守田です。(20150827 15:00)

本日27日、九州電力は復水器から海水が二次冷却系に混入するトラブルで延期していた川内原発1号機の出力上昇を再開しました。今日中に現在の75%から95%まで上昇させ、31日に原子炉をフル出力させる「定格熱出力一定運転」に到達する見通しです。
配管の損傷は復水器にある26000本のうちの5本とされ、周辺の64本を含めて栓をする処置がなされましたが、損傷部分は9年前の定期検査で異常がないことを確認して以降、再稼働前も含めて検査の対象になっていなかったことも明らかになりました。
復水器はもう2台あり、それぞれに同数の細管が通っています。これらにも同様の検査対象から漏れていた部分があると思われます。本来、稼働を停めてすべての配管を点検すべきです。にもかかわらず出力アップが強行されています。

原発は核分裂で発生した熱により水を沸騰させ、蒸気の力でタービンを回すことで電気を発生させています。この際、タービンを回した蒸気を細管を隔てて海水と接触させ、水に戻すのが「復水器」ですが、この細管にダメージが生じやすい。
加圧水型原発の場合は、原子炉の中を周る一時冷却水に高圧をかけて蒸発させずに300度でまわし、二次冷却水と接して蒸気を発生させてタービンを回していますが、この蒸気発生器でも重大なトラブルが生じやすく、過去に美浜2号機で細管破断事故が起こっています。
さらに二次冷却系もストレスを受けやすく、同じく美浜の3号機で配管破断が起こり、高温高圧の蒸気をかぶった作業員5人が亡くなる痛ましい事故が起きています。

これだけでも大問題ですが、さらに炉心の冷却を司っている冷却系の事故は、メルトダウンの危機に直結する問題としてあります。とくに高温高圧の冷却水がまわっている蒸気発生器で生じる細管破断は、たちまち過酷事故を生じかねません。
今回の復水器のトラブルもこうした冷却系で起こっているもので、原発を停めて原因の徹底解明をせずに応急処置で凌ごうとする姿勢は大変危険です。にもかかわらず九電は出力アップを選択してしまいました。
そもそもこの間、明らかにしてきたようにこれまで4年以上停止していた原発を再稼働したのは世界に14例しかなく、そのすべてでその後に事故が起こっています。これらを考えも九電の行っていることは無謀であり、ただちに原子炉を停めるべきです。

いやそもそも今回の再稼働そのものが安全思想をまったく無視した無謀で愚かな試みです。私たちは再度、再稼働の本質的誤りをきちんとおさえて、批判の声を強める必要があります。
そのためにここで「明日に向けて」(1060)~(1065)と(972)で連載した内容(2015年3月24日~4月6日と(2014年11月15日)を再度、ピックアップしたいと思います。問題点のポイントを紹介し当該記事のアドレスを示しておきます。
なお2015年3月~4月の連載は、福島原発事故以降、事故の進展や規制庁による新規制基準の提出などに即して、純技術的側面からもっとも適格な解説を行ってきてくださった元格納容器設計者・後藤政志さんの発言に学んで行ったものです。

第一に指摘すべきは、そもそもの九州電力が行った再稼働対策に向けた許認可申請があまりに杜撰に行われたことです。
後藤さんは「プラントの配置関係を全部伏せて白抜きになっている。どこに何があるか分からない状態になっている。耐震強度を計算する時に耐震の解析モデルがあるが、それの高さ方向の値がすべて白抜きになっている」と怒りをもって指摘されました。
要するに川内原発再稼働に向けた許認可申請は、主要部分を公開せずに行われたのです。あまりに杜撰でした。

明日に向けて(1060)あまりに杜撰な川内原発工事認可申請(後藤政志さん談)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0870cd08844d3d12e17ae6345ae8b79b

第二に再稼働の是非を審査する、規制庁の新規制基準に大問題があります。端的に新しい規制基準では「重大事故」が防げないことを前提にしているということです。
福島第一原発の教訓を踏まえて、「重大事故」を絶対に起こさないようにする・・・とは言ってないのです。
起こさないように努力するが、それでも「重大事故」は発生しうる前提に転換したのです。大事故がありうることが前提に再稼働を認めると開き直ったのです。こんなことは絶対に認めてはなりません。

