守田です。(20141113 23:30)

川内原発の再稼働に向けた動きが過熱しています。
11月8日、鹿児島県の伊藤知事が記者会見し、国のすすめる再稼働の動きに同意することを表明、10日には経産省を訪れ、宮沢洋一経産省と会談しこの点を報告しました。
すでに多くの方々が声を枯らして指摘してきたように川内原発はさまざまな点でとてもではないけれども安全性を担保したなどとは言えない状態にあります。再稼働など絶対にすべきではありません。にもかかわらず政府は強引に再稼働を突き進もうとしており、鹿児島県伊藤知事も全面的にこれに従っています。
そればかりか、伊藤知事は県議会で同意を表明した後の記者会見で「川内原発が事故を起こしても命の問題は発生しない」というとんでもない発言を行いました。重大な暴言ですので、当該部分を文字起こしした上で批判を試みたいと思います。なお問題部分は記者会見の24分46秒ぐらいからです。

(全録)川内原発再稼働 鹿児島・伊藤知事が記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=NgCEZs4dvQA

「何よりも実は避難するのに相当の時間的余裕があります。これは今回の規制委員会の審査を受けて合格した原発がどういう形でそのあと炉心等々が変化するのかと時間軸で追っていくと実はけっこう時間があるのでそういう意味でゆっくり動けばいい。
はたまたもう一つは、実は、ちょっと専門的な話になって恐縮ですが、ようするに今回の制度設計というのは100万年に1回の事故を想定するわけですよね。そしてそのときは100テラベクレル。
それが同じ条件で同じうような事故が川内に起こった時にどうなるのかというのは実は5.6テラベクレル。そうすると炉心から5.5キロのところは毎時5μシーベルトなのですよね。
5μシーベルトというのは20でもって初めて避難ですから動く必要がない。家の中にいてもいいし、普通に生活していても良い。そのレベルの放射能しか、人に被害が起こらない。5μシーベルトというのは一週間ずっと浴び続けていて胃の透視の3分の1ぐらいの放射能ですね。
実はそこまで追い込んだ制度設計をしているので、時間もあるし、避難計画が実際にワークする、そういうケースもほとんどないだろうし、それがたぶんあと川内原子力発電所10年、そうすれば止まるかもしれませんが、において考えるとだいたいそれでカバーできるのかなと内心思っております。
したがって同意の範囲も、従来のスキームで良いと。ありとあらゆる、今まで、議論をしてきました。立地の市、ないし県は。相当な知的集約もあります。
それを一律に拡大すると、きわめて原子力発電所に対して理解の薄いところ、知識の薄いところで一定の結論を出すと言うのは、必ずしも我が国の全体をまとめる上において、錯綜するだけで、懸命なことではないと私は思うのですよね。」
これはあまりにひどい!

知事がどのシミュレーションを持ちだして語っているのか、よく分からないのですが、ともあれかりに1時間あたり5μシーベルトであったにせよ放射線管理区域の基準0.6μシーベルトの9倍近くもの値です。
放射線管理区域は「飲み食いすること、寝ること、18歳未満のものを連れ込むこと」が禁じられた場であり、とてもではありませんが「普通に生活していても良い」レベルではありません。
また福島原発事故のリアリティから言えば、にわかに測ることのできないウランが茨城県つくば市で観測されています。α線を出す他のアクチノイドなども検出されており空間線量だけで危険性を測ることはできません。それらからいっても5マイクロシーベルトだったら安全だというのは暴論です。
また九電からもっともお金の落ちる当事者である県と薩摩川内市以外を「きわめて原子力発電所に対して理解の薄いところ」と侮蔑的に断じていることもまったくもって許しがたい暴言です。

ただそれ以上に、多くの方がそもそも川内原発から5.5キロ地点が5マイクロシーベルトになるなどという話はどこから来ているのかと思われたのではないでしょうか。
というのは国がこれまで公表してきたデータをみても、5.5キロ地点が5マイクロシーベルトの被曝ですむなどというデータは出されていません。
原子力規制委は2012年に、全国16原発の「放射性物質拡散シミュレーション」を出しています。発表直後に二度にわたって修正がなされるなど発表の仕方がずさんだったのですが、ともあれ一つの参考にはなります。
具体的には原子力規制委は1週間で100ミリシーベルトの被ばくになる地点が原発から何キロのところに及ぶかを原発の周囲の任意の点をとって表示しています。以下、「マイナビ ニュース」に掲載されたデータをご紹介します。なお川内原発のデータは一番最後に出てきます。

