守田です。(20120628 23:30)

ドイツのお二人をお招きしての講演会・懇談会が続いています。今日28日は京都で講演会が行われました。シュミッツ-フォイエルハーケさんは、100ミリシーベルト以下では健康被害が確認されていないというまやかしの言説に対する批判を、プフルークバイルさんは、ドイツで明らかにされた原発周辺における白血病の増加について話してくださいました。どちらも内容のつまったスピーチでした。

これらの一つ一つを紹介したいのですが、ここではまだ肝心の広島における放射線影響研究所訪問の報告が残っています。前回が前フリだけで終わってしまったので、「以下が待ち遠しい、早く掲載してくれ!」という声も届いています。それで今朝には掲載しようと思っていたのですが、当日の会見の主要部分が英語で行われており、部分的に僕には翻訳のできないところが出てきてしまって暗礁に乗り上げてしまいました・・・。

この点、会見に一緒に参加した、内部被曝問題研究会、国際・広報委員長の吉木健さんに相談したところ、非常に重要な会見なので、要約であっても間違いがあってはならないだろう。それならば自分が早急に、会見内容のメモ書きを作ります・・・ということで、それを明日(29日)中に完成させて下さることになりました。

・・・ということで、申し訳ないですが、放影研での会見はもう一日だけ掲載をお待ちいただき、先に、この日(26日)の夕方に行われた広島での講演会でのお二人の発言から先にご紹介することにしたいと思います。

集会では、プフルークバイルさんが先に発言されたのですが、ここでは放射線影響研究所を世界で初めて公式に批判したシュミッツ-ホイエルハーケさんの、この点に触れた発言からご紹介したいと思います。

内容は、広島・長崎の被爆者について、放射線影響研究所が調べてきたデータは、瞬間的な高線量の放射線被曝に限ったデータであり、低線量の慢性的な被曝には適用できないという指摘です。

その被爆者のデータも、1950年以降のものであって、それ以前が欠落している。また結婚などでの社会的差別を恐れて、被爆者であることを隠した人々のことも欠落してしまっています。

また高線量被曝のデータ自身も、放影研は、被爆者を、非被爆者と比較してその影響を調べるのではなく、遠距離あるいは後から市内に入った被爆者を被曝をしてない人として扱って比較したため、実際には、被爆者同士の比較になっており、間違っているというものです。

とくに後者はシュミッツ-フォイエルハーケさんによって、初めて行われた批判だったのですが、彼女は発言の後半でこれを説明しています。この点は専門的で通訳では難しい面があったため、ここに限って、沢田さんが代理の説明を行っています。

放射線影響研究所訪問報告の先になってしまいますが、ある意味ではこうした歴史的な指摘を行った彼女の訪問であるがゆえに、放射線影響研究所も会見を断れなかったこと。またこうした研究のことが両者の念頭にある中で会見が行われたことをおさえておくと、その意義がよりよく見えてくるとも思います。

これらを踏まえて、以下の内容をお読みください。

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慢性低線量放射線被曝の場合に日本の被爆者から得られたリスク評価はどれほど信頼できるか?
インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケ

日本語を話せなくてとてもすみません。こちらで話をできるのはとても光栄です。私を呼んでくださった方々に感謝します。私の知性を信頼してくれたことに感謝します。

広島・長崎の被爆者の例は国際的に参照郡とされてきました。あるところで被曝があったときに、それがどれぐらいのものかという基準となってきました。

原爆を生き残った被爆者の方は確かに多くのデータを残して、私たちはそれに多くを学んできました。

残念ながらそのデータの使われた方はよくないものでした。原爆のデータがある物理的な条件とされ、それにあわないものは考慮されないという使われ方をしてきました。

たとえばドイツである労働者が被曝をして訴訟を行ったとしても、そこで広島・長崎であったような症状が見受けられないと、その賠償請求は受け付けられません。

私が核に批判的になったのは大学時代の経験が元でした。発電所の清掃作業などで被曝をした人たちが工場を訴えるのだけれども、結局それは否定されることになりました。広島・長崎の基準にあてはまらないからだという理由でした。

症状が広島・長崎の経験に合致しないということと、それらの研究で得られた線量に達しないから発症する基準に満たないから否定されるということなのですが、しかし核爆弾による被曝と、労働現場における被曝には違いがあって、核爆発というのは、一時的に非常な高線量を発することになるわけですが、労働現場での被曝は低線量だけれども、非常に長い時間、ゆっくりと被曝することになるわけです。

結果として広島・長崎のような被曝の仕方が一つの枠組みとされる中で、慢性的な低線量被曝、違う条件のもとでの被曝の被害が過小評価されるということが起こりました。

先ほど述べたように、広島・長崎が基準にされたことから出てきている問題は、一つは記録としての広島・長崎での被爆者に対しての研究は、1950年以降だったわけで、最初の5年間の記録が欠如しているという問題があります。

