守田です(20171024 23:30)

10月22日に投開票された総選挙の結果が出そろい、数字的なデータもまとまってきました。
ここで今回の選挙が突き出したものがなんであるのかを振り返っておきたいと思います。
なおデーターとして活用するのは総務省発行の以下の資料です。

衆議院選挙結果調(速報)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000513918.pdf

今回の選挙、投票率は戦後最低だった前回を少しだけ上回り53.68%で、最低から2番目の低投票率でした。
ちなみに前回は52.66%でしたが、ワースト3だったのは2012年に民主党政権が崩壊し、自民党に選挙に返り咲いた時で、投票率はそれでも59.32%ありました。

衆院選の投票率は、戦後60%代後半から70%代前半ぐらいで推移してきました。最高だったのは1960年で76.99%でした。
ところが小選挙区比例代表制が始まった1996年に初めて60%を割り込み、その後、2009年の選挙で民主党が政権を獲得した時に69.28%に回復しはしたものの、再び、下落を深めて今日にいたっています。
明らかに選挙民の民意を十分に反映しない小選挙区制が、選挙と政治への不信を大きくし、人々の政治離れ、選挙離れを作りだしているのです。詳しくは以下のページをご覧ください。

戦後最低は前回の「52.66%」 衆院選の投票率、今回は?
THE PAGE 2017.10.22
https://thepage.jp/detail/20171022-00000001-wordleaf

このことはアメリカを真似て「二大政党制を作る!」と叫び「政権交代が容易になる」選挙制度を目指してきた人々の考え方がまったく間違っていることを物語っています。
今回の選挙をめぐる問題もここに視座をおくとよく見えてきます。

まず今回の主だった政党の獲得票数と獲得票率、対有権者総数比、獲得議席、議席占有率について見ていきましょう。
小選挙区では以下のようになります。

自民党
26,500,722 47.82  24.97 215 74.39

立憲民主党
4,726,326  8.53 4.45  17  5.8

希望の党
11,437,601 20.64 10.78  18  6.2

公明党
832,453   1.50 0.78  8  2.8

日本共産党
4,998,932  9.02 4.71  1  0.34

日本維新の会
1,765,053  3.16 1.66  3  1.0

社民党
634,719   1.15 0.60  1  0.34

比例区では以下のようになります。

自民
18,555,717  33.28  17.49 66  37.5

立憲民主党
11,084,890  19.88  10.44 37  21.0

希望の党
9,667,524   17.36  9.11  32  18.2

公明党
6,977,712   12.51  6.58  21  12.0

日本共産党
4,404,081   7.90   4.15  11  6.3

日本維新の会
3,387,097   6.07   3.19   8  4.5

社民党
941,324    1.69   0.89   1  0.6

ぜひこの表をいろいろな角度からみて欲しいのですが、本当にたくさんのことがわかってきます。
なお読みやすいように以下の記述では議席占有率をのぞいて小数点以下を四捨五入し、票数も万の単位で四捨五入し、「約」とはつけずに表記しますので正確な数値は表をご覧ください。

まず自民党はどれだけの票を集めたのかみてみると、小選挙区で投票者の5割にとどいていません。有権者総数からみると25%しかとっていないのです。しかし議席占有率は75%です。4分の1の支持で4分の3の議席を獲っている。
比例代表はどうかというと投票者の33%、有権者比で17.5%しか獲っていません。にもかかわらず37.5%の議席占有率です。それで両者あわせて281議席、全体465議席の60%を得ています。

この際、重要なのは自民党の小選挙区と比例代表でどうしてこれほど大きな開きが出ているのかです。なんと800万票も違いがありますが、答えは簡単で、この800万票のうちの多くが公明党票であって、本当の自民支持票ではないのです。
公明党票を見ればよりよく分かります。公明党の小選挙区での票はわずか80万票。比例は700万票。620万票の開きが出ている。この多くが自民党票となっているのです。

あと200万票の食い違いが出ていますが、ここでは小選挙区では自民党候補にいれたものの比例では他党に投票した人がおよそ200万はいたことが推測されます。
そう考えると自民党の固い支持票は約1860万票、17.5%で、それに党は応援しないけれど個人は応援する票が上乗せされているのが真の支持なのだと言えます。いずれにせよそれで6割の議席を獲れてしまうこの制度は民主主義の精神からいってまったく間違っています。

まずはこれだけでもこの議席数がなんら民意を反映していないことがはっきりと見えると思います。
その点で今回の選挙で、安倍政権の政策が有権者の大多数に支持されたなどと受けとる必要はまったくないのです。ただ小選挙区制のひどいシステムによって2割で多数派をとってしまっているにすぎません。

