守田です。(20161013 18:30)

前回から島根原発への取材とお隣の鳥取県境港市での講演についての連載を始めました。
これまで述べてきたのは島根原発が1号機(マークⅠ型)、2号機(マークⅠ改型)、3号機(改良沸騰水型)と、このタイプの原発の変遷の見本のような原子炉が並んでおり、それをみていると沸騰水型原発の危険性がよく分かるという点でした。
実際に1号機から5号機までマークⅠ型を使っていた福島第一原発では1号機から3号機までメルトダウンからメルトスルーを起こし、ベントが試みられましたが、それでも格納容器が破損して大量の放射能漏れ=毒ガス噴出事故を起こしました。
とくに2号機はベントに失敗して格納容器下部が激しく壊れ、3つの炉の中でも圧倒的な量の放射能の噴出を起こしてしまいました。

前回も書きましたがここで注意を促したいのは、もともとこの原発が作られた時に公言され、技術者たちの間でも絶対に守るべき原則とされていたのは、深刻な事故を起こしても大量の放射能漏れなど、絶対に起こさないということでした。
しかしスリーマイル島事故などの経験から、メーカーが理解したのは、配管破断などの何らかの要因で冷却材喪失事故が起こった時、炉心でメルトダウンが起こり、メルトスルーに移行し、膨大なガスが発生して格納容器が持たない状態に陥ることでした。
このため後付けでとりつけられたのがベントだということです。ベントは放射能を閉じ込めることを絶対的な任務としてる格納容器を崩壊から守るために、放射能を自ら噴出させる装置であって、「格納容器の自殺装置」なのです。
このことだけでも原発賛成論のすべてはもう崩壊しているのです。なぜって賛成論ではあくまでも原発が深刻な事故を起こす可能性はまったくないか、あったとしても「天文学的確率でしかない」などと言われてきたからです。

こうした点から、最低でもマークⅠ型原発はもっと早く廃炉にすべきであったこと、こうした決断を行えば十分に福島第一原発事故は防げたのだと前回書きましたが、実はこうした可能性を政府もメーカーも電力会社も100%知っていたのでした。
今回の記事を書くにあたって、元東芝の後藤政志さんや小倉志郎さんらがこの9月に行った集会動画を参考にしていたら、その中でやはり元東芝の渡辺敦雄さんが、このことを示す驚くべき動画をご紹介してくださっていたのでそれをここでも示しておきたいと

思います。
独立行政法人・原子力安全基盤機構が、原子力防災専門官向け資料として作成していた、炉心溶融のシミュレーション画像で、作成は2009年のようです。

動画で見る炉心溶融
https://www.youtube.com/watch?v=wwYk62WpV_s

ご覧になると分かるように、なんと福島第一原発事故は、かなりの精度で発生と進展が予測されていたのです。
予測が外れたのは、ベントが円滑に行えなかったことでした。動画ではベントによって排気塔から大量の放射性ガスが排出されて、まるで「めでたし、めでたし」と締めくくられています。
最後にこんな文章が映されます「最悪の事態に至った場合でも、住民の方々に安全・安心して頂けるよう、日頃から、防災担当者への訓練を通して、原子力災害時の対応能力の習熟に努めております」・・・。
実際にはこんなことが起きる可能性があることは明らかにされず、また起こった際の対処もなんら準備されていませんでした。それどころかこうした可能性を知っていた東電は、自社の家族だけに「とっとと逃げろ」という指令を出したのでした。

ちなみに動画の中では「マークⅠ型を例に説明します」と語られていますが、正確にはこれはマークⅠ改型です。つまり島根原発2号機と同じタイプです。
何度も言いますが、こんな危険極まりないものの再稼働など、絶対に許してはなりません。ぜひこの動画を多くの方と共有して欲しいです。

さて今回は島根原発3号機に採用されている改良沸騰水型原発(ABWR)の構造と問題点について考察を進めていきたいと思います。
理解を容易にするため、前回もご紹介した沸騰水型原発の変遷を表す図を示しておきます。アトミカ掲載のものです。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02010101/10.gif

この平面図では分かりにくいのですが、ABWRの格納容器は円筒形になっています。これを縦に切り取った断面図がご覧いただいた図のように四角になっています。
横方向から見ると四角、上から見ると円になっていると言えばお判りでしょうか。
最大の特徴は、これまで鋼鉄製だった格納容器がコンクリート製になっていて、内側に6.4ミリのライナーと呼ばれる鉄板がはられていることです。

ここからは島根原発に併設されているPR館の方の説明に沿って、「何が改良されたのか」を説明しておきますが、最も強調されていたのがこのコンクリート製格納容器の採用により、横からみると四角い形状にすることができたことでした。
なぜならそれまで使っていた鋼鉄の場合、四角くするとどうしても角にあたる部分が脆くなってしまい、内側から圧力がかかったときにそこから破断する可能性ができてしまうので、円形にしか加工できなかったからです。
実際、マークⅠ型はフラスコ型をしており、マークⅠ改型は魔法瓶型をしていて、ともに上下が丸みを帯びています。
こうすると格納容器内部にはさまざまな機材や配管を置かなければならないし、点検作業で立ち入らなければならないので、不都合が多いのですが、それが改良されたのだというのです。

さらにコンクリートの中には51ミリという国産では最も太い鉄筋が採用されて、複雑に編み上げられています。PR館ではこれを手で握って重量を確かめられるようになっているのですが、これで強固さが増したのだと言うわけです。
といってもコンクリートはもともと水が浸潤する性質をもったもので、常識的にいってひび割れも生じるので、内側にライナーを貼ってあるというわけです。
さらに横から見て四角い形状が可能となることで内部機器の配置に余裕ができ、全体として重心を下げられるようになったことで耐震性が強化された点も述べられています。

