守田です。(20130220 23:30)

原子力災害に対して、私たちはいかなる構えを作るべきなのか。また国=原子力規制委員会の打ち出した「原子力災害対策指針」をいかに捉えるのか。この間、この紙面で論じてきたことを、学習会などで使えるようにレジュメ風にまとめましたのでご活用いただけたらとおもいます。
この中で4号機倒壊の可能性をどう考えるのかについても触れました。というのは、京都で活躍してる女性たちと話した時に、「ガレキの広域処理問題などと違って、4号機問題は大きすぎるし、自分がどうしたらいいかも分からない。危機を考えても呆然とするだけて思考が停止してしまっていた」という思いを教えてもらえたからです。
確かに4号機が倒壊した場合、膨大な放射性物質が環境に放り出されて、現場に近づけなくなってしまいます。そうすると他の原子炉も放棄せざるをえなくなり、事故はどこまでも拡大して、おそらく軽く見積もっても東日本崩壊につらなってしまうでしょう。あまりに呆然とする可能性です。
同時に危機を認識したからといって、自分たちが現場にかけつけてできることがあるわけではない。「がれき反対」では頑張れても、自分たちが倒壊を食い止める手段がない・・・最もな思いだと感じました。

しかし実際はそうではなく、危機を危機として見据えることこそが、危機の拡大の可能性を少しでも遠ざけるのです。なぜか。この危機を食い止めているのは現場の作業員の方たちです。高線量地帯で身体を張って、日本を、世界を守ってくれています。
にもかかわらず、それになんの光もあたっていない。危機はないことにされてしまい、命をはって社会を守っている人たちの努力がないものとされてしまっているのです。これで現場の士気が保てるでしょうか。

今、危機と立ち向かっているのは、心を持った人間です。その力は心のあり方に左右されます。だから全国からの応援を集めなくてはいけない。同時に、この方たちが少しでも被曝を避けられるように、あるいは医療保障が受けられるように、監視を集めなくてはならない。
そうした応援があってはじめて、現場の方たちの最高のパフォーマンスが発揮されるのです。人間のメンタリティの問題で言えば、スポーツの試合と同じです。あらゆるスポーツで選手を支えるのはサポーターの応援です。しかし今、福島原発で働く人々にどれだけのサポーターがいるでしょうか。

危機を隠してはならない!それでは現場の士気が低下する!命を張った活動が愚弄されてしまう!だからこそ、全国で危機を危機として認識し、すべての英知、物資を優先的にこの現場にまわす社会的合意を作り出すべきなのです。それでこそ少しでも危機は遠ざかる。
もちろん、大地震の危機は私たちの力では遠ざけることはできません。しかし大地震に襲われた時に、少しでもより耐えれるように強度をあげたり、さまざまな工夫を凝らすことはできるはずです。そこに社会的資本を大量に投下すべきです。
同時に、私たち市民も傍観者としてではなく、事故が起こったことを想定して、広域の避難訓練を行う必要があります。それが全国で行われるならば、現場の作業員の方たちも、より同じ苦境に立ち向かっている連帯感を持てるでしょう。
そのためにこそ、4号機の倒壊、福島原発事故の破局的拡大の可能性をこそ、私たちは見据えてあゆみましょう。合言葉はここでも、「腹を決め、覚悟を固めて、開き直る」(肥田舜太郎さんの言葉)です。

以上に踏まえて以下のレジュメをお読み下さい。

******

原子力災害をリアルに想定した備えを!備えることが危機の可能性をも減らす!

1、原子力規制委員会提出の「原子力災害対策指針」の骨子

○過酷事故の発生を想定したものとなっており、前提に、過酷事故の発生の容認が含まれている。
⇒過酷事故を想定しなければならないのであれば、即刻、全原発を廃炉にすべき

○他方で、現実に最も起こる可能性のある、福島第一原発事故の拡大、深刻化と、各原発の燃料プールの損壊が前提から排除されている。
⇒原発をすべて止めても、福島原発の深刻化の危機、燃料プールの危険性が残る。これに対して災害対策を立てねばならない。

[資料]「原子力災害対策指針」の核心部分

「前文」より
「平成23年3月に東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故が起こり、従来の原子力防災について多くの問題点が明らかとなった。」

