守田です。(20150826 17:00)

2012年3月に矢ヶ崎さんと一緒に編み上げた岩波ブックレット『内部被曝』、未だに継続的に売れて読んでいただけています。
被爆70年の今年の夏、僕は各地で「戦争と原爆と原発と放射能被曝の太い関係性」について語ってきました。
その中心的内容は、原爆を落とした加害者であるアメリカが、被害者である被爆者を排他的・独占的に調査したデータが、現在の放射線防護学の基礎になっており、そのことが放射線被曝の人体への影響が極めて軽く扱われる大元の根拠になっていることです。
その際に行われたのが内部被曝隠しでした。被曝影響を主に原爆の破裂時に発せられた初期放射線によるものに限ってしまい、放射性微粒子の降下と体内へのとり込みによる被曝の影響が意図的に無視されたのです。

岩波ブックレット『内部被曝』は、矢ヶ崎さんへのインタビューに基づきながら、内部被曝のメカニズムを明らかにしたのちに、アメリカが主導する国際放射線防護委員会(ICRP)がいかに被曝影響を過小評価してきたのかのからくりを明らかにした書です。
被曝の過小評価の歴史的経緯と論理的方法を解き明かしており、ぜひこの点を多くの方に理解していただきたいです。そのためにも『内部被曝』の購読を強くお勧めします。すでに読んだ方には周りに広げていただくことをお願いしたいです。
今、私たちは川内原発の強引な再稼働を前に緊張感を強いられていますが、そもそも原発も核戦略を生き延びさせるための「原子力の平和利用」によって登場してきたもの。その点の歴史的経緯も論じてあります。
そもそも原発の促進とて、内部被曝の軽視なしには不可能だったのでした。原発は正常運転していても放射能を漏らし続けるし、かつまた深刻な被曝労働を作り出すからです。

本書はこれまでさまざまな場できわめて好意的にレビューされてきましたが、この8月と昨年末にもそれぞれに素晴らしいブックレビューを書いて下さった方がいましたのでここに紹介します。先に岩波書店の購入先を案内しておきます。

『内部被曝』購入先
岩波書店ブックオーダー係 電話049‐287‐5721 FAX049‐287‐5742
岩波書店ホームページ・ブックレット
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/booklet/

*****

内部被曝の恐ろしさとその隠ぺい
投稿者 哲郎 ベスト1000レビュアー 2015年8月15日
http://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/RYVAX92WRS2DJ/ref=cm_cr_pr_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4002708322

はじめに内部被曝の過酷さを原理的に明快に解説している。
その上で、原爆と原発を推進する国際的な組織ICRPが、その深刻な被害を巧妙かつ徹底的に隠ぺいしてきた事実が述べられる。
これほど重大な事実を前に立ちあがった学者が、著者のほかわずかであるというのがさびしい。
エピソードとして、福島事故直後に東京都町田市で内部被曝の影響を疑わせる事例があったこと、1970年代に日本の6~9歳の子供たちのがん死亡率が6倍になったこと(評者の姪も小学4年でがん死した)、
セシウムは28℃で液化、680℃で気化するから、焼却したらバグフィルターをすり抜ける、といった指摘に教えられた。
著者たちが、原発被害者たちや福島事故被災者たちに寄り添って、ともに被害克服に苦闘しておられることに頭が下がった。

*****

71ページでうすいが、わかりやすい
投稿者hanakuro2014年11月2日
http://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R36VRGXJXO3S3X/ref=cm_cr_pr_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4002708322

物理学的な説明が、とてもわかりやすいです。71ページのうすい本ですが、わかりやすく端的に書いています。目次はつぎのとおり…1章「被曝直後の福島を訪れて」、2章「内部被曝のメカニズムと恐ろしさ」、3章「誰が放射線のリスクを決めてきたの

か」、4章「なぜ内部被曝は小さく見積もられてきたのか」、5章「放射線被曝に、どのように立ち向かうか」

この本を読む前に、JCOの臨界事故についてのNHK取材班の記録をもとにした文庫本、「朽ちていった命-被曝治療83日間の記録-」(新潮文庫)を読んでいました。
これは、零コンマ何秒間の、中性子線とガンマ線被曝で、人体の中のNaが放射性物質Na24に変化して、骨髄細胞の染色体が同定できないくらいにバラバラに破壊され、多臓器が機能不全になって、急性障害で亡くなった、大内さんの83日にわたる、だれ

