守田です。(20141114 23:30)

川内原発再稼働について、昨日、鹿児島県伊藤知事の記者会見への批判を書きました。
その中で九州電力が、設備の根本を抜本的に変えるのでもない付け足し的な対策で、想定外の事故であるメルトダウンが起こっても格納容器を守り、福島原発事故の約2000分の1に放射能漏れを抑えると豪語していることを紹介しました。
これを原子力規制委員会が「絶対に安全だとは言わないが」などと言いつつ受けてしまい、さらに伊藤知事が追認してしまったことを明らかにしました。こんな重大な決定が、誰もが最後の責任を回避しながらまかり通ろうとしています。
福島原発事故でこれまで誰一人逮捕されておらず、東電に対して税金を使った救済ばかりが行われるのをみて、これらの人々は「責任などとらなくても良い。罰せられることもない」と学習してしまったのでしょう。しかしそのことでもっとも大事なものを私たちの国は失う危機に直面しています。

福島原発事故のとき、日本列島に住んでいる私たちは原子炉から放出されたすべての放射能を浴びずに済みました。原発から出た放射能の多くが地上に落ちずに洋上へと流れて行ったからです。
もちろん関東、東北を中心に大変な被曝が発生したし、洋上に流れたものの一部もまたハワイやアメリカを激しく汚染し、海も深刻に汚染してしまったわけですから、心からいたましく申し訳ないことであり、「幸い」などとは絶対に言えないことではあります。
しかし川内原発が事故を起こしたらどうなるでしょうか。毎年列島を訪れる台風の進路などを考えれば分かるように、鹿児島で吹き上げられた放射能はその大半が日本列島を横断していくことになります。洋上に落ちたものも、黒潮や対馬海流にのって列島を囲むように流れていきます。
川内原発事故はもっとも大量の放射能を日本列島に飛来させる可能性があるところに位置しているのです。台風だけでなく、毎年中国大陸から飛んでくる大量の黄砂を考えても分かります。そうなると私たちの国の山々や大地は福島原発事故をはるかに上回る放射能汚染を被る可能性があります。

そのとき私たちが失うのは日本列島にたくさん存在している美しい森林に支えられた自然です。現在国土にしめる森林面積は67%。世界平均約30%に対してダントツの割合ですが、福島原発事故が教えたように森林ほど汚染されたときにやっかいなものはない。
もちろん除染などできないしさまざまに濃縮が起こって汚染がより深刻化してしまいます。それがどれほどの損失になるのか、私たちは今一度、深く考え直す必要があります。
私たちの国の森林は四季の影響で常に顔色を変えていく特徴を持っています。古来よりこの列島に住んだ人々は、四季折々の美しさを多様な形で表現してきました。その一例として俳句では「山笑ふ(春)、山滴る(夏)、山粧ふ(秋)、山眠る(冬)」と詠まれてきました。
この山と森の美しさは、日本列島が南北に長く幾つかの気候帯をまたいでいることにも関係があります。日本海側と太平洋側でも著しい気候の違いがあり、木々をはじめ生物の種類を豊かにしているのです。

このため山々には常緑樹と落葉樹、広葉樹と針葉樹が混交しています。南から北、西から東へと目まぐるしく様相が変わるだけでなく、高度によっても木々の分布が変わってくる。このため山々を登っているだけでも実に多様な木々に出会えるのです。
さらにアジア大陸のヒマラヤ山塊をまわってくるジェット気流が私たちの国土に、たぐいまれな状態を作り出しています。一つは冬に北西風が激しく吹き、日本海から蒸発した水分をたくさん含んだ雲が到来するので、豪雪が降ることです。
これらの雪は山々に雪渓を作りますが、実は私たちの国が位置する緯度帯でこれだけの雪渓が作られる国はほとんどありません。極めて珍しい現象なのです。この雪渓が巨大な天然のダムとなり、春から夏にかけて麓に潤沢な水が安定的にもたらされます。そのために日本海側にたくさんの米どころが形成されてきたのです。
反対に太平洋側にはやはりジェット気流に乗って夏に繰り返し台風がやってきて、列島を横断して膨大な雨を降らせていく。この大量の水が植物をよく繁殖させますが、冬と夏で降水量が反対になるため、日本海側と太平洋側で大きな植生の違いが生じてきました。それが作物の多様性も支えてきました。

ちなみにジェット気流は、ヒマラヤ山塊からたくさんの高山植物の種子をも運んできます。このため日本の山々にはやはりこの緯度帯のこの高度では見られない貴重植物もたくさん生息しているのです。
さらに気候帯も沖縄などの亜熱帯から、本州では西側の暖温帯と東側の冷温帯が中部山岳地帯で重なり合いつつ連続的に分布しており、さらに北海道には亜寒帯も見られます。一方で瀬戸内には雨が少ない内陸性気候的な地域も広がっています。
これらがそれぞれに違った植物を生息させ、多様な生物の住処を与えるため、山にも里にもものすごく膨大な種の昆虫が発生し、チョウやバッタなどがさまざまに飛び交います。
とくに春先に、一斉に木々が芽吹くと同時に昆虫が発生するので、鳥類に子育ての最高条件を与えることになるため、ものすごく多様な種が発生するし、さらに海の向こうからも渡ってきます。たくさんの芋虫たちがひな鳥の成長とともに大きくなってくれるためです。春先の賑わいはこの生命連鎖が作りだしているものです。

