守田です。(20130831 22:30)

各地で大雨が降っています。前線を伴った低気圧が、日本列島を通過中です。本日16時31分に配信された気象に関する記事では以下のように報じられています。

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前線を伴った低気圧は、9月1日にかけ北日本を通過し、前線が東日本から西日本に停滞する見込みだ。福井県坂井市付近では、31日午後5時30分までの1時間に約80ミリの猛烈な雨が降ったとみられ、気象庁は記録的短時間大雨情報を発表した。
低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、北日本から西日本にかけ、広い範囲で大気の非常に不安定な状態が続く。

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これからまだまだ各地で大雨が降ると思われます。ぜひ警戒を強めてください。僕もこの雨の中、明日(1日)5時起きで、長野県の千代田湖キャンプ場に車で向かいます。十分に気を付けて、安全を確保しながら行動するつもりです。

今回の記事に「特別警報が出たら、ただちに命を守る行動を」と書きました。この「特別警報」とは、本年8月30日午前0時より、気象庁によって運用が開始されたものです。
これまでは「注意報―災害が起こる恐れ」「警報―重大な災害が起こる恐れ」という二つの気象状況における警戒の呼びかけがあったのですが、新たに加わった「特別警報」は「これまでにない災害が起こる恐れ」への対処を呼び掛けるものです。
「これまでにない災害」とは「数十年に一度のレベルの大雨、暴風、高潮などが予想される場合」であるとされており、「ただちに命を守る行動」を呼びかけるとされています。詳しく知りたい方は以下の気象庁のHPをご覧ください。

特別警報について 気象庁
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tokubetsu-keiho/

なぜ「特別警報」が新たに設けられたのか。ここ数年、気候変動などの影響により、「ゲリラ豪雨」など、明らかにこれまでなかったような集中豪雨が頻発しており、大規模水害が多発しているからです。
その多くが「観測史上最大の降雨」などを記録しており、これまでの防災の「想定」を超えています。そのため予想を超えた洪水、土砂災害が頻発しており、いっぺんにたくさんの方が命を失う悲劇も生まれています。そのために「ただちに命を守る行動を」が必要になっているのです。

僕はこれまで繰り返し、原子力災害への備えを固めることを訴えてきました。その際、一番重要なこととして強調してているのは、防災心理学に言う「正常性バイアス」のわなにはまらないことです。
「高度な文明」の中にいる私たちは、日ごろ、命の危機に直面することがきわめて少ない。それは大変良いことですが、そのため命の危機が迫ってきた時に、それを察知し、対処していく能力も低下しています。
このため非常にかかりやすいのが、危機に直面しても、危機を認識できなかったり、認識しようとしなかったりしてしまう心理状態です。事態は「異常」ではなく「正常」なのだというバイアス=偏見を現実にかけてしまうのです。
「異常」を感知したらそれと立ち向かわなくてはいけない。「正常」であれば何もしなくていい。心理的に楽です。そのため心が「異常」の感知を拒否し、「正常」だと思い込もうとしてしまう。これが正常性バイアスです。

現在の水害に対しても、こうした心理的システムが働きやすい。そしてこれまでの「安全経験」に依拠してしまう心理がたびたび頭をもたげます。しかし「ゲリラ豪雨」の多くは「想定外」の被害をもたらしています。
端的に言えば、これまで川の流れを「完璧」に止めてきた堤防が、越流され、あるいは決壊する事態などが起きているのです。だから私たちはこの新たな命の危機に対して、心をリセットし、正常性バイアスにかからず、的確な対処がとれるようにする必要があります。
そのためには「特別警報」が出てからすべてを始めるのではまったく遅い。大事なのは日常から、身の回りにある危険性を把握しておき、特別警報が出たときには「ただちに命を守る行動」に即座に移ることができるようにしておくこと。そのための準備を進めることです。
もちろん「特別警報」の前のものとされている「注意報」「警報」の段階から、命の危機を十分に感じて、対処を始める必要があります。

それでは備えとしては何が必要でしょうか。まずは起こるべき災害の前兆を知っておくこと、災害が起こったらどうなるのかのシミュレーションをしておくことです。
なかでも豪雨によって起こりやすい被害は川の氾濫と「土石流」「地すべり」「がけ崩れ」の発生です。それぞれに違った危険があるので、まず自分の住んでいる地域で被害が起こるとしたらどれなのかの把握を進めてください。
大事な点は、この作業は、晴れた日、ないしは気象条件の悪くないときにやっておくことであるということです!ぜひ地域を災害対策の視点から歩き回ってみてください。みなさんの家の川からの距離はどれぐらいでしょうか。また近くに農業用水などはないでしょうか。
川が堤防を越流し、道路が冠水してしまった場合、恐ろしいほどに今まで見えていたものが見えなくなります。もっとも危険なのは道路と側溝や農業用水などの境界が分からなくなることです。実際に2009年の兵庫県佐用町水害では、自宅から避難所に向かった人々が、避難所の手前で、側溝に落ちて流され6名が命を落としています。

