守田です。(20130111 23:30)

明日に向けて(606)で、岩手県大槌町に派遣されていた宝塚市の職員が、自ら生命を絶ってしまった問題を取り上げました。背景にあるのが絶望的な復興の遅れであり、必要な法整備などが進まないために、矛盾が町民や職員に押し寄せていることを指摘しましたが、多くの反響があり、より大槌町や三陸海岸の状況が見えてきています。
とくに重要なのは、復興が遅れているだけでなく、復興に名を借りた大型公共事業の復活が画策されていることです。大槌町ではなんと1970年代から計画されながら、滞ってきた大型道路建設が、この大災害を機に進められようとしています。今もなお、仮設住宅にたくさんの人が住んでおり、なおかつ新たな住居を立てる平地も不足しているのに、大型道路を作ろうというのです。あまりにひどい!

こうした事実に対して、切り込んだ取材をしているマスコミはないかと検索してみたら、東京新聞が記事を書いてくれていました。昨年末、大晦日の出稿です。
記事のタイトルは「生活再建より公共事業 三陸沿岸道、巨大な実験施設…」。それによると「三陸海岸道路(仙台市-青森県八戸市)など主な三幹線だけで二百二十四キロが整備される」とのことです。この三陸海岸道路を、復興が進まずに人々が喘いでいる大槌町をも通そうとしているのだと思いますが、記事には「財務省幹部は「造っても利用者が少ないとみて長年放置されてきた区間が含まれている」と明かす」という重大事実が書かれています。

一方で、津波の被害はまったく受けていない内陸部の一関市や奥州市にまたがる北上産地に、「国際リニアコライダー」なる巨大実験施設の建設が計画されているといいます。岩手県の誘致によるものですが、地下100メートルに50キロものトンネルを掘り、「宇宙誕生直後の状態を再現」するのだといいます。これのどこが「復興」なのでしょうか。自民党時代に繰り返されたハコモノ行政以外のなにものでもないです。
記事はこうした住民不在の「復興」の名を借りた公共事業が、阪神大震災後の神戸でも行われたことを指摘しています。その象徴が神戸空港ですが、ご存知のように同空港は、開港後の利用者数は需要予測を大きく下回り、経済負担だけを地元に残しています。
こうした悪例がありながら、何の反省もなしに、復興に名を借りた大型公共事業が画策されている。本当に腹立たしいことです。こういうことを平気で行いながら、「絆」を連呼するこの国の政治家・官僚たちのモラルのひどさに、今さながら憤りを感じます。

こうした傾向が、無駄な公共事業の連発によって、この国を疲弊させ、借金ばかりを膨らませてきた旧来の自民党政治を何ら反省しない安倍政権によって、大きく強められようとしています。それが安倍政権が1月10日に首相官邸で行った「復興推進会議」における復興予算の増額方針の表明です。
これに対しても東京新聞がすぐに記事を書いています。「復興予算 19兆円超え 首相が増額表明」というタイトルですが、「復興予算をめぐっては、不適切使用の実態が次々と判明。安倍政権は被災地以外の全国防災事業にも使う方針を示していることから、復興予算の増額分が必ずしも被災地の再建に使われるとは言い切れない」と的確な指摘を行なっています。

これらから明らかになっていることは、政府や官僚たちが、三陸海岸の復興に、真摯に取り組もうとしていないばかりか、むしろ復興に名を借りて、これまで実現できなかった公共事業を進めようとしている実態です。こうしたあり方そのものが、被災した方々を踏みしだく行為にほかなりません。なんとしても復興を騙った公共事業の連発を止めさせ、本当の意味での三陸海岸や被災地の復興に予算をまわさせていく必要があります。
そうでなければ、ますます矛盾が深まってしまう。宝塚市の職員さんの哀しい死のような悲劇が再び起こりかねません。こうした政府や官僚の暴走を食い止め、苦しんでいる人々にこそ光が当たるようにすることこそが本当の被災地支援です。

今後、大槌の方たちと連携しつつ、こうした現実をよりリアルに明らかにし、私たちがどのように東北を支援していくのか、その方法や道筋を見つけ出していきたいと思いますが、ともあれ今は、その前提として、復興の名のもとに何が行われようとしてるのかをみなさんとシェアしておきたいと思います。

以下、東京新聞の二つの記事をお読み下さい。
(ちなみに東京新聞の記事には感謝することが多いです。僕は京都在住ですが、東京新聞を購読しようと思います・・・)

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生活再建より公共事業 三陸沿岸道、巨大な実験施設…
東京新聞 2012年12月31日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tohokujisin/list/CK2012123102100004.html

