守田です。(20130701 23:00)

原発の再稼働に関して原子力規制委員会が設定した新規制基準が7月8日から施行されます。活断層の問題などで、従来のあまりにずさんだったものよりは幾分厳しくなったものとは言えますが、それでも福島原発事故でも明らかになった原発の危険性の多くを無視したものになっています。
最も重要な問題は、新基準が「過酷事故」を前提にしたものになっている点です。過酷事故とは、単にシビアな事故というあいまいな概念ではありません。「設計上の想定を超えた事故」が過酷事故なのです。つまり設計上施された安全装置がすべて突破されてしまった状態です。
従ってその場合の対策とは設計上にないものです。ではどうしてそんなものがあらかじめ「想定」できるのか。実はできないのです!ただ過去にあった事例から、同じことが起こった時への対処を考えただけです。しかし設計上の想定・・・安全装置が突破されてしまったのだから何が起こるかわからない。

このため新基準がよってたっているのは、原発は福島のような事故を再度、起こすことがありうること、そのときのためにプラント自体には安全装置を組み込めないけれども、これまであった経験から考えられる対策を施すという考え方でしかないことははっきりしているのです。
今、必要なのはこのような発想の上に立った原発の運転を、国民・住民が認めるのか否かの論議をきちんと行うことです。もちろん、きちんと論点が開示されて、まともな論議が行われれば、当然にも人々の答えは圧倒的な否に帰着する以外にないと思います。

にもかかわらず、またしても大手マスコミは、この重要な問題を見抜けず、新基準のよって立つ発想を捉えることができないままに、これを肯定してしまっています。本当に嘆かわしい。
例えば毎日新聞は6月20日に「原発新規制基準 厳正な審査を徹底せよ」という社説を掲げ、次のように主張しています。(一部抜粋です)

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新基準は従来の安全規制を抜本的に見直すものだ。規制委は新基準の施行に先立ち、運転中の関西電力大飯原発3、4号機の適合状況を事前確認中だが、新設原発の過去の安全審査は複数年かかっていた。既存原発の審査といえど、過酷事故対策など従来になかった項目も多い。審査にあたっては、効率よりも安全性の確保を優先してもらいたい。
地元の同意や地域防災計画が策定されていることが再稼働の前提条件となるのは、言うまでもない。
新基準の施行は、原発を安全性というふるいにかけて、適合できない場合は退場してもらう時代の幕開けを告げるものでもある。廃炉がスムーズに進む枠組み作りに本腰を入れて取り組むことこそが、安倍政権には求められている。

社説:原発新規制基準 厳正な審査を徹底せよ
毎日新聞 2013年06月20日 02時30分
http://mainichi.jp/opinion/news/20130620k0000m070123000c.html

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適合できない場合は退場してもある時代の幕開け・・・これほど新基準への肯定的な賛辞はないのではと思えますが、この社説のどこを探しても、新基準のよって立つ思想的前提=パラダイムの検討そのものがありません。
どうしてこうした肝心な問題を掘り下げることができないのかとため息がでるばかりなのですが、しかし少し立ち止まって、僕自身がどうしてこうした点を判できるようになったのかを振り返ってみると、ある方が繰り返し行っていた提言を何度もノートテークしながら学んだためでした。
その方は元東芝の格納容器設計者の後藤政志さんです。後藤さんは、事故直後から、原発の状態の移り変わりを、非常に的確に推測し、私たちに教え続けてくださったのですが、その際、設計思想や安全思想についても繰り返し話してくださいました。
現在の事故対策が、そうした安全思想から逸脱したものであること、また原発自身がこうした問題を構造的に抱えていることを、わかりやすく解説し続けてくださったのです。

そこで新基準の施行を前に、もう一度、後藤政志の提言に学ぶ必要があると考えて、ネットを検索したところ、本年(2013年)3月30日に福井市で行った講演の録画があることがわかりさっそく拝聴して感銘を受けました。
同時にこの内容を多くの方にきちんと知っていただきたい、また単なる事実関係の知識としてではなく、可能な限り後藤さんが語る設計思想そのものを捉え、今後のさまざまな問題に応用可能になっていただきたいと考えてノートテークを始めました。
みなさんとシェアしていきたいと思います。なお必ずしも話した通りには記述していない粗い記録ですので、文責は守田にあることをご承知ください。

長いので数回に分けますが、後藤さんの発言を紹介した後に、僕なりのまとめを行いたいと思っています。なお、この講演の冒頭で、後藤さんが僕が配信した記事に触れてくださっていました。・・・光栄です!

