守田です。(20130529 20:00)

敦賀原発で福島第一原発と同規模の事故が発生した場合、年間20ミリシーベルト以上になる区域の人口が、最大75万人にものぼり、「20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば、避難対象は「約98万人」に膨れあがる」ことが分かりました。
明らかにしたのは、岐阜の市民グループの「さよなら原発・ぎふ」のみなさん。県への情報開示請求などで入手したデータをもとに、細かく各市町村の避難人口を割り出して明らかにされました。非常に重要な発表だと思います。

これを報じた毎日新聞は「敦賀原発:福島と同規模事故で最大98万人避難対象 岐阜」というタイトルをつけています。記事の中に上述した「20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば」とうい一文がどういうことを意味するのか、今ひとつ僕にはよくつかめていないのですが、ともあれ98万人というのは、岐阜県の人口215万人の半分近くにあたります。
記事によると、このように避難人口が最大になる「最悪のケースは、7月に梅雨前線が本州南側に停滞した場合」とされていますが、しかしこれはあくまでも事故が、福島第一原発事故と同程度にとどまった場合のこと。実際に起こる事故が、福島の場合と同程度でとどまる保証など何もありません。
またこの避難基準は、現在の政府が定めている年間20ミリシーベルトというラインに沿ったもの。これに対して国連から、避難ラインを年間1ミリシーベルトにすべきだという日本政府への批判が起こっており、そこからしてもかなり緩い、非人道的な避難基準です。それですら、岐阜県民の半分が避難しなければならないのです。
これは原発事故の深刻さを非常によく物語っているデータです。全国にあるそれぞれの原発から、岐阜県と同程度の距離にある地域で同じことが起きることが想定されます。岐阜県だけでなく多くの地域で、それほどの大規模な避難をしなければならないのです。

ここから私たちが引き出しておくべきことは何でしょうか。第一に、敦賀原発をはじめ、すべての原発の稼働は許してはならないということ、大飯原発もただちに止めなければならないということです。なぜなら原発事故は、当然にも運転しているときほど、起きる可能性が高く、なおかつ放射能量も甚大で、被害規模がより深刻になるからです。
グループ代表の石井伸弘さん(40)「100万人の避難は無理。敦賀半島のすべての原発を廃炉にすべきだ」と述べたそうですが、まったく同感です。そんな大変な避難の可能性を作る原発の運転などどうして認められるでしょうか。
もう一方で重要なのは、原発はたとえ止まっていても、原子炉の中に燃料棒が入っている限り、「シビアアクシデント」にいたる可能性があり、原発の廃炉と核燃料の撤去が完了するまで、事故は起きうるものと考えて災害対策を立て続けなければならないということです。
端的に言えば、無理な100万人の避難・・・を考えなくてはなりません。

ではその場合どうすればいいのか。僕は理想的な全員避難は無理だという現実を見据え、できるだけ災害を減らすこと、減災の精神にたち、できるだけのことをしておくことが大切だと思います。
具他的には何かと言うと、まずは最低限のものとして、ヨウ素剤の配布体制を確立しておくことです。いざとなったら県民の半分が避難しなければならないこと・・・ヨウ素との追いかけっこが生じうることを考えると、事前配布は絶対の条件です!この点、他の地域でも同じことが言えます。
第二には、実際に100万人の避難は無理なのですから、先に逃がすものを決めておくことです。子ども、妊婦、若い女性、障がい者、重い病にかかっている人々などなどです。

反対に言えば、こうした人々を逃がすために、自らは逃げ遅れるのが覚悟で、つまり被曝覚悟で、これらの処置に携わる人々も決めておかざるを得ません。例えば重病の患者さんの場合、無理に避難することの方が危険な場合も生じます。しかしその場合、医療者が残らねばならないことになります。それは誰がやるのか。どのように決めるのか。
これを決めるのは非人道的なことでしょうか。ある意味ではそうだと思います。僕自身、誰かが犠牲になって良いと思っているわけではまったくありません。しかしそのような非情な事態が生じる可能性のあるものが、現に作られてしまっているのです。私たちはそのリアリティに立たざるを得ないのです。
だとするならば、その立場に立つ人々が、逃げることができない状態で、少しでも被曝を軽減できる措置をあらかじめ講じておく必要があります。同時に、被害を受けた際の手厚い補償の体制もあらかじめ決めておく必要があります。

原子力規制委員会が出している、原子力災害対策指針を読むと、この肝心なリアリティが全く欠けています。というか意識的にこの点に触れないようにしているのです。実際に事故が起こったら、福島原発の例から考えても、とてもすべての人が完璧に逃げることなどできない。必ず犠牲者が出てしまう。
そのことを明らかにすると、当然にも人々の脱原発の意識が強まるのが必然と考え、この具体性を除外しているのでしょう。しかしその結果、規制委員会の打ち出した災害対策は、できもしない「安全対策」を美辞麗句のように並べているまったく実効性のないものになってしまっています。