原子力規制委、全国16原発の「放射性物質拡散シミュレーション」マップ公開
マイナビニュース 2012年10月25日
http://news.mynavi.jp/news/2012/10/25/035/?gaibu=hon

データは福島1号機から3号機と同量の放射性物質が拡散された場合と、川内原発の出力に応じたデータをが示されていますが、数値をみるとそれほど大きな違いがありません。
これをみると最も遠い地点で21.0キロまでが1週間で累計100ミリシーベルトになるとされています。最も近い地点では1.5キロまでが100ミリシーベルトになるとされています。単純に24時間で割ると1週間で100ミリシーベルトは1時間あたり595マイクロシーベルトになります。
この場合の計算の仕方も同時に発表されていますが、実はこのデータの出し方もかなり曲者です。というのは7日間といっても原発事故直後の7日間のことではなく、その後の40日間を計測しそれを7日間分に割っているからです。
姑息な計算方法です。風向が変わることなどの考慮があるとしてもさまざまな放射性物質の半減期を考えたとき、最初の7日間がダントツに放射線量が多いからです。その7日で計算すれば当然にももっと圧倒的に高い数値になります。

放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について
原子力規制庁 2012年10月
https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/data/0007_04.pdf

さらにもっと綿密に計算された民間のデータもあります。東京の環境総合研究所が試算してくださったもので、2014年4月19日に発表されています。地元地権者の依頼にもとづき、地形を考慮してシミュレーションしたもので原子力規制庁のものより格段に精度が上回っています。
このデータによると原発から7キロの歯科診療所で1時間あたり294マイクロシーベルトが予測されています。原発に最も近い中学校では202マイクロシーベルトです。
原子力規制庁のデータでは一日のうち16時間は屋内にいて、屋外の被曝の6割になっているなどという計算もあり、単純に1時間あたりの値に24時間をかけることはできないですが、しかしそれでもこのシミュレーションは原子力規制庁の出している値と極端に食い違うことなく、地形に応じた場所による精度を出しているものと言えます。
非常に参考になるデータです。

川内原発事故時 詳細シミュレーション
環境総合研究所 2014年4月19日
http://eritokyo.jp/independent/2014-04-19-sendnainp-pressrelease.html

ところが知事の示したデータは5マイクロシーベルトですからおよそ50分の1~100分の1という大きなズレがあります。
どうしてなのかと調べてみると、このデータは再稼働申請に向けて九電が作り、原子力規制委が鵜呑みにしたデータを基にした解析によるものではないかと推測されます。それが「5.6テラベクレル」という値です。
どういう値なのか。そもそも規制庁は福島原発事故で飛散した放射能の量をざっくりと10000テラベクレルとした上で、新基準では「重大事故」の場合の放出量を100分の1、すなわり100テラベクレルにまで落とすことを求めています。
九電はこれに対して、100テラベクレルどころか5.6テラベクレルになるようにしたと公言したのです。万が一の場合の放射能飛散量を、福島原発事故の約1786分の1まで抑えたというわけです。

僕自身、ここまで細かく九電の申請と原子力規制委員会の認可の中身を追えていなかったので、今回、初めてこのことをつかんだのですが、九電は重大事故対策でもここまで放射能量を抑えられると公言し、原子力規制委がそれを追認したのです。
その場合の核心部分を読んでみると、メルトダウンが起こっても、格納容器は破損しない。あらなた対策で炉心溶解の場合でも格納容器を守ることができると述べられています。
鹿児島県伊藤知事はこの九電の申請と原子力規制委の受諾を無批判的に追認し、その上でおそらくは県で5.6テラベクレルが飛散した場合のシミュレーションを行い、5.5キロ地点で5マイクロシーベルトという結果を得て、記者会見で述べたのだと思われます。
ただしこの県が行ったとされるシミュレーションは、探しても探しても見つけることができませんでした。僕の調査不足かもしれませんが、もしデータが出ているのなら鹿児島県が責任をもって見やすい形で掲示するべきです。

では九州電力は何といっているのか。幾つか抜粋します。

「本設設備の安全機能が失われた場合にも、以下のような可搬設備を活用することにより多様化を図り、安全機能を確保することとしている」
「非常用炉心冷却装置(ECCS)や格納容器スプレイ装置が使用できないことを想定し、重大事故の進展を防止するために、電源供給手段、冷却手段の多様化対策を行っている。大容量空冷式発電機、移動式大容量ポンプ車の設置など」
「格納容器内の冷却手段の多様化、水素濃度低減対策を行っている。本設設備が使用できない場合、今回、新たに設置した重大事故の進展を防止するための設備(注2)を使用して、格納容器スプレイによる格納容器の冷却を行う。(注2)常設電動注入ポンプ、可搬型ディーゼル注入ポンプ」
「可搬型電動低圧注入ポンプ・格納容器下部に落下した溶融炉心を、今回、新たに設置した重大事故の進展を防止するための設備(注2)を使用して、格納容器スプレイによる注水により冷却を行う」
「水素爆発を防止するため、水素濃度を低減する静的触媒式水素再結合装置や、電気式水素燃焼装置を設置した」
「以上の対策により格納容器の破損には至らないことを評価・確認した」

