守田です。(20130103 23:30)

年頭の毎日新聞2面と11面に、非常に示唆に富んだなニュースが掲載されました。2面の記事の見出しは「全国で10基超が防火に不備 可燃性ケーブルを使用」です。この記事の前半部分を引用します。

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「火災対策上の不備が指摘される原発が、全国に十数基あることが分かった。原子力規制庁と経済産業省の関係者がそれぞれ明らかにした。配線に可燃性電気ケーブルを使用したり、安全上重要な機器が近接して設置されたりして延焼の恐れがあるという。
事態を重視した経産省資源エネルギー庁は既に調査を開始し、原子力規制委員会も近く電力各社からヒアリングする。経産省はケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがあると想定している。
原発の許認可を巡っては75年12月以降、安全上重要な部分に燃えにくい「難燃性」と呼ばれるケーブルを使用し、延焼を防ぐために適切な距離をおいて機器を設置することなどが定められた。ただそれ以前の原発には規制がなく、改善するかどうかは事業者任せで対策が放置されてきた。」

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誰でもわかることですが、原発には非常にたくさんのケーブルが使用されています。火災などからこれらを守る対策として可燃性ではない「難燃性」のものを使うことが1975年に定められました。ところがこの新たな規制が、それ以前に作られた原発には適用されませんでした。
そのため1975年段階の火災に対する規制内容が適用されずに、その後、35年間以上も稼働してきた原発が10基以上もあったというのです。わたしたちの国の原子力行政のずさんさ、原発を稼働させることの危険性を如実に物語る事実です。

ではどの原発が「可燃性ケーブル」を使っているのか。毎日新聞2面に、「電力会社・発電所と号機・許認可年」の順で掲載された表では、次の13基であると指摘されています。
東京・福島5号機・71、関西・美浜1号機・66、美浜2号機・68、高浜1号機・69、高浜2号機・70、美浜3号機・72、大飯1号機・72、大飯2号機・72、中国・島根1号機・69、四国・伊方1号機・72、九州・玄海1号機・70、日本原電・敦賀1号機(66)。
ただしこの表には廃炉が事実化した福島1~4号機が除かれています。そのため可燃性ケーブルで稼働していた原発は実は17基もあったことが分かります。本当にひどいことです。
これらの原発が集中していた福島原発が、地震と津波に耐えられずにすでに大崩壊したわけですが、若狭湾の原発銀座でも、関西電力の7基と日本原電の1基、合計8基の可燃性ケーブル使用原発が長らく稼働させられてきました。福島原発事故後もです。地域の安全性を無視した反社会的な行為です。ぜひとも抗議を行いたいものです。

重要なのは、これらの原発は稼働していなくても、各プールの中に大量の燃料棒が残っており、ケーブルが火災にあった場合に、たちまち非常に危険な状態に追い込まれてしまうということです。そのために、再稼働のためではなく、燃料プールの安全確保のために早急に対策を施すことが必要です。
しかもこの中には大飯原発1号機、2号機も含まれています。現在、その横で3号機と4号機が稼働中です。これ自身がきわめて危険な構造です。この点からも大飯原発は即刻、運転を停止させるべきです!
記事にはこの規制をきちんと適用した場合、「ケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがある」と経産省が想定しているとも報じられています。このことを頭に留め置き、今後これらの原発へのウォッチを強化する必要があります。

しかし一方でこの記事を読んでいて、多くの方が違和感も持たれたのではないかと思います。これまで37年間もこの事実を見過ごしてきた側であり、なおかつ原発再稼働を切望している経産省が、なぜこのような指摘を行ったのかです。
実はこの点で、毎日新聞やより切り込んだ非常に重要な内容を報じています。それが同日の11面に関連記事として掲載されています。重要なスクープだと思うので、当該箇所を引用します。

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「一方、経産省の積極姿勢には裏がある。関係者は「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と明かす。安倍政権の脱「脱原発」路線を見越した動きだ。しかし、安全と新増設は次元のまったく異なる問題だ。取引材料のように使うことは許されない。」

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この記事は「高島博之、松谷譲二」記者の署名で書かれていますが、両記者の鋭い視点での取材に拍手を送りたいです!

なぜこれが重要なスクープなのか。それはここから、経産省や原子力村の原発延命策、新たな推進策の手法が浮かび上がってきているからです。実は既存の原発は、指摘すれば問題点はいくらでも出てくる。それを一番知っているのはこれまでそれを放置してきた経産省の側です。原子力規制庁にもこうした人物が多く入っています。
その経産省や規制庁の側が、あたかも原発の危険性を監視するかのような指摘や発言を行い、市民の中に強く広がっている原発への危機意識に沿っているかのようなポーズを現出させる。そして原発の危険性を、原発そのものの構造的な欠陥にではなく、「古さ」に転化し、新しい「安全な原発」への「転換」を主張していくという手法です。
このことで市民の原発への不安や危機感との衝突は回避し、むしろあたかも電力会社に厳しい立場にあるかのような振る舞いをしながら、新しい原発の認可に歩みを進めようというのです。毎日新聞の記事はこうした「裏」を、関係者の証言によって暴いていて見事です!
さらに記事は、こうしたケーブルの火災事故が、これまで国内外で頻発していることも報じていて、大変、参考になります。

