守田です。(20161014 23:30)

島根・鳥取訪問記の3回目です。

これまではマークⅠ型、マークⅠ型改、マークⅡ型、マークⅡ型改、マークⅢ型、改良沸騰水型(ABWR)と変遷を遂げてきた沸騰水型原発の危険性についてみてきました。
とくに繰り返し「改良」がなされたことから、改良がなされなければならなかったもともとの危険個所をおさえてきました。
今回は改良を重ねた末に到達した改良沸騰水型(ABWR)原発が抱えている危険性について論じていきたいと思います。
その際、やはり最も信頼できるのはAPAST主宰者の後藤政志さんの提言で、とくに今回は以下の内容をご紹介したいと思います。

改良沸騰水型原発(ABWR)の技術的特徴(その2)
後藤政志談 20130817
https://www.youtube.com/watch?v=j9NwIwqC2qo&feature=youtu.be&t=14m31s

話を分かりやすくするためにここでもアトミカ掲載のABWRに図を掲載しておきます。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02030402/08.gif

前回も述べたようにこの型の格納容器の特徴は鉄筋コンクリート製であることです。このため英語ではReinforced Concrete Containment Vessels(RCCV)とも表記されます。
このことで構造が簡素化し、内部の機器なども収めやすくなったことを前回ご紹介しました。
基本構造を後藤さんがビデオの中で詳しく説明してくださっているので、ぜひ動画をご覧になってください。

さてこのABWRの最も大きな問題として後藤さんが指摘しているのは、これまでマークⅠ型からⅠ型改になったときも、マークⅡ型からⅡ型改になったときも、格納容器の容積の拡大(約1.5倍に)が行われたのにも関わらず、ABWRでは縮小してしまったことです。
より正確に言うと、格納容器の容積の絶対量は拡大しているのですが、同時に出力も上げられており、この出力あたりの容積が小さくなっているのです。
格納容器の内部はドライウェルとウェットウェルという部分に分かれているのですが、この全空間の容積がマークⅠでは6030㎥だったのがマークⅠ改で14100㎥、マークⅡで9800㎥だったのがマークⅡ改で14400㎥と大きくされてきました。
ところがABWRでは13400㎥に縮小されてしまっているのです。

熱出力をみるとマークⅠ型が1380MWt、マークⅠ改、マークⅡ、マークⅡ改が3293MWt、これに対してABWRは3926MWtと大きくなっています。
これらを総合的にみるために容積を熱出力でわった数値をみると、マークⅠ型4.37、マークⅠ改4.28、マークⅡ2.98、マークⅡ改4.37に比して、ABWRは3.41しかないのです。明らかにマークⅠ、Ⅱの改良型よりも小さくなってしまっています。
後藤さんはこのように格納容器が出力との関係比率ではマークⅠ型からすらも小さくなってしまっていることを、より危険で、より早くベントしなければならない構造だとして厳しく批判しています。

さらにサブレッションプール=圧力抑制プールの水量についても同様のことが言えます。
圧力抑制プールとは格納容器の下部にあるものです。役割は圧力容器内で深刻な事故が起こり、大量の蒸気が発生した場合に、配管を通して蒸気をこのプールの中に持ち込み、プールの中に噴出させて一気に冷やし、蒸気から水に戻すためのものです。
蒸気から水に戻ることで体積が一気に縮まるため、圧力抑制プールと呼ばれるのですが、その場合の水の量は大きな意味を持ちます。水の量が蒸気を冷やせる量そのものだからです。
蒸気は高温ですから当然それをプールの中で噴けば熱がプールの水に移行してだんだん高くなります。最後に沸点まで到達しますがその段階でもう蒸気を水に戻す能力はなくなり圧力抑制ができなくなるのです。

