守田です。(20160916 23:30)

原発の危険性をめぐる新たな可能性が浮上しています。
問題が明らかになったのはフランスでのことでした。2014年、フランスのアレバ社が建設中のフラマンビル3号機と同型の原子炉圧力容器の上蓋に「炭素偏析」があることを確認しました。
「炭素偏析」とは鋼材中に含まれる炭素の濃度が局所的に高い部分のことです。鉄には幾つかの元素が混じりやすいのですが、とくに性質に大きな影響を与えるのが炭素で、その濃度によって少ない方から「純鉄」「鋼」「鋳鉄」と分類されます。
この際、さらに濃度が高くなると、材料が硬くなる一方、脆くなる性質があり、機械的強度が低下するおそれがあるのですが、この炭素濃度が基準以上に高い部分が見つかり、強度が疑われる事態が見つかったということです。

この事態を受けて、フランス原子力安全局(ASN)が調査を開始しましたが、本年2016年6月23日に、フランスで運転中の58基の加圧水型原発のうち、18基で問題があると発表しました。
これらの原発の蒸気発生器の水室の機械的強度が想定よりも低い可能性があるとされたのですが、問題はこの部分の製造を、フランスのクルゾ・フォルジュ社と日本の日本鋳鍛鋼株式会社(以下JCFCと略)が担っていたことが明らかになったことでした。
脆い可能性が指摘された鉄材を日本のメーカーが製造していたわけですから、当然にもそれが国内でも使用されている可能性が出てきたわけです。
このため原子力規制庁が8月24日に以下の文章を発し、全国の電力会社の原発でこのJCFCの製品が使われていないかどうかが調査され、9月2日に報告書が提出されました。

仏国原子力安全局で確認された原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査の実施について(案)
https://www.nsr.go.jp/data/000161479.pdf

発電用原子炉設置者から仏国原子力安全局で確認された原子炉容器等における炭素偏析の可能性に係る調査に関する報告書を受領
https://www.nsr.go.jp/disclosure/law/NRP/00000005.html

この9月2日の報告書で極めて重要なことが明らかになりました。強度の脆い鉄材を供給した恐れのあるJCFCの製品が、日本でも9原発17基に使用されていることが明らかになったのです。
以下、どの原発のどの部署に問題の鉄材が使われているのか、報告書からまとめた内容を列挙します。

北海道電力
泊原発1号機、2号機
蒸気発生器一次側鏡板

東京電力
福島第二原発2号機、4号機
原子炉圧力容器上蓋と下鏡

北陸電力
志賀原発1号機
原子炉圧力容器上蓋と下鏡

関西電力
高浜原発2号機
原子炉上蓋
高浜原発3号機、4号機
蒸気発生器一次側鏡板
大飯原発1号機、2号機
原子炉上蓋

四国電力
伊方原発2号機
原子炉上蓋

九州電力
玄海原発2号機
原子炉上蓋
玄海原発3号機、4号機
原子炉上蓋と胴部
川内原発1号機
原子炉胴部
川内原発2号機
原子炉胴部と蒸気発生器一次側鏡板

日本原子力発電
敦賀原発2号機
原子炉胴部と蒸気発生器一次側鏡板

ちなみに言葉の説明を行っておきます。
ここで原子炉と言われているのは核分裂が行われている炉心を中に収めている原子炉圧力容器のこと。
その上部に「上蓋」があり、「胴部」があり、下部に「下鏡」があります。原子力百科事典ATOMICAより当該部分の図を示しておきます。

BWR原子炉容器 (02-03-03-01)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02030301/03.gif

蒸気発生器一次側鏡板とは原子炉容器の下鏡に相当する部分です。「鏡板」と明示されていませんが、同じくATOMICAより当該部分の図を示しておきます。

PWRの蒸気発生器 (02-08-01-03)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02080103/02.gif

これらの部分に脆い鉄材が使わている可能性があるわけですが、実に日本の原発の4割に相当する9原発17基で同じJCFCの製品が使われているのです。
中でも注目すべきなのは川内原発1号機2号機がこの中に含まれていることです。設計上、必要とされる機械的強度が出ていない可能性が浮上しているのですからただちに稼働を停止すべきです。
また再稼働の審査に入っている玄海原発も含まれていますし、新規制基準に合格し稼動したものの大津地裁の命令で停止している高浜原発3、4号機も含まれています。

さらに9月14日には原子力規制委員会より、フランス当局からの報告として、やはりJCFCが納入した鋼材の不純物濃度が基準を超えていたことが明らかにされました。
ますます9原発17基も同じく脆弱な鋼材で作られている可能性が高まったと言えます。

鋼材不純物が基準超え、仏原発 日本製設備、強度不足疑いで調査
東京新聞 2016年9月14日 13時47分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016091401001234.html

