守田です。(201209113 22:30)

このところ、尾道、大阪、長野と連続する中で、僕なりに、内部被曝と食べ物の問題、差別の問題、戦争の問題をより深く掘り下げることができたように思います。それをそれぞれの現場の発言で表現しましたが、順次、その発言を起こしてここにも反映させていこうと思い立ちました。

今回は9月8日に日本カトリック部落差別人権委員会のお招きで、大阪梅田教会でのシンポジウムで発言した「内部被曝と被爆者差別」について取り上げます。僕に先立って、福島から京都に避難されてきている西山祐子さん(避難者と支援者を結ぶ京都ネットワークみんなの手)が、「いのちを守るために~福島から京都に自主避難して」というタイトルでお話くださり、それを前提に話すことができました。

そのことを紹介して、発言の前半部を掲載します。読みやすいように小見出しをつけます。

内部被曝と被爆者差別

みなさん。こんにちは。守田敏也です。今日はカトリック教会にお呼びいただきありがとうございます。

1、避難権利区域、強制避難区域に該当する福島や東北・関東の現実

僕は内部被曝の危険性についてあちこちでお話しているのですけれども、一定のまとまった時間を頂いてお話するときは、必ず前半で福島のこと、東北のことをお話するのですね。写真などもお見せして、実際の被爆状況の話をします。なぜかというと、その現実があるというところからこの問題は始めなければいけないと考えているからですが、今日はその点をすでに西山さんが話してくださったので、それを前提に話を進めたいと思います。

ただ一点だけ付け加えることがあるとすると、チェルノブイリでは今、避難のあり方はどうなっているのかというと、年間での線量が1ミリシーベルトを超えると、避難準備区域に該当することになります。この区域はその方が避難をしたいと言って手をあげたら、政府が全面的に責任をもって避難をさせなければいけないと決められている地域です。

さらに年間5ミリシーベルトを超えると強制避難区域になります。では西山さんのお家のあるところはどうなのでしょう。1時間あたり1マイクロシーベルトを超えているそうですから、年間では8から9ミリシーベルトになってしまうので、強制避難区域にあたります。その周りの多くの地域が避難権利区域になります。その強制避難区域に値する西山さんの地域が、「線量が低いから除染は待ってね」と言われているのです。そういう状況ですよ。

それでは除染活動自身はどうなのか。飯舘村でかなり大規模な除染が行われました。多くのところでほとんど線量が下がっていません。やっても無駄なところが多いのですね。無駄なお金を使って、それが全部、ゼネコンに入っているだけです。なおかつ、作業者がものすごく被曝してしまいます。本当に危ないのですよ。除染活動とは何かと言うと、放射能があるところに行って、除去する活動ですよね。そこにそれがあったら人が住めない状況のところで行うわけではないですか。だから本来これは、専門業者でしかできない仕事なのです。

ところがそんな専門業者はどこにいるのか。いないのです。こんな事故は起こったことがなかったのですね。そして実際の状況は、原発の中の危険な労働が、外に出てきているのと同じなのです。しかもそれを一般の方、何らまともな防護もしてない方が行ってしまっています。だから僕は、除染活動における被曝は大変なことになっていると思います。すでに除染活動中に、作業員の方が亡くなっています。だけれどもこれは、放射能の被害とはカウントされていません。どう亡くなったのかというと、作業中の休憩時に車の中で休んでいる時に、心不全で亡くなられました。

このように心臓の病で亡くなられている方が多いです。この点でも、放射線の被害は何かガンにしかならないようなことが言われてきたのですが、ベラルーシのゴメリ大学のバンダジェフスキーさんとお医者さんが、チェルノブイリ事故の犠牲者のたくさんの遺体解剖を行いました。そして驚いたことに、心臓にセシウムがたくさん入っていたのです。それが心筋に影響して、心筋梗塞や心不全を引き起こしていました。このためバンダジェフスキーさんは死亡要因はガンよりも心臓疾患の方が多いのではないかとおっしゃっています。遺体解剖を200例以上、なさっているので、かなり有力なデータだと思います。

実際にどうなのかというと、私が東北に行っても、心不全などによる突然死の話を非常によく耳にします。もちろんこれは有意なデータになっているのではありません。政府がデータにさせないようにもしていると思います。だからデータとしての科学的な裏付けがあるとは言えないのですけれども、話を聞いているときの「リアル感」というものがあるのです。

例えばこういうことがありました。岩手県でのことですが、あるお寺さんで私が話をさせていただくことになり、前日に和尚さんと打ち合わせも兼ねた話をしました。和尚さんが、「放射能の害でやはりガンなどになるのですか」とおっしゃるので、今、ここで行った話をしました。「心不全などによる突然死も多いのですよ」と語ったのですが、そうしたら和尚さんが、「なるほど、それでこの頃、突然死の葬式ばかりが出るのですね」とおっしゃいました。

その話を近くの仮設住宅に行って話したら、高齢のおばあさんが来てくださっていたのですけれども、この話をしたら、おばあさんが途中で手を挙げて、「うちのとうちゃんです。3ヶ月前に前日まで元気に仮設住宅の周りを歩いていたのに、朝、死んでいました。自分は放射能を疑っているのだけれども、お役人は全然そうは思ってくれません。それで今日は話を聴きに来ました」とおっしゃられました。

