされていた
3号機はこのように危機を深めるばかりでした。メルトスルーを起こし、溶け落ちた高温の燃料デブリが格納容器にダメージを与えだしました。そのままでは破損させて膨大な放射能が漏れだすところでした。東日本壊滅のシナリオが動いていたのです。
しかしなんとこの時、現場の人々はこの危機に全く気づいていませんでした。結果的に、人々が気づかないままに破局は回避されたのですが、それは格納容器下部にあるサプレッションチャンバー=圧力抑制室の3000リットルの水のおかげでした。
サプレッションチャンバーは圧力容器のSR弁が開かれると放射性ガスが導かれる場です。この水の中にガスが噴き出され、冷やされて蒸気が水に戻るので体積が小さくなり「圧力が抑圧される」仕組みですが、なんとこの水が逆流して冷却材となったのです。
メルトダウンで格納容器上部=ドライウェルが高圧になったとき、ベントともに格納容器のつなぎ目などから水蒸気が漏れだし、圧力が下がりだしたのです。それでサプレッションチャンバーの方が高圧になり、そこにあった水が押し出されたとみられています。
これがドライウェルの下部にたまり、そこに高熱の燃料デブリが落ちてきた。この段階ではすでに水-ジルコニウム反応も終わっていたので、燃料はようやく冷やされ、格納容器破壊には至らなかったというわけです。
これはまだ仮説なのだそうですが、ともあれこの冷却はまったくの偶然の産物でした。そもそもサプレッションチャンバーには、こんな効果を期待して水が貯められていたのではありません。意図せぬところで働いた現象が「最悪の事態」を防いだのです。
したがってもし同じような事態になったとき、この偶然が再現される保障などあるわけもない。次にはこの国の半分が壊滅してしまうかもしれないのです。
しかもこうした事態に対応する手立てなど、まだまったく作れていません。そもそも事故のあり方がまだまだ解明の途中で、それへの対処方法など、打ち出せる段階ではないのです。
だからこそ、偶然によって破局を免れたこの段階で、もはや原発の運転など止めるべきなのです。危機一髪だった3号機の事態は、そのことをこそ私たちに告げています。
続く
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