守田です。(20131114 22:00)

11月12日、福島県における第13回「県民健康管理調査」検討委員会が開かれ、小児甲状腺がん調査に関する最新のデータが発表されました。
朝日新聞はこれを次のように報じています。主要な部分を抜書きします。

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「東京電力福島第一原発事故の発生当時に18歳以下だった子どもの甲状腺検査で、福島県は12日、検査を受けた約22・6万人のうち、計59人で甲状腺がんやその疑いありと診断されたと発表した。」
「累計では、がんは26人、疑いが33人。がんや疑いありとされた計58人(1人の良性腫瘍〈しゅよう〉除く)の事故当時の年齢は6~18歳で平均は16・8歳。」
「甲状腺がんはこれまでで10万人あたり12人に見つかった計算になる。宮城県など4県のがん統計では2007年、15~19歳で甲状腺がんが見つかったのは10万人あたり1.7人で、それよりかなり多い。」
「ただ、チェルノブイリでは、原発事故から4~5年たって甲状腺がんが発生しており、複数の専門医は「被曝から3年以内に発生する可能性は低い」と分析している。」

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58人ががんないし、疑いありとされている事実、理由はともあれまずはこのことに胸が痛みます。58という数字の向こうに、「甲状腺がん」という事実に驚き、嘆き、悲しんでいる子ども、その親たち、家族や周りの人たちがいるのです。
今後、この数ができるだけ伸びないことを祈りたいですが、これまでの経過から言って、残念ながら絶対数はこれからも伸び続けるでしょう。だとしたら早期発見、早期治療の体制を徹底化していくしかない。何よりこの数字は私たちにこのことを突きつけています。

しかし他方で、毎回の発表と同じように、またも不誠実な数字のマジックが使われていることを指摘せざるを得ません。22万6千人にうち、計58人というのは、ミスリーディングを誘う発表の仕方です。それを見抜けずにそのまま書いている朝日新聞も情けない。
なぜか。前回の発表もそうだったのですが、実際にはこの数は、22万6千人全体の中の数とは言えないからです。

具体的に指摘すると、この日、福島県より発表された以下資料の2ページ目の表に「二次検査」の内容が乗っています。対象人数1559人に対して、受診して検査が確定したものは897人しかいない。割合で言えば約57.5%しかまだ検査が終わってないのです。

県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について
https://selectra.jp/sites/selectra.jp/files/pdf/251112siryou2.pdf

これが何を意味するか、もう少し詳しくみていきましょう。
甲状腺検査は、二段階に分かれています。初めに行われるのはエコー診断で一次検査と呼ばれます。この結果が4つに分類されます。

A判定 A1 結節やのう胞を認めなかったもの
A判定 A2 5.0ミリ以下の結節や20.0ミリ以下ののう胞を認めたもの。
B判定 5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上ののう胞を認めたもの。
C判定 甲状腺の状態等から判断して、直ちに二次検査を要するもの。

判定への対処が以下のように説明されています。

A判定は次回(平成26年度以降)の検査まで経過観察。
B、C判定は二次検査を実施
A2の判定内容であっても、甲状腺の状態等から二次検査を要すると判断した場合、B判定としている。

ここから言えることは、直ちに2次検査に回らないA判定の子どもたちとて、現時点では今後の甲状腺がんの発症の可能性が否定できたわけではないということです。
政府は、チェルノブイリでは4、5年目に発症数が急上昇したことを、今、発見されているがんが福島由来ではないといわんがために強調しているのですが、反対に、4、5年後に急増した事実は、現時点では子どもたちの安全はまだ確定できていないことをも物語っています。

さらに今回の検査について言えば、まだ22万6千人のうち、2次検査を受けていない子どもが662人残されています。割合でいえば約42.5%。その子どもたちを検査すれば、当然にももっとがん患児の数が増えるはずです。
またがんが26人、疑いが33人(1人はがんでないことがはっきりしているので実質32人)という言い方にも問題があります。なぜなら医学的にこの疑いは9割の確率でがんだとされているからです。およそ29人ががんである可能性が極めて高いのです。
そうなると、実際には二次検査では対象者の中の57.5%の調査で、55人のがんが認められたことになります。このためもし検査が終わってない子どもたちに、今回の調査と同じ割合でがんが発見されたとすると、およそ96人ががんである可能性があることになります。

