守田です。(20130207 23:00)
2月9日(土)午後2時より、京都市伏見区醍醐交流会館で、「ナラ枯れ防除活動報告集会」が行われます。僕も一聴衆としてかけつけるつもりです。
集会では、醍醐の日野ナラ枯れ防除活動と、左京区吉田山ナラ枯れ防除活動の報告が行われるとともに、京都府下を中心に、全国の山と森を飛び回って、生態系を守ってきた主原憲司(すらはけんじ)さんによる「自然保護とナラ枯れ防除活動について」という講演も行われます。
主原さんは、日本鱗翅学会会員の昆虫家で、ムシたちが住む木々や草花を熟知し、その植物が生えている森について何でも知っている、近畿の生態系の番人です。僕にとって、もう何年にもわたって、山の中で、あるいは森の中で、森について、ムシについて、それらへの人間の関わりについて教えてくださってきた自然フィールドの”師匠”です。
「ナラ枯れ」とは、ミズナラやコナラなど、ナラ類の広葉樹が次々と集団で枯れてしまう現象で、日本海側を中心に、ここ10年以上の間に、日本全国で甚大な被害をもたらしてきました。原因はカシノナガキクイムシという甲虫の温暖化を要因とする北上にあります。
主原さんは、この現象が起こり始めた1990年代から、あちこちの山を駆け巡って、原因を探り、やがてカシノナガキクイムシの害から木々を守りぬく方法を開発されました。しかし日本の山の多くの地域に影響をもっている、森林総合研究所や、各県の林業試験場などが、昆虫の生態を踏まえない誤った駆除方法を蔓延させたため、被害はとどまることなく拡大してしまいました。
これに対して、京都では主原さんの活動に共感した方たちが、幾つかの場所で主原さん方式による防除活動を行い、このたび醍醐の日野地域で、被害の終息を迎えることができました。詳しい内容は割愛しますが、ぜひその報告を聞きに来ていただきたいと思います。
ちなみに、私たちの国は国土の67%が森林に覆われています。世界でダントツの森林率です。これは雨が多い、私たちの国特有の気候条件に支えられたものですが、それだけで森林が守られてきたわけではありません。
とくに太平洋戦争時には、無理な戦争を続行するための燃料や材料として、各地で激しい森林伐採が行われ、森林率は45%に激減してしまいました。そのため禿山となった地域で洪水が多発し、戦後にいたっても伊勢湾台風時の被害を始め、たくさんの水害が私たちの国を襲いました。
その後、森林が回復したのは、一にも二にも、山里人々が、えいえいと、植林をしてくださったからです。その多くはお金にできる針葉樹林ですが、それがあったからこそ、今、私たちは安定して水を得ることができています。
みなさんのおられる地域の近くにも、必ず大小の川があると思うのですが、ぜひ、晴れた日にそのほとりにたって、目の前をとうとうと流れる水が、どこからやってくるのか、どうしてやってくるのかを考えていただきたいです。
なぜ雨もないのに大量の水が流れているのか。それは山々が、森が、雨をしっかりと受け止め、地中に水をたくわえ、そうしてゆっくりと、下に流してくれているからです。この本当にとうとうたる水の流れがあったからこそ、私たちの国は高度経済成長も実現できたのでした。
その意味で、現在の都会の繁栄は、えいえいたる山里の人々の、森を守り、育んできた活動によって生み出されたものだといえます。しかし都会は、山里にそのお返しをまってくしていません。
その後、私たちの国の山と森は、だんだんと荒廃を始めました。一つには、材木の価値が激減してしまい、林業が衰退し、山の手入れが十分にできなくなったからです。これと同時に、現在の気候変動が、激しいダメージを山々にもたらしてきました。
なぜか。私たちの国の国土は南北東西に長く、幾つかの気候帯をまたがっているため、植生の変化に富んでいます。それが山々の、他の国にはない多種多様性を作り出し、美しさの源になっているのですが、その条件そのものが、気候変動に非常に敏感な生態系を作りだしてもきているからです。
そうした事例の典型の一つが、ナラ枯れ現象です。カシノナガキクイムシは、もともと名前のごとく、カシノキをはじめとするカシ類に生息していました。長い寄生関係を作り出してきた中で、この虫は、宿り木を枯らすことなく上手に使ってきました。
ところが温度条件が変わり、平均気温が上がりだした。そうするとすぐに虫は北方へ、あるいは山の中では上方へと移動を開始します。ところが木々は移動できない。そのためそれまでナラ類と接触することのなかったこの虫が、ミズナラ帯、コナラ帯に入り込んでしまったのです。
カシ類は上手に使うカシノナガキクイムシが、ナラ類を枯らしてしまうのは、木の構造の違いの問題です。これがあって、本来、宿り木を枯らすのはその昆虫にとっても不合理であるのに、どんどん木を枯らしてしまった。虫たちはやむを得ず、周辺に移動していきます。こうして激しい集団枯損現象が生み出されたのです。
