守田です。(20150701 16:00)
すでに先月17日に篠山市に原子力災害対策検討委員会から「原子力災害対策計画にむけての提言」が提出されましたが、その全文が篠山市のホームページに掲載されましたのでお知らせします。
原子力災害対策計画にむけての提言
http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/bousai/assets/2015/06/teigensyo.pdf
A4で39ページ(本文36ページ)のものですが、篠山市民だけでなく多くのみなさんにもお読みいただきたいと思います。ぜひぜひご覧下さい。
全体として委員会でかなり考察を重ねたものになっています。
目次から各章の表題をご紹介します。
第1章 総論
第2章 事故時における情報伝達について
第3章 原子力災害時における避難の実行
第4章 被曝防護のための安定ヨウ素剤の服用
第5章 ヨウ素以外の放射能にはどう対応するのか
この「第1章総論」の中で提言全体を貫く考え方を述べています。
その核心部分だけご紹介すると次のようになります。
「この提言は、憲法13条および25条に規定された私たちの人格権を守る精神に則って書かれています。人格権は「生命や身体、自由や名誉など個人が生活を営むなかで、他者から保護されなければならない権利」と規定されます。」
「東京電力福島第一原発事故によって明らかになったことは、原子力災害はひとたび始まってしまえば事態を把握することはとても難しく、政府も電力会社も容易に止めることができないし、原子炉内部で進行していることすらなかなかつかめないことです」
「原子炉から放射能が漏れ出た直後が最もたくさんの放射線が飛び出してくる時期です。これらを踏まえて私たちは次のことを強調したいと思います。」
「原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは『とっとと逃げる』ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。」
「ただしその場合も事故の規模、風向きによっては、理想的な退避行動をとったとしてもなお被曝をしてしまうこともあり得ます。すべての市民が被曝を確実に免れる計画を立てることはとてもできないのが原発事故なのです。」
「それゆえ私たちは次の点も強調したいと思います。」
「事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。」
篠山市原子力災害対策検討委員会が提出した提言は、この点で、原子力規制庁がひな形として出している「原子力災害対策指針」や、これに基づいて各地の行政が作っている「原子力災害対策」と一番違っています。
原子力規制庁は、重大事故発生時において、あたかも事故の進展が把握できて、人々が円滑に避難しうることが可能であるかのような想定のもとに避難計画のひな型を作っています。避難対策が実行可能なレベルに事故の想定を押しとどめているともいえます。
しかしこの建前が、計画がリアリティを著しく欠く要因となっているのです。
繰り返し述べてきましたが、安全性確保のためには原発を再稼働させないことが重要です。
しかし原発や核施設はプールの中に使用済み核燃料がある限り、いつ何時過酷事故を起こすとも限りません。全国のプールの中の核燃料が安全な状態に移されるまで、私たちはリアリティをもった原子力災害対策をとり続ける以外ないのです。
篠山市長と市民に対して発せられた「原子力災害対策計画にむけての提言」はそのために市民サイドから行った考察です。これをたたき台に、全国でより優れた原子力災害対策を積み上げていってくださればと思います。
そのためにもぜひご覧になっていただきたいです。全体として力を入れて書かれていますが「第4章 被曝防護のための安定ヨウ素剤の服用」では、これまでのどの関係書よりも、安定ヨウ素剤服用に関する端的な指摘を行い得ていると自負しています。
なお篠山市はこの提言を受け入れて、今秋より安定ヨウ素剤の事前配布に踏み切ります。
ぜひ篠山市を応援して下さい!
冒頭の「第1章 総論 第1節 提言の基本的な考え方」を全文ご紹介しておきます。
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第1章 総論
第1節 提言の基本的な考え方
第1 提言の目的
この提言は、憲法13条および25条に規定された私たちの人格権を守る精神に則って書かれています。人格権は「生命や身体、自由や名誉など個人が生活を営むなかで、他者から保護されなければならない権利」と規定されます。
平成26(2014)年5月に福井地方裁判所が提出した大飯原発の稼働差し止めを命じる判決の際にもこの「人格権」が打ち出され、社会の耳目を集めました。
私たち原子力災害対策検討委員会も、この人格権の精神に則り、篠山市民の生命や身体、自由な名誉などを守ることを考察の中心軸としてきました。
同時に災害対策のための法律としては、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)及び原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号、改正平成26年法律第114号、以下「原災法」という)を前提としています。
また私たちが重視したのは兵庫県が行った高浜、大飯両原発の事故時の放射性物質拡散シミュレーションです。
「兵庫県企画県民部防災企画局広域企画室」によって平成25年4月に行われ、平成26年4月に計算の緻密化がなされましたが、両原発の事故の場合、篠山市をはじめとする兵庫県の各市町に大量の放射性ヨウ素が飛来しうることが2度に亘って示されました。
篠山市の場合、両結果とも国際原子力機関(IAEA)が安定ヨウ素剤を事前に服用すべきと規定した甲状腺等価線量50mSvを2倍前後も上回る飛来が予測されています。
この国際基準は日本政府も採用しているものであり、篠山市においても放射性ヨウ素被曝を避けることが必須であると認識しました。
