守田です(20161119 09:00)
10月29日に東京で「放射線被ばくに備えるシンポジウム」に参加しました。
「福島原発行動隊」が主催されたものです。以下に同企画のFacebookページをご紹介しておきます。
放射線被ばくに備えるシンポジウム
http://hr-hr.da-dk.fb.me/events/545783268961228/
パネラーの一人としての参加でしたが、僕にとって悩ましいものでした。メインスピーカーが元川内村総務課長さんで今は環境省福島環境再生事務所に勤務しておられる井出寿一さんだったからです。
事前に主催者側に送られた井出さんのパワーポイントをみると、前半では原発事故当時の川内村の混乱のもとでの避難の苦労が綴られており、後半で村の復興にむけた取り組みが紹介されていました。
その後半部分で井出さんは、年間20ミリシーベルト以下を帰還基準とする環境省の施策に従いつつ、なかなか帰って来ようとしない村の若者たちをいかに説得して戻させるかを課題とされていることを述べられていました。
「これは見過ごせない、反対しないわけにはいかない!」と即座に腹を括りました。多くの避難者の方たちの顔が浮かびました。
しかしパワポを全体としてよく見てみると、そこには突然、ふるさとを奪われた井出さんの悲しみ、そして復興にかけた思いが沸きあがってもきています。井出さんの誠実さもにじみ出ているように僕には感じられました。
井出さんもまた明らかに被害者の一人です。その井出さんが環境省のお役人として帰還を推し進める立場から発言されようとしている。
これに対してどう向い合っていくのか。何をこちら側からの主張の基軸にするのか。ずいぶんと頭を絞りました。
それで年間20ミリシーベルト以下という放射線値がどれほどの健康被害をもたらすのかという点はとりあえず横におき、もっぱら誰もが合意できる法律を軸にして話を組み立て、その上で可能な限りの僕の思いを届ける構成で発言を練り上げました。
今回はこうした準備のもとに当日行った発言をご紹介します。
ネット上に企画の全体の動画がアップされているのでご紹介します。
僕の発言は1時間26分20秒ぐらいからです。
放射線被ばくに備えよう~東京電力福島第一原子力発電所の事故から学ぶ~
https://m.youtube.com/watch?v=h9Kfgyr4H3U
これを見られて、あるいは僕の発言は手ぬるいと思われる方もおられるかもしれませんし、自分でもこれで良かったのかはっきりしていません。
でも今後、こういう機会をもっとたくさんもてたらと思いました。たくさんの方が放射線値高いところに戻っているし戻らされているからです。
さまざまな立場の方たち、とくに政府の安心安全論を信じて、放射線値の高いところに戻られている方たちに、本当に「何が問われているか」をお届けしたいです。
以下、発言の起こしを掲載します。(読みやすくするため多少文言を変えてあります)
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「人々を被ばくから守るために私たちに何が問われているのか」
2016年10月29日 守田敏也
みなさん。こんにちは。守田敏也です。
今日は「人々を被ばくから守るために私たちに何が問われているのか」というタイトルでパワーポイントを作ってきました。
原発政策が抱えてきた矛盾からみていきたいと思います。
さきほど井出寿一さんのお話をうかがっていると、井出さんが川内村から避難しなければならなくなって「村の境界を越えるときに悔しくて涙が出た」ということを語られました。
その時のことを思い出されたのでしょう。思わず声を詰まらせておられましたが、本当に怒りを覚えます。
そもそも東電の抱えてきた一番の問題は、福島原発にしても、柏崎刈羽原発にしても、東電の管外に作っていたことです。だから福島原発は福島にはまったく電気を供給していなかった。
もしも安全だというのならなぜ東京都に作らなかったのでしょうか。安全ではないことを知っていたからですよね。
さらにさきほどの井出さんの避難の際のお話を聞いていて、本当に怒りに震えたのですけれども、実は2009年に東電は福島原発事故で起こったのと同じことを完全にシミュレートしていました。
5分間のビデオにもなっています。今日は時間がなくてお見せできないのですが、そのビデオでは配管破断からメルトダウンが起こることが完全に予測されていて、その際にベントすることが最後の結論になっているのです。
ベントは大量の放射能を外に出すことで、もともと格納容器というのは過酷事故の際に放射能を閉じ込めるのが役割ですから、ベントなどあってはいけないのです。
なおかつそれでもベントをする可能性があるのなら、そのことをあらかじめ周辺の住民の方に言っておくべきだったのです。
近隣住民はその時にどうするのかという対応方法をぜんぜん知らず、そんなことがありうることすらまったく知らされずにあの事故に遭遇したのです。
政府も電力会社も避難計画も作らず、法整備も何もしなかった。原発の危険性があまねく知られてしまうからでした。