しかしなぜなのかはわかりませんが、この11面の記事はネットには載っていません。大変、残念です。というか、本来、こちらこそが2面に載せるべき記事だと思うのです。既存の2面の内容は、経産省の発表内容に過ぎないからです。
ここに現場で奮闘する記者さんたちと、真に重要なことをハイライトさせることのできない毎日新聞デスク陣、首脳陣との暗闘を垣間見てしまうのは、僕のいきすぎでしょうか。ともあれ今回は、新聞記事はネットだけで確認するのでは弱いと痛感しました。記者さんが必死に出稿した記事を紙面から拾わなくては。といっても毎日、紙面をみることはとてもできないのでもどかしいですが・・・。

ともあれ非常に重要な内容なので、2面と11面の記事の双方をご紹介します。私たちは今後、経産省や原子力規制庁をこそ、ウォッチしていかなくてはなりません。その際の重要な示唆としてシェアしたいです。

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原発:全国で10基超が防火に不備 可燃性ケーブルを使用
毎日新聞2013年1月1日
http://mainichi.jp/select/news/20130101k0000m040076000c.html

火災対策上の不備が指摘される原発が、全国に十数基あることが分かった。原子力規制庁と経済産業省の関係者がそれぞれ明らかにした。配線に可燃性電気ケーブルを使用したり、安全上重要な機器が近接して設置されたりして延焼の恐れがあるという。
事態を重視した経産省資源エネルギー庁は既に調査を開始し、原子力規制委員会も近く電力各社からヒアリングする。経産省はケーブル交換や設備改修に時間がかかり数年単位で再稼働が遅れたり、高コストから廃炉になったりするケースがあると想定している。
原発の許認可を巡っては75年12月以降、安全上重要な部分に燃えにくい「難燃性」と呼ばれるケーブルを使用し、延焼を防ぐために適切な距離をおいて機器を設置することなどが定められた。ただそれ以前の原発には規制がなく、改善するかどうかは事業者任せで対策が放置されてきた。

電力各社に取材したところ、安全上重要な部分にビニールやポリエチレンなどの素材でできた可燃性ケーブルを使用しているのは全国50基のうち13基=表参照。ケーブル表面に延焼防止剤と呼ばれる特殊な樹脂などを含む塗料を塗っており、各社は「難燃性ケーブルと同等の性能がある」と説明する。
しかし規制庁と経産省の関係者は「延焼防止剤自体は燃えないが中の可燃性ケーブルは燃える。経年劣化もありうる。同等と認められず、防火上大半に問題があり、改修が必要だ」と話す。

制御棒の操作や炉心冷却、事故時の計器監視など「安全系」と呼ばれる重要な装置を作動させるシステムへの火災対策に問題があるケースもある。安全系では一つの電気系統で火災が起きダウンしても、もう一方を生かす「系統分離」が重視されている。
しかし、一部の原発では2系統の電気ケーブルがすぐ近くに敷設されたり、冷却用ポンプなど重要機器が並ぶように設置されたりして同時に燃える危険性がある。規制庁と経産省の関係者は、いずれも十数基で不備が見つかるとみている。

難燃性ケーブルと系統分離は規制委が7月までに策定する新安全基準に盛り込まれる見込み。ケーブルの長さは1基当たり1000~2000キロ。このうち安全上重要なものだけで数百キロある。改修が必要なら1年以上かかり費用も高額。コストが回収できず、廃炉に追い込まれるケースも想定されるという。【小林直、太田誠一】

★原発の火災対策 75年12月の通商産業省令(当時)で導入された。現行指針(07年12月)は(1)火災発生防止(2)検知・消火(3)影響の軽減--について「適切に組み合わせる」よう定めており、許認可時に例えば「(1)と(2)を実施すれば(3)は不要」と判断される余地を残す。
原子力規制委員会は(1)(2)(3)のすべてを実施するよう厳格化した新基準を7月までに作る方針。【小林直、太田誠一】

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対策適用外、放置
原発防災不備 事業者も強化に難色

東京電力福島第1原発事故後の新安全基準作りが進む中、規制側の原子力規制庁、推進側の経済産業省双方が十数基の火災対策に疑問を投げかけた事実は重い。現在稼働していない各原発のプールには大量の使用済み燃料がある。火災対策は必須で、各社は早急な対応を迫られる。

原発の火災としては75年3月に発生した米アラバマ州・ブラウンズフェリー原発1号機の事故が有名だ。1600本以上のケーブルが焼け、原子炉の安全性が確認できなくなった。国内の原子力関係施設でも67年~12年3月に136件発生しており、67年には日本原子力発電東海原発で5人が死傷。
07年には新潟県中越沖地震により、東京電力柏崎刈羽原発3号機の変圧器が燃えた。11年の東日本大震災でも、東北電力女川原発1号機で高圧電源盤がショートし7時間以上燃えた。

にもかかわらず、日本の対策は遅れている。今回問題が浮上した十数基の原発は、すべて75年以前に許認可された。同年に導入された火災対策の規定が過去にさかのぼって適用されなかったため、放置されてきたのだ。関係者によると07年以降、非公式会合の場で「原子力安全基盤機構」が対策強化を複数回提案したが、事業者が難色を示し実現しなかった。
新安全基準について議論する12年11月21日の有識者会議で規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員が「火災については『いいよ(遡及適用しない)』というのはいかんだろう」と2度も強調した背景に「今度こそ」という思いがにじむ。

一方、経産省の積極姿勢には裏がある。関係者は「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と明かす。安倍政権の脱「脱原発」路線を見越した動きだ。しかし、安全と新増設は次元のまったく異なる問題だ。取引材料のように使うことは許されない。【高島博之、松谷譲二】