守田です。(20131118 23:00)

大地震などによる倒壊が恐れられている福島第一原発4号機からの燃料棒取り出しが本日18日から始まりました。
大変、危険な作業ですが、やらなければならない作業でもあります。しかし次々と破たんと隠ぺいを繰り返している東電に、安定的に作業が続けられるとはとても思えません。
すべてが終わるまで無事であって欲しいと誰もが祈っていると思いますが、やはり祈っているだけではいけない。避難準備を固め、今、行われている作業の危険性を社会的に共有化しながら、現場をウォッチしていく必要があります。

燃料棒は1533体あります。使用済み燃料棒が1331体、未使用のものが202体です。
ウランは核分裂すると放射能量がもとより1億倍にもなります。使用済み燃料棒には膨大な放射能が封印されており放射線と熱を出し続けています。プールに入れているのはそのためです。水で冷却し、かつ放射線を遮るためためです。
このため作業はすべて水の中で行われなければなりません。まずプールに、燃料を運ぶ輸送容器を沈めます。長さ5.5メートル、直径2.1メートル、重量91トンの「キャスク」と呼ばれるものです。ここにクレーンを使って燃料棒を水の中で引き抜いて移すのです。

キャスクに入る燃料棒は22本。全部を収納したらクレーンで燃料棒入りのキャスクを吊り上げ、プールから出して輸送用の特別トレーラーに降ろします。続いて100メートル離れた「共用プール」に移します。
キャスクを沈めて22本の燃料棒を入れ終えるのに明日19日いっぱいかかり、20日以降にクレーンを使って、キャスクをプールから出してトレーラーに。その後、共用プールに移して再度、冷却するわけですが、この一連の工程に約一週間かかります。
単純計算すると同じ工程を70回繰り返す必要があります。キャスクは2個。一回のサイクルに8~10日かかると言われており、東電は「2014年末頃」までにこの工程を完了を目指すと発表しています。

ちなみに作業初日の今日、キャスクに移されたのは4体。いずれもまだ使用されておらず、使用済み燃料棒から比べると、危険性の少ない燃料体です。
東電はこの危険性の少ない燃料体から移動をはじめ、作業への習熟を深めながら、やがて使用済み燃料の移動に移っていくとしています。かりに一回のサイクルに10日、2個のキャスクで行うために、5日で22本を運べる計算として、10日後ぐらいから使用済み燃料の移動が開始されると予想されます。
なおこの作業に向けて東電が報道向けに発表した資料をご紹介しておきます。

4号機使用済燃料プールからの燃料取り出し
2013年11月12日 東京電力
http://www.tepco.co.jp/news/2013/images/131112a.pdf

この作業にはどのような危険性があるでしょうか。この資料などで東電が発表しているのは、プール内にあるがれきの存在です。大きいものは取り除いたとされていますが、細かいものが残っており、燃料体を取り出すときに、燃料体の入っていたラックとの隙間に挟まって、燃料体が動かなくなってしまう可能性があります。
これを「かじり固着の発生」と呼び、東電は「かじり」発生対応フローを用意しています。それを読むと、かじりが発生した場合は、とりあえずは取り出しをやめてもう一度同じ位置に戻し、この燃料体をスキップして他の燃料体の移動を優先するとしています。
ではどうするのか。「クレーンで燃料吊り上げ 作業台者から吊りワイヤを揺すってクリアランスの状況を変える事を試みる」・・・ようするにワイヤーをグラグラ揺すって、がれきが落ちてくれることを願うわけです。
この作業において懸念されるのは、燃料体を覆っているジルコニウムの被覆体を傷つけ、燃料棒を破損させてしまうことであるにもかかわらず、グラグラ揺らすしか手がないと言うのです。

さらなる問題は、他の原発ではコンピューターによる自動制御で行われるこの作業が、がれきの存在などから、作業員の慎重なクレーン操作によって進められなければならないため、作業被曝が重なることです。
作業にあたるのは6人で構成される6つのチーム。合計36人ですが、一回の作業は2時間に限定されます。理想的にことが進めば良いものの、「かじり固着の発生」をはじめとした不測の事態により、操作時間が長引き、作業者の高く設定されている許容線量も満ちてしまって、作業ができなくなる可能性がある。
このような作業では、作業を重ねるだけ、操作技術も習熟していくものですが、途中で新しい作業者に交代せざるをえなくなる可能性があります。この点も含めて、何かあれば、作業者の被曝下の労働が極めて困難になることが強く予想されます。