これらの認識の上に立ちつつ、福井県や他県にある原子力発電所から放射性物質が大量に敷地外に放出される事態を想定し、いかに市民を被曝から守るのかを中心に検討しました。
私たちは考察を行うにあたって、原子力発電所に対する是非を一度横に置いて話し合いを進めてきました。私たちの検討対象は原子力災害対策であり、これ自身は、原発に賛成でも反対でも行うべきことであるからです。
ですからこの提言も、原発に賛成の方も反対の方もお読みいただきたいと思います。
私たちが考察してきて導き出したポイントは以下の点です。すなわち東京電力福島第一原発(以下、福島原発と記載)事故によって明らかになったことは、原子力災害はひとたび始まってしまえば事態を把握することはとても難しく、
政府も電力会社も容易に止めることができないし、原子炉内部で進行していることすらなかなかつかめないことです。
このため事故が起こった時に篠山市で独自に災害のあり方を把握し、避難時期を決めることは大変難しいと言えます。
しかもひとたび原子炉から飛び出した放射能は、初期であるほどより多くの放射線を出します。
放射能には放射線を出す能力が半分になるまでの「半減期」がありますが、飛び出してくるさまざまな放射能の中には半減期が短く、短時間で膨大な量の放射線を出すものがあるためです。
このため原子炉から放射能が漏れ出た直後が最もたくさんの放射線が飛び出してくる時期です。これらを踏まえて私たちは次のことを強調したいと思います。
原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは「とっとと逃げる」ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。
ただしその場合も事故の規模、風向きによっては、理想的な退避行動をとったとしてもなお被曝をしてしまうこともあり得ます。すべての市民が被曝を確実に免れる計画を立てることはとてもできないのが原発事故なのです。
さらに要介護者など、避難が難しい方の立場はより困難です。私たちは可能な精一杯の事前準備をしたいと思いますが、絶対に確実な方法への到達は不可能です。それゆえ私たちは次の点も強調したいと思います。
事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。
私たちはそのためには、市民のみなさんが事前に放射線被曝から身を守る知識を身に着けておくことが重要だと考えています。その点から、この提言は、読むだけでも、みなさんのお役に立つことを願って書かれています。
なお、原発は稼働しているときの方が危険ですが、稼働していなくても、使用済み燃料プールに重大な支障があれば危機に陥ります。福島原発事故でも、4号機燃料プールがとても危機的な状態になりました。
そのためこの提言は、燃料棒が安全な状態に移され、核事故の可能性が無くなるまで、原子力災害対策は必要であり続けるとの前提に立っています。
さらに原発は国内だけでなく世界中にあります。このためみなさんの旅行先や、ご家族の赴任ないし留学先で事故にあう可能性もあります。私たちはこうした場合にも適用できる知識を提言に盛り込んでいます。
以上が提言の目的ですので、ぜひみなさんに読んでいただきたいです。
第2 提言の目的に関する付論
先ほど私たちは、原子力災害対策の検討にあたり原子力発電所そのものの是非については検討の範囲外と考え、主に事故対策を考察してきたことを述べました。
しかし対策を仔細に検討すればするだけ、確実な避難が困難であること、もともと避難が難しい方にとってはなおさら厳しいことが見えてきました。
また避難計画においては、避難の誘導や点検などを担う市職員や警察署、消防署、自衛隊、消防団など関係機関の方々にも大きな被曝リスクを背負っていただくことを前提せざるを得ません。
高浜原発から最も近い地点が45キロの篠山市ですらこうですから、原発のすぐそばに位置する自治体では、より確実な避難は困難であり、立地条件によっては計画が立てようのない自治体もあるのではと思われますし、事実そのような報道もなされています。
これらを考えたとき、私たちは福島原発事故と同規模ないしそれを上回る事故に際して、国の責任で、周辺住民が確実に避難できる対策をたてること、放射線防護の徹底化を図ることを強く求めます。
市長は住民の安全を守る立場から、ぜひこのことを国と原子力事業者に対し、強く訴えてください。
私たちはこうした避難体制が確立され、原発により近い人々の安全性が確認されない限りは、エネルギー問題はさておき、原子力災害対策の観点から、原子力発電所の再稼働には同意できないことを明らかにせねばならないとの結論に至りました。
この点を提言に盛り込ませていただきます。
第3 提言の性格
この提言の中での避難計画に対する考えは、旧原子力安全委員会の「原子力施設等の防災対策について」の見直しに関する考え方についての中間とりまとめ(平成24年(2012)年3月)、
原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」(平成24(2012)年10月31日、平成27(2015)年4月22日全部改正)を参考にした上で作成されていますが、福島原発事故はかつてなかったものであり、事故の分析や抜本的な対策の検討が続いています。
その中で見えてきたのは、この事故がこれまでの想定を大きく突破してしまったことです。
国は「日本の原発事故では原子炉格納容器が破壊され、大量の放射能が広範に降り注ぐ事態は決して起こらない」と繰り返し、放射能が原発外に大量に漏れた場合に対する法律も作らず、対応すべき官庁すらも決めていませんでした。
実際には格納容器は激しく壊れ、東日本が広範囲に被曝してしまいました。
事故原因はいまだ十分に把握されていません。事故の収束も達成されておらず、深刻な海洋汚染が続いています。大地震などに遭遇することで、再び福島原発サイトが深刻な危機に直面する可能性も大きく残っています。
そのため、この提言では篠山市が今の時点で取り得る最善の対応を提案しますが、新たな事実が判明した時は、必要に応じて見直しを行うものとします。