守田です。(20130918 23:00)
台風18号がもたらした「記録的な大雨」の中で、もんじゅと福島原発がまたしてもトラブルを起こしました。
このうちもんじゅのトラブルについては、すでに報じましたが、もんじゅの現状をモニタリングするデータ回線の切断そのものが、やはり台風によって起こった土砂崩れによるものでした。
このためケーブルが張り替えられ、17日午後8時50分頃にデータ送信が再開されました。42時間の送信停止でした。
これでもんじゅについては、ひとまず危機は去ったかと思いましたが、本日18日午前11時10分ごろ、今度は冷却材のナトリウムの漏えいを監視する検出器が停止してしまいました。使用済み核燃料などの貯蔵容器からナトリウムが漏れてないかを検出するものです。
中央制御室で異常に気づいて確認したところ、空気やガスなどを検出するために通常は開いている弁が閉じていたとのことです。約1時間後に復旧しましたが、なぜ弁が閉じてしまったのかは明らかにされていません。
また半島の先にあり、一本道しかないためのいざとうときの構造的な脆弱性はもちろん未解決なまま。今すぐ、重大な危機に向かっているということはないですが、それでももんじゅについては一刻も早く廃炉を決め、危険な液体ナトリウムが回っている状態をストップし、燃料棒を安全な場所に移すなど、解体に向かうことが大切です。
さて今回は同時に起こった福島原発の汚染水問題を分析したいと思いますが、こちらの方がより深刻であり、同時により裏がありそうです。というのは単に台風の風雨で汚染水が海に流れてしまったということにとどまらないからです。
おそらくはこのタイミングを東電が狙ったのだと思いますが、実はタンクからの沁みだしは1年8か月前から起こっており、その間、ずっと風雨によって放射能が流され、海に入っていたと思われることを東電が告白したからです。それだけではなく、これまで漏れてなかったはずの他のタンクからも、漏れていたとまで言い出しました。
いつものように東電は悪い情報を出すときは、これでもかというようにいっぺんに出してきます。そうすると実態も、もっとも悪いものが何かも、見えにくくなるからです。この「汚染水問題の連続展開」とでもいうべき事態を解析する必要があります。
情報を整理しましょう。まず台風で何が起こったのか。タンクの周りにあるコンクリートの堰(地上30センチ)が風雨によって溢れそうになってしまいました。そのため東電は、この堰のドレンバルブを開けて周辺に汚染水を流しました。
溢れそうになったから流した・・・といっても、実態は溢れたことと何ら変わらないのですが、その際、東電によれば汚染水は、ベータ線を出す核種が1リットルあたり24ベクレルで、ストロンチウムの排出基準である30ベクレルを下回っていたから問題ないと判断したと言います。
そのためガンマー線核種であるセシウムについては測りもしませんでした。汚染水をストロンチウムによるものと仮定し、セシウムについては無視して排出したのです。流した総量は1130トンとされています。
ここでまず問題を指摘すると、福島原発に限らず、海への放出規制が、1リットルあたりの値で測られていて、総量が問題となってないことです。いわば薄めればいくらでも捨てられる。実際、今回も1130トンという膨大な量が排出されています。
その多くは排水溝に流れ込んで海に出てしまったでしょう。しかもこの排水溝の出口は、福島原発の前の港湾とは別のところにあります。安倍首相が「完全にブロックされている」などと語った場所よりももっと遠いところからじゃんじゃん排出しているのです。
たとえ1リットルあたり1万ベクレルあったとしても、1リットルしか放出されないなら海に漏れる量も1万ベクレルになります。しかし今回は30ベクレル以下といっても1130トンです。ではどれぐらいが出たのか。ベータ線核種で約885万ベクレルと推定されています。これ自身が大問題です。
しかしこの1リットル30ベクレルという「基準」を上回る汚染水の排出もされてしまったという。15日午後1時過ぎ、「Bエリア」のタンク群から1リットル当たり37ベクレルの汚染水が漏れ出したというのです。ただし5分間のことで、総量は少ない。というか全体の話しの中ではこれは「ささい」なことで、むしろ他の話との混同を誘っているようにしか見えない。
より問題があると思われるのは、8月19日に高濃度の汚染水300トンが漏れた「H4」タンク群近くの用水路で、タンク群からの排水をせき止める土のうが流れてしまい、2時間にわたって水をせきとめることができなかったことです。
