守田です。(20150423 23:30)

昨日22日に鹿児島地裁は、地域に住民が川内原発再稼働差し止めを求めた仮処分申請を却下する決定を下しました。
これに対して前号で後藤政志さんの提言に学びつつ、加圧水型原発における過酷事故対策の誤りの解説を載せておきましたが、今回はこの決定の中で特筆つべき点について論じておきたいと思います。

端的に言ってそれは火山噴火に対する見積もりです。
川内原発の立地する鹿児島県は、桜島の度重なる噴火で知られる火山活動が活発な地域です。
当然にも火山活動への対応が問題になるわけですが、その場合の大きな軸は桜島などの活火山で今後、大規模な噴火がありうるのかということと、それを事前に予知できるのかということです。

鹿児島地方裁判所の下した決定の中では「可能性が十分に小さいとは言えないと考える火山学者が火山学会の多数を占めるものとまでは認められない」とされました。
しかしこれに対して判決直後に、火山学会重鎮の火山噴火予知連絡会会長で東京大学の藤井敏嗣名誉教授がこの決定を全面否定する以下のようなコメントを出しています。

「カルデラ火山の破局的な噴火については、いつ発生するかは分からないものの、火山学者の多くは、間違いなく発生すると考えており、『可能性が十分に小さいとは言えないと考える火山学者が火山学会の多数を占めるものとまでは認められない』とする決定の内容は実態とは逆で、決定では破局的噴火の可能性が十分低いと認定する基準も提示されていない。
火山による影響については、今回の判断は、九州電力側の主張をそのまま受け止めた内容で、しっかりとした検討がされていないのではないか。」

この火山学会の提言については、「明日に向けて」の紙面でも何度か取り上げてきました。
記事をご紹介します。

明日に向けて(972)原子力規制委の噴火評価はデタラメ!火山学会の誠実な提言を受け入れるべきだ!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9f924552b380fc1efc744322658a6fad

実は火山学会は、科学者としての良心にかけて、人間がまだまだ把握できていない火山活動を軽視することの誤りに対しての警鐘を打ち鳴らしてきているのです。
明日に向けて(972)でも紹介していますが、以下の記事(FoE Japanの満田夏花さんがドロップボックスに紹介)をご参照ください。

火山の危険軽視 「予知可」科学的根拠なし 再稼働「安全神話」の復活
東京新聞 2014年9月10日
https://dl.dropboxusercontent.com/u/23151586/tokyo_140911.pdf

今回の鹿児島地方裁判所の決定は、このように火山学会の方たちが、繰り返し訴えてきた火山活動の軽視に対する警鐘をまったく無視したものであり、火山学会の方たちの科学的良心をも踏みにじるものに他なりません。
火山学会の方たちは、火山活動の予知が大変難しいこと、だからこそ火山活動を軽視してはならないことを本当に必死になって訴えてきたのでした。
さらに世界の1割におよぶ火山大国であるこの日本で、火山学への予算配分があまりに少なく、学会が存亡の危機にすら立っていることも訴えてきました。ここには目の前にある危機を直視しようとしないこの国の根本的欠陥への告発が含まれていました。

にもかかわらず、火山学会、なかんずく火山噴火予知連は、昨年の御嶽山の噴火の時に、「なぜ噴火を予知できなかったのか」と、社会から猛烈にバッシングされました。
それだけに火山学会や予知連は、噴火活動を容易に予知できるかのような考えこそが、この国に住まう人々に多大な危機をもたらすと考えて予知の難しさを語り続け、だからこそ、安易に予知を可能だと言い張った原子力規制委員会をも批判してきたのです。
これは学問的に良心から人々を災害から守ろうとするきわめてまっとうな姿であり、原子力規制委員会も鹿児島地方裁判所もこうした真摯な声に耳を傾けるべきです。

いやそもそも原子力規制委員会は、実はこうした火山学会の見解を知っているがゆえに、火山学の専門家を招請せずに新規制基準を作ったのではないかと思われます。初めから原発を動かせる基準作りを目指したからです。火山学者がいてはまずかったのです。
私たちはこの点に今回の決定の大きな矛盾があることを押さえ、ここで挫けることなく、川内原発再稼働反対の声を高めていく必要があります。

以下、決定を踏まえた弁護団の声明のアドレスを紹介し、とくにその中で噴火問題に触れたところをピックアップして貼り付けておきます。
ぜひこの点に学んでください!

