守田です。(20130810 11:00)

繰り返しこの課題について触れていますが、昨日8月9日は、長崎に原爆が投下されてから68年目の日でした。
この日、田上富久長崎市長が、長崎平和宣言を発しましたが、素晴らしい内容でした。ぜひみなさんにご一読願いたいと思います。

また長崎市が、この平和宣言の賛同者数を調査していますので、長崎平和宣言に賛同される方は、下記からサイトに入って賛同の「クリック」ボタンをクリックしてください。
下段に英文サイトもしめしておきます。ぜひ英語圏のご友人にも一読をお勧めください。
http://www.city.nagasaki.lg.jp/peace/japanese/appeal/
http://www.city.nagasaki.lg.jp/peace/english/appeal/index.html

以下、宣言をご紹介します。IWJが撮影してくれた動画も張り付けておきます。

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平成25年長崎平和宣言

68年前の今日、このまちの上空にアメリカの爆撃機が一発の原子爆弾を投下しました。熱線、爆風、放射線の威力は凄まじく、直後から起こった火災は一昼夜続きました。人々が暮らしていたまちは一瞬で廃墟となり、24万人の市民のうち15万人が傷つき、そのうち7万4千人の方々が命を奪われました。生き残った被爆者は、68年たった今もなお、放射線による白血病やがん発病への不安、そして深い心の傷を抱え続けています。
このむごい兵器をつくったのは人間です。広島と長崎で、二度までも使ったのも人間です。核実験を繰り返し地球を汚染し続けているのも人間です。人間はこれまで数々の過ちを犯してきました。だからこそ忘れてはならない過去の誓いを、立ち返るべき原点を、折にふれ確かめなければなりません。

日本政府に、被爆国としての原点に返ることを求めます。
今年4月、ジュネーブで開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会で提出された核兵器の非人道性を訴える共同声明に、80か国が賛同しました。南アフリカなどの提案国は、わが国にも賛同の署名を求めました。
しかし、日本政府は署名せず、世界の期待を裏切りました。人類はいかなる状況においても核兵器を使うべきではない、という文言が受け入れられないとすれば、核兵器の使用を状況によっては認めるという姿勢を日本政府は示したことになります。これは二度と、世界の誰にも被爆の経験をさせないという、被爆国としての原点に反します。
インドとの原子力協定交渉の再開についても同じです。
NPTに加盟せず核保有したインドへの原子力協力は、核兵器保有国をこれ以上増やさないためのルールを定めたNPTを形骸化することになります。NPTを脱退して核保有をめざす北朝鮮などの動きを正当化する口実を与え、朝鮮半島の非核化の妨げにもなります。
日本政府には、被爆国としての原点に返ることを求めます。
非核三原則の法制化への取り組み、北東アジア非核兵器地帯検討の呼びかけなど、被爆国としてのリーダーシップを具体的な行動に移すことを求めます。

核兵器保有国には、NPTの中で核軍縮への誠実な努力義務が課されています。これは世界に対する約束です。
2009年4月、アメリカのオバマ大統領はプラハで「核兵器のない世界」を目指す決意を示しました。今年6月にはベルリンで、「核兵器が存在する限り、私たちは真に安全ではない」と述べ、さらなる核軍縮に取り組むことを明らかにしました。被爆地はオバマ大統領の姿勢を支持します。
しかし、世界には今も1万7千発以上の核弾頭が存在し、その90%以上がアメリカとロシアのものです。オバマ大統領、プーチン大統領、もっと早く、もっと大胆に核弾頭の削減に取り組んでください。「核兵器のない世界」を遠い夢とするのではなく、人間が早急に解決すべき課題として、核兵器の廃絶に取り組み、世界との約束を果たすべきです。

核兵器のない世界の実現を、国のリーダーだけにまかせるのではなく、市民社会を構成する私たち一人ひとりにもできることがあります。
「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」という日本国憲法前文には、平和を希求するという日本国民の固い決意がこめられています。かつて戦争が多くの人の命を奪い、心と体を深く傷つけた事実を、戦争がもたらした数々のむごい光景を、決して忘れない、決して繰り返さない、という平和希求の原点を忘れないためには、戦争体験、被爆体験を語り継ぐことが不可欠です。
若い世代の皆さん、被爆者の声を聞いたことがありますか。「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒバクシャ」と叫ぶ声を。
あなた方は被爆者の声を直接聞くことができる最後の世代です。68年前、原子雲の下で何があったのか。なぜ被爆者は未来のために身を削りながら核兵器廃絶を訴え続けるのか。被爆者の声に耳を傾けてみてください。そして、あなたが住む世界、あなたの子どもたちが生きる未来に核兵器が存在していいのか。考えてみてください。互いに話し合ってみてください。あなたたちこそが未来なのです。
地域の市民としてできることもあります。わが国では自治体の90%近くが非核宣言をしています。非核宣言は、核兵器の犠牲者になることを拒み、平和を求める市民の決意を示すものです。宣言をした自治体でつくる日本非核宣言自治体協議会は今月、設立30周年を迎えました。皆さんが宣言を行動に移そうとするときは、協議会も、被爆地も、仲間として力をお貸しします。
長崎では、今年11月、「第5回核兵器廃絶-地球市民集会ナガサキ」を開催します。市民の力で、核兵器廃絶を被爆地から世界へ発信します。