新規制基準に係る適合性審査への取組み
九州電力 2014年7月30日
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0043/6505/data_03-1.pdf

びっくりしました。要するにもともとの設計思想に基づいた「本設設備の安全機能が失われた」場合のことが想定されています。

つまり「シビアアクシデント(想定外の事故)」が「想定」されているのです。この言葉を「重大事故」に代え、あたかも起こりうる事態が設計思想を越えてしまっているのではないかのようにあいまい化しながらも、やはり炉心が溶けるような「あってはならない」事態が想定されています。
くどいようですが、あらかじめ作られた安全装置、「こういうことが起こりうる」と設計者が考えたことが突破されてしまっている。つまり予想外の事態になっている。ところがその先に非常に安直に、つまり「事態はこうなる」と想定した上での対策が並べられているにすぎないのです。
ここに抜本的な矛盾がある。事態は「想定」を越えているのだからどう展開するか分からないのです。何度もいいますが設計者にはお手上げな事態で、どのような事態が起こるか分からないのです。
にもかかわらず、ここでの対策は、まだ炉内を開けられず事故原因もよく分かっていない福島原発でこれまで分かった多少の経験から導かれたものが幾つか並べられているにすぎません。

僕がびっくりしたのは、そんないい加減で場当たり的で、しかも実験によって実際にうまく作動するのかどうかすら確かめられないようなものをもって、格納容器はもう壊れない。だから放射能の飛散量は1786分の1にできると断言されていることです。
さらにそれを原子力規制庁が認め、知事が追認したこともびっくりです。そこまで人々のモラルが崩れているのかと思うばかりです。ただし原子力規制庁は「これで安全が担保されたのではない」と逃げを打っている。知事も「最終的な責任は国にある」と言って逃げている。国は国で、規制庁や地元に責任があるかのごとく言っている。
ようするに誰も「これで本当に安全が確保された」などとは思えていないのです。だから「絶対に大丈夫。何かあったら自分が責任をとる」とは誰も言わない。言わないけれども再稼働に向けて事態を動かそうとしている。本当にモラルが崩壊しています。
ここに見えていることは誰も本当の責任など取ろうとせずに、きわめて安易に再稼働を進めようとしているということです。不都合な事態には一切目を向けない。いや不都合な事態が生じた場合の自己保身だけは考えているのですが、責任などは何も考えていない。

もはや犯罪的だとさえ思えるのは、こうして安易に導き出された放射能漏洩を1786分の1に抑えるという言辞をもとに、鹿児島県伊藤知事が住民を避難させるべき責任をも、そうそうに放棄してしまっていることです。
ここには県民の命を預かる知事としての職務的責任感など一切ない。何かあってもそれは九電、原子力規制委員会、国のせいだと考えていて、自分が判断に加わっている自覚も責任感もない。もちろん県民を守る気概など一切ない。
もちろんこうした姿勢は九電、原子力規制庁、政府が共有しているものです。こんなひどい、無責任な人々がこの国の政治、経済の大きなポストにいまだについていることにこそ私たちの危機があるとも言えます。
このあまりに倫理を欠いた人々のあり方と私たちは対決し、危険極まりない再稼働を止めていかなくてはなりません。

再稼働に向けては、他にも火山活動に対するまったくの過小評価、ここに挙げられた付け焼刃でしかないさまざまな対策ですらまだ全部できているわけではないこと、さらには知事の本当に無責任な姿勢によって、避難計画もまともにできていないなどの問題があります。
いやそもそも理想的な避難計画など建てられようはずもなく、あくまで再稼働をするというのなら、いざというときに多くの人々を見殺しにする形でしか避難ができないこと、すべての人が逃げることができないことを明確にすべきです。
にもかかわらず嘘だらけで進もうとしている。本当にこの国の倫理は地に落ちてしまっている。何せ首相自ら嘘のオンパレードの道を突き進み、閣僚の誰もそれを止められない中で、国がどんどん危機へ、危機へと進んでしまっています。
この状態を変えるのは私たち民衆の力でしかありません。再稼働反対の声をさらに強めていきましょう!