守田です。(20130611 23:30)

2013年4月26日に、岩波書店から画期的な書物の翻訳が出版されました。『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』です。アレクセイ・ヤブロコフ、ヴァシリー・ネステレンコ、アレクセイ・ネステレンコ、ナタリヤ・プレオブラジェンスカヤの4名によるものです。
翻訳したのは星川淳さんを中心とする「チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム」。僕の友人も参加しており、監訳がまたれていましたが、ようやく出版が実現されました。定価5000円ですが、これでも岩波書店が努力を重ねて安くしてくださったとのこと。ぜひ各地で参照していただきたい書物です。

僕は翻訳チームに友人がいたこともあって、早くからこの書物に注目してきて、幾度か紹介を行ってきました。以下に記事を列挙します。

明日に向けて(264)必読!チェルノブイリ被害実態レポート(前書きがアップされました)-20110918
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b9d72063aa5a264631f0f6ea82dd1456

明日に向けて(538)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(上)-20120903
http://toshikyoto.com/press/84

明日に向けて(540)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(下)-20120909
http://toshikyoto.com/press/130

とくにこの(540)では、この書への寄稿者のひとりであるジャネット・シェルマン博士に対して、カール・グロスマンというキャスターがインタビューしたビデオの紹介と、全文の起こしも行っています。

チェルノブイリ100万人の犠牲者
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/info/chernobyl-a-million-casualties/

これらをご覧いただけると、この書の位置が浮かび上がってくると思います。非常に重要な位置がありますので、ぜひご覧ください。

さらに今日は、この書の著者の一人、アレクセイ・ヤブロコフ博士の講演について触れたいと思います。同書の刊行記念として、翻訳チームの努力により、日本各地で行われましたが、僕は5月22日の京都会場の講演に駆けつけることができました。
主催されたのは京都精華大学人文学部細川研究室。協賛が使い捨て時代を考える会/安全農産供給センターでした。

この講演でヤブロコフ博士は1時間にわたって熱弁を振るって下さり、その後、同じく1時間強、質疑応答に答えて下さいました。東京に戻る最終の新幹線の時間ぎりぎりまで話して下さいました。
当日、現場でノートテーくしたものを、録画などを見つつ補強したものを3回にわたってみなさんにお伝えしますのでぜひお読みください。
ただし、音声が聞き取りにくい面があったので、正確さにかける面もあるかと思います。また話されている内容と、書物の内容に微妙な食い違いがあるところもあり、その場合は、書物に準じてまとめてあります。
その点も含めて、文責は守田にあることを踏まえてお読みください。

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チェルノブイリから学ぶ
アレクセイ・ヤブロコフ講演・・・1

2013年5月22日 京都

こんにちは。この場にともにいられることを嬉しく思います。ここで何が起きたのか、今後何が起きるかともに考えていきたいと思います。
それではまず、岩波から日本語訳が出来た本ですが、この本ができた経緯について話します。
2005年、チェルノブイリの事故から20年が経とうとしているときに、WHOとIAEAが報告書を出しました。恐ろしいことは何もないという趣旨でした。私がチェルノブイリで見てきたこと、何千という学術論文とあまりにも違いました。
それで私とヴァシリー・ネステレンコという物理学者とともに、これまで公表されている事実を、一冊の本にまとめることを決めたわけです。

そしてこの『チェルノブイリ被害の全貌』という本でありますけれども、この本では最初は、ロシアの科学アカデミーから出版され、その後、アメリカのニューヨーク科学アカデミーから英語版がでました。そして2011年にウクライナの首都のキエフでロシア語版がでました。
今回、日本語版がでましたが、これが最も素晴らしいできになっていると思います。内容がより完全なものになっています。翻訳も素晴らしくできました。句読点にいたるまで私を質問攻めにして苦しめるほど素晴らしい仕事をしてくれました。