ただこの点も非常にわかりにくい発表になっている。H4のタンクの堰から漏れたとは書いていない。その近くの排水路が(B排水路)が、海に流れ出ている次の排水路(C排水路)に合流する前を土のうで防いでいたけれど、それがはずれたというのです。
H4タンクから8月19日に300トンも漏れ出したのは、ベータ線で8千万ベクレルというとんでもない値のものでした。それが周辺の地面などにも浸透している。そこを流れる雨が流れ込むのがB排水路で、だから猛烈に汚染された地面の上を流れた雨が海に入らないように、C排水路との合流を止めていたと思われます。
しかしそれならこの付近に降った雨自身はどうなるのか。まさか雨をすべてタンクに入れるわけにはいかない。しかし排水路をせき止めれば行き場を失うはずです。
それで当該の土のうの様子がどうなってみるかを調べると、ただ流れてくる排水路に並べられていただけのものであることが分かります。これが押し流されたというのですが、水量が増えれば、水は土のうを越流するだけではないか。これで何が止められていたのかもよく分かりません。以下、東電の配布資料をご覧ください。
福島第一原子力発電所 台風によるB排水路土のうの流出に関して
東京電力 平成25年9月17日
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_130917_02-j.pdf
ここから考えられることは、タンクから漏れ出して地表を汚染していた放射能は、雨によってどんどん海に出ていたのではということですが、なんと17日になって東電が「その通りだ」という発表しました。ここが一番、重要な内容なので、読売新聞の記事をそのまま貼り付けておきます。
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汚染水、1年8か月間流出の可能性…東電発表
読売新聞 9月18日(水)7時57分配信
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130917-OYT1T01024.htm
福島第一原子力発電所の貯蔵タンクから漏れた汚染水中の放射性物質が、雨水とともに約1年8か月間にわたって、周辺の地中や港湾外の海に流出し続けていた可能性があると、東京電力が明らかにした。
東電の説明では、2012年1月と2月に、2区画のタンクからの汚染水漏れを見つけ、漏水部分をふさぐ補修工事を行ったが、タンクを囲む汚染水の外部流出を防ぐせきの排水弁は当時から開きっぱなしにしていた。先月に300トンの汚染水漏れなどが見つかったタンクがある2区画とは別だった。
東電は15日、台風18号の接近に備えてせき内にたまった雨水を採取し、検査を実施。その結果、この計4区画のせき内の雨水には、ストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり17万~2400ベクレル含まれ、国の放出基準値(同30ベクレル)を大幅に上回っていた。
東電は17日、「せき内に残っていた放射性物質が雨水と混ざり、排水弁を通じてせきの外に流出した可能性がある。外洋への流出も否定できない」と話した。
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なんと、1年8か月にわたって、タンクから漏れ出した汚染水が、雨水とともに海に流出し続けていたというのです。台風による大雨のために、タンクのまわりの堰から排出したものが1130トンになったという話をしている最中に、「そんなことは1年8か月前からやっていました」と言い出したのです。
世の中が全体として、台風の被害に意識を奪われているときに、東電も福島原発が台風の影響を受け、汚染水を流してしまったという話から始めながら、いきなり今回の台風とは関係のない、これまでの1年8か月の汚染水の雨水による海への漏れを語りだしたのです。
さらに同じく17日、東電はこれまで漏れが確認されていたのとは別の、新たな7つのタンク区域でも、過去に汚染水漏れが起こっていたということも発表しています。タンクの位置などの図がある東京新聞の記事をご参照ください。
福島第一汚染水 別の7タンク群漏出か
東京新聞 2013年9月17日 夕刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013091702000227.html
話しをまとめましょう。初めに東電は、今回の台風でタンクの周りの堰が溢れそうなので、排水をした。1130トンだった。ベータ線核種で最大でも1リットル20ベクレルで、ストロンチウムの法令基準30ベクレルを下回っていると発表しました。
