守田です。(20130204 23:30)

現在、国内で唯一稼働中の、大飯原発3号機と4号機が、7月に稼働を停止する可能性が高くなりました。これを報じた東京新聞の記事から冒頭を引用します。

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原発再稼働の条件となる新たな安全設備の基準づくりのとりまとめ役を務める原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員は三十一日、「基準が施行された時点(七月十八日)で、動いている炉も満たしている必要がある」との考えを示した。
稼働中の関西電力大飯原発3、4号機(福井県)が期日までに求められる全ての設備を整えられる可能性は極めて低い。九月の定期検査入り前に、運転停止に追い込まれることが確実になった。

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これで私たちの国は、再び稼働原発ゼロの状態になります。それ自身は大変、喜ばしいことです。
しかしもともと、電力会社との癒着が指摘されてきた原子力規制委員会が、なぜ、どうしてこのような決定を下すのか、誰もが疑義を感じざるをえないと思います。それでこの大飯原発7月停止の可能性をいかに捉えるべきかについて、考察をしていきたいと思います。

まず押さえておきたいのは、再び稼働原発ゼロ状態が実現される可能性を生み出しつつあるのは、日本中に広がった脱原発運動の大きな成果だということです。
この点について、「明日に向けて」(611)で、現在、脱原発金曜行動が、少なくとも107都市以上で行われていることを紹介しました。

明日に向けて(611)全国107都市以上で金曜行動! さあ、もう一度、脱原発のうねりを!
http://toshikyoto.com/press/581

こうしたことに示されるように、私たちの国の中での脱原発運動の広がりは、本当に、ものすごいものがあります。政府も、電力会社も、原子力規制委員会も、これを無視することはできません。
そのために、「原発の安全性の向上」を歌わざるをえず、しかもそれが市民の監視にさらされているために、規制委員会が、電力会社に対して強い態度に出ていることをアピールする必要にかられています。そのためにあえて大飯原発を止めてでも、新たな安全基準を適用しているのだと思われます。
ここに働いている力学の主要なモメントは、危険な原発をやめさせようとする民衆の力です。デモス(民衆)のクラチア(力)が、原発推進サイドを押しているのです。このことをしっかりと踏まえましょう。

しかし二つ目に見ておくべきことは、原子力規制委員会の目指すものが、この民衆の力を「上手」にかわして原発再稼働の道を切り開いていくことにあるということです。
その点で指摘すべきことが二つあります。一つに、記事にもあるように、もともと大飯原発は9月には定期点検に入らざるを得ず、規制委員会が止めずとも、必然的に停止に向かわざるを得ないのであって、実は規制委員会はたかだか2ヶ月弱、それを早めるに過ぎないということです。
二つに、そもそも安全基準を満たしていないとして7月に止めるというのであれば、本来ならば、今、直ちに止める判断をすべきなのであり、この点で言えば、規制委員会は、自ら打ち出す「安全基準」を満たしていない大飯原発の7月までの稼働容認を打ち出したにすぎないと言える点です。

ここに見られるのは、原子力規制委員会が、あるいは実質的にそれと癒着している原子力ムラが、「規制」強化によって、市民の原発批判の矛先をかわしつつ、むしろこれを機に、老朽化した原発を捨て、「安全」をうたい文句として新たな原発の着工の可能性を開こうとしていることです。私たち民衆はこの動きと対決していく必要があります。
こうした原子力ムラや、経産省の、原発スクラップアンドビルトの指向性については以下の記事でも指摘しました。

