守田です。(20151016 16:00)

アフガニスタンで10月3日におきた米軍による病院攻撃に関する続報です。

7日、国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長のジョアンヌ・リュー医師が、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で会見を行ない、MSF医療施設への爆撃に関して、国際事実調査委員会(IHFFC)による調査を呼びかけました。
ここで注目すべき点は、MSFがこの事件を「MSF医療施設への爆撃」と呼び、「誤爆」という言葉を使っていないことです。その点も含めて、第三者機関による調査を求めているのです。

MSFは次のように述べています。重要な点なので引用します。

「今回の出来事はMSFの医療施設への攻撃というだけでなく、ジュネーブ諸条約への攻撃でもあります。これは看過できません。ジュネーブ諸条約は戦争のルールを定めるもので、紛争に際し、民間人を保護するために制定されました。
傷病者と保健医療従事者、そして保健医療施設も保護の対象です。この諸条約によって、非人間的な状況に一定の人間性がもたらされるのです。」
「本日、MSFはクンドゥーズの攻撃について、IHFFCによる調査を求めることをお知らせします。同委員会はジュネーブ諸条約の追加議定書で制定され、国際人道法侵害の専門調査を目的に結成された唯一の常設組織です。
事実が突き止められ、紛争下の保健医療施設の保護が改めて明言されるよう、各調印国に、IHFFCの始動をお願い申し上げます。
「IHFFCは1991年から存在しますが、実働実績はありません。76の調印国の1つが調査を提案しなければならないのですが、各国政府は今まで、遠慮や怖さからその実例をつくることはありませんでした。今こそ、この調査が活用されるべき時です。」
「各国が「紳士協定」を隠れ蓑にし、それによって無法状態や責任逃れを生み出すことなどあってはなりません。
医療施設が爆撃され、医療従事者および患者が命を奪われても付随的被害としか見なされず、単なる過失で片付けられることなどあってはならないのです。」

以下、国境なき医師団の声明の載ったウェブサイトのアドレスを紹介します。

アフガニスタン:病院爆撃の原因調査に国際事実調査委の始動を呼びかけ
国境なき医師団 日本語ウェブサイト 2015年10月07日掲載
http://www.msf.or.jp/news/detail/pressrelease_2516.html

これに対して同じく7日にアメリカのオバマ大統領が病院攻撃を行ったことがアメリカ軍であることを認め、MSFへの謝罪を行いました。
朝日新聞が以下のように報じています。

オバマ大統領、国境なき医師団に謝罪 アフガン病院誤爆
朝日新聞 ワシントン=奥寺淳 2015年10月8日10時04分
http://www.asahi.com/articles/ASHB82JPCHB8UHBI00D.html

朝日新聞のこの見出しのつけ方、報道の仕方には問題があります。今回の事件を「アフガン病院誤爆」と断定してしまっているからです。しかしさきほども述べたようにMSFは一度も「誤爆」という表現を使っていません。
オバマ大統領の謝罪に対してもMSFはこのように声明しています。再び引用します。

「爆撃の当事国から謝罪と弔慰の表明がありましたが、それだけでは不十分です。外傷センターがそこにあったことは地域では広く知られていました。
敷地内には患者と医療スタッフしかいなかったにもかかわらず、15分間隔の爆撃が1時間以上も続いた理由は、依然として明らかではありません。私たちは真相を知る必要があります」
「戦争の”ルール”が変質してしまっているのではないでしょうか。クンドゥーズに限らず、世界各地の紛争地で活動しているスタッフの安全を守るためにも、この点を確認する必要があると考えています」

MSFは一貫して今回の攻撃が、対象が病院であることを知りつつ意図的に行ったものである可能性を捉えて、厳正なる調査を求めているのです。そして実際に「国際事実調査委員会(IHFFC)が始動したとの情報を得た」とも語っています。
IHFFCは現在、米国とアフガニスタンから調査への同意を待っているそうです。

アフガニスタン:国際事実調査委員会が始動――MSF外傷センター爆撃の調査へ
国境なき医師団 日本語ウェブサイト 2015年10月15日掲載
http://www.msf.or.jp/news/detail/headline_2526.html

さらにMSFの駐アフガン代表、ギルヘム・モリニー氏が11日夜に首都カブールで朝日新聞のインタビューに応じ、スタッフ12名と患者10名が死亡。他にもがれきの下に遺体があるとした上で、以下のように語りました。記事から抜粋します。

