守田です。(20151205 10:00)

昨夜の続きを書きます。

フランスやロシアが参戦する以前の7月末から空襲を開始したのがトルコでした。もともとISとはそれほどの敵対関係になかったトルコが参戦した理由は、ISとの戦闘の前線に立ったクルド人武装組織をアメリカなどが後押しししていたからです。
さらに国内事情も大きく絡みます。首相から大統領へと任期が長期化し、専横を強めていたエルドアン政権が6月の総選挙で敗北、単独で政権を作れなくなってしまいました。このとき大きく躍進したのが、クルド人を主体とした新たな政党でした。
この政党はクルド人の問題だけでなく、エルドアン大統領の反民主主義的な政策全体を批判したため、クルド人以外のトルコの人々の支持を集めることにも成功し、大きな躍進を遂げました。
これに対してエルドアン大統領は、国内の右派を糾合し、クルド人との対立を先鋭化するためにもクルド人武装勢力への攻撃を強めだしました。ISへの空襲はそのだしに使われたような感があり、攻撃の大半は対クルド人勢力に向けられました。

こうしたトルコの参戦に黙っていられなくなったのが、かつてこの地域を線引きして分割したロシアでした。ちなみにこの頃のロシアはその後の1917年に革命が起こり、ソ連邦へと変身を遂げました。革命政権はサイクス・ピコ秘密協定を暴露しました。
しかし一言で片づけるにはあまり大きな歴史ですが、このとき世界中の被抑圧民の団結を訴えたソ連邦はやがて内部対立から恐ろしい粛清国家に変わってしまい、周辺国を衛星国家化するあらたな抑圧者に変貌しました。
その旧連邦が倒れたのも、1979年からのアフガニスタンへの軍事介入故でした。アフガン戦争は20世紀の中で世界中からムスリムの武闘派が集まり、巨大権力と立ち向かう初めての戦場となったものでした。
このとき、ソ連邦との対立から、この「ジハード」のために集まったムスリム武闘派に武器を与え、訓練を施した国こそアメリカでした。こうしてムスリム武闘派はアメリカ流の軍事思想を身に着け、やがてアルカイダなどに成長していったのでした。

さてロシア自身は今回、ソ連邦崩壊の過程でアフガンから撤退して以降、自国やかつてのソ連圏内部にとどめていた軍事展開を大きく踏み越える戦闘に参加しだしました。
空襲には戦闘爆撃機だけでなくカスピ海に配備されている最新鋭艦からの巡航ミサイルの発射も含まれた猛烈なものとなりました。
なぜロシアが軍事介入したのか。直接的にはアサド政権に長らく批判的で、トルコに近い反政府武闘派をトルコ政府が支持しているからでした。そのトルコが軍事介入することでバランスが大きく崩れ出しました。
さらに大きいことはトルコの参戦がアメリカとの合意のもとに実現したことでした。ここにはトルコ軍によるクルド人勢力への攻撃の黙認も間違いなく存在しており、トルコ軍の参戦はアメリカのこの地域への支配力の伸長を物語るものでした。

もともとロシアはソ連時代からシリア政権と軍事的な協力関係を結んできました。中でも重要なのはシリアがロシアに軍港を提供していることでした。ロシアにとってこれは自由に地中海から大西洋へと出ていける唯一の港です。
さらにそもそもロシアはウクライナ情勢でも欧米との緊張関係を孕んでいます。2014年2月にクーデタによって成立した現ウクライナ政権は欧米よりです。
これに対してロシア軍はクリミアだけは渡さないと即座に軍事行動に移り、クリミアを占領してしまいました。ここにもロシアの軍港があること、またクリミアは長くトルコとロシアの奪い合いの地であり、「愛国心」を刺激する地であったためでした。
こうした一連の情勢の変化の中で、ロシアは自らの軍事的プレゼンスを大きく押し広げることを目指したのだと思われます。そのためにこれまで実戦で使ったことのなかった最新鋭兵器を次々と投入したのです。

これに対して巡航ミサイルも戦闘機も持っていなくて、トヨタのピックアップトラックに銃をつけて走り回っているだけのISは、各国の支持者に攻撃指令をだし、殺人作戦を始めました。それが唯一の反撃手段だからです。
10月3日にはバングラディッシュでなんと日本人が殺されてしまいました。十字軍に日本が参加したからだと言います。これはISにシンパシイを持つ団体の行動とされています。ISはさらにバングラディッシュでの日本人殺害を宣言しています。
さらに10月31日にはエジプトを発ったロシアの旅客機が空中爆発を起こして墜落しました。ISが実行声明を出しました。当初ロシアは否定していましたが、その後に何者かによる爆破であったことが否定できなくなりました。
そうして11月に入り、13日にパリで130名以上が殺害される大規模な攻撃がなされました。これもまた実行者が身体に爆弾をまいた特攻攻撃として行われました。