また作業中に地震に襲われることも大きな脅威です。東電はキャスクのワイヤーを二重にし、またクレーンに大きなバネを組み込むことによって揺れのエネルギーを吸収するとしていますが、91トンのキャスクがどこまで維持されるのか疑問です。
一方、キャスクのクレーンのバネでは、燃料体の取り出し時の地震対応はできないわけで、燃料棒の取り出し時に地震に見舞われた場合、「かじり固着の発生」と同じような事態が生じる可能性が排除できません。
いやそもそも東電は、4号機のプールの耐震性には問題がないと前提しているのですが、この大前提そのものにも大きな疑問があります。汚染水問題一つとっても、これまで東電の事故対応の想定があたったことなどないのであり、まったく信頼性がない。

これらから考えただけでも、燃料棒取り出し作業が、順調にいきそうもないことが考えられますが、より大きな問題は、こうした東電による「起こり得る問題の想定」そのものが非常に小さな危機の「想定」になっていることです。
いやむしろ、「かじり固着の発生」や、作業被曝の問題等の東電による発表は、起こりうる危機を東電が把握できているかのように振る舞うための「想定」でしかないのではとすら思えます。実際には今は想像されていない何らかの不具合が発生する可能性が十分にあるのです。
なぜならこの作業は、人類が初めて体験することなのだからです。しかも高線量地帯における作業です。やってみて初めて分かることがあっても何ら不思議はない。いや、むしろ今は想像できない困難に直面しないで作業が終えられると考える方に無理がある。

東電はむしろこの「予想できない危険性」について論じるべきなのです。何が起こるか分からない。何が起こっても不思議はない。そう発表し、だから万が一のための原発周辺からの避難や、広域の避難準備を要請すべきなのです。
これは、不発弾の処理などでも当たり前に行われていることです。十分な安全な対処を目指すけれども、万が一の危険性が排除できない。だから避難を含めた何重もの安全対策が必要なのです。それでこそ現場の作業もより質が高いものになりうる。あらゆる危機に対応しうる柔軟性が生まれるからです。
しかし東電は危機を非常に小さく見積もっている。このため現実がこの小さな「想定」を超えると、すぐに対処不能になってしまうのです。汚染水問題で嫌と言うほど繰り返されてきたことです。同じような破たんにつぐ破たんが、また起きてしまいかねません。

しかもこれから始まるのは、燃料棒の破損=放射能漏れの発生・拡大という直接的な危機に直結する作業です。その作業の危険性を非常に小さく見積もっていることそのものに、私たちは危機があること、再び三度の人災の可能性があることを押さえておかねばなりません。
私たちは東電に、「いい加減に嘘は止めよ」と言わなければなりません。事態は非常に困難で、私たちはまだ大変な危機に直面しているという事実を、国民、住民に、さらには世界に、素直に訴え、事故収束への協力を訴えるべきなのです。
そのためにも原発直近からの避難、さらに広域の避難準備、訓練を行い、これから1年以上も日々、極度の緊張が強いられる現場に、すべての人のまなざしを向けてもらうことをこそ呼びかけるべきなのです。

私たちはまた、多くの人々に、いい加減に目覚めなければいけないとも呼びかける必要があります。汚染水問題に現れているのは、東電の現場対処能力のなさと事故に対する倫理観の全くの欠如です。このとんでもない企業が言う「想定」や「安全」をまだ信じ続けるのでしょうか。
政府も同じです。危険な燃料棒が1533体も壊れた原子炉建屋の高いところにあるのに、さらに、1号機から3号機にいたっては、どろどろに溶けた燃料がどなっているのかすら把握できていないのに、「原発はコントロールされている」と首相が繰り返しうそぶく。こんな政府をいつまで信用し続けるのでしょうか。
いやすでに多くの人が東電も政府も信じてはいないでしょう。にもかかわらず、原発の根本的な危機から目を背けたいという思い、災害心理学に言う正常性バイアス=危機の認識をあえてごまかし、心の平静を保とうとする思いに支配されているのではないのでしょうか。しかしその先には私たちの安全も幸せも絶対にありません。

4号機からの燃料棒取り出しの始まりに際して、各地でしっかりと原発災害対策を進めていきましょう。そのことで現場で困難に挑んで下さっている方たちと連携していきましょう。

燃料棒取り出し作業のウォッチを続けます!