守田です(20180331 09:00)

昨夜(30日)夜に、23日に再稼働を強行した玄海原発3号機が、蒸気発生器に水を送る配管の一部から蒸気漏れを起こし発電が停止されました。
またも再稼働直後の事故の発生です。点検を何度も繰り返し、細心の注意を払って再稼働させても、極めて高い確率で故障事故が起こってしまう。それが原発なのです。構造的欠陥物なのです。

原発でひとたび事故が起これば膨大な放射能が飛び出してきてしまう。だから原発はほかのあらゆるプラント以上に故障事故が起きてはいけないのに、再稼働後のトラブルがかわせない。
今回は今のところ深刻な放射能漏れにはいたっていないようですが、しかしこれほどに危険な原発は、この段階で即刻停めるべきです!
もうはっきりとしていることは、原発は未確立なテクノロジーだということです。安全性の確保に抜本的に失敗しているのです。だからやめるべきです!再度の大事故が起きる前に!

もう少し詳しく見ていきましょう。今回蒸気漏れが発生したのは二次系の配管の中にある「脱気器空気抜き管」という機器だそうです。
九州電力が行ったプレスリリースのうち、蒸気漏れを起こした箇所を図示した「系統図」をご紹介しておきます。

玄海原子力発電所3号機概略系統図
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0125/2053/bti4y7z3.pdf

以降、この図を参考に説明を続けますが、この原子炉は「加圧水型」と呼ばれます。現在稼働している川内2号機、高浜3,4号機、大飯原発3号機、そして定期点検中に裁判で停止を命じられた伊方原発3号機のいずれも同じ型で、三菱重工製です。
そもそもこの型の原発は「蒸気発生器」に致命的な欠陥を抱えており、これに付随して二次系、三次系の配管で繰り返しトラブルを起こしています。同じ型の美浜原発ではメルトダウン寸前の事故や、悲惨な死亡事故も起こしています。

この原子炉が「加圧水型」と呼ばれるのは一次系冷却水(九電の図では桃色の部分)を循環させる配管の中に加圧器が設置されていて圧力が加えられているからです。どれぐらいかというと150気圧にされています。
水に圧力を加えると沸点が高くなります。この型の原発の中では300度でもまだ沸騰しない。このため150気圧300度の熱水が一次系配管の中を循環しているのです。
なぜこんなことをするのかというとよりたくさんの熱を運ぶためです。これを「蒸気発生器」に送り込み、ここで二次系冷却水(九電の図では青色の部分)と配管を介して接することで熱を移行させ、蒸気を発生させてタービンを回すのです。

しかしこんなに高圧の熱水を回せばさまざまな負担が発生してしまう。このためこれまで深刻な事故が繰り返されてきました。
最も大きな弱点は「蒸気発生器」にあります。この中には一次系の細い配管がたくさん配置されていて二次系の冷却水と接しているわけですが、抜本的に矛盾した役割が与えられています。
一つには150気圧300度の熱水をしっかりと閉じ込めること。もう一つには300度の熱を効率よく二次系に伝えること。しかし前者のためには配管を厚くした方がいいし後者のためには薄くした方がいい。

このため配管を絶対に壊れないように厚くすることができず、150度300気圧に耐えられなくなった配管にしばしば穴=ピンホールが生じてしまうのです。しかもピンホールはできはじめるとどんどん増えていく。配管が急速に劣化していくのです。
これに対してどうしているのかというとなんと定期点検のときにピンホールが生じた配管に栓をするという信じがたい対処が続けられています。
この点だけでも蒸気発生器が技術的に未確立であることがわかりますが、恐ろしいのは穴があくのではすまずに配管が破断してしまうことで、実際にこうした過酷事故が美浜原発2号機で発生しました。1991年のことでした。

配管の一部が破断したことで、なんと55トンの熱水が二次系統に流れ出してしまって原子炉が緊急停止。この国の原発ではじめて「緊急炉心冷却装置」が作動しました。
これは大変深刻な事故でした。1次冷却水は150気圧で回っていますから、配管破断によりものすごい勢いで冷却水が無くなっていき、メルトダウンに向かってしまったからです。このときは寸前で事故の進展が止まったもののまさに危機一髪でした。

加圧水型原子炉を設計した三菱重工は、さすがに「蒸気発生器」が未確立な部品であることを明らかにし、なんとその後に劣化したのちの蒸気発生器本体の交換を始めました。
しかしこの部品はもともと交換など想定していないがゆえに、九電の図を見ても明らかにように、堅牢に作られた原子炉格納容器の中に収められています。このため交換のためには、格納容器を切断して大きな穴をあけて行わなければならないのです。
格納容器の役目は過酷事故が起こった時に放射能を閉じ込めること。だから堅牢に作らているのにそこに巨大な切断面を作ってしまう。

