守田です(20192027 23:00)

2月23日、24日に滋賀県大津市で「全国有機農業者の集い2019in琵琶湖」が行われ、特別講演として樋口英明元福井地裁裁判長がお話されました。
2014年5月21日に大飯原発運転差止を命じる判決を出された方です。今回はこの樋口さんの講演についてご報告したいと思います。

樋口さんの講演に聞き入る満員の聴衆 守田撮影 2019年2月23日

なお樋口さんは講演に先立って岩波書店の『世界』2018年10月号に「原発訴訟と裁判官の責任」という文章を書かれています。この日の講演もこれに沿っていたので、当日の発言の紹介を兼ねるものとしてここからの引用も行います。

● 審理の比較的早い段階で大飯原発の危険性は分かった!

樋口元裁判長が述べたのは「原発の危険性は専門的知識などなくともすぐに分かった。実にシンプルなものだった」ということでした。どういうことか。『世界』から引用します。
「本件においては、原発が強い地震によって壊れるかどうかが争われているわけではなく、原告住民が「原発敷地に強い地震が来るかもしれない」と主張しているのに対し、電力会社は「将来にわたって原発敷地には強い地震は来ない」と主張しており、基本的な争いはそこにあった。ここでは強い地震に原発は耐えられないということを前提に議論がされている。このこと自体、私には驚きであった」(同書p59)
樋口さんは「電力会社は地震の予知ができると言っていることにほかならない」がしかし「わが国で地震の予知に成功したことは一度もない」。その上、将来にわたって強い地震は来ないという「消極的地震予知」の方が難しいと指摘しています。

さらに樋口さんは、そもそもいくら何でも原発に対してはもっとましな対策がなされているだろうと考えていたと述べ、以下のように指摘されました。
「三・一一後、原発の過酷事故がいったん起これば、多くの国民の生活が奪われ、国土が広範囲に荒廃してしまうことは国民の多くが認識しており、それ故に、現在の原発は地震に対してもそれなりには丈夫に備えがなされているのだろうと思い込んでいる。私自身もこの事件を担当するまでは同じ思いであった。
しかし、過去の我が国に到来した地震の強さに照らしても、他の建造物の耐震性に照らしても、大飯原発の耐震性は脆弱そのもので、それでもかまないとする唯一の根拠が、消極的地震予知だったのである」(同書p59)
「原発の耐震性を消極的地震予知に依拠して定めることはとてつもなく危険なことで、それだけで運転を差し止める充分な理由となる」(同書p60)

かくして大飯判決運転差止判決は、訴えから一年半あまりで「確信をもって」出されたのでした。

講演する樋口英明元福井地裁裁判長 守田撮影

● 原発は一般住宅よりも耐震性が低い

さらに樋口さんはこれまた自ら驚いたこととして、一般のハウスメーカーの耐震性より原発の耐震性がはるかに低いことをあげられました。
日本で記録された最大震度は4022ガルでハウスメーカーのうちの何社かはこの震度に耐えられる住宅をすでに建設しているのだそうです。
ところが大飯原発の設計基準は建設当初450ガル、大飯判決当時は700ガル、稼働中の現在でも856ガル。

しかもハウスメーカーの耐震性が実験を重ねた上での科学的数字であることに対し、原発は実験など何もせず、抜本的に作り直したわけでもないのに耐震性を2倍近くもあげてしまっている。根拠があまりに希薄です。
樋口さんはこう述べました。
「(こんな脆弱な)耐震性しかない建造物を建てておいて、その理由として「ここには強い地震は来ませんから」というのを聞いてどう思うだろうか。良識と理性は決してこれを許さない」(同書p61)

樋口さん持参の他所での講演会用チラシ 原発が一般住宅の耐震性にはるかに及ばないことが図示されている

樋口さんはさらに原発の危険性は「万が一」にでも起きてはならないほど大きなものであることを踏まえつつ、しかし現にある危機はもっと切迫していることも示しました。
なぜってハウスメーカーの耐震性よりも格段に低い耐震性しか原発がもっていないためです。このため樋口さんは「巨大地震ばかりを想定していてはいけない。もっと規模の小さな地震で原発は壊れうる」ことを強調しました。
だからそれは「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険」(判決文p59)なのです。だから即刻止めなければいけないのです。

続く