ところが続いて、一か所では37ベクレルあったと言い出し、さらに8月に300トンも漏れた高濃度の汚染地帯のそばの排水路が、他の排水路と合流する地点の土のうが流されてしまった。2時間かけて直したと発表。ああ、やはり法令を上回る汚染水が漏れたのかと思える内容を語ったことになります。
その後、17日になって、このような汚染されたところを雨水が流れ、汚染水が海に入ったことは1年8か月前からあった。実は他のタンク区域からも漏れていた・・・と言いだしたわけです。この一連の事態の中で一番、重要なのは1年8か月、他のタンクからも漏れていて、それが海に入っていたとという事実です。
端的に言って、この1年8か月、この重大な事実に気が付かなかったのか。そんなことは絶対にない!確実に分かっていたはずです。その発表の機会をうかがっていて、今回の台風被害のどさくさに紛れて打ち出したとしか思えません。
さらに東電がなぜ今、この時期、隠していた汚染水のことを一気に語りだしているのかというと、明らかに、安倍オリンピック招致発言の大嘘の影響があると思えます。なぜか。これで東電は政府に対して一気に有利になったからです。
なにせ東電が「漏れている」と言っても、政府が「そんなことはない」とかばってくれるわけです。絶対に今はこの件で政府から責められることはない。なぜか。今、東電を責めたら、安倍首相の大嘘発言が鮮明化するばかりだからです。政府は愚かにも、何があっても汚染水が「完全にブロックされている」ことにしなくてはならなくなってしまった。
私たちの危機は実はここにこそ大きくあることを認識すべきです。どういうことか。東電の汚染水管理は完全に破たんしているのです。しかもかなり前からです。汚染水は原子炉がメルトダウンして以来、一貫して海に漏れ出ていたのでした。
その上、タンクに一部を移してもそこからも漏れ出し、雨が降るたびにそれもまた海に流れ込んでいたのでした。地下水の流入による海への直接な流れも、くみ上げたタンクが次々に漏れを起こしてしまうこともまったく止められずに来たのです。汚染水の海への流入は一貫して続いていた。
しかし安倍首相が大嘘の国際公約をしてしまったために、政府はなんとしてもその事実を認めるわけにはいかなくなった。東電がどんなに失敗をしていようが、政府が自らのためにそれを隠し続けなければならないはめに陥ってしまったのです。だから東電はここぞとばかりに「実は漏れていた」情報を出しているに違いない。
東電の狙っているものは何か。ただただ自らの訴追を逃れることだけです。東電の発表に汚染水問題を解決する何らかの意図があるわけではない。そうではなくて、今のうち出せるだけの不利な情報は出しておいて、政府に責任をとらせ、金も出させ、自分たちは完全につぶされることのない道を切り開こうとしているのに違いない。
そして政府はその罠にまんまとはまってしまったと言えるのではないか。その意味で安倍首相は、自らのパフォーマンスで、東電にイニシアチブを握られてしまったと言えます。東電に強気に出れなくなってしまった。東電を悪者にせずに、しりぬぐいをさせられる形に自らはまり込んでしまったのです。
しかしそうなると今後は、東電と政府がなれ合いつつ、事態の深刻化を覆い隠して進むことになります。そこにこそ私たちにとっての最も大きな危険性があるのです。
明らかにしなければならないことは、台風の問題以前に、汚染水漏れが激しく起こっていたという事実です。一番、重要なのは、地下水が流れ込んできて、1日に400トンもさまざまな箇所の汚染水がまじって、海に流れ込んでいたことです。
同時にタンクへの貯蔵も失敗し、繰り返し敷地内に漏れ出していて、それもまた風雨によって海に入っていしまっていた。その意味で、汚染水問題一つとっても、福島原発はまったくのアンコントロールな状態にあるのです。
この状態をはっきりと認め、事故収束宣言の撤回を世界に向けて明らかにし、国を挙げて、事故収束に向けた最大限の努力を傾注することをこそ公約しなければなりません。これにはいくらお金がかかるかわからないのですから、こんな状態でオリンピック開催なんてもってのほか。とてもそんな余裕などありません。
私たちはこのことをこそ内外で大きな声をあげて訴えていこうではありませんか。もう一度いいますが必要なのは、事故収束宣言の撤回と、危機の宣言です。またまったく対処能力を失い、倫理観ももともと欠如している東電をここで断固として処理、処断すべきです。倒産させて完全な国有化をはたすべきなのです。
汚染水問題が私たちに突きつけているのはこのことです。
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