これを10万人あたりに換算すると、約42人という数が出てきます。今回の調査で分かった福島の子どもたちの甲状腺がんの発症率は約10万人に42人になっているのです。
ところが、県の発表をうのみにしてしまうと、まだ二次検査を受けていない662人がのぞかれたままになってしまう。さらにがんの確定者だけを数えると、9割の確率と言われる32人の疑いのある子どもたちものぞかれてしまいます。それででてきた数値が「10万人あたり12人」なのです。

「ロシアの子どもの検査で4~5千人に1人がんが見つかっている」という情報の信ぴょう性を僕は分かりませんが、かりにそれを信用するとしても10万人では25人から20人で、福島では現時点で倍近い症例が出ていることになる。
しかも先にも述べたように、A判定の子どもたちとて可能性がないとは言えないので、今後の検査次第でもっと高い数値になる可能性が大きくあるのです。

この点、先にあげた県の資料の5ページ目をみると、さらに重要なポイントが明らかになります。原発直近の大熊町、双葉町など、国が指定した避難区域等の13市町村の子どもたちが23年に早々と検査を済ませていることです。
その段階でも13人のがん、ないし疑いが出ているのですが、この地域はもっともヨウ素被ばくが大きかった地域ですから、今後の検査ではもっとたくさんの患者が見つかる可能性が十分にあります。
にもかかわらずこのA判定の子どもたちも次回検査は26年4月以降になっているのです。もっと早く次回を検査を行うべきだったのであり、そうすればさらにがんの子どもが見つかっている可能性が高いです。
がんは早く見つけて治療することが重要なのに、最も被ばくが多かった地域の子どもたちが、1年目に検査されただけで放置されている。これも大きな問題です。

このような不誠実な数字の使い方そのものに、この「健康調査」が、できるだけ小児がんの発症数を低く見せようとしていることが見て取れますが、このあり方そのものが子どもたちにとっても、県民にとっても危機であると言えます。

子どもたちの危機を少しでも減らし、まっとうな医療が行われることを目指して、甲状腺問題のウォッチを続けます。

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子の甲状腺がん、疑い含め59人 福島県は被曝影響否定
2013年11月13日06時33分
http://www.asahi.com/articles/TKY201311120463.html

野瀬輝彦、大岩ゆり】東京電力福島第一原発事故の発生当時に18歳以下だった子どもの甲状腺検査で、福島県は12日、検査を受けた約22・6万人のうち、計59人で甲状腺がんやその疑いありと診断されたと発表した。
8月時点より、検査人数は約3・3万人、患者は疑いも含め15人増えた。これまでのがん統計より発生率は高いが、検査の性質が異なることなどから県は「被曝(ひばく)の影響とは考えられない」としている。

県は来春から、住民の不安にこたえるため、事故当時、胎児だった約2万5千人の甲状腺検査も始める。
新たに甲状腺がんと診断されたのは8人、疑いありとされたのは7人。累計では、がんは26人、疑いが33人。がんや疑いありとされた計58人(1人の良性腫瘍〈しゅよう〉除く)の事故当時の年齢は6~18歳で平均は16・8歳。
甲状腺がんはこれまでで10万人あたり12人に見つかった計算になる。宮城県など4県のがん統計では2007年、15~19歳で甲状腺がんが見つかったのは10万人あたり1・7人で、それよりかなり多い。
ただし、健康な子ども全員が対象の福島の検査の結果と、一般的に小児は目立つ症状がないと診断されないがんの統計では単純比較できない。
ただ、チェルノブイリでは、原発事故から4~5年たって甲状腺がんが発生しており、複数の専門医は「被曝から3年以内に発生する可能性は低い」と分析している。
県は被曝の影響とは考えにくい根拠として、患者の年齢分布が、乳幼児に多かったチェルノブイリと違って通常の小児甲状腺がんと同じで、最近実施された被曝影響の無いロシアの子どもの検査でも4千~5千人に1人がんが見つかっていることなどを挙げている。