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原子力発電所の真実を語る・・・1
後藤政志 2013年3月30日 
福井から原発を止める裁判の会主催講演会より

原発とは何なのかという基本的な点をお話したいと思います。

福島の現状で、原発関連死というものが東京新聞で出されました。789名が原発事故のせいに関連して亡くなっているというものです。
今朝、私によく配信してれる京都の守田さんがこのことをネットで書いていましたが、実際にはまだカウントされていない地域もあって、もっと亡くなっていて、1000人を越えていると考えられる。このことはもの凄く重たい事実です。

私の講演会でも、福島事故の大変さを言いますが、原発を推進している人たちは、「福島では誰も死んでないじゃないか」と言います。NHKの討論のときもそうでした、その言い方が自身が非常に腹が立ちましたが、そのときはこういう表現は気づきませんでした。
しかもこれは今分かった数値です。まだ続くのです。放射線管理区域に人が住んでいる状態です。今後、がんが発生したりする可能性を秘めています。これを考えると甚大な被害があります。
私よりももっと踏み込んで、今後、被害が拡大することを重視して発言している人がいます。私は医者でないし、放射線の専門家ではないのでそれ以上は言えないですが、少なくもと放射性物質の広がりは間違いないことです。

今、本当に果てしなく、第一原発に汚染水が溜まっています。建物の近くに数千トンから2万トン近く、4基分で78000トンぐらいたまっています。
しかも格納容器が抜けてしまっています。炉心が溶けているので、そこを冷やして、それをまた汲み上げて循環させていますが、壊れているので、出てしまっています。
1日400トンの地下水が流入しています。私が恐れているのは、地下水が入ってくるということは、汚染した水が外に出ていかないという話はないということです。トータルでいって400トンということで、地下水に出ているのではないか。正直、出ていると思うのです。
しばらく経ってから高濃度の汚染が海から出てくるなどの可能性がある。汚染水を外に出してるのではという心配がつきません。

またタンクが満タンになっています。足りなくて仮設のタンクを増やしていますが、1年以内に足りなくなります。どこに作るのでしょうか。なぜそんなことになるのか。原発を冷却をずっと必要としている。止まっていて、壊れている。だけども、核燃料はずっと冷却しなくてはならない。
運転しているときが100%、一ヶ月ぐらいで1%になりますが、それ以降もやはり熱を持っている。だから冷却を続けなくてはならない。

最近、そのクーリングシステムが止まりました。マスコミからコメントを求められましたが、事故から2年経って、電源が落ちた。ネズミらしきものが接触してショートして止まった。
しかし冷却を必要としているわけです。それが止まったら、なんと29時間も止まりましたが、原子力規制委員会は、時間的余裕があるから問題がないといいました。
私はそういう考え方はまったくナンセンスです。復旧するのに29時間かかりました。そのときに原因は明確になっていなかった。そうすると電源が立ち上がったあとに、原因が不明なので、同じことが起きる可能性があります。そうしたらすぐに倍の時間がかかってしまいます。

こんなことはあってはならないのです。福島で電源がなくなって、プラントがああした状態になって、多くの人が帰れない状態が作られました。その原因の入口は電源喪失でした。そうした事故があったのに、小さなネズミによって電源が止められて、しかも30時間も対応できない。
私は技術屋なので壊れることがあることは責める気にはなりません。そういうことはありえるでしょう。問題はそういうときの対策がなかったことです。電源がとまって1、2時間で復旧できなくてはダメに決まっているではありませんか。こんなものは。
それが60時間の余裕があるという・・・ふざけるなというのです。人の命を預かっている人たちのやることではないのです。明らかにおかしい。

汚染水の問題も、電源の問題も、背景に仮設であることに問題があります。きちんと設計して作られたものは信頼性が高く、すぐには壊れません。しかし緊急に対応して何かやったものは、一時は動きはしますが、すぐに壊れたりします。
具体例を言います。仮設の配管がありますね。夏場にホースの下から草が生えて、ホースを破ったことがあったのです。仮設は、草が突き抜けるようなことがあるわけです。冬場は凍ってしまって流れなくなった。
この点に関して、冬場は危ないのではないかと聞かれたことがあります。私はまさか対策がないことはないだろうと答えました。確かに対策はありました。タンクを温めていたのです。