「空爆当時の状況をアフガン国防省は「タリバーンが患者らを『人間の盾』にして攻撃してきた」と発表。これに対し、モリニー氏は「負傷した戦闘員を治療することはあっても、武器は持ち込ませないというルールは厳格に守られていた。
病院周辺は戦闘開始以来、初めての静かな夜で、医師らは戦闘が激しい間は見合わせていた3件の手術にとりかかった。そこがいきなり空爆され、動けない患者がベッドで犠牲になった」と反論した。
さらに「2011年の病院開設以来、政府側と反政府側の双方から(病院に手を出さないという)同意を取り付け、反政府側の支配地域にも診療所を設けていた」と強調。
「国際人道法が定める病院の不可侵性は空爆の時まで尊重されていた。守られないなら、世界中の紛争地での人道活動は不可能になる」と述べた。」

以上の引用を含む記事のアドレスは以下のとおりです。

米軍誤爆の病院「手術中の患者が犠牲」 国境なき医師団
朝日新聞 カブール=武石英史郎 2015年10月14日10時41分
http://digital.asahi.com/articles/ASHBF02VWHBDUHBI01J.html?rm=403

ここでも注目すべき点があります。アフガン国防省が「タリバーンは患者らを『人間の盾』にして攻撃してきた」としている点です。
ようするにアフガン政府はこのタリバンに攻撃を行うために米軍に病院への爆撃を依頼したことを強く示唆しているのです。
そこには『人間の盾』にされた患者をタリバンと一緒に殺してもかまわないという恐ろしい発想が浮き出ています。
これに対してモーリ氏は「負傷した戦闘員を治療することはあっても、武器は持ち込ませないというルールは厳格に守られていた」と反論しているのです。

ここから見て取れるのは、アフガン政府はそこにタリバンがいる限り、医師や患者が巻き込まれようと攻撃するのは正当だと主張していることです。
米軍もこれと同じ価値観に立って、病院を攻撃したのです。
これに対してMSFは、戦闘で傷つき武器を手放したものは誰であろうと兵士ではなく患者として扱い、治療していたということであり、その際には武器は持ち込ませないというルールを厳格に守っていたということです。

私たちが見てとるべきことは、このアフガン政府と米軍の発想こそが軍人の正体なのだということです。
敵を倒すためならば、巻き込まれて犠牲が出ようがなんであろうが攻撃する。戦闘員と非戦闘員を分けず、戦闘員の周りにいる非戦闘員は巻き込んで殺してもいいと思っている。
だから病院であろうとも攻撃する。それが軍人と戦争の本質です。

ジュネーブ条約は、この戦争に「最低限これはしてはならない」というルールを持ち込んで、軍人と軍隊の暴力性を少しでも抑止しようとしたものです。
それが民間人を保護すべき義務であり、とくに傷病者と保健医療従事者、そして保健医療施設を保護すべき義務です。
ところが今回、アフガン政府と米軍はこれを破り、だからこそ病院に対する正確な攻撃を行った可能性が極めて高い。「誤爆」ではなく戦争犯罪なのです。
もちろん誤爆とて、あってはならない戦争犯罪です。誤爆の可能性がある限り、攻撃など止めるべきなのです。しかし今回は誤爆ではなく明確な病院攻撃です。この違いは重大です。

ではこれまでアメリカは、他に民間人と戦闘員を区別しなかったり、相手を倒すためならば平気で病院を蹂躙する攻撃を行ったことがあったでしょうか?
もちろんあります。その最たるものが広島・長崎への原爆投下です。東京・大阪・名古屋などをはじめとする全国の都市空襲です。そして沖縄上陸戦です。
このすべてでたくさんの民間人が殺されたばかりか病院が猛爆撃に合いました。患者も医療従事者も病院も、跡形もなく破壊されてしまった例もたくさんあります。そしてそれほどの非人道的無差別殺戮をしながらアメリカはまだ一度も謝罪していません。
アメリカに隷属し続けるこの国の政府も、一度もこの非人道的戦争犯罪を告発してきませんでした。

このことを踏まえて、私たちは国境なき医師団を支持し、紛争地での医療活動を守るためにも、今回の病院攻撃の戦争犯罪性を突き出し続けていこうではありませんか。
同時に、今こそ私たちは「戦争で紛争は解決できない。軍人は民間人を保護しない。非人道性に溢れた戦争は報復の連鎖しか作らない」ことを訴え、戦争による紛争の解決の国際的禁止を訴えていく必要があります。

今一度、「誰の子どもも殺させない」という原点にたちかえり、平和の道を力強く歩み続けましょう!