明日に向けて(1062)原発再稼働に向けた新規制基準は大事故を前提にしている!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3d3e4b0cb07ae7a68734a3b52c9c693f

第三に規制委は「福島第一原発事故の教訓」を参考に新基準を作ったと言っているのですが、そもそも福島原発事故はその全容がまだ解明されていません。
それどころか1号機から3号機は放射線値が高すぎて内部がほとんどみれず、溶け落ちた核燃料の状態やありかさえつかみ切れていないのです。
事故は継続中です。汚染水の発生から明らかなように格納容器のどこかが壊れているのは確実ですが、どこかが分かっていない。事故がどのように進展してどこが壊れたのかも分からないのです。それでなぜ対策ができるのでしょうか。

明日に向けて(1063)福島の教訓に基づく重大事故対策などまだできるわけがない!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8718f402298f072498d32eb7f59478f8

第四に、規制委が新基準に盛り込んだ地震対策のあやまりです。ここにはそもそも地震の揺れの大きさは現代科学で十分に解析できるのかという問題が横たわっています。
この点で重要なのは8年近く止まっている柏崎・刈羽原発を襲った2007年中越沖地震の地震動です。この原発の設計基準地震動は450ガルでしたが、実際には1699ガルの地震動がここを襲ったのでした。4倍もの揺れでした。
ここで明らかになったのは現代科学ではまだ地震動の揺れを正確に捉えることができないことです。にもかかわらずこの重大問題に目を伏せたまま規制委は認可を与えています。

明日に向けて(1064)原子力規制庁・新規制基準の断層と地震動想定のあやまり(後藤政志さん談)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/a3f0e8c33a857d8a36a56280845eedc1

第五に、新規制基準における「重大事故」対策の内容が、事故を収めるどころかむしろ拡大しかねないより危険な内容をも含んでいることです。
とくに重要なのは、川内原発や高浜原発で採用されている加圧型原子炉の格納容器には、東電のような沸騰水型原発と違って窒素が充填されておらず、水素爆発が起きやすいので、イグナイタ―をつけて水素が溜まる前に燃やしてしまおうとしていることです。
しかし福島原発事故で明らかになったように「重大事故」ではそれまでの設計上の想定が突破されているのですから、こうした非常用の装置も期待通りに動くとは限りません。水素が一定たまってから着火がされてしまえばかえって自爆してしまいます。

明日に向けて(1065)新規制基準の「重大事故」対策はあまりに非現実的でむしろ危険だ!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/d4c8272d4c01e698efd2e68600b4b4af

明日に向けて(1075)川内原発再稼働も禁止すべきだ!~加圧水型原発過酷事故対策の誤りを後藤政志さんに学ぶ~
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9605e1dc395c1d33815861dad65ac36a

第六に、火山に関する噴火評価が火山学会の誠実な提言を踏みにじって行われたことです。川内原発は日本の中で破局的な噴火を起こしうる10の火山のうちの5つが集中する地帯にあり、どの火山の大噴火でも深刻な被害を受ける可能性があります。
これに対して九電は大噴火の兆候は数年前に分かるので、そのとき核燃料を炉心から降ろして安全な場に移すと述べており、原子力規制もこれを承認しています。運転中の核燃料を降ろせるようになるには数年がかかりますがその前に分かると言うのです。
しかし火山学会は繰り返し現代の技術では数日から数時間の範囲でしか予測ができないと語っています。いわんや数年の規模での予想などまったく不可能というのが学会の常識なのです。再稼働はこの火山学会の提言をまったく無視してなされています。

明日に向けて(972)原子力規制委の噴火評価はデタラメ!火山学会の誠実な提言を受け入れるべきだ!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9f924552b380fc1efc744322658a6fad

以上、新規制基準はなんら原発の稼働の安全性を保障していません。
それどころか、申請が杜撰、「重大事故」に開き直り、解明されていない福島原発の教訓に学べるはずがない、地震の揺れが正確に予想できないことを無視、「重大事故」対策がかえって危険、火山の大噴火の予知ができないことを無視、と矛盾だらけです。
私たちはこの間の復水器トラブルは、こうしたもともとの再稼働の本質的誤りの上にさらに危険性を示すものとして表れていることをきちんととらえておく必要があります。これらの点を広げ、稼働を許さない民主的パワーのアップを図っていきましょう。