しかしこのプールの水量が、マークⅠ型1750㎥、Ⅰ型改3800㎥、Ⅱ型3400㎥、Ⅱ型改4000㎥と増量されてきたのに、ABWRでは3600㎥と少なくなってしまっています。
ここでも水量を熱出力で割ってみると、マークⅠ型1.27、Ⅰ型改1.15、Ⅱ型1.03、Ⅱ型改1.21に対して、ABWRでは0.92となっています。これまた熱出力との関係では、これまでで最も少なくなっているのです。
これでは圧力抑制プールの性能をわざわざ落としたことにしかなりません。

なぜこのようなことがなされたのか。少なくとも安全性の確保の面からは合理的な理由は見つからないのですが、後藤政志さんはご紹介したビデオとは別のところで開発側が次のように述べていることを紹介しています。
ABWRでは格納容器を鉄筋コンクリート製にするとともに、原子炉内をまわる一次冷却水の流れを促進する「再循環ポンプ」を圧力容器内に収めてしまい、「インターナルポンプ」としたことも大きな「改良」点でした。
このため圧力容器の周りにあった再循環ポンプを差し込んだ配管もいらなくなり、その分、大きな口径のパイプを減らせたので、その分、配管破断事故のときの余裕ができたから格納容器を小さくできたといっているというのです。

しかし安全性の面から言うのであれば、余裕が増えるこそ安全マージンの拡大なのですから、その分、格納容器の容量を減らしたり、圧力抑制プールの水量を減らしたのでは元も子もありません。
では何が理由なのかと言えば、考えられるのは一つ、経済性の「向上」だけです。
そもそも格納容器の変遷は、熱出力の拡大ともセットになって行われてきました。安全面だけでなく、よりたくさんの発電ができるようにとの理由からも改良が重ねられてきたのです。
そしてその改良に資金を費やした分だけ多くの開発費がかかっています。このような状態下で格納容器をさらに大きくすると施設そのものがより巨大になり、当然にもさらにたくさんの資金が必要となります。この面から容積と水量が減らされたのではないか。

この点で示唆的なのは、後藤政志さんと共にAPAST参加し、元技術者の立場から原発の危険性を訴えている小倉志郎さんが、著書『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)の中で述べられている次の点です。
「新しい原発には古い原発よりも危険性が高くなる側面がある。なぜなら、新しい原発ほど、計算技術の発達によって発見された余裕がどんどん削られていく傾向があるからだ。」(同書p5)。動機がコスト削減にあることも小倉さんは指摘しています。

このように見てくると、確かに一方でABWRは、これまで見てきたように、マークⅠ型以降の沸騰水型格納容器の危険性を克服しようとする方向性を持ってはいて、そのことで逆説的に沸騰水型原発の抱える矛盾を体現してもいます。
しかし同時にABWR自身、せっかく致命的欠陥を克服しようとしながら、他方で安全マージンを大きく切縮めてしまい、かえって古い型よりも危険にもなっているのです。
この危険性は、そもそも沸騰水型原発では、「改良」の度に出力が大きくされてきたこと、その分だけより多くの核分裂を行い、熱を発生させられるようになっていることでも高まっています。
なんと言っても熱出力を上げながら、安全マージンを削ってしまっているわけですから、改良ではなく改悪になってしまっています。その点でこの原子炉は「改悪沸騰水型」と呼ぶべきだと思います。

以上、ABWRの構造的欠陥について分析してきました。もっとたくさんのことも言えますが、ここではとりあえずは格納容器内の容量と水量の縮小が極めて大きな危険性を持っていることを強調しておきたいと思います。
この炉は日本の中ではまだ動かした実績のあるのは柏崎刈羽6,7号機、浜岡5号機、志賀原発2号機の4炉しかありません。
その柏崎刈羽6,7号機の再稼働が目指されていることもしっかりと見据え、沸騰水型原発全体の危険性をひろめていきましょう。

続く

次回は島根原発固有の問題としてわずか2キロあまりのところに走る断層帯の問題を特集します。

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