守田です(20200817 23:00)

● 黒い雨はアメリカによって調査されていた!

黒い雨のことに関する続編です。今回は2012年8月6日に放映されたNHKスペシャル、「黒い雨 活かされなかった被爆者調査」を扱います。
実は放映後の8月11日に「明日に向けて(526)」で紹介し、文字起こしも載せているのですが、今回、その原稿をリメイクしました。同番組はいまも以下のアドレスから観ることができます。

「黒い雨 活かされなかった被爆者調査」
2012.8.6NHKスペシャル
http://www.at-douga.com/?p=5774

「活かされなかった被爆者調査」とはアメリカの調査機関であるABCC(原爆傷害調査委員会、Atomic Bomb Casualty Commission)が行ったもの。
この機関は原爆による傷害調のために米国が設置したもので、広島市の比治山山頂にあります。「調査はするけれども治療はしない」ことで有名です。1975年より米日の合同機関となり、いまは放射線影響研究所(放影研)の名となっています。

2011年12月にこの放影研に、黒い雨を調べた大量のデータがあることが明らかになりました。眠っていただけで活用されなかったデータでした。何故だったのか。この事実が物語るものは何なのかを番組は追いかけていきます。
以下、文字起こしをお送りますのでぜひお読み下さい。なお小見出しは守田が入れました。

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● 黒い雨に関する大量のデータが存在していた

広島に住む女性が大切に保管しているものがあります。無数の黒いシミが残るブラウスです。
「染み込んどるの洗っても洗っても取れんかった、これ。」
原爆投下直後、広島に降った黒い雨。67年前の確かな痕跡です。

アメリカが広島・長崎に投下した原子爆弾。きのこ雲には、爆発で巻き上げられたチリや埃とともに大量の放射性物質が含まれていました。それが上空で急速に冷やされ、雨となって降りました。いわゆる黒い雨です。
原爆資料館に保管されている雨だれのあと、原爆の材料となったウランなどの放射性物質が検出されています。しかしこれまで雨がどこに降り、どれだけの被曝をもたらしたのか詳細なデータがないため、わからないままになっていました。
ところが去年12月、国が所管する被爆者の調査をする研究所に大量のデータが存在していたことが明らかになりました。

放影研職員
「12,250人において雨にあったということを答えられておられます」

公開されたのは広島・長崎10,000人を超える被爆者が、どこで雨にあったのかのを示す分布図です。
丸の大きさが雨にあった人数を表しています。データは戦後、被曝の影響を調べる大規模な調査の中で集められたものでした。
突然明かされた新事実。黒い雨を浴びてガンなどの病気になっても、その影響を認められなかった人たちに衝撃が広がっています。


かなりの広域に黒い雨が降ったことが示されていた

「なして出してくれんかったんかね。こういうのがあったのに」
「これはもう、憤り以外の何ものでもないですよね」

このデータをもとに、黒い雨の実態解明を進める動きも起きています。
最新の研究で、雨が多く振ったところで、被爆者ががんで死亡するリスクが高まっている可能性が浮かび上がってきたのです。

黒い雨の研究者
「まったく驚きですね。リスクが高くなっている地域が黒い雨の影響を受けたんであろう」

黒い雨のデータはなぜ生かされてこなかったのか。それは今の時代に何を語るのか。被爆から67年、はじめて明らかになる真実です。

● 本田孝也医師の調査からデータが見つかった!

今回公開された黒い雨のデータ、その存在があきらかになったのは長崎のある医師が抱いたある疑問でした。
長崎市内で開業している本田孝也医師です。黒い雨を浴び、体調不良を訴える患者を長年診てきました。

診察の場で
「雨の色は黒かった?」
「はいもう黒かったですよ、汚れて」
「髪の毛が抜けたとは」
「私は髪の毛が抜けたなという感じはしましたもんね。」(患者との対話)


データの存在に気づいた本田孝也医師

黒い雨を浴びた患者の中には、ガンや白血病などの病気になった人も少なくありません。しかし詳しいデータはなく、どうすることもできませんでした。
何か資料はないのか。さまざまな文献に当たる中で、去年、気になる報告書を見つけました。広島と長崎で、被爆者の調査をしてきたアメリカの調査機関ABCCの調査員が内部向けに書いたものでした。
そこには黒い雨を浴びた人に、被曝特有の出血斑や脱毛などの急性症状が出たことが、集計された数字と共に記されていました。元になったデータがあるのかもしれないと本田さんは思いました。

「そんなことは聞いたことがなかったので。それほどのデータがあったのかなと、ずっと昔から研究されている研究者の中で話題にならなかったのかというのが、最初は不思議だなと思ったところですね。」