東京電力福島第一原子力発電所の事故は、未だ収束せず、放射能の被害は拡大しています。多くの方々が平穏な日々を突然奪われたうえ、将来の見通しが立たない暮らしを強いられています。長崎は、福島の一日も早い復興を願い、応援していきます。
先月、核兵器廃絶を訴え、被爆者援護の充実に力を尽くしてきた山口仙二さんが亡くなられました。被爆者はいよいよ少なくなり、平均年齢は78歳を超えました。高齢化する被爆者の援護の充実をあらためて求めます。
原子爆弾により亡くなられた方々に心から哀悼の意を捧げ、広島市と協力して核兵器のない世界の実現に努力し続けることをここに宣言します。

2013年(平成25年)8月9日
長崎市長 田上 富久

動画(by IWJ)
http://www.youtube.com/watch?v=kCWu1jkPhiY&feature=youtu.be

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この平和宣言、全体が格調高く書かれていて感動的ですが、僕はとくに田上市長が、今年4月、80か国が賛同した「核不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会で提出された核兵器の非人道性を訴える共同声明」への署名を日本政府が拒否したことへの正面からの批判を掲げたことに共感しました。
長崎市が求めている賛同署名は、核兵器の非人道性を認めない日本政府に対する抗議への参道の求めでもあると思います。そこでこの共同声明についてもご紹介しておきます。

核兵器の人道的影響に関する共同声明
http://npt2013.files.wordpress.com/2013/04/joint-statement_jp.pdf

核不拡散条約(NPT)をいかにとらえるのかについてもコメントしておきたいと思います。この条約は核兵器廃絶を目的に1963年に国連で採択され、62か国の調印のもと、1970年3月に発効したものですが、アメリカ、旧ソ連、イギリス、フランス、中国を核保有5大国として認め、それ以外への核の拡散を禁止したものです。
5大国にも核軍縮の義務が課せられていますが、核保有国にとってはこの条約を通じて、それ以外の国への核をめぐる軍事的優位性を確保してきた面もあり、差別性がある条約であることを指摘せざるを得ません。
またこの条約は、「核軍縮」、「核不拡散」、「原子力の平和利用」を三本の柱としており、国際原子力機関(IAEA)に大きな位置を与えることなどで、原発を推進していく位置性も持っています。批判すべき点も多い条約です。

しかしそれでも注目すべきことは、2010年5月現在で、世界の190か国がこの条約に参加していることです。拒否しているのは、核開発競争を行っているインド、パキスタンと、密かな核開発が指摘され続けているイスラエルのみです。
さらに参加した5大国をのぞく多くの国が、まがりなりにも核兵器廃絶を掲げたこの条約の枠組みを利用しながら、実際に世界を核の脅威から解き放つための可能性を広げようと努力を重ねてきており、それが繰り返されてきたのが「再検討会議」の場です。
なぜ「再検討」なのかと言えば、この条約は25年の時限付きで発効しました。そのため1995年に「再検討・延長会議」が行われ、無条件、無期限延長が決定されたのでした。そのもとで5年ごとに「再検討会議」が行われてきており、現在は2015年開催の会議の準備が行われています。

このもとで2012年5月2日に「核軍縮の人道的側面に関する16か国共同声明」が出されました。署名国はオーストリア、チリ、コスタリカ、デンマーク、バチカン、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、スイスですが画期的な内容が盛り込まれました。
何が画期的なのかと言うと、「すべての国家は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界を実現するための努力を強めなければなりません」と、核兵器を非合法化せよとの一文を盛り込んだことです。当該箇所を以下にご紹介します。