そのことを踏まえた上で、僕は今ある放射能がどれほどの危険度があるのか、またどうしたら帰還できるのかという問題で、環境省が出している年間20ミリシーベルト以下を帰還基準にするというのは大きな法律違反だと思っています。
もちろん大きな危険性のある行為であり、そうすべきではないです。
さきほど事前に井出さんとその辺のことをお話し、「井手さんのおっしゃていることと違っていてごめんなさい」とお伝えしたら、井出さんが「どうぞ、ご自由に話されてください」とおっしゃってくださったのでこのお話をしていきたいと思います。
まず原則として国際放射線防護委員会(ICRP)の出しているものをご紹介します。僕は結論的にはICRPの考え方にも批判的なのですが、まずは世界的に常識として受け入れられているものにICRPの「直線仮説」があります。
線量と危険性の相関グラフが直線を辿るというもので、ここには放射線はどれほど少なくとも危険性があることが示されています。
つまり勘違いしてはいけないのは、この国の被ばく許容度である「年間1ミリシーベルト」という数値も安全値ではないということです。「我慢値」なのです。
「電気は有用だからこれくらい浴びても我慢しなさい」というラインが一般人であれば年間1ミリシーベルトであって放射線作業の従事者が年間20ミリシーベルトとなっているわけです。
これは「原子力基本法」第20条に書かれたことなのですが、そこに「別に法律で定める」と書いてあってそれが「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」とされています。
さらにそこにも「第19条1項廃棄基準=文部科学省令で定める」とあって、これらが「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令」「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則」です。
さらにさらに「規則第19条第1項第2号ハ=基準は文部科学大臣が定める」とあり「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」がでてきてその第14条4項にこう書いてあるのです。
「規則第1条第1項第2号ハ及び第5号ハに規定する線量限度は、実効線量が4月1日を始期とする1年間につき1ミリシーベルトとする。」
ずらずらとややこしいですが、ともあれ大事なのは年間1ミリシーベルトを「我慢値」とするということは法律で定められていることなのだということです。
僕自身はこの年間1ミリシーベルトが安全だとは思っていないし、もっと数値を下げるべきだと思っているのですが、しかし「最低限これを守りなさい」という立場でもあります。
ではなぜこの法律が守られていないのかと言うと、実は今、「原子力緊急事態」が宣言されていて、解除されていないからなのです。これが大問題です。
みなさん、そもそも原子力緊急事態が発せられているところでオリンピックなどやるのですか?このことをオリンピックの開催地を決めるときにきちんと言ったのですか?
本当に大問題ですよ。いまは戒厳令状態なのです。この宣言が出ると首相にあらゆる権限が集中して現行法が停止されてしまうのです。僕はそもそもこれは憲法に抵触していると思います。
では緊急事態とは何か。これを定めた原災法第二条にこう書いてあります。
「原子力緊急事態とは原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態をいう。」
このように、この法律が施行できるのは「放射性物質が異常な水準で原発の外にある時」だけなのです。つまりいまは福島原発の周りには「異常な水準の放射能がある」ことを政府が宣言している状態なのです。
さらに原災法第15条4項にはこう書いてあります。「内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言をした後、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、原子力緊急事態の解除を行う」
その意味では帰還は、緊急事態宣言を解除できるところまで政府が努力をしたのちに始めるのが法律上の原則です。
それではなぜ政府はいま、安全をうたいながら緊急事態宣言を解除しないのかというと、もし解除すると線量限度は年間1ミリシーベルトになります。それ以外の数値には法的根拠がないのです。
そのためにこのように帰還が進められるといつまでも緊急事態宣言が解除されません。なぜなら例えばさきほど先に発言された神奈川の竹岡さんから、いまだに横浜市栄区のある公園で0.6μSv/hという放射線が計測されるとのお話がありました。
この数値は放射線管理区の値と合致します。この地域では飲食をしてはいけないのです。寝てもいけないのです。18歳未満の人は就労してもいけないのです。それが横浜にある公園のレベルなのです。
だからいま、緊急事態宣言を解除すれば、その公園のある地域の人々も避難させなければならなくなります。避難地域に該当するのは福島県だけではまったくないのです。
続く
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