明日に向けて(604)原子力規制庁と経産省が原発防火の不備を指摘・・・なぜ?
http://toshikyoto.com/press/565

ここで引用した東京新聞の記事には、原子力規制庁と経産省が、古い原発の防火体制の不備を指摘したことを、「電力会社に古い原発の廃炉をのませ、代わりに新増設を進める作戦」と関係者が語っていたことが載っていましが、このように、市民の声を背に電力会社に圧力をかけているかのように装いつつ、原発の生き残りを画策しているのが、これらの人々の本音なのです。
そもそも「安全強化」という言葉そのものが、こうした意図を表しています。これらの人々が言いたいのは、「安全対策を強化すれば原発は問題なく運転できる」ということです。しかしそう言いつつ、実はこれまでこれらの人々が語ってきた「安全」からの大きな逸脱、ないしは転換がなされようとしています。
そうした点はどこに現れているのか。あるいは、原子力規制委員会による新たな「安全指針」のどこを批判する必要があるのかといえば、最も重要な点は次のことです。再び東京新聞を引用します。

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この日、新安全基準に向け、設備面の骨子案が決まった。
格納容器の破裂を防ぐためベント(排気)をする際、放射性物質の放出を最小限に抑えるフィルターの設置を求めるほか、原子炉につながる重要な配管は多重化し、地震や放射線への対策を施した作業拠点も整備。冷却装置や電源系統も、固定式と可搬式の両方を用意する。

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重要な点は、「格納容器の破裂を防ぐためベント(排気)をする際、放射性物質の放出を最小限に抑えるフィルターの設置を求める」というところです。
これまでも繰り返し指摘してきたことですが、格納容器とはそもそも、核分裂を行っている原子炉圧力容器の内部で何らかのトラブルが生じ、放射能が漏れ出してきたとき、それを封じ込めることを絶対的な役割として設計されているものです。
これがあるからこそ、たとえトラブルが生じても、放射能の環境への漏れは起こることはない、だから原発は安全なのだというのが、これまで繰り返し原子力推進サイドが言ってきたことでした。

ところが、今回の福島第一原発事故ではその大前提が崩れてしまった。圧力容器から漏れ出した濃密な放射能を含む水蒸気が、格納容器の中の圧力を、設計限界値の数倍まで上げてしまい、そのためにベントを行うことが決定されたのでした。
実際にはそれがうまくいかずに、とうとう原子炉に穴があく事態まで生まれたわけですが、しかしこのベントを行うこと事態、放射能を閉じ込めるべき格納容器が、自らを守るために放射能を放出するという、設計思想から言えばまったく自己矛盾したもの、それゆえ設計士から「格納容器の自殺」とまで呼ばれているものであって、プラントとしての自己破産を意味するものなのです。

そうであるがゆえに、福島原発事故が起こるまで、このベントは非常に曖昧な位置に置かれていたのでした。何のためにこれを付けるのかというと、「格納容器の破裂を防ぐために放射能を放出する」ためなのですから、これがあること自体、格納容器が壊れうる事故が起こることを意味するわけです。
しかし政府も原子力ムラも、その点を指摘されたくないがゆえに、これを「万が一のもの」だのなんのと曖昧な言葉でごまかし、自らも、実際に使うリアリティを想定しないできたのでした。そのためにアメリカなどでは取り付けられた放射能を低減するフィルターも付けませんでした。
そればかりか、ベントを行う権限を、電力会社に委ねていた。しかしベントは高濃度の放射能を放出する行為であり、人々に傷害を負わせることであるがゆえに、東電は、当初、刑事罰を恐れて、ベントをためらったのです。その後に、行う「決断」をしましたが、一部はバルブが固着してうまく開きませんでした。

ベントへのフィルター設置を行うというのは、原発が今回のような大量の放射能漏れを起こす可能性があることを認めることです。その場合に、「こう対処します」と言っているのであって、大量の放射能漏れの可能性そのものを、完全に抑え込むとは言っていません。
つまりこれまで言ってきた安全性が崩壊したことを前提に、「大事故が起こったときはこう対処します」と言っているのであって、実はとても安全性を高めるなどと言えるものではないのです。