例えば、原発の直近の人々を逃がすときに交通手段はどうするのか。仮にバスを使うとするなら、高線量地帯に誰がバスを運転して人々を迎えにいくのか。これらを決めないと避難体制が作れないのです。同じように、実際の事故を想定していろいろと考えてみると、どうしても危険な場にたたざるを得ない人々が出てくる。
ぜひとも進めたいのは、こうしたリアリティに立った災害対策の推進です。それを住民参加で進める必要があります。とくにこれまでの事故の実例から、警察官、自衛官、消防隊の方たちは、真っ先にもっとも危険な地域へ投入される可能性があります。その場合、放射線量が高い地域への派遣を拒否する権限を確立しておくことがまずは重要です。
けしてその地域への派遣が強制されてはならないのです。このことをはっきりとさせた上で、隊員それぞれへの被曝防護の基礎知識の伝授、線量計や防護服、ヨウ素剤などの必要な物資の部隊への配備がなされなければなりません。任務として危険地帯に派遣された人々が、帰還後にすぐさま検診を受けられる体制の確立も重要です。

繰り返しますが、これは危険を承知の上での原発の運転を認めるものでは断じてありません。原発を止めても、災害の可能性があるがゆえに、こうしたリアリティに立った対策を立てざるを得ないのだということです。

これらの緊張感を持つために、ぜひ原発周辺のそれぞれの地域で、「さよなら原発・ぎふ」のみなさんが行ってくださったような、事故時の避難人口の割り出しなどを進めたいただきたいと思います。非常に重要なポイントだと思います。
なお「さよなら原発・ぎふ」のみなさんは、このデータ発表を踏まえ、「敦賀・美浜原発を廃炉に! ぎふパレード」を呼びかけられています。6月8日(土)午前10時半集合、11時~12時デモ。JR岐阜駅そばの金公園で開催だそうです。
チラシには「75万人が避難?ムリでしょ!いつ止めるの?今でしょ!」と大きく書かれています。まったくそのとおりだと思います。残念ながら僕はいけませんが、お近くの方、ぜひご参加ください!
詳細は以下のURLをご覧下さい!ブログのあとに、毎日新聞の記事も貼り付けておきます!

さよなら原発・ぎふのブログ
http://ameblo.jp/611gifu/entry-11527633074.html

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敦賀原発:福島と同規模事故で最大98万人避難対象 岐阜
毎日新聞 2013年05月27日
http://mainichi.jp/select/news/20130528k0000m040098000c.html

日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)で東京電力福島第1原発事故と同規模の事故が発生した場合、岐阜県内で最大約98万人が避難対象になりかねないことが、市民グループ「さよなら原発・ぎふ」の県への情報開示請求などで分かった。グループ代表の石井伸弘さん(40)は27日に記者会見し「100万人の避難は無理。敦賀半島のすべての原発を廃炉にすべきだ」と訴えた。
開示された資料は、県の放射性物質拡散シミュレーションで年間放射線量20ミリシーベルト以上になる区域の人口。最大で県内19市町の「約75万人」に上り、13市町では9割以上の住民が避難対象になることがグループの調査で分かった。この数値のエリアは、福島原発事故では計画的避難区域に指定され全域避難を強いられた。
一方、一部が20ミリシーベルト区域に含まれる岐阜市は「最悪のケース」で全市民約41万人の避難を想定。市民グループによると、20ミリシーベルト区域外の住民を加えれば、避難対象は「約98万人」に膨れあがる。県の人口(約205万人)の半数近い数字だ。
県は昨年9月、敦賀原発で事故が起きた場合の放射性物質の拡散シミュレーションをまとめた。「約75万人」の前提となる最悪のケースは、7月に梅雨前線が本州南側に停滞した場合で、北西の風に乗った放射性物質が滋賀県から岐阜県南西部に広範囲に拡散することを想定している。岐阜県は敦賀原発の南東に位置し、県北西部の揖斐川町が30キロ圏内に含まれる。
石井さんは「被害のリスクをゼロにする方向に国や県はかじを切ってほしい」と訴えた。【加藤沙波】

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なお、原発災害に関する過去記事の一覧も貼り付けておきます。ご参照ください。

明日に向けて(621)過酷事故を前提とした「原発災害対策指針(原子力規制委員会)」を批判する!(1)
http://toshikyoto.com/press/608

明日に向けて(622)あまりに狭すぎる災害対策重点地域・・・「原子力災害対策指針(原子力規制委員会)」を批判する!(2)
http://toshikyoto.com/press/611

明日に向けて(623)福島4号機の危機を見据えた現実的な災害対策指針の策定を!
http://toshikyoto.com/press/613

明日に向けて(624)自治体自らの判断に立った原子力災害対策を!(京都市への意見提出から)
http://toshikyoto.com/press/617

明日に向けて(628)自治体の原発防災計画を丸投げさせてはならない!ぜひ積極的な市民参画を!
http://toshikyoto.com/press/639

明日に向けて(629)原子力災害をリアルに想定した備えを!備えることが危機の可能性をも減らす!
http://toshikyoto.com/press/644

明日に向けて(648)逃げる手段ない・・・避難計画の現実
http://toshikyoto.com/press/702