そのため(潜伏期の短い)遺伝子上の効果や白血病など、最初の5年間にすぐに発症するものが落ちてしまっています。

職場での被害などを考察する場合、(被曝をしたものとしてないものとの)比較対象の群が正しく選ばれる必要があります。比較する場合、それぞれ被曝した人間が、同じような条件を持った人たちでなければならないはずです。

被爆者といっても典型的な、同じ状況の人たちでの被ばくではありません。被ばく直後の栄養状態であるとか、いろいろな条件でいわば選択が行われたわけで、そういう状況を乗り越えられた人が対象になっているのです。

また被ばくによる差別を恐れて、両親が胎内にいて被ばくしたわが子に被ばくした事実を教えないということもありました。社会的な差別の中で、自分が被爆者であることを知らなかったり、結婚差別などを恐れて、自分が被爆者であることを言わないということも起こりました。その人たちは申し出ないわけですから、被ばくの実態が見えなくなるわけです。

もう一つは、人種による放射線に対する感受性の違いも当然、考慮にいれられなければなりませんが、福島に関しては、広島の人たちとの間でそれを考慮する必要はないでしょう。

瞬間的に高線量が放射された原爆の被害と、低線量のものが長い間出ている福島のもの、そうした低線量だけれども持続的で慢性的な被曝を、原爆の基準で測ることで、大した被曝ではないとされています。線量あたりの死亡率についても、広島・長崎の瞬間的な高線量の被曝と比較することで、慢性的な低線量の被曝が過小評価されることになっているのです。

これは今は理論的にも、実践的に何をするのかという問題としても、それが間違っているということは明らかです。

原爆ではあるエネルギー帯の中性子線とガンマ線が放射されますが、他のエネルギー帯にある、他の種類の放射線が無視されています。原爆から出た一部の放射線の被曝を、それ以外の性質の異なる放射線の被曝にあてはめるのは問題です。

主に被曝は爆発時に放射されるガンマ線の被害について語られるだけであって、残留放射線の影響が、今まで省みられてこられなかったのでした。

問題の一つは、爆発時のガンマ線を問題にするとは、爆心地からの距離によって被曝の程度が測られるわけですから、爆心地から遠くにあって、残留放射線によって被曝を受けた人が、結果として賠償を得られないことにあります。

放射性降下物については、その研究者の意見に示唆されたのですが、染色体異常が起こっているのですが、放射性降下物を考慮するのとしないのとでは数値が違ってくるのです。(佐々木・宮田の研究1968より)

今でも基本的な被曝量は爆心地からの距離で測られています。しかし放射性降下物の影響を考慮に入れるかどうかによって、染色体異常をどう捉えるかも変わってきます。

爆心地からの距離と被曝のグラフが(佐々木・宮田に)示されていますが、爆発時に市内にいなかった人、後から市内に入って被曝した人は、完全にその外にいることになります。

(ここで放射線影響研究所が示した被爆者に対する比較対象群を、全国の、全く被曝していないものに対するリスクをあらわした図を示す)

沢田昭二さんの説明
ここで少し代わりに説明します。この仕事がインゲさんのすごく重要な仕事だったのですね。放射性影響研究所が、被爆者同士を比較しているという批判があったのですが、彼女はそれを具体的に示してこれではダメだと指摘したのです。

彼女は、遠距離の被爆者と、入市被爆者を示しました。遠距離の被爆者は放射性降下物の影響を受けています。残留放射線というのは、原爆破裂以降、1分以降のものと定義されています。放射性降下物は時間が経ってから降ってきていますから、残留放射線です。

入市被爆者は、原爆が爆発したときにはいなくて、後から入ってきたから、地面の中に(中性子による対象の放射化によって)放射性物質ができていてそこから出てきた放射線を浴びたのですから、やはり残留放射線による被曝ですね。その影響を無視して、放射線影響研究所が、こういう被爆者たちを近距離被爆者と(遠距離ないし後から入市した人々が被曝をしていなかったと断定して)比較することをしていたわけです。

それで彼女が、遠距離被爆者と、入市被爆者を、日本人全体の平均と比べました。それでみていくと、いろいろな病気は日本人の平均より低い。ところが放射線の影響による白血病や呼吸器のがんなどはのきなみ日本人の平均より高くなっている。

とすると、放射線影響研究所が、被爆者の比較の対象にしている遠距離被爆者や入市被爆者は、明確に被曝をしている。そのことを1980年代に示したのが彼女の素晴らしい業績なのです。

病気の発症率などは高い。しかし死亡率は被爆手帳をもらって早く発見されているから低い。そのかわり甲状腺のがんや女性の乳がんの発症率はとても高いのです。

とくに入市被爆者の中でも早く市内に入ってきた人をひっぱりだすと、確実にこの傾向が強くなります。ということで、この仕事で、放射線影響研究所の研究が、遠距離被爆者や入市被爆者を、比較対象群にしたのはだめですよと、彼女は最初に指摘したのです。素晴らしい仕事です。

インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケさん
ということで、環境中に残っている放射性物質の影響は確実にあったのですから、それを無視した放射性影響研究所の研究は、福島の被害についてそのままでは使えないということが分かるのです。
ご清聴、ありがとうございました。(拍手)