守田です。(20140815 23:30)
本日8月15日は川内原発再稼働申請をめぐるパブリックコメント募集の最終日です。
さきほどこれに合わせて原子力規制委員会に意見を提出しましたが、骨子として書いたのはそもそもの新基準そのものに安全思想が欠落しているため、いかなる原発の再稼働も論外だということです。
この見解は、後藤政志さんが繰り返し強調されている安全思想に関する提言に学んで、僕なりにまとめたものです。京都精華大学の細川弘明さんに教えていただいたことも反映しています。もちろん文責は僕個人にのみあります。
以下、パブリックコメントの全文を掲載します!ご参照ください!
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原子力規制委員会様
2014年8月15日
守田敏也
「九州電力株式会社川内原子力発電所1号炉及び2号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案」に対する意見をお送りさせていただきます。
まず初めにお伝えしたいのは、私はこの審査書案の前提をなす原子力規制委員会が発した新規制基準そのものに大きな誤りがあると考えているという点です。
川内原発がこの基準に合致しているか否かではなく、この新基準のよって立つ発想そのものに誤りがあるということです。
端的に言って新基準は原子力プラントを稼働を考慮する際に不可欠な安全思想を全く満たしていません。このことを強く自覚し、新基準を白紙に戻し、もう一度原発再稼働に関する基準そのものから作り直すことを強く求めます。
新基準の最も大きな特徴は「過酷事故対策」を盛り込んだことです。規制委員会はこの重要な点を「過酷事故」を「重大事故」と言い換えることであいまいにしていますが、現在は重大事故と言われている「過酷事故」とはもともと設計上の想定を超えた事故のこと。設計段階での考察を突破された状態です。
何よりも問題なのは、それでも対策を施せば安全性が確保できるという幻想のもとに新基準が作られていることで、技術論的に大きな誤りを含んでいます。そもそもすべての安全装置が突破された想定できない状態こそが過酷事故であり、その際、自動的にプラントが停止し安全が確保されることが保障されなければならないのです。
もう少し具体的に見ていきましょう。原発の設計上において安全性をもっともよく担保しているのは格納容器だと言われてきました。この容器はご存知のように通常は大した意味をなしていません。炉心が損傷する深刻な事故が起きたときに、放射能を閉じ込めるための装置として初めて積極的に働くものです。
安全思想の上から重要なのは、事故が起こるとすべてのバルブが閉まり、密閉されるように設計されていることです。このことで万が一の事態があっても、放射能を閉じ込められるということが原発の安全性を担保するとされてきたのです。
ところが福島原発事故ではこれが突破されてしまいました。水素が漏れて爆発が起こったり、格納容器の圧力が高まり、ベントなどをしたものの、数箇所で穴があいてしまいました。
となれば、本来、格納容器を作り直すことが必要です。壊れてはならないものが壊れたのですから、設計思想が崩壊したのであって、もう一度、一から設計をし直し、作り直さなくてはいけない。にもかかわらずこの本質問題を避けて、弥縫策で原発の再稼動を容認しようとしているのが新基準の発想でしかありません。
では規制委員会が新基準策定にあたって無視しているものとは何でしょうか。
まずは格納容器の抱えている構造的欠陥です。先にも述べたごとく格納容器は炉心の重大事故時に、自らを密閉して放射能を閉じ込めることを最大の任務とした装置です。
ところが炉心の加熱への対処のためには、水をどんどん投入しなければなりません。全てのバルブを閉めて密閉性を確保しながら、それとは反対にバルブを開けてどんどん外から水を入れなくてはならない。ここにもともと格納容器が、密閉性を実現できない構造的欠陥があります。
さらに問題なのは中で温度があがり、ガスが発生して圧力が上がると容器が崩壊の危機に立つことが設計後にわかったため、後づけで「ベント」が取り付けられてきたことです。放射能を閉じ込めるための容器が、自らを守るために放射能を抜く装置を持っている。致命的な欠陥です。
しかもベントは非常用のバルブを開けることで初めて成立する。しかしこのように非常時に何かをの作動させてはじめて危機が回避されるという点にも、安全思想上、大きな問題があります。その機器が壊れて動かなければ安全性が破綻してしまうことになるからです。実際、福島原発2号機のベントのバルブは固着してうまく開きませんでした。
もう一点、ベントで放出される放射能を漉しとるためにフィルターをつけるとされていますが、たくさんの放出物が出てくれば、フィルターが抜けてしまう可能性があります。これまた確実に放射能を漉しとることなど保障されない装置でしかないのです。
