守田です(20170111 21:00)

みなさま
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

年末に昨年を振り返ってみて、講演回数が約110回だったことが分かりました。
各地からお声掛けいただきましたが、中でもコープ自然派さんからは16回も呼んでいただけました。
どうもありがとうございました。

今年もあちこちを駆けます。
さっそく1月7,8日に、コープ自然派のみなさんと伊方原発の視察ツアーに行ってきました。
コープ自然派脱原発ネットワーク主催のツアーで、地元で長い間反対運動を貫いてきた方たちともガッチリと結合した企画でした。
またコープ自然派が提携している生産者さんのところも訪れることができて、とても盛りだくさんでした。

今回、現地までいってみてあらためて伊方原発の危険性を痛感しました。
これまでも加圧水型原発としての同原発の構造的危険性をしっかりとおさえてきたつもりでしたが、現地に立って、リアス式の細い岬の根元に立地しているこの原発が、あまりに事故時に避難の余裕がないものであることが実感されました。
とくに多くの家々が、海に続く崖状の地形にはりつくようにして建てられているのが印象的でした。

同時にこの地域はこの崖にまで段々畑を作り、みかんをはじめたくさんの柑橘類を栽培しているとても豊かなところです。
日本の今後にとって、すでに電力は十分すぎるほど余っているし、むしろ使い過ぎなのですから、この農の営みこそ優先的に手当をしていくべきだとも強く感じました。
そのためにも危険で、使用済み核燃料の処理に何万年もかかる原発など完全に止めてしまって、その予算をふんだんに農の営みにあてるべきだとも思いました。

伊方原発については、また稿をあらためて特集していきますが、ともあれ日本の原発は、その一つ一つが安全性を無視し、地域の特性を潰し、理不尽きわまりないかたちで建設されています。
今年もその一つ一つに迫り、矛盾をリアルに明らかにし続けることから、原発の再稼働を止め、廃炉に追いやっていくムーブメントに貢献したいと思います。

続いて2月には都合4度目の群馬講演ツアーに赴きます。
群馬県は福島第一原発から200キロあまり離れたところにあります。しかし原発から北西に向かい、福島市付近で南へと向きをかえた最も濃厚なプルームが最終的に流れ着いた先となってしまいました。
このため赤城山などを中心に非常に厳しい放射能汚染がもたらされています。

この被ばく地にこれまで3回も迎えていただき、群馬で命を守る活動を行っているみなさんと一緒になる中で、現に今、群馬県でさまざまな健康被害が出てきていることを実感してきました。
「山の仕事をしていた40歳代の先輩が、二人続けて心臓病で亡くなってしまいました」という胸の詰まるような報告も聞きました。
「自宅の薪ストーブの灰を測定してみたら1万ベクレルを超えていました」などという痛ましい話も何度も耳にしました。

放射線防護を進める上で、理想的には被曝地からは避難した方が良い。
しかしこれだけ広範な地域が被曝している上に、政府がまったく避難の権利を認めない状況において、なかなか思うように避難を広げることができないのが現実です。
また避難はその土地、その場への愛着や、それまでの年月の積み重ねの中で培われてきた人間関係をリセットすることも意味しますから、踏み切れない人々、踏み切ろうとは思わない人々が膨大にいるのも実情です。
この深刻な状況の中で、いかにして被曝から命を守っていくのか。

僕は何よりも被曝の現状、健康被害の実相をリアルにつかむ中から、放射線被曝の影響が非常に軽んじられている今の社会状況をひっくり返すことこそが肝要だと思っています。
放射線被曝の影響を軽く扱う言説は、被曝をめぐる正常性バイアスとしてもある、人々の被曝影響の深刻さを認めまいとする心情にも食い込んできます。
被曝影響が小さなものなら避難する必要などないことになるからです。

しかしこれまで繰り返し解き明かしてきたように、放射線による人体への被害の調査は、広島・長崎への原爆投下後の、アメリカ軍による排他的な調査と、そこで作られたデータをもとに行われてきています。
そこでは初めから、核戦略の一環として、被曝被害を小さく見せることが戦略化されていました。
そのために被曝被害を外部被曝の影響だけに絞り、内部被曝の影響は隠されたのでした。琉球大学の矢ヶ崎さんが福島原発事故以前から唱えていた「隠された核戦争」の実相です。

これを打ち破るために、実際に起こっている事態をもっと克明に把握し、被曝から命を守るための対処を重ねていくことが問われます。
医学的な対処もあれば、代替医療による対処もあるし、食べ物全般からの対処もあります。あるいは保養を重ねること、またやはり可能な限り避難を促進させることも入ります。
ともあれ起こっている事態をつかんで、できるだけ素早く手を打ち続けていくことが問われています。身体への影響がまだ軽微なうちに、積極的な行動に移ることが大事なのです。

同時にこうしてつかんだ事実を理論的に跡付けていくことが問われます。
この点での実際に起こっていることと密着した形での、真の放射線防護学の発展を私たちの側から作りだしていくことが重要です。
2月の群馬訪問でもこうした可能性を群馬のみなさんと一緒に切りひらいてきたいと思います。
さらに3月末から4月初めにトルコに、7月末にドイツに再び訪問することになりました。
ここでの課題は、日本からの原発輸出を止めること、その中で世界の反核反原発運動の発展に少しでも貢献することです。

安倍政権はご存知のように日本の原子力産業の延命のために、危険極まりない原発を海外に輸出し、現地の人々にまで危険性を押し付けようとしています。
どこの国への原発輸出も許しがたいですが、とくに日本と同じ地震大国のトルコに、大地震と津波で大変な被害にあっているこの国から原発を輸出しようとすることは本当に許しがたいことです。