もが経験したことのない闘病の記録です。

JCOの事故は、中性子線とガンマ線被曝が原因なのは明白です。一方、ブックレットにある「内部被曝」は低線量の24時間被曝のことです。放射性ヨウ素のように、体内のいろんな部位に蓄積する放射性物質が出しつづけるベータ線は、短い距離を飛行する

あいだに、その近くにある原子に衝突して、「効率よく」その電子をはじきとばして、その物質を破壊するのですが、じわじわと晩発性障害を発生させるので、被曝した本人(我々自身かもしれない)ですら、障害と被曝の因果関係に気付くのはむずかしいし、

因果関係を立証するのもむずかしいようです。

5章を読んで、….. すでにできてしまった放射性廃棄物については、放射線を出す性質自体を消滅させることはできないので、体積を減量して放射線を長期間、遮蔽する以外に手立てがないように思いますが、これ以上、放射性廃棄物をふやさないために、

脱原発は必要に思いました。放射性廃棄物は、とてつもなく長期にわたって、いろんな意味で危険な、子孫への負の遺産です。これは人間が作り出すものの中では、かなり特殊なものであることを認識しなければならないように思います。いま、参考にすべきキ

ーワードは、「ドイツは、すべての原発を2022年までに停止することを決めた」と、いろんな企業が注目しつつある「再生エネルギ」、ではないかと思います。

*****

岩波ブックレット「内部被曝」
星の対話プロジェクト(災害避難者の人権ネットワーク)2014年12月30日
http://starsdialog.blog.jp/archives/19685191.html

この本は 2012 年 3 月に出版されていたのに,見のがしていたのは失敗。
いまおもえば,書名がそっけない,というか単純すぎて「ああ,わかってる」と錯覚した可能性がある。
「内部被曝」ではなく「放射線被曝にどのように立ち向かうか」という第 5 章のタイトルを書名にしてくれていたら・・・という気がする。
ともあれ,重要な内容である。いまこの問題でなやみ,まよっている人たちへの答えがすでに書かれていたのだ。
第 2 章では内部被曝のメカニズムについて,ていねいに書かれていて,あらためて理解をふかめた。
第 3 章,4 章では,歴史的な経緯を追っていて,科学が政治に服従してきたことがよくわかる。
1か所だけ引用しておきたい。
「科学することは,物を具体的に見ることです。真理は常に,具体的なのです。ですから対象を具体的に個々に見ることなしには,被曝を研究することは決してできません。」(p.39)
さらに重要なのは第 5 章である。これからの社会のありかた,人間の生きかたまで深く考察した内容で,納得できる。自主的に避難したひとたち,とくに子どもをつれて逃げた人たちを高く評価している点は著者の人道的な立ち位置が明確になっている。

目次
第 1 章 被曝直後の福島を訪れて
第 2 章 内部被曝のメカニズムと恐ろしさ
第 3 章 誰が放射線のリスクを決めてきたのか
第 4 章 なぜ内部被曝は小さく見積もられてきたのか
第 5 章 放射線被曝に,どのように立ち向かうのか

著者略歴
矢ヶ崎克馬
1943 年うまれ。沖縄県在住。広島大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。理学博士。専攻は物理。琉球大学理学部教授。理学部長などを経て 2009 年 3 月,定年退職。
琉球大学名誉教授。2003 年より原爆症認定集団訴訟で「内部被曝」について証言をする。東日本大震災以降は,福島ほか全国各地で講演をしている。2012 年久保医療文化賞受賞。
著書に『隠された被曝』(新日本出版社),『力学入門(6 版)』(裳華房)などがある。

守田敏也
1959 年うまれ。京都市在住。同志社大学社会的共通資本研究センター客員フェローなどを経て,現在フリーライターとして取材活動をつづけ,社会的共通資本に関する研究をすすめている。ナラ枯れ問題に深く関わり,京都の大門司山などで害虫防除も実施。

東日本大震災以降は,広くネットで情報を発信し,関西をはじめ被災地でも講演をつづけている。また,京都 OHANA プロジェクトのメンバーとして,被災地に中古の自転車を整備して届ける活動をおこなっている。

– – – – – – – – – – – – – – – – –
「内部被曝」 岩波ブックレット 832
2012 年 3 月 6 日 第 1 刷発行
著者 矢ヶ崎克馬,守田敏也
ISBN978-4-00270832-4
定価 本体 560 円+税
岩波書店
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/booklet/
– – – – – – – – – – – – – – – – –
関連記事
「ドイツ・ベラルーシ・トルコ・ポーランドで学んだこと~チェルノブイリ原発事故による被ばくの現実やトルコへの原発輸出問題~」
http://starsdialog.blog.jp/archives/19321277.html