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司法機関の住民の安全を守る責務を放棄した鹿児島地方裁判所 川内原発1号機、2号機再稼働差止仮処分決定に強く抗議する
2015年4月23日
http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/archives/15-04-23/

(噴火問題の個所のピックアップ)

破局噴火のリスクを無視した決定
南九州地方は、破局噴火を起こしたカルデラが数多く存在する地域であり、原発を設置する立地としては極めて不適切な場所である。
九州電力は①カルデラ噴火は定期的な周期で発生するが現在はその周期にないこと、②破局的噴火に先行して発生するプリニー式噴火ステージの兆候がみられないこと、
③カルデラ火山の地下浅部には大規模なマグマ溜まりはないことから、破局噴火が起こる可能性は十分に小さいことから立地に問題はないと主張していた。

本決定は、「原子力規制委員会は、本件原子炉施設に係る火山事象の影響評価についても、火山学の専門家の関与・協力を得ながら厳格かつ詳細な調査審議を行ったものと評価できるから・・・不合理な点は認められない」とするが、完全な事実誤認である。
川内原発の火山影響の審査過程で、火山学者は誰も招聘されていない。火山影響評価ガイドをつくる段階で、一度だけ、火山学者が招聘されただけである。
本決定は、住民側の主張を容れ、長岡の噴火ステージ論とドルイット論文が一般理論のように依拠していることには強い批判があることは認めた。しかし、この批判が妥当するとしてもマグマだまりの状況等の知見、調査結果と総合考慮されるので、不合理とはいえないとしてしまった。現時点では、マグマだまりの状況を的確に調査する手法は確立されておらず、決定は事実誤認である。

火山学会の大勢は破局的噴火の活動可能性を認めている
また、本決定は、破局的噴火の活動可能性が十分に小さいといえないと考える火山学者が、一定数存在することを認めつつ、火山学会提言の中で、この点が特に言及されていないことから、火山学会の多数を占めるものではないなどと判示し、石原火山学会原子力問題委員会委員長が、適合性審査の判断に疑問が残ると述べたことを無視している。
本決定は、他の箇所では「火山学者50人にアンケートを実施したところ、そのうち29人がカルデラ火山の破局的噴火によって本件原子炉施設が被害を受けるリスクがあると回答したとの報道がある」と認定しており、学会の多数が規制委員会の決定に疑問を呈していることは明らかである。

決定後のNHKの報道もこのことを裏付けている。火山噴火予知連絡会の会長で、東京大学の藤井敏嗣名誉教授は、「今回の決定では、火山による影響について、『国の新しい規制基準の内容に不合理な点は認められない』としている。
しかし、現在の知見では破局的な噴火の発生は事前に把握することが難しいのに、新しい規制基準ではモニタリングを行うことでカルデラの破局的な噴火を予知できることを暗示するなど、不合理な点があることは火山学会の委員会でもすでに指摘しているとおりだ。
また、火山活動による原発への影響の評価について、火山の専門家が詳細な検証や評価に関わったという話は聞いたことがない。」「カルデラ火山の破局的な噴火については、いつ発生するかは分からないものの、火山学者の多くは、間違いなく発生すると考えており、『可能性が十分に小さいとは言えないと考える火山学者が火山学会の多数を占めるものとまでは認められない』とする決定の内容は実態とは逆で、決定では破局的噴火の可能性が十分低いと認定する基準も提示されていない。
火山による影響については、今回の判断は、九州電力側の主張をそのまま受け止めた内容で、しっかりとした検討がされていないのではないか。」と述べたという。決定内容は、明らかな事実誤認であり、抗告審でこの誤りは必ず正さなければならない。