この本では何万点と発表されている研究の中から5000点に書かれている事実を抜書きしてまとめた本です。もっとも鮮やかに事故の影響を表しているものから抜書きしたものです。私たちが一から書き表したのではなくて、すでに先行していた調査をまとめたものです。
今日の限られた時間で、全容は話せないので、この本の中でもあざやかに状況を示した例をみなさんにお話したいと思います。

これからお見せするグラフは、岩波の本の140ページに書かれたものです。固形ガンの罹患率です。汚染の高いところではガンの罹患率が高いことを示しています。
一つの折れ線はロシアの州の一つで汚染の高いブリャンスク州を示しています。真ん中の折れ線は、もう一つのロシアの州で、前の州ほどには汚染が高くはないカルーガ州、福島県では郡山市に該当するところです。一番下の折れ線はロシア全体です。
これを見ますとロシア全体のがんの罹患率も年々、上がっているわけですけれども、汚染土がより高いところほど、がんの罹患率がより高いことが分かります。

次に甲状腺がんなどを見ていきます。これは岩波の本では139ページから145ページに書かれています。 
まず139ページの図の6.1ですが、ベラルーシにおける1975年から2005年のがんの初回登録症例数です。まっすぐに左肩上がりに書かれている線は、がんの推移の予測値でしたが、それより上に伸びている線が実際の件数でした。明らかに予想よりも高くなっていました。

甲状腺のがんというものは、チェルノブイリの事故のあと、4年経って罹病率が高まっていきました。日本でいいますと来年後半からということになります。
今見ていただいているのは、乳がんの罹病率です。158ページのもので、これはベラルーシのゴメリ州のものですが、事故後10年経って急激に高くなりました。同じことが、同じ感覚をおいて日本でもおきると予測しています。

事故の後遺症、影響として、流産率が高まるということがあります。これは97ページの図の5.9、ロシアのリュザン州における1987年から1994年の流産発生率です。上の黒い線はリクビダートルと呼ばれる事故処理にあたった人々、その家庭における流産の発生率、下の線が州全体の発生率です。リクビダートルはロシア全体で60万人いて、かなり綿密な健康の追跡調査が行われ、データが残っています。
これを見ていくと、リクビダートルの家族は事故後の最初の1年間は、半分の妊娠が流産に終わっています。その後、6年経つまで、そうでない家庭に比べてかなり高かい状態でした。そのことをこの数字が示しています。

次にお見せするのは、先天性の発生異常の実数の変化です。ウクライナのジトミール州ルギヌイ地区のものです。183ページ図1です。
チェルノブイリの事故は1986年4月でした。事故以前と翌年は同じ数でしたが、事故の2年後から上がりだし、6年後に非常に高い年がありました。その後も高い年がありました。日本でもこういった状況が起きると予想しています。

放射線による汚染の影響によって、染色体の異常によるダウン症候群の発生率もあがっています。65ページの図5.2と3に示されています。上がベラルーシにおける発症率、下がベルリンのものですが、両方共、チェルノブイリの事故後、9ヶ月たって急激にあがったことが統計として反映しています。
これらはチェルノブイリの事故以降、統計学的にかなり高い水準のまま維持されています。同じ数値が日本でも出ているはずです。統計学的数字としてあるはずですが、まだ誰もそれを発表していません。そうした作業が必要です。

被曝のもうひとつの影響として目の水晶体の混濁があります。それも両眼性のものです。112ページ、図5.11です。ベラルーシの子どもの両眼性の水晶体混濁と、体内に取り込んだセシウムの量の関係を表したものです。この混濁はのちのち、白内障に転ずる可能性があるものです。
体重1kgあたり20ベクレル以上の放射性物質があると、こうした混濁が起こるという数値が出ています。私の意見に反対する原子力推進派の人たちは、水晶体の混濁は恐れるに足りない、視力が落ちるわけではないと反論するわけですけれども、私はその意見は違うと思います。あくまでも甚大な健康被害の一つです。

続く