安全性の確保は、機会が壊れたときにどうなるようになっているかにかかっています。壊れたときに安全装置を起動させるようにしていると、その安全装置の故障というリスクをかかえることになるからです。ベントのバルブが固着して開かなかったことなど、最たる例です。
これの反対にはどのようなものがあるか。例えば鉄道の貨物列車などでは長く連結した車両のブレーキをエアでつないでいます。そしてブレーキペダルを踏むと、エアがかかってブレーキが効く・・・のではなく、反対にエアがかかっている状態ではブレーキが解除されており、ペダルを踏むとエアが切れてブレーキがかかるようになっているのです。
そうすると何らかの故障にみまわれてエアが止まってしまったときにも自然にブレーキがかかることになる。安全装置が故障すると列車が止まるように設計されているのです。壊れたときには安全に止まるように設計されているわけですが、これまでの原発にはこうした仕組みがありません。つまり安全設計になっていないのです。
この安全性を完全に担保されないまま「最後の砦」とされている格納容器における新基準のあやまりがもうひとつあります。加圧水型の格納容疑は沸騰水型より安全だとして非常時用のベントの設置を5年先まで猶予していることです。
ここには二つの誤りがあります。一つは安全性の考え方に確率をしのばせる発想が再び色濃く出ていることです。ベントはなぜつけるのか。ある確率で、格納容器が壊れうるということが認識されたからです。しかし規制委員会は「確率が低いから5年は猶予する」としています。
しかし福島原発事故で破綻したものこそこうした確率論的な考え方なのでした。どんなに小さいものでも、事故の確率があるものは、いつかは必ず起こるのです。だからベントをつけることが検討されているわけですが、その際、明日事故になる確率とて厳然として存在しているのです。
にもかかわらず、確率が非常に小さいからないことと同じだという考え方にこれまでの原子力政策は支配され、福島原発事故を未然に防げませんでした。その小さい確率のものが、すでに、スリーマイル島、チェルノブイリと続けて起こったいたにもかかわらずです。
そのため、福島原発事故の教訓としておさえるべきことは、どれほど小さく計算された確率であろうと、起こりうる事態、最悪の事態を想定し、そのリスクを負ってまで発電を行う必要があるかどうかを社会的に論議すべきだという点です。
むろんあらゆる技術で「絶対安全」という領域はありえません。だからこそ起こりうる事態は許容しうるものかどうかを社会的に決しなければならないのです。それから考えたとき、いまや「過酷事故」がどこかで起こる可能性は十分にあることを前提にすべては考察されるべきなのです。
にもかかわらず5年もの猶予を与えるのは、再び事故の確率が小さいことをもって、5年間は事故がおきないとみなしていることになります。この発想そのものが福島事故で完全に破産したことが踏まえられていません。
さらに加圧水型の方が安全なのかといえば、けしてそのようなことは言えない点も見落されています。何が無視されているのかと言えば、一つは加圧水型は沸騰水型に比べて、水素爆発の可能性が高い点です。
沸騰水型は、燃料が加熱して燃料ペレットを覆っているジルコニウムが溶けると水素が発生し、水素爆発の危険性が生じるため、内部を窒素で満たしてます。このことで水素と酸素が危険な比率となり、大爆発にいたってしまうことを避けています。
ところが加圧水型はこの窒素封入がされていません。このため同じように起こりうる水素の発生に脆弱です。もちろん水素の除去装置がありますが、水素を燃やしてしまう設計で、それ自身が危険です。この装置が故障して、水素がたまり、爆発の可能性が高い混合比になったときに装置が回復し、発火したらむしろ自爆装置になってしまうからです。
さらに加圧水型は、その名のごとく内部を加圧しています。炉内をまわる冷却水の沸点を上げ、水蒸気にならずに循環させているためですが、この圧力に耐えるために、原子炉圧力容器の鉄材が沸騰水型より厚く作られています。
その方が圧力には強いですが、一方で脆弱破壊には弱い構造を持っています。脆弱破壊とは、疲労した金属が急激に冷やされることなどにより、ガラスが砕けるように崩壊してしまうことですが、この脆弱破壊が、炉心の溶融のもとでのECSS=緊急炉心冷却系装置の発動により、冷たい水が一気に炉内に入ることを引き金に起こってしまう可能性が沸騰水型より高い。
この他、加圧水型圧力容器には上蓋に制御棒を入れる穴が全面にあるため欠陥が生じやすいという弱点もあります。最近、ヨーロッパ(ベルギー)で加圧水型圧力容器の上蓋に大量の亀裂が発見されています。
また加圧水型には、蒸気発生器という圧力容器より大きな大型の容器の中に、数千本の細い配管があり、これもよく詰まってしまっています。つまっても少しなら構わないということで、止栓をしていますが、プラントが古くなるにつれて多くの配管が機能しなくなっており危険が増しています。
