守田です。(20141115 23:30)
今宵も川内原発再稼働問題について論じたいと思います。
今回は原子力規制委員会の火山活動への評価があまりにもデタラメであること。火山の専門家からの提言をまったく無視したものであって、審査を即刻取り消すべきであることを論じます。
川内原発再稼働への無責任な認可を出した原子力規制委員会に対して、火山の専門家である日本火山学会が真っ向からの批判を行っています。
11月2日、同学会は、原発を火砕流を襲うような巨大噴火について、事前に予知が可能であり、燃料棒を安全に運び出すことができるという九電の見解を認めた原子力規制委員会の審査の見直しを求める提言をまとめました。
委員長の石原和弘京大名誉教授は「火山噴火の予測に限界があることを国民に対しても知らせないといけない」とも語っています。
火山学会「予測限界ある」、原発の審査基準見直し提言
朝日新聞 2014年11月2日
http://www.asahi.com/articles/ASGC2671GGC2ULBJ00T.html
これに対して原子力規制委員会の田中俊一委員長は5日の記者会見で「不快感」を表明。「もっと早急に発信すべきだ」「今更そんなことを言われるのは本意ではない」などと述べました。
さらに「火山学会をあげて夜も寝ずに観測して頑張ってもらわないと困る」などとも発言しています。
「火山学会は夜も寝ずに頑張れ」田中氏が不快感
読売新聞 2014年11月6日
http://www.yomiuri.co.jp/science/20141105-OYT1T50192.html
田中氏のこれらの発言は、誠実な提言を試みている日本火山学会を愚弄するものであり、科学の冒涜そのものです。何よりもこのことをおさえておきたいと思います。
私たちは決然として政府批判に踏み切った日本火山学会の提言を熱く支持し、かつ同学会の科学者たちを守っていく必要があります。
これまで原発推進側にまわった多くの科学者たちが、いわゆる「御用学者」として、不誠実で無責任な態度をとってきたのとは雲泥の差があります。学会として政府の無謀な政策を諫めようとしている姿勢を力強く後押しする必要があります。
まず田中委員長が知るべきなのは、同学会に集う科学者たちは、けして「今更に」批判を掲げだしたのではないということです。
たとえば同学会の重鎮であり、気象庁の火山噴火予知連絡会会長を務める藤井敏嗣・東京大学名誉教授は2014年8月10日に配信された東洋経済ONLINE上において「規制委の火山リスク認識には誤りがある」と明確な批判を展開しています。
「規制委の火山リスク認識には誤りがある」
東洋経済ONLINE 2014年8月10日
http://toyokeizai.net/articles/-/44828
ぜひ全文を読んでみて欲しいですが、要点をあげると、まず現在の火山学では「噴火を予知できるのは、せいぜい数時間から数日というのが現状」だそうです。
それどころか予兆が把握できないままに噴火にいたった例もあると藤井さんは述べています。もちろん数日前に予知できたとしても、燃料棒は運転している原発をとめてから十分冷えなければ持ち出せないのですから、取り出すことなど絶対にできません。
また「いくつかのカルデラ火山をまとめて噴火の間隔を割り出すという考え方自体に合理性がない。一つの火山ですら、噴火の間隔はまちまち」との指摘もあります。これも九電が大噴火は過去に何万年の間隔があったから今は大丈夫としている点への批判です。
規制委員会がモニタリングが可能だとしている点に関してもこう述べています。
「モニタリングで巨大噴火を予知する手法は確立していない。そもそも、南九州のカルデラ火山の地下でどのくらいのマグマが溜まっているかの推定すら、現在の科学技術のレベルではできない。」
また噴火が比較的軽微で火砕流が到達しない場合でも、どのような砕石が降ってくるか分からず、海岸にびっしりと軽石が降って、原発が取水できなくなる可能性などもあること、にもかかわらず規制委がこうした多様なケースを想定していないことも指摘しています。
その上で藤井さんは再稼働について次のように提言しています。
「科学的に安全だから動かす、という説明をするのであれば、明らかに間違いだ。そのように述べたとたんに、新たな安全神話が作り出されることになる。
わからないことはわからない、リスクがあるということを認識したうえで、立地や再稼働の是非を判断すべきだろう。」
こうした藤井さんの見解は東京新聞も9月10日の紙面で取り上げています。
分かりやすくコンパクトにまとめられた記事ですのでご参照ください。
なおこの記事のコピーをドロップボックスにあげてくださったのは川内現地にたびたび足を運び、再稼働を止めるために奮闘してくださっているFoE JAPANの満田夏花さんです。
火山の危険軽視 「予知可」科学的根拠なし 再稼働「安全神話」の復活
東京新聞 2014年9月10日
https://dl.dropboxusercontent.com/u/23151586/tokyo_140911.pdf
さてこのようにこれまでも火山活動が予知できるとする九電を追認した原子力規制委員会に対して、火山学者の方たちが懸命に諫めてきてことは見て通りなのですが、さらに11月2日の提言にいたったのには大きな背景があったと思われます。
