守田です(20171005 06:30)

ショートムービー「希望の党☆」をご覧になったことがありますか?

これは面白い!しかも深い!
製作はなんと「総務省・(財)明るい選挙推進協会」。
最近作られたのではありません。2005年の作品です。
監督は金子修介さん。まるで「いま」を予見したかのような作品です。

基本は選挙の大切さを訴え、投票を促しているムービーです。
しかしそこへの入り方が面白い。
一方でたとえ「選挙に行く」ことですら、他者を許さず、異論を排除する狭隘な「正義」となった場合、恐ろしさに転じかねないことが描かれているのです。

話はある平凡は家庭から始まります。高校生の娘は政治への関心が強く、選挙も大切だと思っています。
しかし両親は「誰が政治家になっても日本は変わらなくない?なくなくない?」とか語っていて、投票日にも早朝から二人で予定していたピクニックに行ってしまいます。
そんな中で、なんとにわかに登場してきた「希望の党」が政権を獲ってしまうのです。

そして暫く経ったある日「国民権利義務省」から父親に一通の封書が送られてきて、こう書かれていました。
「右のものは国民権利義務新法に基づきその選挙権を剥奪する」。
唖然としつつも「こんなの冗談だろう」と言う父親の前にいつのまにか「希望の党」に参加していた娘が現れてこう言います。
「今回の選挙は選挙権の見直しが課題だったのよ」「お父さん。だから選挙に行ってっていったじゃない」と。

その後、希望の党の暴走が始まります。犬を家から排除した女性が「生類憐みの法」によって逮捕されてしまいます。
「こんな感じで希望の党が政権を獲ってからは世の中が少しずつおかしくなっていき、気づいたときには誰にも止められなくなっていたのです」と述懐する父親。
さらに隣家の男性が、痴漢行為で死刑を宣告されてしまいますが、娘は断固支持。犯罪者は排除して当然、死刑にして当然と叫びます。

ところがその娘がやがて徴兵されてしまい・・・
父親は叫びます。「戦争反対に一票!」と。「俺は選挙権がなくても選挙に行くぞ」と。
~これ以上はぜひムービーをご覧ください。

 

戦後に打ち立てられた憲法の核心に据えられたのは個人の尊重でした。
国家の命令のもと、たくさんの人々が戦争に駆り出され、無残な死を遂げていったことへの反省がそのもとにありました。悲惨な体験を潜り抜けてきた多くの人々の思いがそこに凝縮されたのです。
個人の尊重は多様性の尊重をも意味します。どのような主張であろうとも、他者に対し迷惑をかけない限り、つまり他者の自由を侵さない限り自由だという考え方がその底にあります。
総務省作成のこのムービーが訴えているのは、この戦後憲法の核心を守り抜くことです。

「あなたが選挙に関心を持たないなら、やがて憲法の核心を骨抜きにし、戦前に回帰するような政党が出てきて知らぬ間に政権を獲り、この大切な価値を壊してしまうかもしれない。
だから選挙に行きましょう!もちろん、行かなければ「悪」だとか「選挙権を剥奪してやる」とかいうことではなくて、あなたの自由を、家族を守るために選挙に行きましょう」と訴えているのです。
なんとも絶妙なバランスが素晴らしい。

実は僕も「選挙に行かない無責任な人々が一番悪い」という論調には常に反対してきました。
「選挙に行くのは権利なのだから、行かない選択も当然尊重されるべきだ。一番悪いのは安倍政権やその取り巻き、その政策のおかげで儲けている人々であって、そこを間違えてはいけない」と語ってきました。
「また人々の政治意識が高くなれば世の中が良くなると思うのは間違いだ。おそらく日本の人々がもっとも政治意識が高かったのは戦前、戦中だ」とも。

そうなのです。今でも僕は「選挙なんかかったるくて行ってられるか」と考えている人がぜんぜん嫌いではないし、ムービーの前半に出てくるように、選挙当日にピクニックにいってしまう夫婦もいた方が良いとさえ思うのです。
「人々の政治への関心が低い方が、ファシズムの熱狂よりましだ!」と僕には思えます。
そう思いつつ、しかし僕は政治に関心を持つものとして、人々に選挙に行くこと、いや僕の場合、選挙に行くこと一般ではなくて、憲法を守り、戦争に反対し、原発をなくす候補に投票することを呼びかけ続けています。
僕にとってこのムービーは、そんな思いに実にフィットするものでもありました。

それにしても偶然のなせる業に驚いてしまうとのが、このムービーの中で、戦後に人々によって育まれてきた大切な価値を破壊してしまう党の名が「希望の党」とされていることです。
「希望の党」は選挙で合法的に政権党につき、その後に民主主義を破壊していくわけですが、現在の選挙制度の中ではこうしたことも起こりうることをこのムービーは示唆しています。

ちなみに現実の「希望の党」の代表になった小池百合子氏は、少し前の都議選で「都民ファースト」の代表に就任しました。
そして自らの名のもとで自民党批判票を吸収し、「圧勝」を実現したあとに、自分は都政に集中するからと代表を辞任しました。
この時、後継者として現れたのは都議の野田数氏ですが、この方は都議会の場で、日本国憲法を公然と否定し、大日本帝国憲法の復活が必要だと述べています。それが小池氏の後継者なのです。(と言ってもさすがに批判が強かったのかすでに辞任しましたが)
ネット上でこのムービー、「いまを予言するものだ」としてもてはやされているのですが、たんに「希望の党」という名が一致しだだけではなくて、問われている価値観までが一致しているからでしょう。

ともあれみなさん、このムービーをご覧ください。20分ぐらいの作品です。
また多くの方にご紹介ください。僕はやはりとくに「選挙なんかかったるい」と思っている方に観ていただきたいです。

ショートムービー 「希望の党」
https://www.youtube.com/watch?v=pmykwa114OE
https://www.youtube.com/watch?v=YDuwDBAVIVc

監督・金子修介 脚本・松枝佳紀 撮影・大沢圭子 音楽・MOKU  2005年「総務省・(財)明るい選挙推進協会」製作
出演/渋谷飛鳥 木下ほうか 山本奈津子 楳図かずお 並木史郎 野口雅弘 金子奈々子 野木太郎 新津勇樹