ここで少しくこの東京新聞掲載の共同通信の記事に補足を行います。記事には以下のように書かれています。
「同社は日本国内で、稼働中の九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)を含む8原発13基の原子炉圧力容器を製造しており、電力各社が現在、調査を続けている。」

これでは問題は13基でしか起こっていないかのように見えますが、実は「原子炉圧力容器を製造しており」というところにトリックがあります。
これ以外に4基の原発の蒸気発生器一次側鏡板にも同社の鋼材が使ってあるのに、原子力規制委員会が「原子炉圧力容器」だけを強調しているのです。
9月14日にリリースされた以下の資料の26ページ目をご覧になってください。同社製の原子炉圧力容器の当該箇所が青でマークされていますが、蒸気発生器が無視されています。鍛造と鋳造を分けたのかもですが、それにしてもなんとも姑息な発表です。

第4回日仏規制当局間会合の結果報告
https://www.nsr.go.jp/data/000163716.pdf

さて今回は発表された資料の解析はこれぐらいにしておきたいと思いますが、問題は加圧水型原発でより深刻であることを指摘しておきたいと思います。
なぜなら加圧水型原発は、その名のごとく炉心を流れる一次冷却水を150気圧に加圧しているからです。
このことで一次冷却水の温度を300℃まであげて蒸気発生器に誘い、ここで二次冷却水と細管で接して熱を二次系に移し、蒸気を発生させてタービンを回して発電しているわけです。
このため原子炉圧力容器に、沸騰水型原発よりも大きな圧力がかかり続けています。この圧力に耐えて一次冷却水を封じ込めている容器の鋼材が設定した強度を持っていない可能性があるのですからとても恐ろしいです。

またこれまで繰り返し述べてきたように、この加圧水型原発は、この蒸気発生器に致命的な欠陥を抱えています。
細管の中を300度の熱湯が150気圧もの力で周って、熱を伝えているのですが、圧力に耐えるためにはパイプの肉厚が大きいほどよく、熱伝導のためには肉厚が小さい方がいいという矛盾構造を抱えています。
このため圧力に十分に耐えるだけ厚くすることができないがために、度々、ピンホールが空いてしまい、定期点検で見つけるたびに穴のあいた細管に栓をして稼動しているありさまです。
それも間に合えばよいものの、かつて美浜原発で細管が完全破断するギロチン切断事故も起こってしまい、メルトダウン寸前にすら陥ってしまいました。

このような構造的欠陥を持っているがために、蒸気発生器は古くなると新品に交換されてきました。これはもともとも設計仕様にはないことです。
原子炉圧力容器と蒸気発生器の周りにはこれらをおさめた原子炉格納容器があります。この容器の役目は万が一の事故のときに放射能を閉じこめること。
そのため堅牢さが求められるわけですが、もともとの設計仕様にはなかった蒸気発生器の交換は、この堅牢さが求められる格納容器に大きな穴をあけて行われているのです。
本来の設計思想から言えば、加圧水型原発はこの点からだけでも設計をやり直さなければならないのです。

しかし蒸気発生器の交換というもともとは想定していなかった「反則技」を使って延命してきたのが加圧水型原発なのですが、実は今、大きな行き詰まりにぶつかりつつあります。
この原発の日本のメーカーは三菱重工であり、同社がJCFCが納入した鋼材を使ったこの部品を組み立てているわけですが、同社がアメリカのサンオノフレ原発に輸出した同部品が致命的な事故を起こし、同原発が廃炉になってしまったからです。
このため三菱重工は9300億円の損害請求裁判を起こされていますが、より問題なのは最新型の蒸気発生器にしてこの事故を起こしてしまったことです。要するに技術として確立できていないのです。

その上に今回のこの蒸気発生器の下部、一次冷却水側の水質を覆っている鏡板が脆弱な可能性があることが浮上してきたのです。
ここもまた150気圧の水圧に激しく晒されている場所であり、鋼材の脆弱性は極めて危険であると言えます。

さらにさらにもう一つ、この150気圧で周っている一次冷却水の配管に差し込まれた「一次冷却材ポンプ」にも構造的欠陥があることを「明日に向けて」で明らかにしてきました。
流れを促進するために回しているプロペラのモータの軸部分に150気圧の水圧がかかるため、故障を度々起こしてきた問題です。

以上から川内原発1号機、2号機をただちに停止させるべきことを訴えます!
そもそもこうした問題が次々と出てくることそのものに、原子力発電の安全な展開の不可能性が表れているのです。
全原発を廃炉にし、原子力行政を最後的に閉ざすことを求めます。

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連載1300回越えに際して、カンパを訴えています。
今回はこのように原発の構造的分析、事故等々のリアルな解析活動を支えるものとしての資金提供をお願いしたいと思います。
かなり時間のかかる作業です。ぜひお力をお貸しください。

今回も振り込み先を記しておきます。よろしくお願いします。

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