こうした動植物が生息しやすい条件は、先にも触れたように私たちの国の農の営みにも大きく貢献してきました。何よりも生物にとってもっとも大切な水が豊富に降ることが大きい。そのもとにさまざまな種の命が発生できることが大きい。
ただしそのためにこの列島に住まうには、古から自然を大事にし敬虔な気持ちで手当をし続ける必要がありました。私たちの国土には膨大な雨が降るため、洪水が起きやすく川も氾濫しやすいのです。一方で一気に山から海まで水が駆け降りてしまうため、瀬戸内に顕著なように渇水も起こりやすい。だからこそ私たちの先祖は歴史的に営々たる植林を行ってきたのでした。
さきに私たちの国土の森林面積は現在では67%と書きましたが、こうした自然=神々への敬虔な気持ちを忘れ、自ら「神国」と名乗って戦争にあけくれた第二次世界大戦末期には50%を切ってしまっていました。森林が乱獲されたためですが、そのため戦争で焼け野原になった私たちの国は、直後に繰り返し大変な洪水にも襲われたのでした。
ではどうして森林は回復してきたのか。主要には荒れた山々をもとに戻すために、山里の人々が営々たる植林を行ってくれたからです。このもとで私たち国の山と森はだんだんに再生してきたのでした。

その後に続いた高度経済成長はこの森林の再生に大きな恩恵を受けました。なぜか。工業は膨大な水を必要とするのだからです。例えば中国では急速な工業化のもとで水を使い過ぎてしまい、黄河が毎年何日も干上がって問題化しています。各地で深刻な水不足が発生しています。
そればかりか上流域でどんどん砂漠化が進展し、首都の北京などが毎年大変な砂塵に襲われてしまっています。現在の中国の森林面積の割合は18%しかない。このことが中国の抜本的な危機であるとすら言われています。
もっとも日本の森林も、この間、山里への感謝を忘れたままに迎えた林業の衰退を大きな背景としつつ、松枯れ現象やカシノナガキクイムシの北東への移動によるナラ枯れの進展などで集団枯損が発生し、各地で疲弊を深めており、けして楽観できない状況にありました。
実は僕自身は福島原発事故以前は、このナラ枯れ対策で主に京都付近の山々を駆け回っていました。しかし原発事故以降、森林保護活動にまったく手が回らなくなってしまった。美しい自然を守り、次世代に引き継ぎたいと願って友人たちとナラ枯れと格闘していたときに、膨大な放射能が山河に降り注いでしまったからです。

その点で僕は関東、東北の山々のことも本当に心配です。ナラ枯れは日本海側を駆け抜けるようにして北上し、東北山脈を越えて、太平洋側へと入りつつありました。
東北は日本の近代化のために森林資源の大供給地とされ続けてきたため、実はナラ類の純林が多い地域です。純林は害虫被害などに弱い森林です。「だから対策をしなければいけない。そのために東北の山林にいきたい。」
そう考えて、実際にコナラが5000本もある東北大学植物園の素晴らしい森に入り、研究者の方とも出会えて、今後の関わりの展望を作り出しつつあったのが2010年の秋でした。
しかしその関東・東北の山々にあろうことか膨大な量の放射能が降ってしまったのでした。

森林はどうなっているのだろう。動植物はどうなっているのだろう。ごくごく一部の研究者たちがチョウ類に影響が出ている兆候をつかんで研究発表し、警鐘を乱打してくれています。
また東北のオオタカに激しい被害が出ているというハンターの方たちからの情報を得たこともあります。しかし国は何らの対応も研究もしようとしていない。山と森はほったらかしにされたままです。
もちろん、そもそも人間に対してもまともな被曝防護がなされておらず、対策の不備どころか調査そのものが回避されており、動植物のことなどは二の次三の次の状態です。
私たちとしても当然にも人を救うことを最優先せざるを得ない。いやそれすらもとてもではないけれども手が回っていない厳しい状態です。

しかし大自然は私たちの生きる土台です。まさに私たちの命の源である社会的共通資本なのです。だから自然が可哀想だとかいうことではなくて・・・いや確かに胸が痛くなるほどに可哀想であり、申し訳ないのですが・・・このままでは私たちの生きる基盤がじわじわと崩れていってしまいます。
私たちの国の自然力は一見、あまりに強いので、山々はほおっておいても木々を復活させてくれるかのごとき錯覚が生じてしまいますが、そんなことは断じてない。実際、戦争のときも山々が疲弊し、その後に大規模水害が多発したのです。
今、私たちに必要なのは、関東・東北の人々を救うことをより進めることを大前提にですが、もともと疲弊を強めていた日本の山と森と、そこを守る山里の人々への手当てをすることであり、放射能の被害を調べて可能な限りの対策を試みていくことです。
しかしそんなときに九州で原発事故が起こり、台風が通過していくように日本列島が放射能汚染にまみれてしまったらどうなるのでしょうか。私たちの国はもはや立て直すポテンシャルを失い、崩壊してしまうのではないでしょうか。

いやその可能性が非常に強くあるのです。だからこそ私たちは川内原発のことを、たとえ遠くに離れていると感じても「九州のはてのこと」などと思うことは絶対にできないのです。遠いどころか台風など、1日で関西、関東、東北にまでやってきて北海道に抜けていくこともあります。
私たちの国に多大な恩恵をもたらしてきてくれて、雪渓や高山植物など、世界でもまれな自然条件を私たちに与え続けてくれたジェット気流が、今度は放射能を運んでしまうことになるのです。そうなったら絶対絶命です。
にもかかわらずこれほど重大な危機が隠されている原発の再稼働が、誰も本気で責任をとろうとしない人々によって、今、進められようとしているのです。
これに対し、九州の方たちが本当に素晴らしい頑張りを続けて下さっいます。ここに全国各地からかけつけて奮闘してくださっている方たちもたくさんいます。何より現場のこの奮闘を私たち自身の命を守るものであることを肝に銘じて連帯していきましょう。思いつく限りのすべてのことをしましょう。

日本列島に住まうすべての命を守るために、社会的共通資本としての自然を守るために、熱く連帯して頑張りましょう!!