守田です。(20140901 23:00)

8月31日、京都大学にペシャワール会の中村哲さんをお招きし、講演会を行いました。
準備段階で会場の選定からいろいろと迷いがありましたが、最終的に選んだ京都大学法経第4教室のキャパシティぎりぎりいっぱいの約550名が参加してくださいました。
肝心の中村さんの講演もいつもにも増して素晴らしく、大成功のうちに講演会を終えることができました。

この「明日に向けて」での紹介からもたくさんの方が参加してくださり、会場で次々と声をかけていただきました。ありがたいことです。
カンパもたくさん集まり、ペシャワール会にお送りすることができます。本も会場に用意したものの9割が売れました。
ご参加いただいたすべてのみなさん。お力を貸していただいたすべての方々にお礼を申し上げます。
さて肝心の講演内容の中から僕が一番強く感じたことを述べておきたいと思います。
中村さんは講演のつど、アフガニスタンとはどのような国か、そこにどのように関わり始めたのかを語られます。
そのすべてをここに紹介できませんが、今回、あらためて強く感じたのは、現在のさまざまな矛盾や混乱の多くが、20世紀末頃から始まり、ユーラシア大陸に猛威をもたらしている干ばつによるものだということです。

アフガニスタンの国土にはヒンズークシ山脈が広大に広がっています。冬にはたくさんの雪が降って真っ白になる。それが春になると雪解け水を供給し、夏にも雪渓を形成して大地に水を供給し続けてきたのです。
この豊富な水があってこそアフガンの大地が潤い、作物が実ってきたのでした。それはアフガニスタンだけのことではありません。アジアの多くの国々がユーラシア大陸の中央部の山々に降る雪の恩恵を受けてきたのです。
ところがそんなユーラシア大陸を、ものすごい気候変動が襲い続けています。それを「温暖化」と呼ぶべきかどうか、さまざまな異論がありますが、ともあれ膨大な地域で渇水が続いているのは事実です。

水がないとどうなるのか。当然ですがあらゆる生命体が危機に瀕します。そのため人間にとっては飲み水だけでなく食料全般が減ってしまうことになる。飢餓が襲ってきます。
20世紀末、アジアの多くの地域でこの大規模な干ばつが始まりだしました。中でも世界で最も貧しい国でもあるアフガニスタンに壊滅的な被害が出始めました。
中村さんはこのとき、世界の救出を待ち望んだそうです。しかし答えはまったく逆でした。アメリカで起こった911事件を引き金に、当時のタリバン政権がオサマ・ビンラディンをかくまっているとして、絶望的な空襲が開始されたのでした。

僕がこの911事件の後に参加したピースウォーク京都と中村哲さんとの出会いもこのころのことでした。絶望的な渇水に襲われているアフガニスタンに米軍が猛烈に攻め込んで行った時に、心が散り散りになるような痛みを感じながら何ができるかを模索していました。
その時、ペシャワール会が「2000円あればアフガンの10人の家族が冬を越せる」と訴えていることを知りました。
それならば、カンパを集めるために中村哲さん講演会をやろう!そんな呼びかけが、911事件に対して9月30日に「とにかく平和を訴えて歩こう」と始まったピースウォーク京都からなされているのを知り、講演会実行委に参加し、そのままピースウォーク京都に加わりました。

この暮れの講演会は、京都ノートルダム女学院のシスター(当時)小久保さんが会場をお借りするための労をとってくださり、キャパの大きな同大学ユニソン会館をお借りして、2000人参加、カンパ200万円を集めることができました。
単純計算すれば1000家族を養えるお金をペシャワールに送れたことになります。全国で同様のカンパが集まり、それはらやがて小麦とオイルに姿を変え、アメリカの空襲の中、決死隊によってアフガンの人々に届けられました。
万が一、空襲で輸送隊がやられてしまったときのことを考え、3隊に分けての命をつなく物資の輸送でしたが、輸送隊は危険地帯を突破し、すべてをアフガンの人々に届けることができました。

その後、中村さんとペシャワール会は井戸掘りと用水路建設を続けて行きます。渇水で水がないことがすべての悲劇の根拠であるならば、水をもたらそうとの行動です。
この行為に連帯するため、私たちもアフガン戦争やイラク戦争に反対するピースウォークを続ける一方で、毎年、中村哲さんを京都にお招きし、その時々の状況を聞き、その都度、カンパを募って送ってきました。
ペシャワール会に参加しているワーカーの方たちとも交流し、山科在住のペシャワール会農業指導員高橋修さんからもたくさんのことを学び、さまざまな形でペシャワール会を支えながら、アフガンの平和の創造に微力でもなにがしかの協力ができてきたと思います。