このため当時から心臓移植手術などと言われましたが、こんなことをすること自体がすでにして設計の破たんなのです。
そもそも蒸気発生器が劣化した時点でもうこの原発の寿命は尽きていたのです。なぜって原発を廃炉にするまで交換など考えずに設計されたのがもともとの加圧水型原子炉なのだからです。

美浜原発はその後、2004年も深刻な事故を起こしました。しかもこの時は5名が死亡し6名が重傷を負いました。
事故が起きたのは蒸気発生器ではなくて、二次系配管で低圧給水加熱器と脱気器の間の配管でした。今回、玄海で故障事故を起こした脱気器のすぐそばでした。(九電の図で確認してください)
この配管が定期点検中で作業員が下にいる状態で突然破断。140度の蒸気が人々を襲い、4名が即死されました。この方たちは体中の水分が無くなってしまっていたそうです。その後、さらに1名が死亡。あまりに痛ましい重大事故でした。

この時に明らかになったのは、一次系冷却水系統や蒸気発生器でトラブルが繰り返されてきたため、一次系の「安全管理」に労力を奪われて、二次系統の点検があまりにおろそかになっていたことでした。
このため設計上は10ミリとされている配管の内側が腐食によって減肉し、事故当時は肉厚が1.4ミリにまで減ってしまっていることが見過ごされていたのです。なんとこの配管は1976年の稼働以後、一度も交換されていませんでした。
もともとはこの配管は、関西電力の内規で4.7ミリまで減肉したら交換すべきことになっていており、1989年に検査し1991年に取り替えることになっていたのに見過ごされていたのでした。

加圧水型原発のトラブルはそれだけではありません。現在が停まっている伊方原発3号機が再稼働に向かう過程では1次冷却水ポンプの故障が起こりました。九電の図で桃色の部分の下部にあるものです。
慎重に再稼働を進めようとする最中に起こった事故だけに注目して分析してみたところ、実はこのポンプも繰り返し水漏れ事故を起こしていることが分かりました。
当然、四国電力もその点を熟知していて再稼働の前に新型に交換していました。ところがその新品でたちまち故障が起こってしまう。要するにこの部品もまた技術的に未確立なのです。

 

九電では2015年の川内原発1号機の再稼働の際にも、わずか9日目に2次系冷却装置の細管に穴が空くトラブルも起こしています。

再稼働にあたって慎重を極めているはずなのにこうしたトラブル続き。ここに原発の構造的な欠陥性、危険性が現れています!

今回、深刻な放射能漏れが起こってないから良いのではありません。この段階で停めるべきなのです。それこそが「人類の英知」です!
この国はすでに悲惨な福島第一原発事故を経験したのだから、もう二度と大事故を起こさせてはならないのです。

原発の稼働をやめよ!安全性を確保できない原発から即刻撤退せよとの声を強めましょう!

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参考のため、朝日新聞の記事を貼り付けておきます。

玄海3号機、蒸気漏れで発電停止 再稼働一週間で 九電
朝日新聞 高橋尚之 2018年3月30日23時42分
https://www.asahi.com/articles/ASL3Z7JBLL3ZTIPE03J.html

九州電力は30日夜、23日に再稼働した玄海原子力発電所3号機(佐賀県玄海町)で、蒸気発生器に水を送る配管の一部から、微少な蒸気漏れを確認したと発表した。点検のためタービンを止め、送電と発電を停止する。
原子炉の出力も下げるが、停止するかどうかは未定。九電は、周囲への放射性物質の漏れはないとしている。

九電によると30日午後7時ごろ、パトロールしていた作業員が蒸気漏れを目視で確認した。報道への発表は午後10時半過ぎだった。
蒸気漏れがあったのは「脱気器空気抜き管」と呼ばれる部分。2次系の配管の一部で、蒸気発生器に送る水の中から余計なガスを取り除く設備だという。

蒸気漏れがあった部分を冷ますため、約75%まで達していた電気出力を同日深夜から少しずつ下げ、31日朝にもタービンを停止する見込み。タービンを止めても熱が十分下がらなければ、原子炉を停止する可能性もあるという。
玄海原発は23日に再稼働し、25日から発送電を始め、出力を徐々に上げていた。当初は4月5日に出力100%に達し、24日にも通常の営業運転に移る予定だったが、遅れることになる。

九電の原発では、2015年に再稼働した川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)でも、再稼働から9日後に、2次系の冷却装置の細管に穴があくトラブルが発生している。この時は発電は止めなかった。(高橋尚之)