守田です(20170917 23:30)

大型の台風18号が日本列島を通過中です。いま四国から瀬戸内海を経て兵庫県に向かおうとしているようです。
すでに台風の通過した地域や暴風雨に襲われているたくさんの地域で避難指示や勧告が出されたり、川が氾濫危険水位を上回ったりしています。
どうかみなさま、気を付けてお過ごし下さい。避難指示に従うとともに、指示や勧告が出ずとも、危険を感じたら早めに避難されるようにしてください。

一方でこの間、朝鮮からのミサイル発射が繰り返されています。日本政府はそのたびにけたたましくアラートを発しており、そのたびにテレビのワイドショーなどでミサイルのことが報道されています。
これらの政府のアラートやワイドショーを見るにつけ思うのは、最も大事な点が抜け落ちていることです。ここにもっと大きな焦点をあてなくはいけない。

ちょうど明日の午後に京都市左京区の母親大会で「世界から見た日本~平和力を今こそ~」というタイトルでお話するので、今日、朝鮮半島情勢についてもまとめていました。
要点をあらかじめここに記事として出しておこうと思います。なお明日の企画については「明日に向けて(1422)」をご参照ください。

さて政府の広報やワイドショーにもっとも欠けている重要ポイント、それはそもそももはや日本列島は軍事的に守り切るは不可能だということことです。
憲法9条は高い政治理念を伴ったものであって、人類史における大きな思想的な意義を持つものだと僕は思いますが、同時に日本列島の状況を考えたときに、もはや軍事的リアリティであるとも言えるのです。

もう一つ。そもそも政府はアラートを出して大騒ぎしながら、朝鮮が軍事攻撃を本当にかけてくるなどとはまったく思っていないとしか考えられないことも大事です。
なぜなら「地下に退避せよ」などと大げさにいいながら朝鮮半島の目の前にある高浜原発を停めようとしないし、福井の原発銀座の原発の燃料プールから核燃料を運び出そうとしないからです。
そればかりかアラートを連発するほどの軍事的緊張関係をアピールしているこのときに、安倍首相は大きな政治の空白を作ることになる衆議院の解散総選挙を行うことすら打ち出しました。

実は政府が朝鮮が本気で攻撃を仕掛けてくるなどとまったく思ってないことがこれらに如実に表れています。
実はこの二つのことは密接につながっているのですが、まず今回はなぜ日本列島が軍事的に守り切れないものなのかを明らかにしたいと思います。

日本列島が軍事的に守り切れないこと。このことは論理的に語る以前に、第二次世界大戦末期に事実によって完膚なきまでに証明されている事柄です。
日本の諸都市はアメリカ軍に度重なる空襲によって、それこそ徹底的に燃やされて、破壊し尽くされてしまったからです。

とくに軍隊対軍隊の戦いが、フィリピン・レイテ島をめぐる1944年秋の攻防でほぼ決着がついた後の1945年に、アメリカは大々的な本土空襲を開始したのでした。
甚大な被害を与えた攻撃の口火を切ったのは1945年3月10日未明に行われた東京大空襲でした。この空襲での死亡・行方不明は一晩で10万人以上。単独空襲ではいまのところ1日あたりで空前絶後の被害をもたらしました。
しかもアメリカは続けて日本の大都市に連続空襲を敢行。東京は合計106回襲われ死亡総数不明。名古屋は合計63回襲われ死亡総数1万人以上。大阪は合計33回襲われ死亡総数約1万人。神戸は合計128回襲われ死亡総数約1万人でした。
さらに大都市だけでなく全国200以上の都市も執拗な空襲を受けました。その結果、当時「内地」と呼ばれた領土の2割の戸数が焼失。死者総合計は東京新聞の発表で558,863人、米国戦略爆撃調査団の発表で252,769人でした。

この上にアメリカは終戦直前に広島・長崎に原爆の投下さえ行いました。また日本軍によるポツダム宣言の受諾が発生られた15日までに、備蓄した爆弾を使い果たすための駆け込み空襲も各地で行われました。
空襲は、軍人と民間人を分けることなくして行われるものですから明らかなる戦争犯罪です。アメリカは諸都市の空襲、沖縄戦による無差別攻撃、原爆投下という戦争犯罪を繰り返したのでした。
僕はこれらは先々、国際法廷に訴えでなければいけないことだと思っています。

さてこれほどまでに空襲で蹂躙されてしまった事態はその後、軍事的にはどのようにとらえ返されてきたのでしょうか。
この点でのユニークな研究を見つけました。『日本陸軍の本土防空に対する考えとその防空作戦の結末』という論文で、防衛大学教官で軍事研究家の柳澤潤氏が執筆しています。
インターネットで見つけたのでアドレスを記しておきます。2008年に発せられた論文のようですが「現在、北朝鮮による弾道ミサイルの脅威から日本の防空体制について見直しが進められている」と書き起こされていました。

『日本陸軍の本土防空に対する考えとその防空作戦の結末』
http://www.nids.mod.go.jp/publication/senshi/pdf/200803/06.pdf