この他の改良点であげられているのは原子炉再循環ポンプを原子炉圧力容器に内蔵したこととされています。
この「再循環ポンプ」は加圧水型原発では「一次冷却材ポンプ」と言われているもので、現在稼働している伊方原発3号機で稼働直前の7月17日に水漏れ事故を起こしたものに相当するものです。
配管の中にモーターを差し込み、プロペラを回して流れを強めているのですが、このモーターのシャフト部分から、一次冷却水が漏れだしてきてしまう。そのためさまざまに工夫を凝らしてシールドしているのですが、事故が繰り返されている部分です。

僕はこの夏に伊方原発再稼働前にこの部分の解析を行っていて、実はこれが技術的に未完成の構造的欠陥部品であることを突き止めました。
その上で、元東芝でポンプなどに詳しい小倉志郎さんにご意見を請うたところ、以下のような回答を得ました。

「問題の伊方原発3号機ポンプ故障についてですが、守田さんのご指摘の通り、この軸シール=軸封装置=こそ、原子炉システムの「アキレス腱」です。そして、この装置については政府=原子力規制庁=の技術基準はありません。
原子炉圧力バウンダリーを構成する箇所でありながら、「溶接部」「フランジ部」とは異なり、圧力に耐えている部品同志が相対的に移動しあっているのですから、内部から液体が漏れるのを防ぐのは至難です。
とりわけ、原子炉の高圧がかかるのですから、その部品の設計はメーカーの設計、製造技術、経験のノウハウ固まりのようなものです。」

「私がBWRの原子炉再循環ポンプをはじめ各種のポンプでのシール部漏洩を起こした場合に良く見たのは「シール面=こすれ合う面=に微細な異物が侵入した」という理由です。しかし、分解してみてもそんな微細な遺物が見つかったためしがないのです。
今回の伊方の場合もそうですが、本当は漏洩の原因は不明なのです。しかし、「原因不明」と公表してしまえば、「対策の妥当性」を説明できなくなります。そこで、苦し紛れの誰も確認できない理由を挙げざるを得ないのです。

シールの断面の構造をみるかぎり、原子炉格納容器の漏えいテストのために原子炉格納容器の内圧を挙げたところで、第3シールの固定リングが傾くとは考えられません。
上記したように、傾きの存在を確かめられないし、Oリングの摩擦力が(不均一に)増えたことも確かめられないのですから、これは空想による「屁理屈」でしかありません。」

なおこれについては以下の記事に詳しく書いています。
明日に向けて(1299)一次冷却材ポンプ、再循環ポンプは原発のアキレス腱!川内、伊方原発をただちに停止すべきだ!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/15be99138463055eb10641f091bb8341

改良沸騰水型原発ではこのポンプを配管の中に差し込むことを止め、原子炉の中に内蔵したのです。
構造的欠陥があり、繰り返し事故を起こしてしまう部分らから配管の中に組み込むことを止めたのではないかと思われます。
またより大きな理由として、破断のしやすい配管そのものの多くを、原子炉圧力容器の中に取り込んでしまうことで、この部分での様々な事故の発生の可能性を抑止したということでしょう。

さらに3つ目の改良は制御棒駆動機構の駆動源を水圧と電動機に多重化したことです。
沸騰水型原発では原子炉内の核分裂を調整している制御棒が下から差し込まれる構造になっています。
単純に考えれば、重力に沿うように上部に設置した方が、緊急時のスクラム(一斉差し込み)の失敗などの危険性を減らせることになります。事実、加圧水型原発は上から差し込んでいます。
ところが沸騰水型原発では、圧力容器上部で一次冷却水が沸騰し、タービンに送られるため、ここに駆動系の装置を設置することが難しいのです。そのため下から差し込む構造になっているのですが、重力に逆らうために危険性を伴います。

また自重で制御棒が抜け落ちてしまう落下事故も繰り返されています。
制御棒は原発の主要なブレーキですから、これもまた致命的な欠陥なのです。このため改良沸騰水型では、それまで制御棒の駆動系が水圧のみだったことに対して、電動系を加えたわけです。
PR館の説明ではこれに伴って、制御棒の抜き差しのときのストローク(いっぺんにどれぐらい動かせるか)もより細かくなり、炉内の微妙な調整が可能になって安全性が増したことが説明されていました。
炉内の反応は穏やかに上昇し、下降した方が安全で、そのためには制御棒を少しずつ上げ下げできた方が良い。それが可能なので安全性が高められたということです。
なおこれらについて、中国電力よりも大間原発でこの方の原子炉を建設中のJ POWER(電源開発)の方がホームページでより詳しく説明しているのでこれを示しておきます。文章で分かりにくいところは図などでご確認ください。

ABWRについて
J POWER 電源開発HPより
http://www.jpower.co.jp/bs/field/gensiryoku/project/aspect/adoption/abwr/

以上、詳しく見れば見るだけ、マークⅠ型、Ⅱ型およびその改良型の沸騰水原発がさまざまな問題を抱えてきたことが見えてきます。
ではABWRではこれらの矛盾は克服されたのでしょうか。断じて否です。
次回はこの点について後藤政志さんが詳しく解説してくださっているので、その点を特集したいと思います。
なお前回の最後に、これに加えて島根原発の固有の危険性である活断層問題について述べることを予告しましたが、この点は次々回に回したいと思います。(申し訳ありません)

続く

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連載1300回越えに際して、カンパを訴えています。
今回はさまざまな取材を通して得た知見をまとめ書籍化していくための資金提供を訴えたいと思います。
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