東日本大震災からの生活再建がままならない被災地で、復興に名を借りた大型公共事業の計画が相次ぎ復活している。これまでは費用対効果が悪いと延期されたり、構想止まりだったりした計画が多い。財源は年明けから始まる所得税の復興増税などだ。住民や専門家からは、地元自治体が維持管理する将来の負担増などへの懸念や効果への疑問の声が上がる。 (木村留美)

青森県から福島県まで太平洋沿岸で計画が進む「命の道」。岩手県の復興計画などで、命を守る道路と位置付けられ、三陸沿岸道路(仙台市-青森県八戸市)など主な三幹線だけで二百二十四キロが整備される。
しかし、三陸沿岸道など岩手県内の計画が練られたのは一九七〇年代後半。現在でも生活道路としてつながっており、財務省幹部は「造っても利用者が少ないとみて長年放置されてきた区間が含まれている」と明かす。
それなのに、震災後は復興道路の名目で、本年度は三陸沿岸道に千二十一億円、宮古盛岡横断道路に百十三億円、東北横断自動車道釜石秋田線に百十四億円の予算が付いた。三陸沿岸道の全線開通までの事業費は一兆円ほどを見込む。

一方、沿岸部から三十キロほど内陸の岩手県一関市や奥州市にまたがる北上山地では、国際協力で進められる巨大実験施設「国際リニアコライダー」の誘致に県などが動きだした。地下約百メートルに最大で全長五十キロのトンネルを建設し、宇宙誕生直後の状態を再現する。二〇一〇年代後半の工事開始を目指す。
施設建設だけでも日本の負担は四千億円の見通し。二十年来の誘致構想だが、従来は予算不足が壁だった。一関商工会議所の幹部は「復興予算との合わせ技でなければ計画は実現しない」と説明。県の担当者も「予算の名目は何でもいい」と誘致実現を期待する。
ただ、地元の反応は歓迎ばかりではない。一関市内で商店を経営する女性(52)は「街は活気づくだろうけれど、ここが被災地かと言われればそうとは思わない。復興とは違う気がする」と冷ややかだ。岩手県大船渡市の復興計画に携わる神戸大の塩崎賢明名誉教授は「出来上がったインフラを維持管理するのは自治体だから、甘い見通しで身の丈を超えた公共事業に取り組むのは被災地にとって危険だ。担当が数年で代わる役人は結果の責任をとらない」と述べる。

住民不在の復興で公共事業が加速した状況は、阪神大震災後の神戸市でも顕著だった。「創造的復興」を合言葉に開港にこぎつけた神戸空港は、利用者数が需要予測に届かない。二千七百億円を投じた神戸市長田区の再開発エリアは、店舗が少なく閑散とした「ゴーストタウン」と呼ばれている。
震災復興予算に詳しい早稲田大学の原田泰教授は「神戸復興の惨状をみれば、効果のないことに税金を使うより、元の状態に戻す復旧を目指すべきだ」と指摘する。
東日本大震災では一一年度からの五年間で「少なくとも十九兆円」の復興予算が組まれ、そのうち十兆円は来年一月から二十五年間にわたる所得税増税などでまかなわれる。

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復興予算 19兆円超え 首相が増額表明
東京新聞 2013年1月11日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tohokujisin/list/CK2013011102100007.html

安倍晋三首相は、十日に官邸で開かれた全閣僚をメンバーとする復興推進会議で、東日本大震災の復興予算に関して、民主党政権が二〇一一年度から五年間で十九兆円とした予算を増額する方針を表明した。復興予算をめぐっては、不適切使用の実態が次々と判明。安倍政権は被災地以外の全国防災事業にも使う方針を示していることから、復興予算の増額分が必ずしも被災地の再建に使われるとは言い切れない。 (中根政人)

首相が復興予算を増やすのは、東日本大震災の被災地再建を加速させるためだ。根本匠復興相は記者団に「新たな復興増税は視野に入れない」と述べたが、具体的な新たな財源のめどは立っていない。
震災復興をめぐっては、民主党政権が事業期間の十年間で少なくとも二十三兆円とする復興予算の大枠を決定。集中復興期間となる一一年度からの五年間に必要な予算額は十九兆円と定めた。
しかし、一二年度当初までに約十八兆円の復興予算をすでに計上。政府は一二年度補正予算を含む緊急経済対策で復興関連に一兆六千億円を充てる方針で、一三年度予算で十九兆円を突破するのは確実となっている。
民主党政権は、十九兆円の財源のうち、半分以上の約十兆五千億円を所得税などの臨時増税でまかない、国民に負担増を求めた。しかし、被災企業や被災者にとって使い勝手のいい制度でないことから、一一年度は約十五兆円の予算のうち、約九兆円分しか事業が行われなかった。被災地からは復興に必要な予算が足りないとの批判が出ている。