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議長、人道上の深刻な懸念に加え、核兵器の使用は、重要な法的な問題をも提起します。核兵器は、その破壊的な能力のために、また、その制御不能な時間的、空間的な影響のために、独特のものです。国際人道法のすべての規則は、核兵器に対して完全に適用が可能です。
とりわけ、それらの規則には、目標区別、均衡性および予防措置、ならびに過度の障害または無用の苦痛の禁止、また、広範な、長期の、重大な環境への損害の禁止が含まれます。
最近、国際赤十字および赤新月社運動代表者会議は、あらゆる核兵器の使用に起因する計り知れない人間の苦痛を強調するだけでなく、いかなる核兵器の使用であっても、国際人道法の規則といかに両立しうるかを思い描くことは困難であることを強調する決議を採択しました。

議長、もっとも重要なことは、このような兵器が、いかなる状況の下においても二度と使用されないことです。これを保証する唯一の方法は、NPT第 6 条の完全な履行を通じたものを含め、効果的な国際管理の下での、全面的、不可逆かつ検証可能な核兵器の廃絶であります。
すべての国家は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界を実現するための努力を強めなければなりません。市民社会は、核兵器の著しい人道的結果および国際人道法の関与の必要性についての意識を高めるうえで、重要な役割を果たします。

全文は以下より

2015 年核不拡散条約再検討会議第一回準備委員会
核軍縮の人道的側面に関する共同声明
http://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/datebase/document/no1/20120502-3/

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この宣言は同年10月22日には34か国とオブザーバー国であるバチカンに拡大しました。以下、署名国を記しておきます。
アルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、バングラデシュ、ベラルーシ、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、デンマーク、エクアドル、エジプト、アイスランド、インドネシア、アイルランド、カザフスタン、リヒテンシュタイン、マレーシア、マルタ、
マーシャル諸島、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、ペルー、フィリピン、サモア、シェラレオネ、南アフリカ、スワジランド、タイ、ウルグアイ、ザンビア、そしてスイスの34か国ならびにオブザーバー国であるバチカン。

今回、4月に打ち出された80か国による共同声明は、こうした2012年に重ねらてきた合意に基づくものでありながら、被爆国日本をぜひとも参加させたいとの思いから、画期的であった「核兵器の非合法化を求める」という内容を削除したものでした。
内容的には一歩後退ですが、世界の多くの国々は、原爆を投下された日本こそが核兵器の非人道性を告発するこの共同声明に参加することが重要だと考え、アメリカにこびへつらう日本政府の立場を考慮して、「非合法化」を落としての日本の参加の道を開いてくれたのでした。
ただ一方的に内容を後退させたわけではありません。この声明は冒頭で、核兵器の非人道性への批判がNPTの存在理由そのものでありながら、長い間、黙殺されてきたことを告発し、核兵器の非人道性と対決していくことがNPTの課題であると高らかに宣言するものにもなっているのです。

ところがそうまでして、核兵器の非人道性を訴えようとする世界の流れを日本政府は完全に裏切ってしまったのです。何ということでしょうか。日本政府が述べた理由は日本の安全保障上の利害に反するからとのこと、とくに次の文言が合意できないのだそうです。
「核兵器が二度とふたたび、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっています」・・・。日本政府は「いかなる状況下においても」という文言は、日本の安全保障上の利害に合致しないという。状況次第では核兵器の使用は善だという立場に私たちの国の政府は立ち、非人道性の告発の前に立ち塞がったのです。
こんなことでどうして原爆で犠牲になった被爆者を追悼することができるでしょうか。田上市長の宣言は、列席していた安倍首長に対する渾身の批判でした。

そればかりではありません。田上市長が正しくも指摘したように、日本政府の行っているインドへの原発輸出=核技術の提供は、NPTに世界で3国だけ背を向けている国の一つのインドに味方することであり、結果的にはインドとパキスタンの核開発競争に拍車をかけるものにほかなりません。
NPTが形骸化すれば、NPTからの脱退の寸前でとどまっている北朝鮮の核開発にも口実を与えてしまいます。しかもインドと対立しているパキスタンにミサイル技術を提供しているのも北朝鮮です。インドが核技術を向上させれば、当然にもミサイル技術提供者の北朝鮮のパキスタンにとっての位置は増すでしょう。アジアの核をめぐる緊張は高まるばかりです。
安倍首相は式典において、核廃絶の努力を口にしましたが、この方は本当に平気で嘘を繰り返す方です。どうしてそんな嘘が平気でつけるのでしょうか。あまりにもひどいです。

みなさま。ぜひ長崎平和宣言への賛同をお願いします。同時にできるだけたくさんの方に、この宣言のことをお伝えください。賛同をお願いしてください。
日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、ロシア語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語、オランダ語、以上、10の言語で出されているので、それぞれの言語を使われる地域の方へもお伝えください。
核兵器の非人道性の告発に背を向ける日本政府に市民的な圧力をかけていきましょう。よろしくお願いします。