今回の中村哲さんの講演でも、かつて広大な砂漠だった地域が、みんなで作った用水路のおかげで次々と緑の大地に変わっていくたくさんの写真を見せていただき、中村さんとペシャワール会が実現している平和の創造に胸を打たれました。
またそこになにがしかの関わりをもててきたことに喜びを感じました。こうした活動こそが争いの元をなくし、平和を創造するものであること。平和は軍事によって守られるのではなく、争いの元を無くす中でこそ作られることが再度、確信できました。
その意味で、中村さんの講演はとても感動的でした。
しかし一方で今回、強く胸に残ったのは、中村さんが繰り返し、アフガニスタン全体は前より一層状況が悪くなっている。こんなにひどい状態はかつてみたことがないと語られ続けたことです。
なぜか。渇水対策として井戸を掘り、用水を作るような活動はアフガン全体としてはごくわずかで、全体としては干ばつが放置されており、2001年のアメリカの軍事侵攻以来の混乱ばかりが拡大しているからです。
実際、この10年間のアメリカを中心とした西洋列強のアフガンへの軍事介入は混乱以外の何ももたらしませんでした。軍閥が割拠して治安は乱れきるばかりであり、その中で結局、外国軍はどんどん撤退を余儀なくされています。

こうした中で、カーブルなどではいわゆる自爆攻撃もかつてない規模で行われているのだそうですが、あまり報道もされていない。
そうして深い谷で各地が隔てられ、中央集権制などまったく機能していないこの国の「首都」、カーブルで行われる政変だけが世界に報道されていますが、最も肝心な干ばつのことは、何も伝えられていないのです。
そうして現実的にはアフガニスタン全体は混乱を深めている。考えてみれば当然のことです。干ばつ対策がなされていない上に、アメリカが軍事介入で国の内側をめちゃめちゃにしてしまったからです。

実はこれは世界の縮図ではないでしょうか。中央アジアを20世紀末から大規模な気候変動が襲い、大干ばつが続いているのに、アメリカを中心とした西洋世界はアフガン戦争、イラク戦争と軍事侵攻ばかりを続けてきました。
争いの元である生活基盤の崩壊には目を向けず、戦乱ばかりを拡大してきたのです。それで平和が作りだされるはずがあるわけがない。むしろ憎しみが憎しみを呼び、あらたな争いが拡大するだけです。
今、イラクで、シリアで、あるいはウクライナで拡大している争いにも根本的には同じことが言えるのではないでしょうか。その中でエキセントリックは主張を掲げるグループが台頭しているのではないでしょうか。

この点でも中村さんが極めて印象的なことを述べていました。「私が見るところ、過激な思想は都会から生み出されます。アフガンの田舎は都会よりも保守的ですが、そのようなところからは過激な思想は全く出てこない」・・・これは非常に重要な点に僕は思えます。
例えば今、イラクでは「イスラム国」というグループが台頭し、アメリカが空襲をはじめています。ドイツもこれまでの紛争未介入という政策を大転換して、イラクの「イスラム国」と闘っているクルド人部隊に武器供与をすると言い出しています。
僕は「イスラム国」がどういう人々か分からないけれども、しかしこれも「都会」の「インテリ」によって作られたグループではないでしょうか。

では都会とはどういうところか。イスラム教の国であろうとも西洋文化が流入してきて、西洋的価値観が混在しているところです。むしろそういうところでこそ「過激派」が生まれているのではないか。
その意味ではあたかも宗教対立かのように報道されている多くの争い、「過激派」と言われる人々の台頭には、むしろアメリカが戦争の中で作りだしてきた価値観が強く影響しているのではないでしょうか。
ではその価値観の中心にあるのは何かと言えば、要するに強ければいいのだ、勝てばいいのだという軍事至上主義です。アメリカにしろイスラエルにしろ、どんなにひどい戦争犯罪を行っても、「強い」がゆえにまったく裁かれないからでもあります。

こういう価値観を否定することこそが世界を救う道であり、平和を創造する道です。
そのためには平和が軍事によって守られるという価値観をこそ越えなくてはならない。
武器を捨ててこそ、真に平和が創造できることをこそ、自信を持って広めていかなくてはならない。
もう一度、話をもとに戻しましょう。今のアフガニスタンや中央アジア、いや多くの世界にもつながっている混乱の大元には気候変動があります。気候変動による食糧危機こそがある。
だとするならば、平和の創造は、干ばつに立ち向かい、食糧危機を乗り越えていくことにこそある。単純な道理です。人類は今こそ、気候変動による大地動乱にこそ立ち向かわねばならないのです。
僕は遅かれ早かれ、こうした主張が世界のあちこちから生まれてくると思いますが、そのためには、世界中で軍事予算を削り、自然災害対策に振り向けていくべきなのです。そうでないとこのままでは人類は滅びます。