このように水素爆発の可能性を見ても脆弱破壊の可能性を見ても、あるいは上蓋の亀裂や蒸気発生器の故障などを見ても、加圧水型には沸騰水型にはない危険性があるのです。にもかかわらず加圧水型の方が安全だとして5年の猶予を設けているわけですが、まったく間違った見解です。
以上、新基準のあやまりを幾つかにまとめます。
第一に過酷事故を前提としていることです。あくまでも過酷事故など起こすことのない原発を求めるべきで、それをこそ新基準とすべきです。結局それは技術的に不可能だと私自身は考えていますが、原子力規制委員会としては、少なくとも過酷事故が構造上ありえない原発の設計こそ事業者に求めるべきです。
第二に安全思想を大きく逸脱していることです。安全装置が故障のときに必然的にプラントの停止を招くように設計されておらず、何らかの装置が稼動しないと危機を脱しえない構造になっています。これでは安全性を担保する事故対策になってはいません。
第三に格納容器を放射能漏れを防ぐ最後の砦とし、機密性を守ることを至上命題としながら、内部が加熱すると外部から水を導入せざるをえず、もともと機密性が確保できない構造になっている点が越えられていないことです。
第四に内部の圧力が上がった場合に、放射能を閉じ込めるための格納容器を守るために、放射能を放出するベントというまったく矛盾した「安全装置」をかかえていることです。
第五にそのベントも自然に作動するのではなく、バルブの開閉を行わなければならず、この装置が故障して働かない可能性を持っていることです。またバルブを開閉するという人間の動作が加わらざるを得ないことにも危険性が伴います。
第六に放射能を外に出すために、フィルタをつけるとしていますが、出力が高ければフィルターが抜けてしまう可能性がありながら、その点がまったく考慮されていない点です。これでは放射能放出の低減すら保障されません。
第七に事故を確率論的に考え、「確率が非常に小さければ事故は起こりえないと考えて良い」としてきた発想を継承していることです。こうした考えの顕著な現れとして、加圧水型格納容器のベント設置に5年も猶予を与えてしまっています。
第八にその加圧水型格納容器が、窒素封入がしてある沸騰水型格納容器よりも、水素対策に危険性が高いことを無視しています。
第九に加圧水型圧力容器も、脆性破壊の危険性、上蓋には制御棒を入れる穴が全面にあるため欠陥が発生しやすいことも無視されています。
第十にさらに加圧水型原子炉には、蒸気発生器の故障という沸騰水型原子炉にはない欠陥もありますが、それも無視されています。
これらから新基準のもとでの運転は、たとえそこに書かれた条件をすべて満たしたとしてもあまりに危険なものです。過酷事故になった場合に、対処するとしている装置がそのとおりに動作する保障も何もありません。
そもそも想定を超えた事故ですから、あらかじめ設置した機器が抑止になるような形で事故が発展する可能性も薄く、何ら対処法のない事態が発生する可能性も十分にあります。だからこそ現行の基準のもとでの再稼動には、安全性がまったく確保されておらず、けして認められてはなりません。
さらに他にも重要な点があります。二つほどあげますが、一つにこうした再稼動の動きが福島原発事故の責任追及があいまいなままに行われようとしていることです。それは東電と政府への責任追求を後景化させるとともに、福島原発事故の被害そのものを小さく評価することにもつながります。
今も進行中の被曝がより過小評価され、健康被害の拡大に歯止めがかからなくなるとともに、福島原発の現状の危険性も過小評価され、危機管理が甘くなり、事故の破滅的な深刻化の可能性を作り出してしまいます。この点からも新基準はまったく過った発想に立脚していると言わざるを得ません。
また新基準は事故が起こった際の周辺自治体の避難計画の策定に関する評価を全く欠落させています。しかし過酷事故、あるいは重大事故を前提とするのであれば、避難対策は事故対策と両輪として進められるべきことで、安全対策のもう一つの大きな柱ですらあります。これにまったく言及しないのは、原子力規制委員会が周辺住民の命と財産に対する規制当局としての責任を放棄しているに等しいと言わざるを得えずまったく間違っています。
これらから原子力規制委員会は、原発再稼働への可否を審査する新基準そのものを今一度、安全思想に立ち戻って検討し直すべきです。
原子力規制委員会の判断に、この国の民のみならず、世界中の人々の生命・財産、そして未来への希望がかかっていること、いや、地球上の生命すべての未来がかかっていることを十二分に自覚し、誠実な判断をくだされることを求めます。
意見は以上です。
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