守田です(20220711 15:00)
● ゼレンスキー氏を英雄視することへの疑義
ああ、ようやくマスコミにこういうのが出てきたな。共感するな、と思った記事をご紹介します。
政治指導者の責任と国民の態度 ゼレンスキー氏は英雄か=伊藤智永(専門編集委員)
https://mainichi.jp/articles/20220708/ddm/005/070/004000c?fbclid=IwAR3sWV9vH9aQP71QMQmW1VQxJHIsSA0WhK4wFGHOfASb0BLHD_9-huOkhNg
伊藤氏はこう書き出しています。
「不本意な戦争でも一度始まってしまえば徹底的に戦うしかないと人は説く。「戦う」と言えば勇ましく感動的だが、正しくは「殺し殺される」と言うべきだ。まして徴兵制なら「殺す」のにいやも応もない。ためらいを消すため「戦え」と命じる者は「のために」でさらに言葉を飾る。」
「のために」は違っても同じ人殺しである。遠くの見物人たちは映像を眺めながら「のために」を巡っておしゃべりし、触ったこともない兵器と会ったことのない死者の数と知らない地名を数えるだけ。金もうけをたくらむ者もいる。それが戦争だ。」
僕もまったく同じように思うし、そう語ってきました。「戦う」ことは「殺し殺される」ことなのです。ゼレンスキー大統領はロシアの侵攻と同時に、18歳から60歳までの男性の国外脱出を禁止し、その後に徴兵も行っています。
僕は何より戦争は、その国の民衆が、否応なく「殺し殺される」ことに動員されることに、大きな残酷さがあると思うのです。もちろん非戦闘員である市民が殺されるのも残酷の極みです。しかし同様に殺し合いに動員されることもとても残酷です。
● 戦争に対する「指導者」のタイプ分け
伊藤氏はこう述べます。
「局面ごとに3タイプある。始めたくなかった戦争を始めるはめに陥る指導者、始めた以上「勝つ」まで殺し殺されるしかないと鼓舞する指導者、まだ殺せるぞと勇む同胞に殺されるのも覚悟で戦争をやめる指導者。日本にもかつていた。「日米開戦を回避したかった近衛文麿、「生きるのは恥」と呼号した東条英機、終戦を断行した鈴木貫太郎の3首相である。」
これはその通り。その上でゼレンスキー大統領について、伊藤氏はこう批判しています。
「現にあった政治・外交の行き詰まりを打開する戦略も展望も持たない芸人がドラマの勢いで大統領となり、「和平・中立」の選挙公約は就任後すぐ反露に変わった。これを無責任という。」
最後に取材で得たこんなコメントも紹介しています。
「世界的なロシア・ウクライナ研究者の松里公孝東京大学法学部教授に4日、日本記者クラブでの講演後、ゼレンスキー氏の評価を尋ねた。苦笑交じりの返答。『言ってもしょうがない。ああいう人に投票すると戦争になるし何万人が死ぬことになる。誰を指導者にするかという一票で失敗したら戦争が始まるのが民主主義だ。ポピュリストに投票したらダメなんですよ』」
僕もまったくその通りだと思います。
● 9条改憲に立ち向かうために大事なこと
この文章を書いているのは、昨日の参院選挙で「改憲勢力」が議席の三分の二以上を占有し、いよいよ憲法改悪が政治日程にのぼる可能性が高くなったからです。
改憲をどう止めるのか・・・という前に、僕は実質的にはすでに改憲は進められ、しかも野党の中にまで浸透してきていることに着目すべきだと思います。自衛隊はどうみたって憲法違反なのに、野党の中からいざというときに「自衛隊を活用する」という論まで飛び出してしまっている。
与党が憲法解釈をなし崩し的に変えて改悪してきただけでなく、野党の側でもその内容を受け入れてしまっている現実があり、それと向き合わなくてはいけない。
そのことがロシアのウクライナ侵攻のときにも大きく表れました。極めつけは戦争当事者であるゼレンスキー大統領の国会演説が行われ、与党はもちろん、野党のほとんどが賛成し、スタンディングオベーションすら行われてしまったことです。
果敢に反対したのは「れいわ新撰組」だけ。ある野党党首などは「祖国を守る決意を感じた」と称賛すらしていました。その間違いを捉え返し、改憲阻止というより、憲法を本当に実現するために頑張ることこそ大事です。
憲法9条は国に対して戦争を行うことを禁じた条項です。国民に「殺し殺される」ことを政府が強制することを禁じたのです。だから軍隊を持たないと明言した。ここにきちんと立ち戻りましょう。何よりそれが大切です。
最後に、伊藤氏の考察で、もっと強調して欲しいなと思う点を一つ。戦争はいつもその国の上級国民が起こし、民衆が動員されて上級国民の利害を守らされるもの。そのことを見抜き、民衆同士が「殺し殺される」関係を拒絶することが大事。
ゼレンスキー大統領への批判は、そこまでしっかり論じるとより説得力を増します。上級国民に騙され、正義だろうが自衛だろうが、「殺し殺され合う」ことに動員されないために、平和憲法を私たちの心の中に打ち立てましょう。
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