戦前から戦中において本土防空は陸軍の主要任務でしたが、防空は3つの観点に分けて考えられていたそうです。
まずは攻勢的防空と直接防空。総じて積極的防空とくくられるもので、敵攻撃地を先に叩いてしまうのが攻勢的防空で、飛来した敵攻撃機を撃墜、撃退するのが直接防空でした。
これに対して3つ目に考えられたのが消極的防空で、いわば空襲への備えを民間の努力も含めてしておくこと。建物の耐火性を強めたり、都市構造を火災から強くするなど、攻撃されても被害が拡大しないようにすることでした。

陸軍は当初より攻勢的防空にばかり偏重した作戦ばかりをたてていたそうです。1920年代ごろは航空機の性能がそれほど高くなかったせいもありましたが1930年代には早くも大型爆撃機による空襲も考えられていたにも関わらずです。
とくに火災に弱い家屋からなる日本の諸都市に対して、すでに1930年代の初頭に「100機あまりの爆撃機で焼夷弾をばらまかれれが容易に壊滅させらてしまう」ことが認識されていたことを柳澤氏は指摘しています。
そのため一部の軍人から空襲への抵抗力を考えた都市構造の改編が主張されたそうですが、敵撃滅に主眼を置く陸軍首脳に取り入られることはなく、直接防空にさえあまり力が入れられませんでした。

こうした都市防空の観点の著しい欠損は、戦争突入時にも改めらませんでした。このことを柳澤氏は次のようなエピソードによって紹介しています。
「太平洋戦争開戦直前の12月2日、参謀総長杉山元大将は、国土防空の状況を参謀本部担当部員の神笠武登中佐に問うた。同中佐が「国土防空の現状では、戦争遂行はほとんど不可能に近い」旨を述べると、参謀総長は無言となったという」。

その後日本は1945年に、いわば予想された通りに主要都市のすべてを焼き尽くす攻撃を受け続けたわけですが、ここで確認できるのはけしてそれらはB29戦略爆撃機の格段の性能によってもたらされたばかりではなかったということです。
大日本帝国政府が諸都市の防空対策を立てる義務を怠っていたがゆえに、アメリカによって街がいいように燃やされ続け、人々が火炎地獄の中で殺され続けたのでした。
そしてこの経験をそのまま現代に移したときに、くっきりと浮かびあがってくることは、現代の日本が、消極的防空の観点を持った、戦争に耐えるような都市づくりをしてきていないことです。

その第一は攻撃された場合にもっとも危険で脆弱な原発が海岸線に50基以上も建っていることです。その上に六か所の施設もあります。これらがすべて極めて脆弱な燃料プールを抱えています。
原発だけではありません。火力発電所のほとんども海岸線に立っており、これがやられてしまうと大停電が勃発して日本は機能を失います。
そればかりか石油タンクやガスタンクなど、爆発すれば極めて甚大な被害が生まれる構造物が本当に無数に海岸線に並んでいますし、新幹線など攻撃しやすい交通網も多くが海岸線に存在しています。

政府が朝鮮の弾道ミサイルに対して直接防空の手段としてのミサイル迎撃システムを購入して構えるのなら、つまりそうしたことがありえるという想定に立つのなら、本来は同時に消極的防空もやるべきなのです。
まず真っ先に動いている原発を停め、さらに各燃料プールからせっせと核燃料をおろすことが必要です。しかし運転直後の核燃料は危機が迫ったからといって5年はおろすことができないのだから絶対に動かすべきではありません。
さらに海岸線に林立しているタンク、工場等々、さまざまな施設を奥地に疎開させなくてはならない。

にも関わらず、第二次世界大戦の教訓で決定的に欠けていたことが立証されている消極的防空をせずに、なぜに政府は攻撃に脆弱な原発を動かし続けているのでしょうか。
ここに見え隠れすることは、実は日本政府が、どこかで朝鮮民主主義人民共和国を深く信頼していることです。
絶対に原発への攻撃などしてこないと考えているのだと思えます。そもそもそうでないのなら朝鮮半島の目と鼻の先にある若狭湾にあれほどの原発を建てたこと自体が信じられないのです。
なにせ事故を起こした時に桁違いに危険なもんじゅさえ、わざわざあそこに建てているのですから。

これらから私たちは次のように結論し、政府に迫るとともに、あらゆる人々の間に広めていきましょう!

日本列島は軍事では守れません。もし本気で戦争に耐えられる国づくりをするというのなら、都市構造を変えて「消極的防空」を進めるべきですが、現代ではもはやそんなことは絶対に不可能です。
この点で政府は、もはやこの国は戦争不可能な国家構造になっていることをこそ、全国民、全住民に明らかにするとともに、唯一の国を守る手段である外交交渉にもっと精進して和平の実現をめざすべきです。
事実、政府は朝鮮が日本にミサイルなど撃ってこないと確信しており、だからこそ、消極的防空体制など何もとろうとしていないのですから、なおさらさらに信頼関係を醸成する努力を重ねるべきです。

そもそもそれこそが憲法前文に書かれている精神、政府と国家公務員が順守すべきものでもあります。
その点で憲法9条を守り、すべての国と話し合って平和の創設をめざることこそ、高い道理に基づくとともに軍事的リアリティからも導出される唯一の結論です。

続く