「第1原子力災害」より
「原子炉施設においては、多重の物理的防護壁が設けられているが、これらの防護壁が機能しない場合は、放射性物質が周辺環境に放出される。その際、大気へ放出の可能性がある放射性物質としては、気体状のクリプトンやキセノン等の希ガス、揮発性のヨウ素、気体中に浮遊する微粒子(以下「エアロゾル」という。)等の放射性物質がある。
これらは、気体状又は粒子状の物質を含んだ空気の一団(以下「プルーム」という。)となり、移動距離が長くなる場合は拡散により濃度は低くなる傾向があるものの、風下方向の広範囲に影響が及ぶ可能性がある。また、特に降雨雪がある場合には、地表に沈着し長期間留まる可能性が高い。
さらに、土壌や瓦礫等に付着する場合や冷却水に溶ける場合があり、それらの飛散や流出には特別な留意が必要である。
実際、平成23年3月に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故においては、格納容器の一部の封じ込め機能の喪失、溶融炉心から発生した水素の爆発による原子炉建屋の損傷等の結果、セシウム等の放射性物質が大量に大気環境に放出された。また、炉心冷却に用いた冷却水に多量の放射性物質が含まれて海に流出した。
したがって、事故による放出形態は必ずしも単一的なものではなく、複合的であることを十分考慮する必要がある。」

⇒福島第一原発は「多重の物理的防護壁」が崩壊しており、4号機ブールにはそもそも防壁などない。各原発の燃料プールにも防壁などない!この危険性を踏まえていないことが「骨子」の最大の問題

2、過酷事故(シビアアクシデント)とは何か

○過酷事故とは「安全評価において想定している設計基準事象を大幅に超える事象」のこと。設計にあたって想定できなかった事態のことで、もともとプラントとしてあらかじめの対策ができないもののこと。
⇒過酷事故が起こるということは、プラントが設計思想的に破綻するということ。設計段階の事故を防ぐための想定が全部突破されてしまうこと。したがって設計思想の常識として、過酷事故が起こりうるプラントは認めてはならない。

[資料]原子力安全・保安院による「過酷事故」の規定

原子炉施設は、起こりうると思われる異常や事故に対して設計上何段階もの対策が講じられており、この設計の妥当性を評価するために、幾つかの「設計基準事象」の発生を想定して安全評価を行う。
このような安全評価において想定している設計基準事象を大幅に超える事象で、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御が出来ない状態で、設備の故障やヒューマンエラーが何重にも重なって安全装置が全く働かない等で、その結果炉心が重大な損傷を受けるような事象を、一般にシビアアクシデントと呼ぶ。
http://anzenmon.jp/vizwik/app/view_page_printable.html;jsessionid=92CFF12736DBC01AFA7B612D5B68A9CD?id=6948

⇒過酷事故を想定したものなど、絶対に認めてはいけない。各自治体からも声をあげるべき。

3、ベントの意味するもの

○過酷事故対策の中でも重要視されている「ベント」は、格納容器の崩壊を防ぐために、濃厚な放射能ガスを排出するためのもの。
⇒そもそも格納容器の最大の任務は、放射能を閉じ込めること!放射能を閉じ込める格納容器を守るために、放射能ガスを排出するのは全くの自己矛盾。設計士たちは「格納容器の自殺」と呼んでいる。こんなベントの可能性がある原発の運転を認めてはならない。

○ベントはテストの方法がなく、実際にうまく機能するとは限らない
⇒設計思想を越えた場合に生じることへの対処法がベント。それを想定した実験や訓練などできず、いざというときに使える可能性は低い。事実、福島原発事故ではバルブが固着して空かなかった。そもそも想定できない事故が過酷事故であり、対策(想定)をするということ事態に無理(論理的・技術的矛盾)がある。

[資料]元東芝の格納容器設計技師、後藤政志さんによる「ベント」の解説

「大前提として押さえておくべきこと、後藤さんがこれまで繰り返し指摘していることになりますが、それは、そもそもベント「失敗」という言い方には、本来、成功すべきものが失敗したと言うニュアンスが含まれていて、あやまりだということです。ちゃんと行うべきベントに失敗したということになるわけですが、ここがおかしい。
なぜならそもそもベントとは、放射能の最後の防波堤であるはずの格納容器に穴をあけ、容器を守るために放射能を放出するためのものであり、言わば格納容器が自分を守るために、任務を放棄するものでしかないからです。
だから設計士の方たちは、ベントのことを「格納容器の自殺行為」と言っているそうですし、そもそも後藤さんの先輩の渡辺さんが設計に携わった頃にはついてなかったのがこのベントなのです。
その意味で、格納容器設計上の安全思想からは許されざるものであり、「あり得ないけれど一応つけておく」という非常にあいまいなものとして後から付け加えられていること。
それが「過酷事故対策」なのであって、その点で、バルブがきちんと開けば成功で良かったということではなく、これを使わざるをえなくなった時点で、設計思想は破産していること、原子炉の安全性は崩壊し、プラントとしてはもう存続が許されなくなっていることが押さえられなければならないわけです。」