この一つ一つが実際にどうなのかは、わからないのですが、おそらく僕は、津波を受けたストレスや、避難のストレスなども、間違いなくあったのだと思います。その上に、放射能の被害が重なってきたのだと思います。人間が亡くなるとき、その要因は一つではありません。ガンにしても、それをもたらす要素はたくさんあります。放射線だけではなくて、化学物質や生活の不摂生、さまざまな精神的ストレスなど、それらが全部重なってなりますから、そのようにもともと身体が悪かったり、ダメージを受けているところに、放射線を浴びて、寿命が短くなってしまう事態が頻発しているのではないかと思えます。

本当に大変なことです。そういう事態の中にあるのは福島だけではありません。東北・関東のかなりのところが、さきほど言った避難権利区域に該当します。あるいは強制避難区域に該当するところもあります。そういうところの方々を助け出さないといけない。そうでないと、大変なことになります。というか、大変なことが進行中だと思います。

チェルノブイリ事故の死者数をめぐる「世紀の大嘘」

ここから放射線と人間の関係について、お話をしたいと思うのですが、その前にみなさん、ちょっと考えてみていただきたいと思います。チェルノブイリ原発事故で犠牲になられた方の数は何人だと思いますか。あるいは何人と聞いたことがありますか?これが実は、数が、まったく違って語られているのです。どういうことなのかというと、2005年にIAEA(国際原子力機関)という組織が、それまでに研究してきた成果として、2004年までに亡くなったのが約60人、今後、亡くなるのが3940人、従って最終的な死者は4000人という数を出しました。

これに対してすぐに共同研究者だったベラルーシ共和国政府が即刻、抗議の脱退を行いました。「そんなはずはない。そんなに少ないはずがない。ふざけている」と。それに対して、IAEAと非常に親しい組織にWHO(世界保健機構)があります。ここがいわば仲裁に乗り出してきて、訂正を行いました。そこでは今後亡くなる数は9000人とされたのですね。ところがこれでいよいよおかしいという批判が高まりました。半年前に4000人と言われたものが、なんですぐに9000人になるのか。

こうした批判の高まりの中で、科学者50人ぐらいを集めて、並行的に調査を進めてきたグリーンピースが2006年に出した数は、ロシア以外の国々も含めて14万人でした。14万人がチェルノブイリ原発事故の死者数だというのです。

ところがこれをも覆すものが出てきました。2009年に、アメリカのニューヨーク科学アカデミーという、アメリカの中でも科学的な権威の高いところからでた論文なのですが、誰が書いたのかというと、もともと旧ソ連邦時代に、ゴルバチョフ大統領やエリツェン氏などのもとで調査をされた方たちで、ソ連邦が亡くなったあと、アメリカにわたって研究を継続されて出されたものでした。そこで出された数は、今後の推計ではなくて、2004年までに亡くなった数で98万5千人です。

なぜグリーンピースが打ち出した数とこれほどの違いが出たのか。僕はグリーンピースに集った科学者たちは、信頼のおける方たちだと思うのですが、一番の違いは、読んだ文献の言語の違いです。つまりこの旧ソ連の研究者たちが読んだのは、ロシア語の他、ウクライナ語、ベラルーシ語の文献でした。この言葉を話す方たちが一番被害者になったし、あるいはその被害者をそばで診たお医者さんや看護師さん、あるいは家族など、そういう方の証言が西側の方たちはあまり読めなかったのですね。西側の言語圏の文献しか集められなかった。

だからグリーンピースの方たちは、少し遠いところから被害の実態を探って、14万人まで突き止めたと言えると思うのですけれども、それに対して、アメリカから出た文献での犠牲者は98万5千人でした。2004年なので、現在は2012年ですから100万人は軽く突破していると思われます。現在までに亡くなった犠牲者の数です。

ところがですね。これが日本の首相官邸のホームページにはなんて書かれているのか。HPの中に「チェルノブイリ事故と福島との比較」という文書が出てきます。ここに書いてある死者数は約60人です。アメリカで出ている文献では98万5千人ですよ。この60人という数はなんなのかというと、IAEAが最初に出した数です。だから60人という言い方をするのも騙しなのです。IAEAが言ったのは、今、死んでいるのは60人だけれども、あと3940人死ぬということでした。それに対して轟轟の避難が起こって、訂正が行われていったわけですが、日本政府は、この3940人を言わずに60人だけを出しているのです。

これが未だに首相官邸のホームページに載っています。世界の中でも突出した大嘘ですね。本当に。アメリカのカール・グロスマンという方が、IAEAが4000人と言ったことを、「世紀の大嘘の一つ」と言いました。日本政府はこの世紀の大嘘の上を行っているのですね。そんなことを日本政府が行っているのだということを、ぜひみなさん、しっかりとおさえて、とにかくこの政府に騙されないようにしましょう。まずはそのことを訴えたいと思います。

続く