被害は日本海側を秋田県まで舐めるように進行し、現在、奥羽山脈を越境して、太平洋側に入り込みつつあります。
僕自身もこの問題とは随分、長い間、格闘してきました。とくに地元の京都では、観光でも有名な大文字山を守ろうと奔走を続けました。多くの方が手伝ってくださいました。無念なことに、さまざまな要因の中で、主要な部分を守りきれず、本当に悲しい思いをしましたが、それでも東山の中の一角を少しは守ったという自負を持っています。
とくに私たちが力を入れたのは、若王子山の頂上にある、「同志社墓地」の周辺でした。同志社大学はなんら手を貸してくれませんでしたが、現在、大河ドラマの主人公となっている、山本覚馬の墓を覆っている木々について、とくに入念な防御を施しました。
また、主原さんから、東北の福島県から岩手県にかけては、コナラやミズナラの純林が多く、カシノナガキクイムシが入り込んだ時の被害は尋常ではないと聞き、これらの地域に防除活動を広げたいといろいろと画策をしていました。コナラの密集している東北大学植物園を訪問し、学芸員の方とお話などしていました。
しかし福島原発事故が、その全てを吹き飛ばしてしまいました。放射線防護活動に走り出した僕には、とてもこの問題を継続する力が残っていなかったからですが、しかし福島を中心に東北・関東の山々が深刻な被曝を受けたことで、山に対する心配は一層募りました。いや今も募るばかりです。
放射線被曝と、カシノナガキクイムシの被害がどのような相関関係を持つのか、なんの調査も行っていない僕にはまったくわかっていません。しかし全体として温暖化によってダメージを受けていた森林に、膨大な放射能が降ってしまって、それで山々がそのままでいられるはずがないと確信しています。
例えば食材の中で、イノシシの肉や、シイタケが危険な中のトップクラスにあげられますが、それは山の生態系が深刻な被曝を受けていることを物語っています。私たちはキノコを避ければいいかもしれないけれど、動物たちはそんなことはできない。だからイノシシに放射能が溜まってしまうのです。その背後に、どれほどのイノチの苦しみが隠れていることでしょうか。
これらがどういう結果をもたらすのか。また放射能の害までもが加わった山と森をどうやったら守れるのか。僕にはすぐにこうだと言える知恵はありません。ただ言えることは、少しでも多くの方が、今一度、私たちの国の山と森に関心を持ち、感謝の念を持ち、何かできる努力を見つけていくことが大切だということです。
先にも述べたように、山が崩壊したら、雨量の多い私たちの国では、必ず水害が増えます。命の水が、恐怖の水に変わってしまうのです。だから森を守ることは、私たちの生命を守ることです。とくに三陸海岸では津波の甚大な被害のために、川べりにたくさんの仮設住宅が建っています。そこがとても心配です。そうした地域の上流から守っていくことが必要です。
しかし山に入ることは多くの場合、被曝労働にもなってしまうので、ジレンマばかりを感じますが、いずれにせよ、気候変動の上に、被曝が重なっている関東・東北の山々、その生態系を守るための知恵を、みんなで紡ぎ出していくことが大事だと思います。
課題は大きいですが、醍醐ではコツコツした活動で、ともあれカシノナガキクイムシの害の終息にたどり着きました。小さな一歩でも、そうして積み上げられた知恵を交換し合い、重ねてあって、次の一歩を見出していけるのではと僕は思っています。
この企画への、お近くのみなさんの参加をお待ちしています!
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醍醐・日野ナラ枯れ終息記念 ナラ枯れ防除活動報告集会
みなさんのご協力ありがとうございました!!
2年余にわたり、醍醐・日野ナラ枯れ防除活動も、昨年の12月8日のカシノナガキクイムシ駆除活動をもって終息することになりました。山の地主さん、自然保護団体、京都労山加盟の各山岳会のみなさん、日野を中心とした地域の皆さん、ご協力ありがとうございました。
2年余にわたるナラ枯れ防除活動のまとめとして、「活動報告・調査のまとめ」をご報告したいと考えています。また、専門家の講演や活動報告も計画しています。是非お越し下さい。
とき: 2013年2月9日(土) 午後2時開会 ※資料代 300円
会場: 醍醐交流会館 第2会議室
※地下鉄醍醐駅下車 パセオダイゴロウ―西館2階 ☎075-575-2580
企画: ●ナラ枯れ防除活動報告
・日野ナラ枯れ防除活動 射場寿美子(やましな山の会)
・吉田山ナラ枯れ防除活動報告 榊原義道氏(北山の自然と文化を守る会代表幹事)
●講演「自然保護とナラ枯れ防除活動について」
主原 憲司氏
主催:いいまちねっと東山、勤労者山岳連盟自然保護委員会、
醍醐の自然を守る会、やましな山の会
問い合わせ:射場寿美子 090-3613-2346
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