ところがストレステストの意見聴取会というのがありまして、私は委員をしていたのですが、そのときに泊原発の話があって、冬場の対策は万全だというので、今の話を質問したのです。すると「ちゃんとタンクを温めています」といいます。
ホースは何百メートルもあります。「ホースは凍ってしまいません?」と聞いたら、「ホースの中を流れていますからね」というのです。私はこれはダメだと思いました。
技術の世界ではそのものが働いているうちはいいのです。働かなくなったときが事故なのです。だから安全な考え方とは、本来、機能しているものが機能しなくなったときにどうするかを考えることなのです。その対策をやっているのかと私は聞いているのです。

だから私が言ったのは、ドラブルがあって電源が落ちて止まったりするでしょう?そのときに凍ってしまうということなのですが、そのことに気づいていないのです。意図的に気づいてないのかはわかりませんが、なんでそういう考え方をするのかと思いました。
流れているから大丈夫ですといえば、停まったらどうするんですかと当然なるのです。そうすると「えっ、そんなことを考えるんですか」という顔をする。それが最も問題なのです。

話を戻します。原発の中には大変な汚染水が溜まっています。タンクをどんどん作っていますが、これも仮設ですので、どんどん劣化してしまう。だから先々これも作り返さなくてはならなくなる。東電はそうせざるをえないのでしょう。それほど厳しいものなのです。
夏場は草が突き抜け、冬は凍ってしまう。こうしたことが次々起こっているのが現状です。
一方で高濃度の汚染が各地で広がっています。事故から数年経って、汚染度が高くなっていきます。溜まったところが高濃度になっています。

福島の事故はなんであったのか。事故原因、事故の進展のプロセスがよくわかっていません。原子炉の冷却になぜ失敗したのか。電源が落ちて冷却ができなくなった過程の中に何があったのか。
東電が主張しているのは、電源がなくなって、津波が来て冷却ができなくなった。全部が間違ってはいないでしょう。しかし津波が来る前に非常用のディーゼルが立ち上がらなかったのではとかいろいろな点がある。国会事故調はここを追及しています。
ここはお互いに証拠がないのです。中に入って調べられないからです。それで国会事故調の田中さんを中心にメンバーが1号機に入ろうとした。ところが東電が真っ暗で危なくて入れないと説明した。嘘でした。東電の社長が、騙すつもりはなかった、勘違いだと釈明しました。

国会が事故要件を構成している重要な点を調べようとしていたわけです。とくに1号機にあった電源を必要としない復水器(IC)があります。これがあれば8時間ぐらいは電源がなくても冷却できるはずだった。東電もそれで2号機の方に集中していたら実際には1号機の方がひどいことになった。
だからこの原因を究明するために立ち入ろうとしたのです。入れば被曝します。覚悟でした。しかし東電は暗くて危ない、真っ暗だという。下に落ちるかもしれないとも。それでも入りたいと言ったら、東電は入口までは案内するけれど、そこからは勝手にいけという。
理由は被曝するからだというのです。しかしその前に彼らは入っているのです。これ以上、被曝させたくないというのは彼らの言える唯一の正当な理由ですが、それなら他のものを出すこともできた。

しかも原子力プラントの中は素人が入ってわかるものではありません。私のように設計を担当していた人間でも、一人では絶対に行動させません。危ないからです。現場にいる人間が必ずアテンドします。それが普通の時です。
だから東電が案内しないということは、入れないということと同義なのです。そうすると私が心配しているのは、最も重要な事故原因に対して、東電はまったくの無責任な態度をとったのです。こんなことは許されないことです。

例えば航空機事故があった場合、事故調査委員会が現場をすべておさえるのです。触ってはいけないのです。プラントをそのまま動かさないまま調査委員が入って、どうして事故が起こったかを調べるのです。
これに対して東電は被曝を理由に入れないといいますが、それだけではないと思う。東電は自由に入っているのです。どういうことですか。まったくおかしい。
プラントを維持するために入るのはわかりますが、事故をおこしたプラントが東電の管理下にあるのはおかしい。事故調の管理下にあるべきです。維持するために、東電が作業するのはわかります。そのことをきちんとしないと技術の解明はできないのです。
田中三彦さんがそこで非常にこだわりましたが私も思いをともにしています。国会議員が入る時があって、田中さんが一緒に入るという話もありましたが、彼はそれを断りました。もっとオフィシャルなものだからです。それを彼は強調しています。まったく正しいです。

続く