本田さんは当時、報告書を書いた調査員がいた研究所に問い合わせました。アメリカの研究機関ABCCを引き継いだ放射線影響研究所、放影研。


放射性影響研究所

国から補助金を受けて、被爆者の調査を行い、そのデータは被曝の国際的な安全基準の元になってきました。本田さんに対する放影研の答えは、確かに黒い雨の調査は行ったが、詳細は個人情報であり、公開はできないというものでした。
そのとき渡されたのは調査に使った空の質問表でした。どこで被曝したか、どんな急性症状を起こしたか、数重もの質問が並んでいました。

1950年代、ABCCが放射線の人体への影響を調べるため、広島と長崎の被爆者93000人に行った聞き取り調査でした。

「原爆はどちらでおあいになりましたか?」
「はい。ここでですが」
「脱毛はありましたでしょうか?」
「すっかり毛が抜けてしまったんです」

「原爆直後雨二逢イマシタカ?」
黒い雨に関する聞き取り項目もありました。放影研は本田さんとの数回におよぶやりとりの末、13,000人がイエスと答えていたことを初めて明かしたのです。


原爆直後雨二逢イマシタカの項目が

「ほんとかなという実感がわかなくて。なんかありそうじゃないじゃないですか、そんな膨大なデータをいまどき、そのままにしているなんて。
そこからは何かがでるはずだろうし、何で今まで出さなかったのかという、ちょっと険しいやりとりにはなったのですけれど。」

● 黒い雨は研究の中で無視してよい程度だったと放影研

マスコミから問い合わせが殺到し、2ヵ月後、放影研は分布図だけを公開しました。これまで公開しなかった理由について、隠してきたわけではなく、データの重要度が低いと判断したからだとしています。
その根拠は何か。放影研が重視してきたのは、原爆炸裂の瞬間に放出される初期放射線です。その被曝線量は爆心地から1キロ以内では、大半が死に至るほど高い値ですが、2キロ付近で100mSvを下回ります。
100mSvは健康に影響をもたらす基準とされている値で、放影研はそれより遠くでは影響は見られないとしているのです。
しかし被曝はそれだけではありません。黒い雨や地上に残された放射性物質による残留放射線です。原爆投下後の1ヶ月あまりの後の測定などから、被曝線量は高いとことでも10から30mSvと推測されています。


「2キロ以遠は影響は見られない」と放影研

放影研の大久保利晃理事長。
残留放射線の被曝線量は、研究の中で無視してよい程度だったとしています。

「集団としてみた場合には黒い雨の影響は、そんなに大きなものではなかったと思います。影響はないとは言ってませんよ。もちろん放射線の被曝の原因になっているということは間違いない事実だと思いますけれど。
それが相対的に直接被曝の被曝線量と比べて、それを凌駕する、あるいは全体的に結論を変えなければいけないような量であったかという質問であったとすれは、それはそんなに大きなものではなかったと。」
公開された分布図を見ると、黒い雨にあった人は、爆心地から2キロの外にも多くいたことが分かります。それなのになぜ黒い雨の影響を調べなかったのか。多くの人が、放影研の説明に納得できずにいます。

爆心地からおよそ2.5キロ。広島市の西部、己斐(こい)地区です。黒い雨が激しく振りました。しかしひとりひとりが黒い雨を浴びた確かな証拠はありません。
佐久間邦彦さん。67歳です。当時、生後9ヶ月だった佐久間さんにとっても、黒い雨を浴びたことを示すものは、自分をおぶっていた母の話だけでした。
「聞いているのは最初、パラパラっときて、それからザーッときたというふうには聞いてますけどね。頭と背中と、当然、もろに濡れたんじゃないかなと思っています。」

佐久間さんは幼いころから白血球の数が異常に少なく、小学生のときには、腎臓と肝臓の大病を患いました。
母親の静子さんは乳がんを発症。しかし黒い雨を浴びた確かな証拠はなく、その影響を強く訴えることはできませんでした。
佐久間さんは放影研のデータの存在を知り、自分のデータはあるのか問い合わせました。二週間後、送られてきた封筒には、調査記録のコピーが入っていました。

「イエスというふうにこれ(原爆直後雨ニ逢イマシタカ?)にチェックしてあります。まさかですね、私がこの中の一人になるとは思っていなかった。」
調査に答えていたのは母、静子さんでした。母が答えた調査記録があるのに、なぜ国は病気のことを調べてくれなかったのか。病気と黒い雨との関係を明らかにできなかったのか。疑念が沸いてきました。
「そのままにしておかれたのかという、私たち被爆者の立場から考えたら、もう何の調査もされていないということは、これはもう憤り以外、なにものでもないですよね。」

続く

#黒い雨 #ABCC #放射線影響研究所 #内部被曝

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