翌日からフランスが報復爆撃を開始。空母シャルル・ドゴールまでもが投入されました。旅客機墜落を爆破によるものと認めたロシアもさらなる猛爆撃を開始。戦略爆撃機Tu160(欧米での呼び名はブラックジャック)を投入しました。
この際には爆撃機から空中発射される最新鋭型の巡航ミサイルKh-101も投入されました。かつてアフガン戦争、イラク戦争はアメリカの武器の「見本市」などとも言われましたが、ロシアもこれ見よがしに戦闘力を誇示した攻撃を拡大しました。
これに黙っていられなくなったのがトルコでした。ロシア軍機が領空侵犯を繰り返したことに対し、24日にトルコ軍がF16戦闘機を発進。わずか10秒程度の侵犯を行ったとされるロシアのTu24戦闘爆撃機を撃墜してしまいました。
これにロシアが猛反発。矢継ぎ早に経済制裁を発動し、トルコに謝罪を迫ると同時に、そもそもトルコがISから石油を密輸しているという大批判を開始。証拠として多数のタンクローリーの衛星写真を公開しています。

さて前後しますが、こうした中でトルコでも10月10日に反戦集会の場で爆弾攻撃が行われ、集会参加者100名以上が殺されてしまいました。
この事件には不可解なことがたくさんあります。集会がトルコ政府を批判し、クルド人武装勢力とトルコ政府の和解を求める平和的なものだったからです。
トルコ政府はただちにISの攻撃と断定し、実行者の遺体を回収したと発表し、クルド人の関与まで匂わせましたが、100人が殺害された特攻攻撃で遺体がそんな形で残っているのでしょうか。また「戦果」を必ず誇るISが声明を出していません。
これらのことからトルコの中では、政府がこの爆破を仕組んだのではないかと言う強い批判が飛び交っています。その後の再選挙でエルドアン政権側が勝利したため一層、疑惑が深まっています。

このように見てきた中で特筆すべきことは、どこでも殺されているのは圧倒的に市民であり、住民であり、非戦闘員だということです。空襲ではもっぱら女性、子ども、老人が犠牲になります。
ロシアは1500キロも離れたカスピ海や空中から100発以上の巡航ミサイルを放っていますが、そんな遠くから機敏に攻撃をかわしているISをピンポイントで殺害できるのでしょうか。できるわけなどない。殺されている過半は逃げ場のない市民です。
繰り返しますが、「地上軍投入でなけれなISをやっつけられない」ということは、空襲で殺されるものの多くが戦闘員ではないうことです。この虐殺を一刻も早くやめさせなければなりません。
これに加わっているのはアメリカ、トルコ、ロシア、フランスとシリア周辺国です。さらに12月3日からはイギリス軍までが加わってしまいました。その上、ドイツまでもが派兵を表明しています。

この軍事攻撃でかりにISが掃討できたとしても、ISにかつてのフセイン政権下のイラク軍人が多数参加していると言われるように、また新たな武闘派が台頭するだけでしょう。
そもそもフセインの旧イラク軍も、もともとはアメリカがイラン革命の影響をおさえるために背後から支え、育て、地域覇権勢力として伸長させたものだったのでした。
今もアメリカはアサド政権と戦う武闘派を「反体制派」と銘打って援助していますが、それがいつ「イスラム過激派」に転化するか分からない。「イスラム過激派」とはアメリカに牙を向けるようになったイスラム武闘派を指す言葉です。
同時に見ておくべきことは、こうした武闘派が多くの場合、アメリカの直接的・間接的な関与のもとで生まれてきたことです。だからそれは伝統的なイスラム主義から生まれたのではない。むしろ欧米化したムスリムこそがもっとも過激なのです。

問われているのはこの流れに逆行するムーブメントを世界各地から広げることです。そのために空襲は民衆を巻き込み、それどころか日本空襲でも明らかなようにもっぱら民衆を殺りくするものであり、明確な戦争犯罪だということを告発することが大切です。
全ての国に、即刻戦争犯罪を止めることを訴えていきましょう。そのためにアフガン戦争、イラク戦争の侵略性、非人道性を再度、クローズアップしていく必要があります。
その上で、すべての戦争の犠牲者を悼み、報復では何も解決しないこと、軍事戦闘こそが、絶え間ない暴力の拡大を作り出している元凶であることを訴えましょう。
平和のための行動を強化しましょう。そのためにこそ戦争法に反対し、抵抗し、沖縄の人々を支え、辺野古を守りましょう。その努力の一つ一つが暴力化の逆の風を吹かせて行くものになると僕は信じています。

終わり

以下は講演情報です。

戦争法について
講師 守田敏也

12月5日午後6時から8時
場所 西成民主診療所
〒557-0034 大阪府大阪市西成区松2丁目1?7
http://byoinnavi.jp/clinic/54611

主催 たちばな9条の会