守田です。(20140927 09:30)

宇沢先生が亡くなられたことへの悲しみがまだ心にまとわりついていますが、前に進むのが不肖の弟子であった僕の務めに違いありません。そう考えて吉田調書の読み解きを進めます。

さて主体的読み解きの4回目になりますが、今回は少し調書から離れて「東電の発表の読み解き方」についてお話したいと思います。吉田調書の読解のために重要だからです。
すでに多くの方の共通認識になっていることですが、東電は非常に不誠実な体質を持った会社です。常に自己弁護、自己擁護に終始する傾向を色濃く持っており、不都合なことの隠蔽やごまかしに長けています。
そんな東電が自社に不都合な事実を公表する時は、必ずと言って良いほど何か裏の狙いがあります。往々にしてあるのが別のもっとまずいことを隠すことであったり、何か違う狙いを通そうと意図していることです。

分かりやすい例は、ほぼ一年前の9月7日に、安倍首相が東京オリンピック招致のために「原発はコントロールされている」などの大嘘をついたときのことです。
国内外に「ウソだ」という指摘が広がる中で、東京電力は9月13日に幹部が民主党の会合に出席し、「原発は制御できていない」と首相発言を真っ向から否定してみせたのでした。
これだけを見ると嘘つきは安倍首相であり、東電が正直であるかのような印象すら受けてしまいます。というか東電は明らかにそれを狙っていました。日経新聞による当時の報道を示しておきます。

東電幹部、汚染水「制御できていない」 首相発言否定
日経新聞2013/9/13 13:34
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13017_T10C13A9EB2000/

この発言に政府関係者が大慌てになり折衝などがなされる中で、東京電力の広瀬直己社長が27日に、福島原発の汚染水問題をめぐる放射性物質の拡散について「港湾外への影響はなく(安倍晋三)総理と同じ考え」と表明しています。
一旦、安倍首相の大嘘を否定してみせ、のちに撤回する作戦をとったわけですが、その意図は非常に見え透いています。
端的にこれで東電は安倍政権に対して決定的に優位なポジションを獲ることとなったのです。東電がどんなに失態を重ねても政府がかばわねばならない関係性ができあがってしまったからです。東電は安倍首相の嘘をまんまと自社の優位なポジションの確保のために利用したのです。

この流れは汚染水問題と深く関わっています。というのは汚染水問題は昨年の夏にその実態が全面的に明らかになったからです。
この発表は7月18日の衆議院総選挙の後になされました。いや実は春先から東電は情報を小出しにしていました。東電は選挙前に事態が全面的に明らかになれば安倍政権が決定的に不利になることを十分に知りつつ、情報を小出しにしていたのだと思います。「情報小出し作戦」も東電が使う常套手段です。
裏をとれているわけではありませんが、僕はこの時、政府と東電の間で汚染水問題の発表時期をめぐる裏取引がなされただろうと読んでいます。実際に選挙が終わった途端に、東電はそれまで否定していた海への汚染水漏洩を一転して認めだしたからです。しかも8月2日にはなんと1日400トンの汚染水が海に入っていると公言しました。

東電が狙ったのは何か。衆院選挙で自民党が有利になるようにこの大問題の発表を選挙後にずらすことで自民党に恩を売り、何より、大変な罪を犯しているのに己を訴追されないようにすること、さらには汚染水対策のために政府から援助を引き出すことでした。もちろん再稼働に前向きな安倍政権をサポートする狙いもあったでしょう。
こうした流れの中にあって、安倍首相のオリンピック招致発言での大嘘は東電にとってかなり有利なカードだったのです。相当に苦しい嘘だったからです。自らの訴追の可能性をさらに逃れ、政府をよりコントロールするための絶好の素材でした。このために直後の否定で政府を大慌てさせ、その後に再否定するという見え透いた戦略をとったのです。
東電という会社は本当にこういうところだけにはよく知恵が回る会社です。その知恵をほんの少しでも安全対策に使ってくれていたらと度々思いますが、もちろん期待するだけ無駄です。なおこれらについて昨年9月に以下の記事でレポートしてあります。

明日に向けて(735)福島原発汚染水大量漏れの考察(1) 問題は東電が重大犯罪を起こしているということ!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b70aff28e86576321ded3be9dd33c1ac

明日に向けて(737)福島原発汚染水大量漏れの考察(2) 汚染水垂れ流しの実態を構造的につかもう!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ec858aceed3429f2bcd0296f226a1cdf

このような例は他にもたくさんあげられますが、ぜひ東電の発表を読み解く際にはこうした東電の体質をしっかりとおさえて相対する習慣を身につけて欲しいです。
もう一度言いますが、東電にとって不利な情報が出たとき、何か素直にあやまちを認めているように見えるときほど、何かを隠そうとしていたり、違う何かの意図が介在しています。情報の小出しにも何らかの意図があります。
そうした観点をもって情報を調べていくと、実はそれほど巧妙なからくりがあるわけでもなくわりと容易に「本音」が見えてきたりもします。

にもかかわらずマスコミは東電の書いて欲しいように記事を書かされてしまっていることが多く、いつもがっかりさせられます。
ともあれ吉田調書を読み解く上で、こうした東電の体質をしっかり頭に入れておく必要があります。先にも述べましたが、吉田氏も東電の幹部ですからこうした「企業文化」と無縁であることなどありえないです。
吉田氏も空気のように東電の体質を吸いながら出世してきたのです。東電の隠蔽体質に慣れなければ重要プラントの所長になどなれない。共同体に共有された意識とはそういうものです。ですから東電的な体質が常に働いていたと思うのが自然です。

蛇足ながら付け加えると、ここで私たちに必要なことを一言であらわせば「もっと人が悪くなる」ことに尽きます。そうすれば東電の仕込んだからくりが見えやすくなります。
ただ同時におさえておきたいのは、そこに入り込むことは危険でもあるということです。東電的な人の悪さが身についてしまい、「疑り深い人」になってしまうからです。いわば東電への感染です。
何せ、常に人を疑い、発表の裏を探らなくてはならなくなる。人の言葉をシンプルに信じられる純真さを失わねばならず、それはそれで危険なことなのです。人は往々にして「批判対象に似ていく」危険性を持っているからです。

やはりいつでも大事なのは信義を守りとおす誠実さです。また誤りがあった場合に真摯に捉え返す姿勢です。
その対極にある東電と対決していくのですから十二分に感染に気を付けましょう。
以上に踏まえて、さらに調書の読み解きを進めていきたいと思います。

続く