さらにこの間、トルコにいって痛感してきたのは、原発輸出が、日本の技術や日本の多くの人々の誠実さへのトルコやイスラム圏の人々の厚い信頼を利用して行われようとしていることです。
信義を踏みにじる行為で許しがたいとともに、日本に住まう多くの人々にとっても大切な財産を踏みにじってしまう行為です。
トルコで原発に反対している人々も、トルコ社会で日本人に対する信頼が強いからこそ、日本人である僕に、日本の原発の危険性を訴えて欲しがっていることを感じます。
このことに応えぬくために4度目のトルコ訪問を実現します。
7月末にはドイツで行われる反核サミットキャンプに参加してきます。
ヨーロッパを中心に世界から脱原発のために行動している人々が集うキャンプです。ここでも福島原発事故の教訓をできるだけ克明に伝え、各国に持ち帰ってもらいます。
同時に、どこの国の人々も、日本の民衆の奮闘を知りたがっています。なかなかニュースにならないからでもあります。

前回、ドイツで反核運動を積極的に担っている人々に、首相官邸前行動などの写真をたくさん見せたら、とても感動してもらえました。
こうも言われました。「あれだけの深刻な事故が起こりながら日本の民衆が黙っているのなら世界は終わりだと思っていた。人々がこれほどしっかり立ち上がっているのを知って勇気が出た」と。
そうなのです。世界はいま、福島原発事故後の私たち民衆の動向をかたずを飲んで見守っているのです。

だから7月末に僕は、福島原発事故が明らかにした原発の根源的な危険性とともに、この事故を前にして覚醒した私たち日本の民の姿を伝えてきます。もちろんトルコでもです。
みなさんの代表として、再びトルコ、ドイツに行ってきます!
これと同時に5月末には広島で被爆2世3世の交流会に参加します。原爆の被爆と原発事故の被曝のつながりをさらに明らかにするためです。
この領域では僕が参加する京都被爆2世3世の会が一昨年より被爆2世健康調査に取り組み始めました。公的には確認されていないとされている被爆影響の有無を自らの手で明らかにしようとする試みです。
昨年はさらに、原爆の被爆と原発事故の被曝のつながりを見すえるために、11月末に東京から岡山に避難移住した三田茂医師を京都市に招いて学習講演会も行いました。

またこれらと平行しつつ、京都被爆2世3世の会は、自らの会のホームページを立ち上げ、被爆1世からの聴き取りも含めて、これまでの活動の記録や学んできたものを見やすい形に整理しました。
現在、そのページのトップに三田さんをお招きした企画を載せているのでぜひご覧になって欲しいと思います。動画と文字起こしの双方が観れます。
http://aogiri2-3.jp/

本年はこの事業をさらに前に進めます。そのために僕自身、被爆関連の書籍、論文の精読も進めて、研究を深化していきたいと思っています。
当面、5月20日、21日の広島での交流会の実現にあわせて尽力しますが、年間を通してこの問題への関わりを貫くつもりです。
これらの活動の中で本作りも行います。「明日に向けて」の内容を次々と書籍にと思っています。
まずは岩波ブックレット『内部被曝』の内容を一歩進めるものに取り組んでいるところですが、今年は多方面にわたって書きためてきたものを形にしていきたい。
とくに昨年12月の台湾におけるアマミュージアムの完成にあわせて、これまでの僕や京都の友人たちによる台湾のおばあさん達への関わりをまとめておこうと思います。
おばあさんたちの尊厳を守ること自身が、戦争への流れを止めることにつながると強く感じてのことです。

さらに今年はぜひとも、我が師、宇沢先生が説かれた社会的共通資本の理論を力強く展開せねばと痛感しています。
昨年末に京都市内で「トランプ「勝利」ヒラリー「敗北」の謎を解き明かす」という学習会を行いました。現在、世界で起こっているのは、新自由主義のもとでの貧富の格差の極限的拡大と社会の崩壊ともいえるべき事態です。
多くの人々がボロボロになってしまっている。それがウォール街をバックにしたヒラリーへの怒りを形成し、「隠れトランプ派」を生み出して、ヒラリーのまさかの敗北を作り出しました。

もちろんだからといってトランプが、この矛盾の解決に歩みを進めてくれるわけではありません。あれほどウォール街をバックにしたヒラリーを批判していたトランプの政権には、さっそくゴールドマン・サックスの面々が入り込んでしまいました。
しかもトランプの許しがたい差別的言辞は、この間、貧富の格差のもとでどんどん世界的に強まっている排外主義を勢いづけており、世界の各地で、さまざまな衝突が起こりそうな気配が強まっています。

この世界的な対立、戦争や紛争への流れを正すには、新自由主義の根本的矛盾に立ち戻り、対決し、押し戻していくことが必要です。
その際、もっとも確かな理論的根拠を与えてくれるのは社会的共通資本の考え方だと僕は確信しています。
だからそれを展開していきたい。展開しなければならないと思っています。

この他、原子力災害対策の推進・拡大の領域でも今年は大きな飛躍を実現したいと思っています。
昨年1月より篠山市で安定ヨウ素剤の事前配布を行い、全国から注目を集めることができましたが、今年はそれを他の地域でも実現していきたい。
そのための仕掛けをいま、着々と構築しているところです。

こう書き並べてみると欲張りかもしれませんが、ともあれ一生懸命に頑張ります。どうかよろしくお願いします!
みなさんのお力をお貸しください。

一緒に本年を、脱「原発・被曝・戦争」の可能性を大きく広げる年にしましょう!