今回の選挙結果に落胆している方は、ぜひこの点をしっかりと見つめてみてください。何度もいいますが日本社会がすべて安倍政権のやり方に染まってしまったわけではまったくありません。
比例の票を見てみましょう。立憲民主党と共産党と社会民主党の票を足し合わせれば、それでもう自民党の票に近くなります。だからまだまだ状況の転換は可能なのです。落胆などする必要はありません。一緒にどうすればこのシステムを脱却できるか考えましょう。

またそのためにもさらにしっかりと見ておくべきことは、この民意を反映しない選挙制度をもっともよく使って自らの政治ポジションをつかみとりつつ、実はこの国の政治を最悪の形で劣化させているのが公明党の「戦略的投票」なのだということです。
何せ自力で2割弱の支持しかない自民党を、公明党は大量の票を回して支えて多数の議員を当選させています。そのことで自民党政権の背後から影響力を行使する戦略をこの党は採り続けているのです。

しかしそうなると自民党の議員はどこを向くようになるでしょうか。必然的に選挙民よりも自民党総裁を見るようになってしまうのです。
選挙民から票を得ていくためには地元でのコツコツとした地道な努力が必要ですが、公明党票を回してもらうためには安倍総裁に気に入られればそれでよくなるからです。後者の方がずっと楽です。

このことが自民党内から権力者に異論を唱えることのできる気骨ある議員がどんどん減っていくとともに、政治のことなど何も知らない人物までがポッとでてきて議員や大臣にまでなれてしまう構造をも生み出しています。
もちろん政治と選挙が劣化し続けているわけですから、人々の嫌悪感も増し、その分、政治や選挙からのかい離も拡大しています。

同時に実はこのあり方は公明党支持層、とくに創価学会員の中での大きな動揺を必然的に生み出しています。なぜか。創価学会の多くの方が池田大作氏が唱えた平和の道をいまなお最も大切なものとして考えておられるからです。
しかし公明党は選挙でほとんどの選挙区で候補を立てませんから、公明党支持者は外に向けて自らの気持ちを発していく機会すら奪われています。実は公明党は「戦略的投票」戦術をとることで、選挙から多数の公明党支持者を締め出してもいるのです。

しかもそれで割り当てられて投票した自民党議員が、次々と好戦的な発言を行ったり、一方では社会人として許容できない問題を犯す姿を見続けさせられていて、平和を貴ぶ人たちの心が穏やかであるはずはありません。はげしい痛みが溜まり続いているはずです。
その点で公明党の戦略的投票戦術は、議会制民主主義を崩壊させてるとともに、自らの支持者にも矛盾を強制し続けているものなのです。結局、自らの意を通すためにどんな人物であろうと通してしまえという戦術は、短期的には権力を近づけもしますが、長期的には自らの根幹をも崩すのです。

私たちが押さえておかなければならないのは、そもそも政治権力の強さは、けして議席だけによるものではないということです。
根本的にはその党、組織を構成しているメンバーの人間的強さに規定されるものです。政治力、判断力、そして人間力が強さの源です。そこに責任感や実行力、行動力が生まれます。そんな愛を含む人間的力はやはり普段の努力の中でしか育まれません。

その点で自民党も公明党も、実は小選挙区制という本当に支持の拡大なしに政権を獲れてしまう仕組みの中に自らをおき続けることで、どんどん自分たちを弱体化させているのです。
私たちはこのことを最も強く見据えておかなくてはいけません。それをどこから崩すのか。下からです。草の根からです。大事なのは日常をコツコツと誠実に送っている市井の人々の感覚です。その人々が社会の屋台骨を支えているのだからです。

これらを考えたときに、やはり選挙は真っ当な見解を述べる候補、また人格的にも信頼できる候補を推していくのが本筋であり、今後市民に問われているのはそこにいかに現在の状況を近づけるのかの知恵だと思います。
もちろんその中に戦略的投票というカードも必要です。でも僕はそうした戦略とか戦術というより、文化の問題の方が大事だと思います。選挙とは何なのか、選挙をいかに作るのか、この国で延々と続いてきた流れの変革が必要だし、実はすでにそれが始まっているように思うのです。

とくに大事なのは企業組織や労組など、いわゆる既存の利益団体をバックとしてきた選挙のあり方に変わる下からの、草の根からの選挙を私たちが作っていくことです。
そこから候補者をも作っていくあり方、戦後政治になかった新しい選挙文化を生み出すこと、いやすでにもう生まれている何かを育てていくこと、このことにこの国の新しい形があるように思えます。

続く