守田です。(20130213 23:30)

このところ「原子力災害対策指針(原子力規制委員会)」批判に時間を費やしていますが、昨夜(12日)がパブリックコメントの締切だったので、とりあえずまとめたものを提出しました。細部のつめがまだなのですが、責任はあまりに短い期間を設定した原子力規制委員会の側にあると思っています。
なお本日(13日)は京都市の「京都市地域防災計画 原子力災害対策編」(骨子)へのパブリックコメントの締切だったので、さきほどまでこれも作成していました。その場合の要点は、京都市が原子力規制委員会の出した指針を鵜呑み的に前提にしていることへの批判でした。これでは京都市が、過酷事故を前提とした原発の運転を認めることになり改めるべきだと書きました。
この二つのコメントのうち、原子力規制委員会に提出したものをここにご紹介します。

なお細かい紹介は割愛させていただきますが、明日(14日)は、多治見市で進められようとしている「核融合科学研究所周辺環境の保全等に関する協定書等の締結について」のパブリックコメントの期限日です。
http://www.city.tajimi.gifu.jp/shimin_sanka/public_comment/24_nendo/kakuyukenkyotei.html

これも大問題です。以下をご参照ください。明日は多治見市に提出するコメントをご紹介する予定です。
http://rengetushin.at.webry.info/201302/article_6.html

以下、僕が原子力規制委員会に提出したコメントをご紹介します。

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福島4号機の危機を見据えた現実的な災害対策指針の策定を!

「原子力災害対策指針」に対する意見を申し上げます。
第一にこの指針は、福島第一原発事故と同様の過酷事故が起こりうることを想定して作られています。これまで「重大事故は絶対に起きない」と国民・住民に約束してきたことからのなし崩し的な大転換です。まずこのことが絶対に認められません。重大事故など絶対に起きないと約束してきたのですから、福島原発事故と同様のことが起きうる可能性を認めた限り、即刻、稼働中の大飯原発を止め、全ての原発の廃炉を決定し、その上での防災対策を策定すべきです。

第二に、指針では、このように過酷事故を想定するとしながら、現実に最も可能性のある福島4号機の燃料プールの崩壊、およびそれに伴う原発サイト全体からの撤退という最悪の事態に対する防災対策が何も盛り込まれていません。同様に各々の原発にある燃料プールの危険性も指摘されておらず、この点に大きな欠点があります。現実の防災対策は、全ての原子炉を止めた上で、4号機がなお危険な状態になった場合、また運転を止めていても、核燃料プールなどから危機が起こることを想定して立てるべきです。
その場合、2011年3月に4号機の危機に際して政府自らが試算した半径250キロ圏からの避難を射程に入れるべきです。また他の原発においても、防災の観点から、使用済み核燃料を早急に安全な体制に移すことを検討すべきです。プール保管から乾式保管に移行するなど、早急に少しでも安全マージンを広げることが、防災対策の重要な柱とならねばなりません。

第三に、指針はこのように、福島原発事故を受けた見直しを語りながらも、「放射線被曝の防護措置の基本的考え方」として「国際放射線防護委員会等の勧告、特にPublication109、111や国際原子力機関のGS-R-2等の原則にのっと」ることを表明しています。しかし前二者は2008年に採用されたものであり、後者は2002年に出版されたものであって、福島事故以前のものにすぎません。これに則ることは、福島原発事故の教訓を無視することで認められません。

第四に、「原子力災害対策重点地域」の設定も、2011年以前の指針に則ることなど止めて、福島原発サイトの大地震などを起因とする危機の再度の進行や、各原発や六ヶ所施設の燃料プールの崩壊を想定して策定すべきです。福島原発事故にあっては、東京電力さえもが、一度、現場からの全面撤退を検討したのであり、事故の破局的進展の可能性がありました。
4号機のプールは、僥倖の産物として冷却が可能になったのであって、次にこの規模で事故がとどまる保証など何もないのです。従って、このとき想定された最悪の事態を、今回の指針での「仮定」にしなくてはなりません。

第五に、以上から「原子力災害対策重点地域」の設定においては、まずは福島原発の再度の危機を想定し、そのときの政府の試算通り、半径250キロ圏を「予防的防護措置を準備する区域(PAZ)」として設定すべきです。ただしあまりに膨大すぎて資産的に対処しきれないのであれば、国民・住民に、完璧な対応が不可能であることを十二分に説明した上で、アメリカが採用した半径80キロと設定することもやむなしと考えます。
これに対し、他の原発および原子力施設の場合は、運転していないことを前提に、これよりももう少し狭い区域とすることもありえませすが、その場合も、絶対に安全な範囲で線を引くことが不可能であることを十二分に説明し、住民の合意形成をしながら線引きを行うことが必要です。

第六に「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」については、福島原発との関係では、当然のことながら、前述の半径250キロ圏内を入れなければなりません。またこの区域は、被曝の「確率的影響を最小限に抑える」ことをめざす区域ですから、福島原発事故の経験から沖縄を除く日本の過半の地域が該当します。そのため区域を設定するのは無意味であり、沖縄を除く日本全土とするのが合理的です。

第七に、これに伴って、安定ヨウ素剤の確保も、全ての自治体で行う必要があります。大量の人々が一斉に飲んだ場合の副作用の発生も勘案し、必要な医療的バックアップ体制も取る必要があります。

第八に、過酷事故が想定しうる最悪の結果を招くときは、日本のみならず、海外にも大量の放射線被曝を招くことになります。従って諸外国にこの可能性を呼びかけ、頭を下げて、災害対策を行っていただくことを願いでるべきです。とくに4号機の不安定性をきちんと伝えることが重要です。それは日本国の国際的威信にかけた責任問題です。

第九に、事態の深刻さに鑑みて、これまでの指針の作られ方自身があまりに拙速に過ぎます。起きうる事態の想定からして、全住民参加の討論を起こし、国民・住民の十分な合意のもとに指針を策定していく必要があります。そのためにもパブリックコメントの募集がたった2週間ということに見られるあまりの拙速な態度を改め、十分に論議を尽くした防災体制の構築をなすべきです。

以上、福島第一原発事故を教訓とし、起こりうる事故をリアルに想定した場合の、現行の原子力災害対策指針の誤りと、是正の方向性について述べました。原子力規制委員会が、全ての生命を大事にするまっとうな道を歩まれることを切に希望して、意見書を閉じます。