明日に向けて(179)1号機ベント「失敗」を論じる(後藤政志さん談)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/5adde585a50f1a698d6e930662a02b54

⇒ベントそのものが、矛盾の産物。しかも実際にうまく使える保証など何もない。想定ができないのが過酷事故だということが忘れられている。

4、最も可能性のある原発事故=4号機の倒壊など、福島原発事故の拡大

○「原子力災害対策指針」には、福島4号機の倒壊や、福島原発事故の拡大が想定されていない。実際の事故を想定しているとは言えない。
⇒2011年3月、政府は4号機が倒壊した場合、最悪170キロ圏は移住、希望者を含めれば250キロ圏の避難が必要と想定していた!

[資料]毎日新聞 2011年12月24日
ブログ「水は変わる」に記事の写真が掲載中
http://www.minusionwater.com/hinankuiki.htm

○4号機の倒壊や、福島原発事故の拡大の可能性から目をそらすのは危険!
⇒この危機を多くの人が見据えなければ、何より、日本壊滅の危機を防ぐために奮闘している現場が報われず、士気は下がるばかり。どんなに大変なことを担っているかを明らかにし、全国の英知を結集し、現場を支えるべき。それが危機を少しでも減らす!

○4号機の倒壊を前提とした広域の避難訓練こそ必要!
⇒不幸にも4号機が倒壊した場合でも、事故がどう広がるかは分からない。逃げ出せる可能性も多分にある。そのため備えがあれば、被害は減らせる。これを想定して広域の訓練を行うべき。250キロ圏外でも大量の避難民の受け入れ準備と、当該地域に迫る放射能のモニタリング態勢を準備すべき。

⇒このように事故を想定して現場を応援し、避難対策を施してこそ、事故の可能性を少しでも減らすことができる。大地震の可能性は減らせないが、現場の士気が少しでも高まり、少しでもいい仕事ができれば強度は上がる。事故の可能性から目をそらせば、この可能性が減る。危機の無視は危機を呼び寄せる!

5、福島原発事故が明らかにしたのは燃料プールの脆弱性

○燃料プールには「多重の物理的防護壁」など何もない。冷却ができなくなったり、水が抜ければすぐに危機に陥ることが明らかになったことが福島事故の教訓
⇒燃料プール対策(乾式キャストへの移動など)をただちに実施することが防災上必要。六ヶ所の巨大プールも閉鎖し、乾式に移すべき。使用済み核燃料の再処理をやめれば直ちに着手できる。

○燃料プールがある限り、原発は運転を停止しても危険
⇒過酷事故を想定した運転を許さず、原発の再稼働をさせてはならないが、止まっていても原発は危険。そのため燃料プール崩壊を想定して、各原発の周辺での災害対策を立てる必要がある。この場合も、最悪の場合は福島原発の悪化と同規模に被害が拡大することを想定すべき。

6、重要な点は、これまでの原子力災害対策の誤り=原発の運転を前提とした対策の限界を超えること

○過酷事故はなぜ想定されてこなかったのか
⇒過酷事故の可能性を認めると、原発の運転に国民・住民の合意がとてもでは得られないと想念されてきたから。そのため過酷事故など絶対に起こらないと言い張り、事故対策などしなかった。そのつけが福島事故でいっぺんに出た。

○福島4号機や燃料プールの危機はなぜ想定されていないのか
⇒この可能性を認めて、対策を施すと、脱原発の世論が決定的となり、核燃料再処理の展望が潰えるから。しかしこの発想こそが、現実の事故への対策をおろそかにする。これでは前に来たのと同じ道!

⇒「指針」の中身を捉えるためには、「指針」が寄って立つパラダイム=発想の大前提に踏み込むことが必要。原発の再稼働を射程に入れているからこそ、最もリアルな事故の想定ができない。リアルに想定すれば、原発を動かしてはならないこと、再処理をやめ、一刻も早く使用済み核燃料の安全対策を取らねばならないことが前面化する。この可能性を避けようとしているのが「原子力災害対策指針」。
この指針の大前提を批判的に捉え、事故をリアルに想定した災害対策をすべての自治体・諸団体・個人で作ることが必要。それでこそ私たちの安全は少しでも拡大していく。脱原発の道は、原発災害防止の道と重なりあっている!