守田です(20190121 20:30)

● 高速炉計画も昨年末にとん挫!

昨年末、トルコ・イギリスへの原発輸出のとん挫が明らかになり、今年になって経団連会長が「国民が反対するものは作れない」とか「原発に触れないのは選挙で落ちるから」などと語りつつ、政府に「国民を説得してくれ」と泣きつく事態が続いています。
これだけでも原子力政策が行き詰っていることは明らかですが、昨年末に実はもう一つ大きなことが起こっていたのでした。高速炉建設の展望が無くなったことです。
高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まって以降、高速炉はもんじゅの経験を引き継ぐものとされ、核燃料サイクル事業がまだ生き残っていることを「証明」するためのものでした。

具体的にはフランスが開発しているASTRIDに日本政府も出資し、共同開発を行うとされてきました。
ASTRIDとはAdvanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstrationの頭文字をとったもので、日本語に訳すなら「工業的実証用改良型ナトリウム技術炉」となります。
しかし昨年11月末にフランス政府が資金が高騰して賄えないので凍結すると日本政府に伝えたと日経新聞などが報じました。

日本協力の次世代炉、仏が凍結へ 原子力政策に打撃
日経新聞 2018/11/28 19:01
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38286780Y8A121C1000000/

● 昨年6月にはすでに計画の縮小が発表されていた

日本政府は今のところ「そんなことは聞いていない」と否定しており、フランス政府も同様の声明を出したとされています。
しかし同計画はすでに昨年6月の段階でフランス側から予算を減らし規模を小さくすることが発表されており、そのときにすでに「無理なのではないか」という憶測が出されていたのです。例えば朝日新聞はこう論じました。

「日本が国際協力を進めようとしている高速炉「アストリッド(ASTRID)」計画について、開発主体のフランス政府が建設コスト増を理由に規模縮小を検討している。
日本政府がこだわる核燃料サイクルは一層見通せなくなったが、計画への巨額投資を続けようとしている。1兆円以上をつぎ込んだ高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)がまともに動かないまま、廃炉に至った失敗を繰り返しかねない」。

高速炉、仏が計画縮小へ 日本政府、なお巨額投資の意向
朝日新聞 桜井林太郎、関根慎一 2018年6月1日08時54分
https://digital.asahi.com/articles/ASL5044JBL50ULFA00S.html

● もんじゅ=高速増殖炉が目指していたものは何か

先に述べたように高速炉はもんじゅの経験を受けつぐとされたものです。
そのもんじゅは何を狙って開発されたのか。現在使われている原発の燃料はウランです。正確には核分裂するウラン235ですが、実はこれは天然界のウランの中にわずか0.6%しか含まれていません。
この含有率では核分裂反応が連鎖しないので、反応を連続させるためにはウラン235の濃度を3%ぐらいに高める必要があります。これがウランの「濃縮」であり、その時に出たカスを「劣化ウラン」と呼びます。

こうしてウラン235が3%、ウラン238が97%の燃料に中性子が当たるとウラン235が核分裂連鎖反応を起こしますが、このとき中性子が核分裂しないウラン238にあたると採りこまれ、新しい物質が生まれるのです。
プルトニウム239です。プルトニウム239はウラン235よりも核分裂のエネルギーが大きい。そこでどんどん中性子をあててプルトニウム239を増やして作られたのがプルトニウム型原爆です。
この核分裂反応を促進するための装置が原子炉で、もともとは核爆弾を製造する装置の一部だったのでした。

核燃料サイクルは原発で発電をしながらプルトニウム239を産みだし、再処理工場で使用済み燃料棒からとりだし、それとウラン238を混ぜた混合燃料(MOX燃料)を作ってさらに発電しながらさらにどんどんプルトニウムを作ることを柱にしていました。
プルトニウムを燃やしながらそれ以上のプルトニウムを作るので夢の「増殖炉」と言われました。ただし高速で増やすという意味ではありません。中性子を高速状態で使うので「高速増殖炉」と呼ばれたのです。
これが実用化されてはじめて原子力エネルギーは人類にとっての夢のエネルギーになるはずでした。なぜって核分裂をするウラン235事態は自然界にごく少数しか存在していなくていずれ枯渇してしまうのが明らかだからです。

BS朝日「午後のニュースルーム」(05/17/2013)

● 核燃料サイクル計画=原子力政策はすでに完全に破たん

しかし実験炉常陽を経て、原型炉と言われたもんじゅでつまづいてしまった。その先に実証炉、商業炉と続くはずだったのですが、結局高速増殖炉は実用化にほど遠い段階で破たんしたのです。

東京新聞 2016年12月22日

これだけでももう核燃料サイクル計画は完全に崩壊したと言えるのです。しかも日本の場合、六ケ所村での使用済み燃料の処理すらうまくできていない。この面からもどう考えても夢のエネルギーとしての原子力の展望はもうなくなってしまっているのです。

そしてこれに代わるもの、というより当面の場つなぎとして、いわば核燃料サイクルがまだ続いている仮象を担保するものとして「高速炉」が期待されたのでした。
といってもこの炉はプルトニウムを燃やしても増殖できないので、すでに「夢」から大きく後退したものでしたが、その後退した「高速炉」計画ですら破たんしてしいました。
その点でも原子力政策にはもはや何の展望もない。風前の灯なのです。そこにさらに輸出政策の完全破たんが加わったがゆえに、経団連中西会長のグラグラと揺れた発言も飛び出したことを見ておく必要があります。

続く