百歩も、千歩も譲って、本当に原発の安全性の強化をするというのであれば、絶対に壊れない格納容器を開発すべきです。というか、それを開発した、だから原発は実用可能だというのが、原子力ムラがこれまで言ってきたことなのです。
それが福島の事故で破産した。だとしたら破産した事態を超えるべきなのに、そうではない方向を目指している。実はここに、破産した事態を超えることなどできないこと、つまり絶対に崩壊しない格納容器の設計など不可能であることを、すでに原子力ムラが悟っていることがはっきりとみてとれます。
だから、大事故が起こることを前提とした対策を始めた。それを「安全性の強化」といいなしているのです。

「ベントとは格納容器の自殺行為」だという核心問題は、元東芝の格納容器設計者、後藤政志さんが、福島原発事故の当初から繰り返し指摘してきたことですが、残念ながら、マスコミの多くが全く理解していません。
それどころか「なぜベントがうまくやれなかったのか」という論調も生まれましたが、核心はベントという装置がついていることは、大事故の可能性を織り込んだプラントであるということを意味するわけで、本来、あらゆるプラント設計において、けして許されないものなのだということです。
設計上、沈む可能性がある船、落ちる可能性がある飛行機、止まらなくなる可能性のある車と同じであり、設計ミスの産物でしかありません。つまり原発とは、ミスを克服できない、未完成の、あるいは永遠に完成しない欠陥プラントであることがここに大きく現れているのです。

私たちはこの点をもっと大きく強調し、全ての原発を即刻、廃炉にすべきことを訴えていかなくてはなりません。大飯原発停止の停止は私たち民衆の力が強制していることですが、けしてそれで力を緩めてしまわずに、7月にと言わず、大飯原発を即刻停止させましょう。原子力規制委員会の、原発生き延び作戦をストップさせ、すべての原発の廃炉を実現しましょう!!

以下、東京新聞の記事を貼り付けます。

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大飯原発7月停止へ
東京新聞 2013年1月31日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013013102000121.html

原発再稼働の条件となる新たな安全設備の基準づくりのとりまとめ役を務める原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員は三十一日、「基準が施行された時点(七月十八日)で、動いている炉も満たしている必要がある」との考えを示した。稼働中の関西電力大飯原発3、4号機(福井県)が期日までに求められる全ての設備を整えられる可能性は極めて低い。九月の定期検査入り前に、運転停止に追い込まれることが確実になった。 

この日、新安全基準に向け、設備面の骨子案が決まった。
格納容器の破裂を防ぐためベント(排気)をする際、放射性物質の放出を最小限に抑えるフィルターの設置を求めるほか、原子炉につながる重要な配管は多重化し、地震や放射線への対策を施した作業拠点も整備。冷却装置や電源系統も、固定式と可搬式の両方を用意する。
テロや大規模災害に備え、通常の制御室とは別に、原子炉建屋から離れた場所に頑丈な第二制御室を整備。非常用電源を備え原子炉を緊急冷却できるようにする。
これらとは別に、想定できる最大級の津波が襲っても、敷地に浸入させない防潮堤の整備や、建屋内に海水が入り込まないよう頑丈な扉を設置するなど水密化も求める。

関電は、大飯で非常用発電装置の分散配置や防波堤のかさ上げ、防潮堤の工事を進めているが、完成は来年の見通し。作業拠点やベントフィルターの整備は二〇一五年度になる予定という。
仮に工事を前倒ししても、規制委の審査にパスする必要がある。更田氏は「一年かけるつもりはないが、数週間ということもないだろう」と話した。
大飯のような加圧水型原子炉は格納容器の容量が大きく、ベントフィルターの即時整備は求められないが、東京電力柏崎刈羽(新潟県)や中部電力浜岡(静岡県)、北陸電力志賀(石川県)など沸騰水型原子炉の原発では必須とされる。
沸騰水型の原発の再稼働は、早くても数年先となることも確実となった。

七月に大飯原発が停止に追い込まれる可能性について、関電の担当者は本紙の取材に「新安全基準の適用についてのルールが今後、決められていくと認識している。大飯原発の取り扱いの動向を注視し、決められた内容に真摯(しんし)に対応したい」とコメントした。