軍事兵器はすべて人間を相手にしたものです。高性能のイージス艦は飛来するたくさんのミサイルを感知し、迎撃できるかもしれません。しかしそんなもの、まだ一度だって飛んできたことなどない。
ところが毎年、幾つも襲ってくる台風に対してはイージス艦が何隻あったって、まったく太刀打ちできないわけです。そうして年々、気候変動のもとで大型化している台風こそが、多くの人々の生命、財産を激しく奪っているわけです。
だとすればイージス艦への予算を台風対策にあてた方が圧倒的にたくさんの人々が救われるに決まっている。そうしてそれは、生活の破壊→争いの勃発という回路をも防ぐことになり、平和に二重三重の貢献をもらたします。

渇水対策もそうです。各国が軍事予算をそれこそ中村哲さんとペシャワール会が行ってきたような事業に振り向けるならば、現実的に多くの人々を救うことができるし、争いの根拠そのものをなくしていくことができる。
こうした領域は各国でさまざまにあげられると思います。日本だってそうです。広島の土砂災害ではあっという間に100名近い命が奪われてしまいました。しかも同様の災害が起こりうるところが全国各地に広がっているのです。
これには戦闘機があろうが戦車があろうが何にも意味はない。そんな予算を土砂災害対策に回し、さらに激増している農業被害の補てん、被災者への救援などにどんどん回していくことの方が現実的です。

さらに言えば、自衛隊を大規模に災害救助隊に改編していくことこそ、もっとも有効な道です。そのためには人殺しの訓練を受けてきた兵士たちの精神的リハビリと再教育が必要ですが、どう考えてもこれが最も合理的です。
なぜなら実際にも自衛隊は災害救助の出動だけをしているからです。そうならば迷彩服などいらないしかえって邪魔です。いわんや人殺しの訓練ではなくて、人の命を救う訓練をこそもっと増やす必要がある。
そのためには専用車両や、機材も必要であり、軍事とはまったく切り離してそれらを充実化していく必要がある。そこに日本の高い技術力をつぎ込んでいけばいいのです。

そうして準備ができ次第、積極的に世界に派遣を始める。率先して日本が気候変動にあえぐ世界の人々の救出に乗り出すのです。要するにペシャワール会が行ってきたことを国家規模で行うのです。
そうなればどうなるか。当然にも日本に対する国際的な信用はどんどん高まります。世界のどこの人々でも恩には恩で返す習慣がある。そのため世界の人々を救えば救うだけ、私たちの国に恩義を感じる人々が増えていくことになる。
それこそが絶対的な安全保障をもたらします。「あんないい国を攻めてはいけないだろう。恩を返さなくてはいけないだろう。」・・・どう考えたってこれほど強い安全保障はないです。まさに「情けは人のためならず」です!

僕は思うのです。一度ぐらい、世界の人々から、とりわけアジアの人々から「あなたの国は本当にいい国だね」と言われてみたいと。
そうしてそのための現実的な方策はあります。世界で初めて各国が本当にあえいでいる気候変動、自然災害の激発に対応して国家的な活動を始めた国に日本がなることです。
そこに世界にすでに信用を得ている日本の高い技術力をつぎ込んでいく。そのとき日本は技術でだけ信頼される国からモラルで信頼される国に飛躍できます。今こそ、それにチャレンジすべきです。

中村哲さんはその可能性をこそ切り拓いてくださっているのではないでしょうか。世界の人々が本当に幸せに向かって歩んでいける道がここにある。だからその道を歩み始めた国は必ず尊敬を集めることができるのです。
そうした方向にこの国を向けて行きたい。僕はそのために努力を傾けようと思います。
そんな僕に「そんなのは夢だよ」と言う人があらわれたら、僕は得意になってこう言おうと思います!

You may say I’m a dreamer
But I’m not the only one
I hope someday you’ll join us
And the world will live as one

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毎日新聞に載った記事を紹介しておきます!

<講演会>9条、平和国家の象徴 「参戦すれば信頼損なう」 アフガンで活動、中村医師が講演 /京都
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi_region/world/mainichi_region-20140901ddlk26040302000c.html