それは何か。本年9月27日に御嶽山が噴火を起こしたこと。噴煙や噴石が飛び散り、10月23日の確認で死者57名、行方不明者6名という痛ましい大惨事が起こったことです。
この時も噴火は予知できなかった。正確には微動は把握されていましたが登山禁止などの判断にいたることはできずに大事故が起こってしまったのす。
このことで火山噴火予知連絡会をはじめ火山学者たちは大きな社会的バッシングを浴びました。
例えばその先方に立ったのは、日ごろ原子力行政に対しても鋭い批判を繰り返している中京大学の武田邦彦教授でした。
武田さんは原子力推進派と火山予知連を串刺しにしたうえで「「50歳以上の男性の不誠実」はどこまで続くのだろうか?」と指弾しました。
唖然とする指導者の姿・・・御嶽山、もんじゅ、そして原発
るいネット 2014年10月15日
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=296602&g=132107
これは予知連会長の藤井さんが「どうして確実な予知ができなかったのか」と問われた記者会見の場で、ややニヒルに「われわれの予知レベルはそんなものなのですよ」と答えてしまったことなどにも由来している批判です。
しかしこのとき僕は、火山噴火問題、予知のあり方を調べて、日本火山学会が置かれてきた現状を知り、藤井さんをはじめ、火山学会の方たちが気の毒に思いました。
端的に私たちの国は、世界で一番火山が多いのに、政府が火山学に関する予算をどんどん減らし、学会の存続が危ぶまれるほどになっていたからです。このことは2010年に共同通信が報じています。
つぶれる?地道な観測 イタリアは重点投資
47ニュース 2010年9月29日
http://www.47news.jp/47topics/jitsuryoku/9-2.html
ここでは次のような指摘が行われています。「「40人学級」。国内の火山観測に携わる大学研究者の少ない実情を指す言葉だ。公務員削減で教員ポストも減り、この10年で博士号取得者は半減。「学級崩壊が近い」と嘆く声も出る。」
日本の活火山は108と世界の1割を占めるのに研究者は40人。さらに「文部科学省は08年、大学が観測する33火山のうち、活動が盛んとした16火山の観測を強化する一方、残りの17火山は各大学の裁量に任せることにした」とあります。
日本の火山研究はまさに自民党によって削減され、衰退の一途を辿ってきたのです。イタリアが600人に充実させ80年代から基礎研究に毎年10億円を出してきたことに対して日本の大学への支出は毎年6000万円でした。
この記事は最後に藤井さんが次のように警鐘を鳴らしていたことが紹介されています。
「国のどこでも地震や火山噴火の恐れがある先進国は日本だけ。特殊事情を踏まえた投資をしないのはおかしい」
まさにその通り。私たちの国は以前から現実の危機への対処は「金にならないから」と削減し、ただただお金儲けばかりに資金を投じてきたのです。津波対策などをないがしろにした福島原発の被災もその象徴の一つとしてあります。
にもかかわらずこうした正論はまったく顧みられず、日本火山学会は予算を削られながら細々と人々を噴火から守るための研究を重ねてきたのでした。
その中で御嶽山噴火が起こった。するとこれまでも「火山噴火の正確な予知などできない」と繰り返し語ってきた藤井さんをはじめとした火山学者たちが猛烈な批判を受けたのでした。
そうした痛ましい経緯をみるとき、日本火山学会の方たちは、今度こそ噴火の予知などできないことをこの国の人々にきちんと伝えねばならないと考えて、今回の提言に踏み切ったのだろうと推測されます。
これに対して、原子力学会会長を務めるなど、原子力村の中を生きてきて、日本でもっとも潤沢な資金を使いながら、もんじゅの失敗に顕著なように、国を危うい方向にばかり導いてきた一員である田中委員長が暴言を持って罵倒している。
「火山学会は夜も寝ずに頑張れ」とすら公言している。これはあまりにひどい。ここには福島原発事故への責任感などまったく持っておらず、ひたすら政府にすり寄って潤沢な資金にまみれながら平気で科学を裏切り続けてきた御用学者と、乏しい資金の中で研究を続けつつ、誠実に科学の道を生きようとしてきた人々との際立った差が浮き出ています。
その意味で今回の事態は、科学を愚弄する御用学者に対し、誠実な科学者たちが人々を守るために蟷螂の斧で抵抗している姿でもあることを踏まえ、私たちは日本火山学会とともに原子力規制委員会に審査書の破棄を求め続けていく必要があります。
原子力規制委員会の酷いあり方には腹が立つばかりですが、しかし一方で火山学会は良心的な科学者がまだまだこの国に存在することを示してくれてもいます。
いや福井地裁における大飯原発再稼働の停止を命令した判決を出した裁判長など、多くの人士が今、無責任大国ニッポンのあり方と決別し、まっとうな歩みを開始しています。
まさにその中に川内原発の再稼働問題が位置しています。だからこそ私たちはさらに連帯を強め、声を大きくして、再稼働反対を叫んでいこうではありませんか。日に日に真っ当な意見が増えていることをしっかりと見据え、さらに頑張りましょう!!
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