それでは雨が強くなり始めたときにはどのような点に注意すべきでしょうか。「土石流」「地すべり」「がけ崩れ」にはそれぞれに前兆があるので、それを目安に危機をつかむことです。以下、前兆を列挙します。
「土石流」の場合  〇山鳴りがする。〇急に川の流れがにごり流木が混じっている。〇雨が降り続いてるのに川の水位が下がる。〇腐った土のにおいがする。
「地すべり」の場合 〇沢や井戸の水がにごる。〇地面にひび割れができる。〇斜面から水がふき出す。○家や擁壁に亀裂が入る。〇家や擁壁、樹木や電柱が傾く。
「がけ崩れ」の場合 〇がけに割れ目が見える。〇がけから水がふき出ている。〇がけから小石がパラパラと落ちてくる。〇がけから木の根等の切れる音がする。

ゲリラ豪雨についても、目安が語られるようになってきましたので、それを列挙します。
〇天気予報に「所によりにわか雨」「大気の状態が不安定」「大雨、落雷、突風、竜巻、雹(ひょう)」のキーワード。〇防災気象情報で「大雨・洪水警報」「大雨・洪水特別警報」「周辺や川の上流で大雨」が語られる。
〇川の水かさが急に増えてきたり、濁ったり、木の葉や枝、ごみなどが大量に流れてくる。〇雷鳴が聞こえたり雷光が見えたりする。〇ヒヤッとした冷たい風が急に吹き出す。〇大粒の雨や雹(ひょう)が降り出す。〇黒い雲が広がり急に暗くなる。

では「特別警報」が出たり、そうではなくてもこれら危機の兆候が見られたらどうすれば良いのでしょうか。
大事なのは自分たちで自分たちの地域の危険度を気象情報などから察知すること。そのうえでできれば念のために明るいうちに早期自主避難をすることです。
とくに土砂崩れ・河川氾濫の恐れがある地域は、夜になる前・大雨になる前の早めの行動が必要です。そのためにも日ごろから避難所・ハザードマップを確認することが重要です。
ただし道路が冠水している場合は、避難行動の方が危険な場合もあります。佐用町災害がその典型ですが、そのため家が濁流で流される危険性のない場合は「遠くの避難所よりも近くの2階」がより安全だということを知ってください。

続いて避難行動に移る際の目安についても書いておきます。前提的に危機の察知においては自分の五感を大事にし、以下に書いたことに当てはまらなくても「避難したほうがいい」と感じたら行動した方がいいです。その上で目安を書きます。
○市町が自主避難を呼びかけたら。○前触れと思われる現象(前兆現象)を発見したら。○近く(同じ市町内や隣接する市町)で土砂災害が発生したら。○これまでに経験したことのない雨を感じたら。

避難行動に移るにあたっての心得も書いておきます。
〇防災気象情報、防災避難情報に注意。〇車で避難しない⇒ワイパーやブレーキが効かなくなる。アンダーパスに突っ込むと立ち往生。〇浸水が40~50㎝になると外開きドアは開かない。歩行も困難。⇒早期自主避難が大切。
〇「遠くの避難所より、近くの2階」。(ただし家屋の流失の危険性が少ない場合)〇避難するときは隣近所に声を掛け合う。〇避難者同士それぞれロープをつかんで避難。〇荷物は最小限にしできるだけ両手を開けて避難。
〇マンホールや側溝のフタが外れているとすごく危険。傘や棒などで前を探りながら進む。〇避難時はヘルメット、手袋、雨具、長ズボン、長袖シャツで。懐中電灯も。〇長靴は水が入ると動けなくなる。脱げにくい紐スニーカーなどで避難。
〇火の元、ガスの元栓、電気のブレーカーを閉じ、戸締まりして避難。〇半地下・地下室には近寄らない。〇川、側溝、橋、マンホールに近づかない(絶対に様子を見に行かない)

なおより詳しいことを知りたい方は、防災心理学の知見から優れた啓発を繰り返している「防災システム研究所」のホームページをご覧ください。僕もここから「正常性バイアス」のことなど、重要な点を学びました。

防災システム研究所
http://www.bo-sai.co.jp/index.html

以上、それぞれで防災体制を高め、ぜひともあらゆる災害への対処能力を高めてください。
なお「ただちに命を守る行動を」という気象庁の呼びかけに対し、なぜあの福島原発事故のときに、政府がこのような呼びかけをしなかったのか、悔しさや無念さが去来します。
同時に今もなお、放射線から「ただちに命を守る行動」が繰り返し必要になっていることを、あらためてみなさんに問いかけたいです。

防災体制を高めることは、危機感知能力を高めることであり、正常性バイアスのわなにかかりにくい心の強さを作るものです。そのため僕は水害への対処能力を高めることは、原発災害への対処能力を高めることにもつながると確信しています。
もちろん原発災害には固有の特徴があり、それをつかむことが大事です。しかしベースになるのは、危機管理を誰かに、とくに政府や「専門家」に任せるのではなく、自ら担おうとする観点、そのために日ごろから災害の可能性をシミュレーションする感覚を養うことです。
その意味で、原発災害への備えを進めるためにも、目の前にある他の災害の可能性への対処能力も高めていくことが大切です。
またそれぞれの地域でこうした災害対策を進めることは、必然的に地域のコミュニティを強化していくことにもつながります。大きな災害には、地域力があってこそ有効に対応しうるからです。

これらの可能性をもみすえつつ、ぜひ、それぞれであらゆる災害への防災・減災体制を作り出すことに尽力しましょう。平和を守るための大事な行動としてとりみましょう!